Dear.Atoi

「今年は俺が名前に逆チョコする!」
「おい嘘だろ待ってくれ」








「で?網問に全部任せたのか?」
「どどっどどどdっどdどうしましょう鬼いさん私殺人チョコレート食べることになるかも」
「何言ってんだ。一瞬で楽になるから安心しろ」
「不安要素しかないんじゃないですかやだー!」

居酒屋のバイトはこう年上ともフランクに接することができるから楽しい。これも魅力の一つである。っていうか年上の素敵なお兄さんとおじさまでいっぱいだったから此処にバイトの面接に来たのに結局歳の近い網問ちゃんと付き合うことになっちゃうとか私は人生何処で踏み間違えたんだろう。私の未来予想図では鬼いさんと結婚する予定だったのに。今ではすっかり私の鬼いさんです。

バレンタイン当日ということですがバイト入ってます。網問ちゃんは当然のごとく入っていません。今家でチョコ作ってるはず。殺人チョコレート。どうしよう。私はあれを食して、果たして生きていられるだろうか。


「思い出したくもない新作の会議…網問の作ったメニューはどれも殺人級の不味さだった……」
「あぁ、重さんも憶えてますか…」
「忘れるわけねぇだろ…」

「なんだっけあいつが持って来たの。ビターココアキムチサラダとかいう殺人兵器」
「あれはもはやテロだったな。あいつの味覚どうなってんだ」


居酒屋とはいえ暇な時は暇。キッチンでみんな集合して私の話を聞いていた。義丸さんも由良四郎さんもげんなりしたような顔で新作メニューのプレゼンで持って来た網問ちゃんのあれを思い出していた。誰もが目を疑った。サラダの上にココアがかかっている上にキムチが乗っていたのを。あの日、確実に世界の時は止まった。それを笑顔で差し出しているのが自分の彼氏だということを嘘だと思いたかったぐらいだ。確かに網問ちゃんがちょっと味音痴だってことは前々から気が付いていた。口に入れた瞬間「あ、これ砂糖と塩間違えてたかも」って思ったクッキーを美味しい美味しいって言いながら貪り食う網問ちゃんに驚いたもんだ。その時は塩っ気が欲しかったから美味しいと感じたのかな、なんて呑気に思っていたけど、後日明らかに失敗したという見た目を醸し出していた黒焦げのハンバーグを美味しい!って言いながら口に運んでいる姿を見たときは恐怖すら覚えたぐらいだった。そして私は思った。

『こいつ、味覚がヤバい…!』

それからしばらく一人暮らししてる網問ちゃんの食事管理は9割私がしているぐらいだった。昼の弁当、夕食。お泊りした日は朝ごはんも。私の料理が特別美味しいわけではないだろうけど比較的ましな食生活はできるはずだ。今までどんな食生活して来たんだろうと問おうと思ったけど、冷蔵庫の中の期限切れの食物から散らかっているインスタント食品のゴミで全てを悟った私は、料理本を購入することと同時に、調理師免許を取ることも視野に入れた。


「で?名前は網問からチョコもらうことになったのか?」
「ヤツの料理がテロ級だっていうのは解ってたんですけど……あの張り切った顔を前にして断れなくて………」
「あぁ……」

お頭が遠い目をするのも解る。網問ちゃんのあの犬っぽい顔で微笑まれたら大概の女はコロッといってしまうことを。その一人が、私だということも理解している。無理だよ。だって網問ちゃん可愛いもの。あんな可愛い顔で付き合ってくださいとか言われたら付き合うに決まってんじゃん。鬼いさんに惚れてたのなんかすっかり忘れたよね。


「それで?いつ受け取るですか?」
「今日バイト終わるの迎えに来るって言ってたんでそr「名前ー!」来ました」

白ちゃんに問われちらりとキッチンにかけられた時計を見上げるともう上がりの時間。網問ちゃんの事だから丁度に来るんだろうなとは思っていたけど、まさかこんなグッドなタイミングでこようとは思わなかった…。本当に犬のようだな……。


「網問ちゃん」
「名前!チョコ作って来たよ!」
「ま、まじか!嬉しい!ここで開けてもいい!?」
「いいよ!食べて!」


なぜ此処で開けると言ったのか。それは見た目がヤバかったら他の人たちも道連れにするからだ。だがその意図を読み取ったのか、他の人たちは一切キッチンから出てこない。あの人たち本当に裏切るの早い。絶対許さない。

無駄に手先が器用だからなのかラッピングはとても可愛くてくるくると巻かれたリボンを解くと、中から出てきたのは、意外にも見た目綺麗なガトーショコラ。ある意味期待外れだったその中身に、私は一瞬動きを止めた。あれ?私はテロでも起こされると思ってたけど……普通にお料理、上手じゃ、ない?

「どう?美味しそう?」
「う、うん。美味しそうだけど……どうしたのこれ…」
「え?料理の本みて作ったんだよ。名前が買ってた分厚い本!俺頑張った!」

確かに、私が網問ちゃんの家に置いて行った料理本にはお菓子のページもある。まさか網問ちゃんがそれを見て、このガトーショコラを作ってくれたというの……?あの網問ちゃんが……?


私の、ために…………?



「嬉しい!網問ちゃん私嬉しいよ!!」
「本当!?」
「網問ちゃんも料理できるんだね!私安心したよ!」
「やったー!食べて食べて!」
「いただきまーす!!」


あまりの嬉しさにバイト先だということもまだ制服だということもまだ退勤を押してないということも忘れ網問ちゃんから受け取った箱に入ったガトーショコラを手に取り包まれていたラップに手を書けた。その姿を見てテロは怒らなかったんだなと判断したキッチンの鬼いさんたちもやれやれと安心した様子で中へと入って行ったのだった。






「でね、さすがバレンタインだからなのか行った店板チョコ売り切れててね、代わりにカレー粉とキムチで代用した」

「どうしてそうなるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」





全然匂いなんか気付かなかったわ!!!ラップ許すまじ!!!











Happy Valentine
あなたのガトーショコラは食べられないわ!








「うわああああ何すんの名前!!!」
「バーロー!テメェなんてもん食わせようとしてんだよ!!」
「一所懸命作ったのに!!」
「こんなん完全にバイオテロじゃねぇか!!!」

「なんでそんなこと言うのー!!」
「網問厨房に立つべからず!!二度と料理しないで!!!」

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