久々知と竹谷と、ときどき私

『えっ、クリスマス無理っぽいって?』
「いやなんかもう脱稿できない様な気がしてきて今まじで死にそうううううえええええええん」


ヘッドマイクをセットして兵助に電話をかけると、背景で軽快なBGMが聞こえる中、兵助の「もしもし、」という声が届いた。このBGM、おそらく紅蓮の弓矢だわ。

今回私が兵助に電話をかけたのはクリスマスに一緒にどっか行こうかと言っていたのにオンリー用の原稿が全く終わらないので無理ッスということを謝るためであった。何故計画的に進めなかったかって?

いや、此れには一つ私の大失敗があった。

あの調子で行けば全然余裕だったのだ。だったのだが、学期末試験で私は兵助の監視の元勉強をしていたにもかかわらず、相も変わらずの数学の成績。此処はテストに絶対出ると教えもらったというのに試験当日記憶していた方程式の記憶を全て何処かに不法投棄してしまったようで、数学の答案用紙は見事、25点という数字で飾られていた。素敵な飾り付けにより担任に呼び出しを食らい、補習。そして再試。補修期間中は課題も出ていたため原稿に触れることもできず、再試を落とすわけにも行かず兵助に徹底的に頭に叩き込んでもらっていた。無事にクリア。そして、怒涛の徹夜の日々。結局イヴである日に間に合うことは絶対にないと判断されました本当にありがとうございました。

「本当にごめんね…本当にごめんね……」
『いやいや大丈夫だよ、ぶっちゃけ何処行こうとか決めてなかったし。それに俺南天のことも好きだし、そっちで頑張ってるなら応援してるよ』
「こんないい男が私の彼氏なんて信じられない!!!!!!!!!!」
『ファッwwwwwwww』

まぁ兵助が言うとおり、何処行こうとか決めてなかったし、ドタキャンでもないのだけれど。やっぱり付き合って初めてのクリスマスだし一緒に過ごしたかったというのは本音だ。うっはwwwwwwww去年までカップル全員死ねとか言ってた自分嘘みてぇwwwwwwwwwwwwwwwwwwこんな恥ずかしいこと思ってる〜〜〜wwwwwwwwwww

「だからお出かけはまた今度でもいいですか…」
『うん、気にしないでいいから。っていうか、なんか手伝えることあったら何でも言ってね』
「お前ってやつは!!!!!」

じゃぁまたね連絡するねというお決まりの台詞を発し、電話は切られた。冬休みにも入ったわけだし、課題はあるけどそんなに大量なわけじゃない。年末年始でバイトが忙しいわけでもないから逢おうと思えばいつでも逢える。っていうか、はれてカップルという立場になったのだから、逢おうとする口実なんて作らなくとも、逢いたくなったから連絡するだけでもいいわけだ。クリスマスが全てってわけじゃない。いやだけど、やっぱり二人でどっか行きたかったなぁ…。

兵助は優しすぎるのがちょっと問題である。少しぐらいは私に文句を言ってくれればいいものを、こうやってまた「気にしないで」で終わらせてしまうのだ。いや、絶対気にしてるはず。クリスマスはどっか行こうねみたいなこと、言いだしたのは実は兵助のほうだった。私はクリスマスというのは天皇誕生日後夜祭という認識で17年間生きてきたわけでありますからして。二人で遊ぼうという発想はなかったからなかなかテンションが上がってた。何処に行こうかななんて考えてもいたし、今回ばかりは悪い事したなぁと思ってます。

「あ、もしもし尾浜くん?」
『やぁ苗字さん、こんばんは』
「こんばんは。ねぇちょっと聞きたいんだけど、兵助から電話あった?」

『もちろんありましたよ、お嬢さん』

「あぁやっぱり……」
『二足のわらじは大変だねぇ』

こうして他のイケメンどもに確認すれば、結果はすぐに解る。やっぱり兵助は落ち込んでいたようで、尾浜くんはついさっき電話があったという話をした。残念だけど忙しいなら仕方ないってちょっと悲しそうな声だったという話をされた。心がえぐられるレベルである。

『ちゃーんと兵助に謝るんだよ』
「はい先生……」
『本当に悪いと思ってるなら体にリボン巻いて私がプレゼントですぐらいやらなきゃ』
「通報した」

これ以上の会話は危ないと判断しじゃぁねと素早く電話をきった。

あぁこのホモが!!!!このホモが悪いのよ!!!!!!!こいつらが私の前でイチャイチャしなければお前らにハマることもなく、今頃兵助と何処行こうか♪なんてるるぶでも見ながらキャッキャウフフしていた頃だろうに!!!!!!!!!!!恋心って怖ェな!!!!!!腐っていても彼氏を想ってこんな心境になるもんなんですね!!!!!!



