川西、委員会やめるってよ | ナノ

▽ 大好きだってよ


「三郎次!」
「ん?おぉ左近!よく僕だって解ったな」
「その背中に挨拶するの何度目だと思ってるんだよ」

見慣れた背中に挨拶すると、それはやっぱり思った通りの人物だった。春休みだったというのに、三郎次の肌は少し濃い色になっていた。春でも日焼けするのかと聞けば、その質問に答えるのは今年で四度目だと言われた。春だろうが冬だろうが、お天道様が出ていれば日焼けぐらいする。そういえば毎年そんな事を言われていたような気がする。漁師の息子は大変だな。

「おはよう二人とも!」
「今年もよろしくなんだな」

「おう久作、四郎兵衛!」
「今年もよろしくね」

いつも通りの学園へ向かう道で、いつも通り友人と集合する。これも今年で四度目の事だ。桜が咲く道をひたすら歩き、見覚えのある門を視界に入れた。やっとついた。今年もこの門をくぐる季節がやってきたのだ。

「久しぶりー!入門表にサインしてねー!」
「お久しぶりです小松田さん!」

毎年のことながら、入口で待ち構える事務員の小松田さんに入門表を渡され、いつも通りにサインをした。ふと横を見ると、入学受付をしているのか、事務のおばちゃんと吉野先生が私服の子達から書類を受け取っていた。あれが今年の一年生か。あれがどれだけ生き残り、どれだけ此処で二度目の春を迎えるのだろうか。

「おはよう君たち」

「野村先生!おはようございます!」


「いやぁ、君たちもついに上級生の仲間入りになると思うと、いてもたってもいられなくなってね。ガラにもなくつい出迎えなんてことをしてしまったよ。…今年から、さらに授業は過酷な物へとなっていくだろう。だけど、どうか諦めないでほしい。君たちならきっと乗り越えられる。私は、そう信じている。私はいつだって君たちの味方だ。それだけはどうか、覚えておいてくれ」


僕らは揃って返事をした。クラスは違うけれど、四郎兵衛も返事を返すと、野村先生は四郎兵衛の肩を叩いて何処かへいってしまった。小松田さんが後ろから、新しい制服は部屋に置いてあるからねと言ったのを耳にして、少し、緊張してしまった。ついに、あの色に腕を通す日が来たのかと。四人で四年長屋に行き、名札がかけられた部屋を目指した。別の部屋の久作と四郎兵衛とはその場で別れ、僕と三郎次は、名札のぶら下がった部屋の前で一度深呼吸した。

「あ、開けるぞ」
「うん」

緊張した面持ちで部屋の扉に手をかけ、三郎次はゆっくり扉を開けた。空っぽの部屋の中に夢にまで見た紫色の制服が、二着畳んでおいてあった。僕と三郎次はそれを見て、手から荷物を滑り落とすかのようにその場に置き、僕らを出迎えた制服を手につかんだ。

ついに、ついにこの色に腕を通す日が来た。上級生の仲間入りともなる、第四学年の紫色の制服。これを身に付ければ、僕らはもう立派な上級生だ。また一歩確実にプロの忍者に近づくことができる。僕も三郎次も脱ぎ捨てるかのように私服を脱いで、紫色に腕を通した。サイズは自分にピッタリ。これは間違いなく、自分の制服。川西左近の制服。僕は、僕はついに上級生になることができたのだ。

「うっは、毎年のことながら新しい制服似合わねぇな!」
「そういう三郎次だって、全然似合ってないからね」

紫を身にまとった僕らは改めてその姿をまじまじと見つめた。似合わない。萌黄に目が慣れていたからか、紫のその姿はどうしても似合わなく見える。それに今年は、その色が上級生の仲間入りの証拠だと言うこともあって、全く似合う気がしないというのもある。いつかこの色が、自分に似合うと思われる日が来るのだろうか。いつか「あの連中はやっぱり上級生なんだな」と思われるような、そんな日が来るのだろうか。


「うわ!紫似合わないな三郎次!」
「久作こそ似合わねぇな!紫芋じゃん!」
「そういうお前も紫芋だからな?」

「なんでだろ、四郎兵衛それほど似合わないってわけでもないね」
「そう?僕はこの色、どうしても滝夜叉丸先輩しか出てこないんだな」


見慣れた友人たちでも、やはりその色は似合わないと思ってしまう。仕方ないよね。去年までは違う色だったんだから。見慣れないのは当たり前だ。

「よっしゃ!二年からかいに行こうぜ!」
「またそんなくだらないことを…」
「二年じゃなくて、三年なんだな」

「ごめん先行ってて、ちょっとやることあるから!」

「おっけー!早く来いよー!」


一つ下をからかいに行くのが目的なのか、この色に身を包んだことを自慢したいだけなのか、三人は部屋から意気揚々と飛び出していった。僕は、持って来た荷物を手にした。中から出てくるのは、財布や着替え、筆記用具。その他もろもろの必要品の中にある、深緑の手拭いに包まれた一本の簪。蝶が模られた平打ちの簪を机の上に置いて、深く、頭を下げた。



