愛してるぜマイ・ボーイ!

「ってことで、どうだ?」

「え!?まじで!?本当!?いいの!?」
「いやーそろそろいい加減になぁと思ってな!」























「名前ねえちゃんてっぺんのおほしさまとって」
「あいよー」

「三郎届くか?」
「うん!おじちゃんありがと!」

父ちゃんに肩車された三郎は、毎年一体何処にこんなでかいツリーをしまっているんだろうと思わせるほどの大きさのツリーのてっぺんに星を取り付けた。ツリーから少し距離をとった父ちゃんと三郎。私はそのツリーの下で、ツリーに巻きつけられた豆電球のコンセントを差し込んだ。カラフルに光る電球に感動したのか、三郎は「おぉ〜」と声をもらして父ちゃんの方の上でぱちぱちと小さく拍手をする。つられて手を叩いた父ちゃんも可愛いなくっそ。

「名前ねえちゃんゆきつもるかなぁ!」
「この調子なら明日には積もるんじゃない?」
「ゆきだるま、つくりたいね!」
「いいねー、私も久しぶりに作りたいな」

父ちゃんの方から降りた三郎は小さな掌を窓ガラスにぺたりとくっつけ興奮したように外を眺める三郎は、早く雪遊びがしたいようで今日の夕方からずっとこんな調子だ。園からの帰り道、鼻に冷たい何かがあたったという三郎にもしやと空を見上げると、ふわり、ふわりと雪が降り始めていた。今年は見事なタイミングでホワイトクリスマスを迎えられた。早く雪で遊びたいという三郎の可愛さったらない。なんなのこの可愛さ死んじゃう。

リビングから外を眺める私たちの後ろで、お母さんはケーキを作っているし父ちゃんは何処で手に入れたのか中抜きの焼き加減チェックしてるし。しかしまだ利吉兄ちゃんは帰ってきていない。三郎はいつもなら夕餉に間に合うように帰ってくるはずの利吉兄ちゃんの不在に疑問を持ち、そわそわと部屋にぶら下がっている時計を見ては、玄関の方へ続くドアを見た。おそらくまだ利吉兄ちゃん帰って来ないのかなと待っているのであろう。可愛い。

「…ねぇ名前ねえちゃん、りきちにいちゃんは?」
「さぁね。どっかでくたばってるんじゃない?」
「えっ!?」
「えっ!?嘘嘘!!!そんな悲しい顔しないで!!!」

ガーン!と効果音がつきそうなほどのショックの受け方。よかったね利吉兄ちゃん三郎は利吉兄ちゃんの死を弔ってくれるようだよ。私?あの広い利吉兄ちゃんの部屋が手に入るから今か今かと待ってるよ。あ、嘘です。

「三郎、もう冷たいからカーテンしめよ」
「うん。ねー名前ねえちゃんさぶろうのおててがひえひえ」
「うひぃー冷たい!」

ぴとっと私の頬を小さい両手が包んだ。真っ白い手がひえひえだったので、急ぎストーブの前に三郎を移動させた。くそう三郎の可愛いおてて霜焼けになったら腹斬ろう。全て私の責任です!ザクゥ!みたいなノリで。


「おーい、肉焼けたぞ」
「じゃぁご飯にしましょうか」
「三郎肉焼けたって!肉だ肉肉!!!」

「…でもまだりきちにいちゃん……」
「大丈夫大丈夫、肉の匂いすりゃ勝手に帰ってくるから」


犬じゃないんだからと父ちゃんに言われながら、ちょっとさみしそうな顔をする背を押した。ちょっと解せぬという顔をしていた三郎だったが、父ちゃんの手によりテーブルの上に置かれた七面鳥に目をかっぴらいて興奮した。別にうちはキリスト教というわけではないが、クリスマスはガチで準備する。だって楽しいから。しかも今年は五歳児が家にいるもんだからそりゃ気合も入る入る。窓ガラスにつけられたスノースプレーに久しぶりにまじで準備したクリスマスツリー。外に飾り付けられた電球はサンタさんがはしごをのぼったりおりたりと中々可愛くて本格的だし近所でも有名なレベルだ。三郎も気に入ってたけど、あれジャストで私の部屋の窓に当たってるから眩しい。故に夜中はさすがにスイッチオフするけどね。