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数日前の電話を思い出して、ふぅと小さくため息を吐いてしまった。

残念と言えば残念だけど、忙しいなら無理は言わない。付き合ってるわけだし、クリスマスじゃなくたって逢おうと思えば逢える関係だし。別にいいんだけど、やっぱりその、一緒に過ごしたかったなというのはあるよな。正直めっちゃうきうきしてたのは事実だ。バイトも休み入れてたし、気にしてないと言えば嘘になる。

名前にあげようと思ってたクリスマスプレゼントが寂しくぽつんと置かれているのを見てちょっと苦笑いしてしまった。あー、本当なら今頃これ手渡してるはずだったんだけど、まぁ忙しいなら仕方ないよな。絵を描く大変さとか知らないし、今どれだけ名前が追い込まれてるんだろうとか想像もできないし。たまにそういう閉め切り前の絵師さんの日々を漫画にしてあげてる人のとか見るとまじで徹夜とかしているみたいだから、名前が今そういう状態なんだろうなぁと考えると無理に遊ぼうよとか、口が裂けても言えない。

………ちょっと我儘言っていいなら、プレゼントだけでも手渡したい…。


「あ、もしもし雷蔵?」
『やぁ兵助、メリークリスマス』
「はは、まだイヴだよ」
『どうしたの?名前ちゃんと遊んでるんじゃないの?』

それが、と今の状況を説明すると、雷蔵はそれは残念だねとはいいながらも、新刊が出るのかとwktkしている様子だった。

「でさ、プレゼントだけでも渡したいなと思って」
『それぐらいはいいんじゃないの?長居しなければ差支えないだろうし、むしろ、大好きな彼氏に逢えるんだからちょっとは名前ちゃんも元気出るんじゃない?』

『そうだ、手土産に花束を持っていけ。本物の王子がいるって苗字さんなら喜ぶはずだぞ』
「三郎まで…。ありがとう、じゃぁ言ってみる。ごめんね夜遅くに」

『うん、健闘を祈るよ』
『宜しく伝えておいてくれ』

三郎の声が聞こえて、通話は終了した。プレゼントが入った紙袋を手に持ちコートを羽織り、両親に断ってから俺は家を出た。一寸ぐらい時間を貰えないかな。貰えなかったとしても、名前の家のドアの前にでもこれ置いて帰ろう。よし、男兵助気合入れろ。今夜交通事故にあうようなベタな真似だけは絶対によせ。

自転車をこいでいく途中、小さく灯りのつく花屋の前を通り過ぎた。………悔しいが、三郎の言葉が頭に引っかかってしまっている自分がいるわけで…。


「すいません、プレゼント用に適当に花束包んでも貰えませんか。黄色と赤が好きな彼女なんです」


財布を開けて金を渡した俺に、女の店員さんは俺を二度見した。高校生の買い方とは思えないだろう。残念だが、名前のためにバイト代めっちゃためて、なおかつ姉の居る家庭で17年間育った俺に死角はない。姉の部屋にある少女漫画でイケメン彼氏が彼女に花束買うのに財布から一万出して「彼女は赤と黄色が好きだ。適当につめてくれ」って言ってたコマを俺は死んでも忘れない。いつか俺もやってやると思ってた。んで今やったった。多分俺今めちゃめちゃカッコいいと思われてるかドン引きされてるはず。まぁおそらく後者だろうけど。
少々お待ちくださいと、店員はあっちこっちからいろいろな花を引っ張っては手に取り引っ張っては手に取って、レジまで持っていき茎の下の方を切っていた。あれ、おかしいな。漫画じゃもっと小さい花束だったんだけど。デカすぎる。おかしい。俺の思ってたのと違う。もっとこう、片手で軽く持てるようなサイズを予想してたのに。おかしい。

「お花を大体9000円分にして、1000円で当店オリジナルのテディベアをお付けすることができますが、いかがされますか?」
「あ、じゃぁそれで」

おいwwwwwww俺が思ってたのと大分違うぞwwwwwwwwwww俺は今から自転車で移動するんだwwwwリムジンじゃないwwwwwwwww自転車だwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwそれ抱えるのかwwwwwwwwwwwwwしwww死ぬwwwwwwwwwww

無事にできあがったそれを抱えて、もはや片手運転で自転車をこぐ姿。なかなか間抜けに見えているはず。もしかしてあの男は高い花ばっかり包んでもらったからあのサイズに収まったのかもしれない。なるほど。あそこ安いけど良い物揃ってることで評判良かった店だわ。失敗した。


あがったことはないのだが、学校の帰り道、家まで送ってあげていたので行き方は解っていた。家の前に自転車を止めさせてもらいインターホンを押すと、はぁいとマイク越しに声が聞えた。

「夜分遅くに申し訳ありません。久々知兵助と申します」
『…えっ、あ、名前の!あぁ、ちょっとお待ちくださいね』

一度うっかり家の前で喋りこんでしまった時名前のお母さんとは逢ったことがあり既に紹介され済みだ。顔は覚えてもらっている。ガチャリとあいた家のドア。部屋にこもりっぱなしで、と困ったように笑う名前のお母さんに上がっていいですかと許可をもらい、俺は靴を脱いで上がらせてもらうことにした。うお、そういえば家には初侵入だ。こちらスネーク。ターゲットに接近中。