「凛子先輩、見てください。僕、ついにやりました。ついに、上級生の仲間入りすることができましたよ」



ふわりと吹いた風によって、一片の桜の花びらが部屋の中に舞い込んできた。

「凛子先輩が亡くなってから、初めての春です。やっと僕、上級生の仲間入りすることができましたよ。夢にまでみた紫色の制服。やっと、これを身に着けることができました。長かったです。四年って、こんなに長いもんなんですね。ついに僕も四年生です。僕、自分が上級生になるなんて思ってもいませんでした。今までずっと、先輩の背を見つめて、先輩の背についていくだけでしたから。いつまでもそんなだと思ってたんですけど、今年からは、もうそんな甘ったれた考えを持つことはできませんね。逆に僕らが後輩たちを引っ張っていく番になったんだなって、この制服を着て改めて思いました。凛子先輩はこの緊張感に、三年も堪えたんですね。緊張しちゃって、今から手が震えちゃってますよ。僕、ちゃんと先輩できますかね。貴女のような後輩たちに憧れられるような先輩に。凛子先輩の様な、強く美しい存在に。

凛子先輩の様に、死して尚、多くの人間に慕われ続けるような存在に」



去年の秋、フリーの忍者として活躍されていた食満先輩から聞いた、凛子先輩の訃報。頭がおかしくなりそうなほど、それはショックな出来事だった。仕事で戦場に出ていた食満先輩は、仕事を終え帰る途中、別の戦場に出たと。大きな戦だったのだろうかと状況を確認したところ、信じられないことに、見知った顔が倒れていたのを見たという。それが、凛子先輩。食満先輩にもそれは衝撃が大きすぎることで、しばらく言葉を失ったらしい。食満先輩が仰るに、御遺体は酷い状態だったため、遺髪すらも持ち帰ることが出来なかった、と。遺体をいじるわけにも行かず、涙をのんでその場を後にしたのだと、食満先輩は僕の肩を掴み涙を堪えて教えてくださった。伊作先生は大声を上げて泣き、僕も、声は出ずとも、涙は目からあふれ出てしまった。

凛子先輩の死は、凛子先輩が在籍していた当時のあの学年の、最初の訃報だった。あまりにも早すぎる卒業生の死に、くノ一教室たちは悲しみ全員涙を流し、凛子先輩を慕っていた忍たまの後輩たちも涙を流し、そして教職員までもが悲しみに染まった。凛子先輩の死は、それほどまでに大きすぎる知らせだった。同じ委員会だった久々知先輩は、その知らせを信じられないと言い、凛子先輩の御遺体を探しに行くと学園を飛び出そうとしていた。だが当時の六年の先輩達に止められていた。先輩の死の知らせ如きで最上級生が気を乱してどうすると、涙を流す尾浜先輩に胸ぐらを掴まれていたのを、僕はまだ鮮明に覚えている。タカ丸さんと伊助は一晩焔硝蔵で泣き続けたらしい。三郎次はその晩、でかけると言い残し何処かへいってしまった。朝帰って来た三郎次の目は真っ赤で、誰にも泣き顔を見られたくなくて何処かで一晩泣いたのだろうと確信した。


「凛子先輩、ご存知ですか?貴女が逝ったと聞かされたその日、どれほどの人間が貴女のために涙を流したのか。貴女はそれほど、大きな存在だったのですよ」


僕は凛子先輩の恋人という立場だった。それ故に、凛子先輩を慕っている人がたくさんいたことも、もちろん知っていた。先輩といて憧れる者、委員会委員長として憧れるも者。そして、陰で恋慕を抱いている者もいた。そんな沢山の仲で、自分だけが特別な存在なのだということを、凛子先輩が死んだと聞かされた日に、改めて思い知らされた。その知らせを聞いた人、みんながみんな、僕の事を心配してくれていたからだ。不謹慎だったと思うけど、僕はそれで、ちょっとした優越感に浸れたような気がしたのだ。あんなに凛子先輩を想っている人がいたのに、僕だけが特別な存在だから。凛子先輩が好きだと言ってくれるたった一人の存在。凛子先輩が簪を送ってくれたたった一人の存在。