七面鳥にローストビーフにとクリスマスには欠かせない料理が次々とテーブルに運ばれてきて、お誕生日席の三郎はそれを興奮しながら見つめていた。まぁ三郎一人っ子らしいし、おじさんも早くに亡くしたらしいから、クリスマスっつってもそんな本格的にはやらないのかなぁ。

「んー!おいしい!」
「つまみぐい厳禁!こちょこちょの刑だ!!」
「やだー!」

テーブルの上に並べられたものの何かを口に運んだらしく、三郎はぺたっと頬に手を当てた。全くきゃわいい奴め。


「よーし、食べちゃおうか!」
「うん!」


三郎にフォークを渡して私も椅子に座ると、もはや目の前の料理の匂いに利吉兄ちゃんの存在など無かったことになっていた。子供の切り替えの早さよ。
お母さんも父ちゃんもテーブルにつき、いただきます!と手を合わせた。


が、その時、






「動くな!手を上げろ!!動いたら全員撃つぞ!!」





「えっ、」
「ナ、ナンナンダオマエハーッ!!」

バン!と開いたリビングのドア。其処から入ってきたのは怖すぎるピエロのお面を被った上下ジャージという意味不明の男。この歳になるとそれが怖さのかけらもないのだが、とりあえず動くなといいつつ手を上げろと言ったこの強盗の知能の高さを称えたい。どうすればいいのだろう。手を上げるべきなのか、動かないべきなのか。そうこう考えている間に、強盗は私の首に腕をまわし拳銃を私の頭院突き付け距離をとった。父と母はそっとテーブルを引っ張ってはじによせ、リビングにはそこそこの茶番スペースが出来上がったのだった。


「下がれ!私は悪の組織カイケーイーン、モンジロ閣下の部下、リーチだ!騒いだらこいつを殺すぞ!」

「か、カイケーイーン!?名前ねえちゃん!!!!!」
「私は大丈夫だよ三郎!!大丈夫だから落ち着いて鼻水をかみなさい!!」


笑いながらお母さんは三郎の鼻にティッシュをもっていった。ぶぶぶぶと鼻水をかむ三郎の横で父さんはこっそり手のひらサイズで録画を始めているのだが、三郎は完全にパニック状態なのでそんなことに気付く余裕もなかった。ピエロがお姉ちゃんを捕まえているのにお母さんも父ちゃんも私を助けようとしない。三郎は大パニックでぶわあああと泣き始めてしまった。

「三郎助けて!!」
「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛お゛ね゛え゛ち゛ゃ゛ん゛ん゛ん゛!゛!゛!゛」

「さ、三郎!私のケータイがそこに落ちてるから!誰かに電話して助けを呼んで!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛」

凄い顔で私を見ながらしゃがんでケータイを拾う姿に思わずぶっと吹き出しそうになった。写メとりたいけどケータイは三郎の手の中だし、あとで父ちゃんの動画で保存しよう。動くなっていったのに平気でケータイを拾う三郎に今後犯罪に出くわした時の対処法を教えておかねばならないなと本気で思った。攫われたらどうしよう。まぁ助けるけどね。

私のケータイでパズドラをやっている三郎はロック解除の番号はちゃんと覚えているようで、簡単に解除したのだった。

だが、ロックを解除すると、そこに表示されているのは待ち受けに設定した私と三郎のツーショットではなく、『コヘレンジャー・コヘイタ』というアドレス帳の画面表示。三郎は一瞬涙を驚くほどの速度でピタッと止ませた。表示されている画像には大好きなコヘレンジャーレッドの顔。一瞬「!?」という顔をした後、私の顔を二度見し、再びケータイを見て、また私の顔を見た。今度こそぶっと吹き出してしまったのだが、強盗にゴツッと拳銃で頭を小突かれたので慌てて顔の歪みを戻した。

緊張した面持ちでケータイを耳に当てる三郎が可愛すぎて再び顔が歪みそうになるのだが、必死の形相なので私も必死で笑いをこらえた。


「…………もしもしレッドさんですか!!!!名前ねえちゃんを助けてくだvgbhjんmk!!!!!!!!」


スピーカーに設定しているわけでもないのに「よし!いい子で待ってろ!!」と聞こえるレッドの声にもうだめワロタ。


「コヘレンジャーのレッドがくるんだからな!!おまえなんかたおされちゃうんだからな!!」
「動くな!名前姉ちゃんがどうなってもいいのか!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛」
「ちょwwww三郎wwwwwwwwwwww」