「名前?ちょっとケーキ冷蔵庫に入らないんだけど、残ってる分食べれない?持って来たんだけど?」
「まじで!食べる!部屋入っていいから!適当に置いといて!」

いいって、とイタズラっ子のような顔をして、名前のお母さんは階段を下りて行った。

一応ノックして、「いや入っていいからwwww」という返事を確認した後、



「名前、メリークリスマス」

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!??!!?!?」



名前さんは漫画かアニメのように椅子からひっくり返って倒れたのであった。


「なんで!?!?なんで!?!なんでここに、へ、兵助いんの!??どう、えっ!?!?!?!」
「戸惑いこそが人生だよ黄猿くん」
「ひぇえええレイリーさん……!?!!!???」

初侵入した名前の部屋は、まるで本物の漫画家のようで、あっちこっちに画材やらスケブやら薄い本やらフィギュアやらでいっぱいだった。うわヤバイなこの部屋超カッコいい住みたい。

名前は、本当に俺が来ることを予期していなかったのか、スウェットで前髪はゴムでパイナップル状態。珍しい眼鏡姿で、パソコンに向かって座っていた。今は、ひっくり返って尻餅ついてるけど。

「聞いてない!来るなんて一切聞いてないんだけdfcbhjんmk!!!」
「言ってないからね。ビックリした?」
「しなほうがおかしいでしょ!!!!うわああやだやだスウェットなんかで化粧もしないで……!!」

「化粧しなくたって名前は名前じゃん。それに俺は打算的な女が嫌いでね」
「私はエネルを神とは認めない!!」

やっといつも通りの名前の会話のペースになったようだ。深呼吸させて、一旦落ち着かせ、現在の状況を再度理解してもらうことにした。
パソコン画面を見る限りまだ作業中なんだろう。邪魔して悪いとは思ってるけど、どうしてもやっぱり今日逢いたかったというと、名前は申し訳なさそうに正座して頭を下げたのだった。そんな悲しい顔をさせたいわけじゃなかったのに。とりあえずと買ってきた花束を悲しそうに下げる名前の顔にもっていくと、「本物の王子がいる!!!!」と三郎が予想した台詞とまったく同じことを言ってそれを受け取ってくれた。

「我儘いってごめんね。でもちょっとは、…時間くれてもいいでしょ?」
「も、もちろん!嬉しいよわざわざ逢いに来てくれるなんて…!」
「おれはいつでまでも応援するし困ったときはいつでもどんな所でもかけつけるつもりだぜ!もっともかえって足手まといかな」
「スピードワゴンくんwwwwwwwwww」


こうして馬鹿みたいに笑ってられるのが、本当に幸せだなぁと感じた。

あー、本当、逢いに来てよかった。


「いやほんと、逢いに来てくれてよかった。これで作業はかどるよ」
「それだったらいいんだけど」
「兵助まだ時間大丈夫?折角だからケーキ食べてかない?本当に余ってるからさ」
「いいの?俺は大丈夫だよ。名前が大丈夫なら」
「無理!兵助来たのに作業戻れない!いったん休憩!ちょっと待ってて!」

おかあさーん!と叫びながら、名前は部屋から飛び出していった。入口近くに落ちていたクリスマスのお出かけ特集の雑誌をよく観ると、いっぱい付箋がついていて、

名前が修羅場おわったら、どっかいいとこ連れてってあげようかなと、心に決めたのであった。








Happy Merry Christmas!







「よかった。はいこれ、クリスマスプレゼント」
「うひょーーー!!!嬉しい!!開けていい!?」
「もちろん」

「新しい!!!!!ペンタブ!!!!!!!!!」
「名前に合うかどうかはわかんないんだけど…レビューとか見て話聞いて買ったから、気に入らなかったら言ってね」
「欲しかったやつううううううう!!!めっちゃ欲しかったやつううううううう!!!っていうか兵助の私への財布事情ヤバくね!??!?!どうなってんの!???!?!」
「大丈夫、うち金持ちだから」
「またそうやって自分で言う!歩けよ!あ、そうだ私もプレゼントある!ちょっと待ってね!!」

「なにこれライフル?!?!どういうことなの!??!??!?」
「エアガンだよー!この間竹谷くんたちとサバゲーやりたいって言ってたって話尾浜くんから聞いてさぁ、サバゲーやってる知り合いに聞いてめっちゃ使いやすいやつ教えてもらったんだよー」
「そういえばそんな話してた!!うわめっちゃ嬉しいありがとう!!!!!これで八左ヱ門と三郎狙うね!!」
「握った銃に!!男はドンと胸をはれ!!!」

「いやー、それにしても」
「うん?」

「私達、おかしいね」

「それなwwwwww」
「こんなカップル何処にもいねぇwwwwwwww」
「どうしてこうなったんだろうwwwwwwwwwwww」
「こんなの俺が知ってるクリスマスじゃないwwwwww」

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