「僕、そんな凄い人を保健室で待っていたんだなぁって、ちょっと感動しちゃいましたよ」

凛子先輩が死ぬなんて、夢にも思っていなかった。どうせいつかひょっこり帰ってくるんだろうと思ってた。だから、怪我を治療する準備はいつだってできてたし、「何帰ってきてるんですか」って怒る準備もできていた。だけど、凛子先輩は帰って来なかった。凛子先輩がいなくなって、春が過ぎ、夏を越え、訪れた秋。二度と帰らぬ人となったと聞かされたあの日の心の空っぽになった感じ、今でも忘れることはできない。


「……でもね凛子先輩、凛子先輩がいなくなったからって、僕、治療や薬の勉強をやめようとは、不思議と思いませんでしたよ」


凛子先輩がいつも馬鹿みたいに大きな怪我をしてくるから、僕は凛子先輩の担当医としていっぱい勉強していた。薬の事、治療の事、その他色々。凛子先輩の担当医だったから知識を沢山詰め込んではいたけれど、凛子先輩が死んだなら、この勉強は必要ない、なんて思うことはなかった。凛子先輩のために勉強していたけれど、凛子先輩以外にも役に立つから。此の学園のお役に立てるから。だから僕は、凛子先輩がいなくなっても、勉強を続けることをやめなかった。

「おそらく凛子先輩ならこうしろと、おっしゃるような気がしたんです。これで、よかったんですよね?」

次に凛子先輩に逢ったとき、この話をして、よくやったと褒めてくださるだろうか。凄いねと、頭を撫でてくださるだろうか。もしかしたら、自分の担当医なのにってふてくされるかもしれない。そんな時はちょっと無視して、そんな凛子先輩を懲らしめてやろう。ごめんねって覗き込んでくれるだろうから、そしたら僕も謝って、ちゃんと許してもらおう。

「凛子先輩、今でも僕、ちゃんと凛子先輩の担当医ですからね」

凛子先輩は死んだと聞かされた。だけど、どうしてか、また天井裏からひょっこり帰ってきてくれるのではないかと思ってしまうのだ。たまに上を見上げてしまうのは、きっと凛子先輩が顔を出してくれるんじゃないかと、期待してしまっているからに違いない。こんなにも、こんなにも僕は凛子先輩の事が好きだった。大好きだった。もっとこの気持ちを伝えておけばよかった。もっと素直に好きだと言えば良かった。寂しいと言えば良かった。逢いに来てくださいと手紙でも出せばよかった。それが叶わないなら、こっちから探しに行けばよかったんだ。今後悔してももう遅い。凛子先輩は、何処にもいないのだから。


「凛子先輩、だから僕、次にあなたに逢うとき胸を張って逢えるように、いっぱい勉強して、プロの忍者になってみせます。だからどうか、その日まで、見守っていてください」


机の上に置いた簪に、僕は深々頭を下げた。返事は来ないけれど、扉からふわりと、背中を押すような風が入ってきたような気がした。凛子先輩はきっと応援してくれる。その期待に応えなきゃ。もっと勉強してもっと実践をつんで、立派なプロの忍者になるために頑張ろう。


「おはよう左近」
「数馬先輩!」

「紫の制服、似合ってるよ。今年も何卒宜しくね」
「数馬先輩も、青い制服、………」
「これ以上影が薄くならないように努力するね…」
「あ、いや、別にそんなこと…」

簪を懐にしまうと、一つ上の委員会の先輩が部屋の扉からひょっこり顔を出した。真新しい制服に身を包んだ数馬先輩も、やっぱりちょっと違和感があるようにみえる。

「池田たちは?」
「一コ下からかいにいくって。数馬先輩は?」
「あはは池田たちらしい。僕はちょっと保健室に用事があってね。今済ませてきたところ。そろそろ始業式、入学式始まるよ。一緒にどう?」
「はい!行きます!」

数馬先輩の後ろについて部屋を出て扉を閉めた。グラウンドに近づくにつれ新一年生や後輩たち、先輩方が歩いていくのが目に入った。新入生獲得頑張ろうねと言ってるそばから落とし穴にはまった数馬先輩に、一年生たちは大層驚いていた。それをみた五年生が助けてくれたり、久作たちと合流して、やっと始業式の場に到着できた。