再び号泣する三郎を笑いながらお母さんが撫でるのだが、その時玄関がどやどやと騒がしくなった。




「またせたな三郎!」

「れ、レッドだ…!コヘレッドだ!」




「我が名はコヘイタ!いけいけどんどん精神で、悪の組織カイケーイーンと煮豆の存在を許しはしない!コヘレッド、参上!!うぅぅうう寒いな三郎!!もう大丈夫だぞ!!」



「レッd……………!??!?!」




「コヘパープル、タキヤシャマル!!」
「コヘグリーン、サンノスケ!」
「コヘブルー、シロベエ!」
「コヘイエロー、キンゴ!!」


「暴君戦隊コヘレンジャー、只今参上!」


家に入ってきたのがレッドだけ、かと思いきや、その後ろから現れたのは、いつも日曜の朝にテレビの向こうがわで悪の組織カイケーイーンと戦っているコヘレンジャー全員だった。やばい!!生滝ちゃんだ!!本物だ!!本物の滝ちゃんだ!!めっちゃ綺麗!!めっちゃキラキラしてる!!滝ちゃんがうちにいる!!信じられない!!超サイン欲しい!!!あとで貰おう!!!!

だが残念ながら本日の暴君戦隊コヘレンジャーはいつもの「バレーとマラソン、どっちがいい?変身ッ!」という変身の台詞を言わない。なぜならみんな完全なる私服だから。腰にベルトはあるのだが、触らない。何故なら、変身など、出来ないからである。だが変身せずとも変身前の姿はもちろん知っている。三郎はゴリゴリのコヘレッド推しであるからして、小平太のグッズは全て私の部屋に置いてあるレベルだ。その憧れの小平太が、今目の前で私を捕らえている利吉にいcゲフンゲフン強盗を倒そうとしているのだ。クリスマスの夜にこんなことになるとは。まさか三郎も思ってもいなかっただろう。両親には前もってコヘレンジャーが来ると言ってあったし、いやぁまさか本当に…小平太のやつ、ただの一般家庭にレンジャー全員連れてくるとは……。強制的だった子もいるだろうに…。

そして呆気にとられている強盗を背に私はその腕から解放され、三郎の元へ駆け寄った。無事でよかったとでもいわんばかりに抱き着いた三郎の顔面は涙でぐちゃぐちゃである。可愛い。ぺろぺろしたい。


「銃を捨てろ!今ならバレーかマラソン、好きな方を選ばせてやるぞ!」
「うるさい!ちくしょー!こうなったらお前らも殺してやる!」

利吉兄ちゃnゲフゲフが銃を構えた。一応利吉兄ちゃんも武術は身に着けている。此処でコヘレンジャーと狭い茶番スペースながら一戦交えることになっていたの………だが、



「ダメー!!コヘレッドうったらだめなのー!!!」



まさかの、三郎が小平太の前に出て行ってしまったのだ。

あれ、これ台本じゃ、コヘレッドたちが強盗と戦闘するはずなのに。おっと、これは、状況がかわりましたね。


「こ、コヘレッド、うっちゃダメ!!さぶろうがたたかうから、だめー!!」


そういえば、先週のコヘレンジャーはキンゴがカイケーイーンのミキティのバズーカを食らいそうになったのを庇って、コヘイタが大ダメージ受けてたな。コヘイタも死にかけることあるんだへぇーとか呑気に思ってたけど、ガチ勢の三郎はテレビに手をくっつけて頑張ってレッド!!!とマジで応援していた。そうだ、コヘイタ先週撃たれたんだった。そりゃ、この場で撃たれたらまたあんな姿になっちゃうし、やれられるコヘイタ見たくないわな。


「ち、ちくしょう!覚えてろ!!」


利吉兄ちゃんは悔しそうな声をだし、お決まりの台詞を言って窓から外へ逃亡したのだった。あ、利吉兄ちゃんじゃなくて強盗。強盗さんね。


「なはははは!三郎!凄い勇気だな!!お前の勇気が悪者を追っ払ったぞ!」
「レッドだ…!コヘレッドだ!ほんもの!?ほんもののコヘレッド!?」
「おう!ほんものだぞ!!」

「こまかいことは!?」
「気にするな!!」
「いけいけ!?」
「どんどーん!!」


その合言葉を口にすると、三郎は喜びのあまり小平太の首に抱き着いた。

今回このこの茶番は、小平太自ら提案してくれたのだった。前に三郎が小平太のファンだという話をしたとき、三郎の家庭の事情を知った小平太はいつかレンジャー全員引き連れてその三郎とやらに逢いに行ってやると約束してくれたのだ。多忙だから別に期待はしていなかったのだが、その話をみんなにしたところ、クリスマスイブならみんな予定をあけられると言ってくれたらしく、今回の計画にうつることができた。

