Dear.Konnamon.Z

「名前ちゃん名前ちゃん」
「あっ、こなもんさん」
「お菓子くれないとイタズラするよ」
「もう二月ですよ???」

保健室の天井裏から顔を出しても一切こちらを見ようともしない名前ちゃんは、果たして本当にプロの忍を目指しているのだろうか。間抜けにもほどがある。此のままガバッと襲ってやっと気づきましたじゃ遅いんだからね。声をかけやっとこちらの存在に気付いたのか、名前ちゃんは上を見てふわりを笑った。名前は間違っていたけれど。

「こんにちは。今日も包帯取り替えますか?」
「うん、お願いしていいかな」
「えぇ喜んで。丁度新野先生が出られたところです。しばらくは戻ってこないでしょう」
「そっか。じゃぁ頼むね」

下に降りて名前ちゃんの前に座ると、いつも通り包帯を取り替えてくれるらしく立ち上がり薬品棚に向かった。化膿止めと包帯を持ってこちらに戻ってくる名前ちゃんに、かすかにだが甘い香りが纏っているのに気が付いた。甘い物でも作っていたのか。それとも食堂の当番だったのか。

そういえば、今日はばれんたいんとかいう日だと聞いた。此処へ来る途中で見たくのたまの子が可愛らしい風呂敷で包んだ甘い香りがするものを持って忍たま長屋の方を覗いていたのを見かけたな。甘い物を持って男に突撃する日なのか。


「ねぇ名前ちゃん」
「はい?」
「今日は誰かの誕生日?」
「ん?なんでです?」

「名前ちゃんからも、くのたま長屋全体からも、何やら甘い匂いがすると思ってね」

「あぁ、今日はバレンタインデーですよ」
「ばれんたいんでー」
「早い話、女が男に愛の告白をする日、って感じじゃないですかね」


「そう、じゃぁ私達には関係ないね」
「えぇ、関係のない日ですね」


慣れた指先で薬を塗りこみくるりくるりと手慣れた手つきで包帯を腕に巻いていった。愛の告白をする人は中々平和な日があったもんだ。っていうか、そんな日あったんだ。詳しく聞いてみるとそれは海の向こうの国の文化らしい。カステーラにでも聞いたか、本で読んだか。

いずれにしろ私と名前ちゃんには関係のない話だ。なぜってそりゃぁ、恋に歳の差なんて関係ないとは良く言ったもんだよ。まさかこんなおじさんにこんな若い娘が引っかかってくれるとは思いもしなかったからね。いやぁ勇気出して夜這いして良かった。殺されるのも覚悟の内だったけど。伊作くんには殺されかけたけど。

この子がこうして私の頭巾を外して傷を見せられるうちの一人に入っていることが自分的には中々の奇跡。手に入れることが出来て良かった。

「ところで名前ちゃんは私にお菓子を用意してくれてないの?」
「はい?」
「何か甘い物。くのたまの子たちが黄色い声で忍たま長屋に向かって行ったけれど?」

終わりましたよと頭巾を巻いてくれている途中、名前ちゃんにねだるようそう問いかけると、名前ちゃんは少し難しそうに眉間に皺を寄せて、うーんと唸った後、ぺたりとその場に座り込んでしまった。なになに。私なにかまずい事聞いた?

「用意はしてるんですよ。しているんですけど…」
「失敗した?失敗しても余裕で食べるよ?」
「い、いえいえ、上手くできましたよ。できたんですけど……」

そのぉ、と小さくもごもご何かを言いたそうに、膝の上で手をごにょごにょやりはじめた。本当に何かマズいこと聞いたかな。

「…くれないの?」
「えっ……貰ってくれますか…?」

「え?何?そんなことで悩んでたの?普通に貰うよ?」
「えっあ、その、いいえ、あ、じ、実は…一応お城の忍頭ですし………も、もしかしたら…味方ではないくのいちの手作りの甘味なんて…も、貰ってくれないのではないかと思いまして

………」


確かに。甘味には毒は混ぜやすい。甘い物なら臭いがするような毒薬も混ぜられる危険性はある。例え忍務先でくのいちに食事を出されたとしても食した振りをして裾に落として相手の反応を見たりする。っていうか甘いものはあまり好まない方だけど。

だけど恋人が作ったものなら別だ。どんなに不味いものだって食べられる。気持ちがこもっているのは見て解るし、疑いようがない。今回だって名前ちゃんが用意してくれているんじゃないかって少し期待しながら天井裏から顔を出したのだから。本当に用意してくれているだなんて嬉しいに決まってる。

「じゃ、じゃぁ食べて貰えますか?」
「もちろん喜んでいただくよ」

「じゃぁお茶淹れて持ってきます!少し待っててください!」

薬も包帯もその辺に散らかしたまま、名前ちゃんは嬉しそうな顔をして保健室から飛び出していった。あー可愛い。あの顔は伊作くんにも見せたくない。さっきから床下で話聞いてるの解ってるけど絶対に譲れない。名前ちゃん可愛い。お菓子より名前ちゃん食べたい。早く戻ってきて。


「戻りました!」
「早いッ」

「昆奈門さんのために作りました!是非食べてください!」


おぼんの上に乗っていたのは"昆奈門"と名前の書いてあるいつもの湯呑と、その横には皿の上にのった小さく丸い椿餅。これはこれはまた綺麗な物を。


「うーん美味しそう。いただきます」
「はいどうぞ!召し上がれ!ところで昆奈門さん」
「うん?」

「私、将来は昆奈門さんのお嫁さんになって、タソガレドキ軍の医療班に就くのが夢なんです」


椿餅を喉に通し湯呑を手に取ろうとしたところ、その手は空をきりドンと音を立てて床を叩きつけるように落ちた。









「解毒剤は私の手にあります。この部屋に入った瞬間、私を"間抜け"と思ったことを後悔しつつ、全力で謝ってください」







「名前、ちゃん…」
「なんでしょう」
「……ごめんなさい…」


私の未来の嫁は、読心術と薬に強いようでした。








Happy Valentine
私の気持ちで包んだ椿餅を召し上がれ!








「よくやった名前!曲者を追い出せ!」
「ちょ、伊作くん」

「伊作先輩も伊作先輩です。床下なんて不潔な場所にいたんですからお風呂に入ってきてください。先輩の分の餅はその後です」
「はい……」

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