教職員が並び、新一年生も整列していて、台の上には学園長先生が立っていた。


「おはよう忍術学園の生徒諸君。これより、始業式を執り行う!まず初めに新任の先生をご紹介しよう。一昨年この学園を卒業したので、知っている者もいるじゃろう。当時六年は組、用具委員会委員長じゃった、食満留三郎先生じゃ」


学園長先生に名を呼ばれ、黒い忍者服を着ていた食満先輩。教職員の列に並んでいたので、其処から出てきた瞬間、食満先輩の世話になっていた用具の後輩は嬉しそうな顔をして拍手をした。


「作兵衛、平太、喜三太、しんべヱ、俺がいなくても委員会はちゃんと回っているようで安心したよ。俺はお前らみたいな立派な後輩を持てて幸せだ。みんなも、元気そうでなによりだ。…改めて、今年からこの学園で教師として勤めることになった食満留三郎です。卒業してから一年フリーの忍者として外の世界を見てきました。その分、外に出ればどれだけ厳しい世界が待っているか、お前たちにもちゃんと伝えて、そして立派なプロになれるよう、全力で協力したいと思っています。迷惑かけることもあるかもしれませんが、何卒宜しくお願い致します」

「食満先生には、一年は組の実技担当担任、そして用具委員会の副顧問として吉野先生と共に就いてもらうぞ」


食満先輩が深く頭を下げると、食満先輩の名を呼ぶ用具の連中や、食満先輩を慕うヤツらの大きな拍手がわき起こった。

食満先輩には、本当に色々お世話になりっぱなしだった。あの日の訃報を知らせてもらったのは他でもない食満先輩からだったし、その後、食満先輩はよく僕の事を心配して度々この学園を訪れてくださっていた。大丈夫ですと言っても食満先輩は放ってはおけないと顔を見せに来てくださった。その度、凛子先輩の話を聞かせてほしいと言う僕に、嫌な顔一つせず食満先輩は当時の凛子先輩のお話をしてくださった。合同実習でこんなヘマをしていただの、一年の時はこんなバカをしていただの。懐にしまった簪と、食満先輩が語ってくださる凛子先輩の話のおかげで、僕は心を壊さずに済んだ。凛子先輩が確かにこの学園にいたんだという証拠が、手に入ったから。いなくなってからも凛子先輩の話が聞ける。悲しい事なんて、何一つとしてなくなっていた。

「そしてもう一人、新任の先生をご紹介する。これも当時くノ一教室で火薬委員会委員長じゃった、松風凛子先生じゃ」

悲しい事なんて、何一つとして……………………。


「ご紹介に預かりました凛子先生でーす!っと、その前に左近ちゃんは何処!私のマイエンジェル川西左近ちゃんは何処!!」


凛子先輩が、いなくなってからも…………。



「私の計算だと左近ちゃんは四年生になってるはず!!立派な上級生の仲間入りしてるはず!!そうでしょう!?私が左近ちゃんの年齢を間違えるわけがないんだから!!左近ちゃんを出せ!!隠したのか!!留三郎ぶっ飛ばすぞ!!」

「何で俺なんだよふざけんな!!左近そこにいんだろ!!」
























…………………………。





凛子、先輩?












「…………は?」


「あぁぁあああーーーっっ!!左近ちゃん!?本物!?左近ちゃんだよね!やだー!こんなに身長大きくなっちゃってでも相変わらず可愛いぃいいーーーーっっっ!!」

「凛子せん、ぱ……?」


聞きなれた雄叫びを叫びながら、教員挨拶用の台から飛び降りて四年の列に突っ込んでくるのは、見間違うわけがない、死んだと聞かされたはずの、凛子先輩。猪の如く突進してきて僕に抱き着き地に押し倒すかの如く飛びついてきたのは、死んだと聞かされたはずの、凛子先輩。さっきからしつこいぐらいに頬に口づけの嵐を見舞いしてくるのは、確か、僕の記憶が正しければ、死んだと聞かされたはずの、凛子先輩。


「う、うわぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ぐっふぅううう!!」


思わず腹を蹴り飛ばしその身体を吹っ飛ばしてしまったけど、僕は絶対に悪くない。

絶対悪くない。悪いのは、悪いのは!!!!!!!