っていうかレンジャーこう見ると本当に小平太以外礼儀正しい子ばっかりで面白い。画面の向こうで見るのとでは大違いだ。


「いつも七松先輩にはお世話になってます!皆本金吾と申します!」
「あ、初めまして今日は本当に有難うございます。本当小平太はお世話してますー」

「僕らも七松先輩からは色々学ぶことあるんだな!」
「あらーそれだったらいいんですけど」

「名前さんですよね?よく七松先輩から名前さんの話聞きますよ」
「うへぇお恥ずかしい限りです」


「中でも私の大ファンだとか?よろしい!!それでは先日発売された私のブロマイド全種サイン入りで特別にプレゼントいたしましょう!!私から麗しい御嬢さん、名前さんへ、メリークリスマス!!」
「恐悦至極に存じます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「タキのサイン入りブロマイド嬉しいとか初めて聞いたぞ」
「小平太の馬鹿!!!!お前は画面越しに見る滝ちゃんの魅力を知らないからそんなこと……!!!」


ドバッと高そうなコートの裏から出てきた滝夜叉丸直々サイン入りブロマイド。こんな素敵な物を私がいただいていいのだろうか。いや、いただくしかない。ありがたくぺろぺろさせていただこうではないか。コヘレンジャーパープルのサイン入りブロマイド。これは、レアだわ。

私がレンジャーと仲良くしているのを輝く目で見ている三郎に気が付いて、小平太は四郎兵衛から少し大きめの紙袋を受け取った。


「三郎、特別に私からクリスマスプレゼントだぞ!」

「!!!!!」


小平太からプレゼントがあるなんて聞いてない。むしろ来るだけでよかったレベルだったのに。
レッドである小平太が三郎の腰に付けた物。それはまさかのコヘレンジャーのどの色でもない金色の変身ベルト。そして腕に付けたのも、誰とも色の被っていない連絡用のブレスだった。



「お前が六人目のコヘレンジャーだぞ!私たちがやられちゃうような緊急事態になったらお前を呼ぶからな!そしたら戦いに来てくれ!」

「さぶろーが、コヘレンジャー…!?」



「…あれどうしたんですか…」
「あれは七松先輩が、美術を脅迫して作らせたんです。優しい御方ですが、少々手荒なのがいけませんね」
「Oh……」

淡々と喋る滝ちゃんは慣れていますとてもいいたそうな顔で、あのベルトの出所が凄い所からなのだなと理解した。やべぇな、めっちゃくそ高く売れそう。いや売らないけど。


「ありがとうコヘレッド!」
「おう!それまでに強くなれよー!」
「うん!」



「ただいま帰りました。おぉ、コヘレンジャーがいる」

「りきちにいちゃんみて!!さぶろうコヘレンジャーになった!!」
「いいなぁ三郎くん。レッドからもらったのか?」
「うん!!」

嬉しそうにベルトとブレスを見せる三郎に、さっきまで強盗してた利吉兄ちゃんは鼻の下がデレデレである。こんな可愛い三郎がみれたのだから強盗役なんて軽い物だろう。



「さぁさぁコヘレンジャーの皆さんも座って座って。料理は全員分あるわよ!」
「利吉シャンパンとジュース出してくれ」
「解りました」

「小平太飯食べてくでしょ?いや食べてって?」
「おう遠慮なく食う!お前らも遠慮なく食ってけ!名前は親友だから大丈夫だ!」

「ではお言葉に甘えて!」
「ご相伴にあずかるんだな!」
「俺も何か手伝いますよー」
「三郎くんはレッドの横に座るかい?」
「うん!!」


こうしてどのテレビ番組よりも豪華なクリスマスの夜は更けていくのでした。

終電がなくなってしまいレンジャー全員が我が家に泊まることになり三郎が小平太と風呂に入りたがったのは、また別の話である。







Happy Merry Christmas





「名前ねえちゃんコヘレンジャーはじまっちゃうよ!」
「あれー三郎、連絡ブレスしておかなくていいの?連絡来るかもしれないよ?」
「こないよ!だってコヘレンジャーつよいもん!さぶろうはひつようないもん!」
「可愛いいいいいいいいいいいい!!!!!」

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