「凛子先輩!!!!!!」

「はい!!!」


「あなた此処で一体何をしているんですか!?」
「え、何って…!?何を言ってるの左近ちゃん…!?わ、私との約束忘れたの…!?い、いつか必ず帰ってくるって……!!」

「そういうことではありません!!!」

僕だけじゃない。この状況は、教職員以外全員が混乱していた。まず一年二年は新任の先生が暴走したことに混乱している。それは仕方ない。

だけどどうだ。三年以上の連中とくのいち教室の連中は、何故この人が此の学園にいるんだという顔をしている。少なくとも歓迎しているような顔ではない。混乱だ。この顔は、みんながみんな混乱している顔だ。何故という顔。この先輩は、死んだはずなのに、とでも言いたそうな顔。


「あなた、し、死んだんじゃないんですか!?!?」


その言葉に、起き上がり腹をさする凛子先輩は、一瞬考えたような顔をした後、あぁ!と手を打って胡坐をかいた。

「私ね、城仕え辞めてきたの」
「はっ!?」


「早く左近ちゃんに逢いたくなって、っていうか左近ちゃんが側にいないのがこれほど拷問に近い事なのかともう身体と神経の限界でさぁ。ほら、自分で言うのもなんだけど私ってそこそこ優秀じゃん?城主は私が此処の忍び辞めたいっていってもダメーって許してくれなかったんだけど、お姫さんは全部話したら恋する乙女じゃん!早く此処辞めちゃいなよ!って言ってくれてさぁ!それで二人で考えて、戦で死んだふりすれば城主も諦めてくれると思ってね、去年の秋のおっきい戦で死んだふりして、殉職ということで辞めて来たってわけよ」


「はぁぁぁあああ!?!?!」

「うっかりそれを仕事中の留三郎に見つかっちゃってさぁ」
「いやまじで死んでるのかと思ったけどこいつ鼾かいて寝てるから生きてるじゃんって引っぱたいたて起こしたらこのザマだよな」
「城主にバレたら嫌だから、口裏合わせてもらって、とりあえず伊作から騙しておけば大丈夫でしょって、私は死んだことにしてもらったんだよね」

「こいつの作戦にのって一芝居うったってわけだ。伊作だけにはその後本当の事話したけどな。凛子が実は生きてたっていうのを先生方が知ったのは凛子が教員試験を受けに来てからだよ。だから本当につい最近だ。誰一人として疑ってる方はいらっしゃらなかったみたいでな。敵をだますにはまず味方からって言うだろう?」
「あそこで私が死んだことになれば最悪城主がこの学園に凛子が帰ってきてないかって尋ねて来ても死にましたって誰かしら言ってくれるじゃん?私はこの世にはいない存在になってるじゃん?この作戦完璧だったよね」


いぇ〜とふざけて拳をぶつけ合う食満先輩と凛子先輩。その話を聞いて本気で頭を抱え込んでいる伊作先生及びその他教職員の先生方。先生方も、誰一人としてこの真実を知ることなく、完全に騙されていたということらっしい。


「で!!早く左近ちゃんの側に居たいから、去年の冬此処の教員試験受けましたーー!!そして見事!!留三郎と一緒に一発合格しましたーーー!!さすが凛子ちゃんてば作戦完璧!これで左近ちゃんとの薔薇色ライフは確定されたも同然!褒めて褒めてー!!」


「もう!凛子は本当に自分勝手なんだから!僕なんか本気で泣いちゃったじゃないか!」
「騙される伊作も悪いんですぅうううう!!」



全く持って意味が解らない。

死んだと聞かされた凛子先輩が、実は生きてた。そして今年から、同じ屋根の下で暮らすことになる?なんで?死んだのでは?生きていた?どうして?城を辞めた?僕がいないから?

城のお姫様に直接相談?戦場で死んだふり?僕に凛子先輩が死んだと教えてくださった食満先輩が実はグル?

僕は何のために、涙を涙を流した?

誰のために、涙を流した?

凛子先輩が、…凛子先輩が、死んでしまったと聞いたから。


凛子先輩が、手の届かない場所に逝ってしまったと聞かされたから。



その、凛子先輩が、今、こうして、生きてる。









僕は、見事に騙されていたのか。










「と、いうわけで、凛子先生にはくのいち教室で下級生のくノ一の教科、実技を担当してもらい、委員会は火薬委員会の副顧問として土井先生と就いてもらう」


「きゃー!聞いた左近ちゃん!これからはずっと一緒だよ!私くノ一教室の教師だけど毎時間左近ちゃんに逢いに来るから安心してね!一年も逢えなくて寂しかったでしょー!大丈夫!これからはずっと一緒だからね!

好きよ左近ちゃん!世界で一番大好きよ!!」








そうか、そうか、

凛子先輩は、生きていらっしゃったのか。












「………」

「…ん?左近ちゃん?聞いてる?」








「…か………」

「え?」



「…い、……な……」

「さ、左近ちゃん…………?」




































「凛子先輩なんか…!!大ッッッッ嫌いです!!!!!!」










































おわり

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