川西、委員会やめるってよ | ナノ

▽ ヤバイってよ


「あー、もう無理。やってらんない。左近ちゃんに逢いたい」
「何言ってんのよ、愛する川西左近にフラれたって泣いてたのはあんたでしょう」
「やめろ!それを言うな!」

ずるり、と、私の手に持つ刀に刺さる男が、地に伏せた。男の額から出る血の海に触れぬように、私は一歩後ろへ下がった。

天守閣から見下ろすその景色はまさに絶景。真夜中だというのに、城下町は炎に包まれていた。私たちが悪意でこの城を襲っているんじゃない。この城は学園長先生が、周りの城からの評判が最悪だとういう噂を耳にしたため、卒業試験も近いし丁度いいと、世直しのため、この城をおとすことを私たちの卒業試験として課したのだ。確かに、中々評判の悪い城だった。

情報収集のため前に此処に足を運んだ時、城下の人間は食事をすることすらギリギリのような生活だったのに、城に潜れば金や宝は腐るほどあった。悪い城主だ。成敗せねばならないね。

ただこの城の人間を殺すだけが課題ではない。一班は城下町を、予め学園長先生が手回ししておいてくれた別の良い城の城下町へ移動させる警護。山道で山賊にでもあったらかなわない。もう一班は城中の金という金をかき集めつつ城の中の女子供を逃がして、あちこちに火薬を仕掛けている。そして私たちは、城主の首を取ることを最終目的とし、刃向う城兵を片づける仕事に徹している。刃向わず逃げたいと素直に言うやつは、先の集団に紛れて別の城下町へ既に移動させてある。数は少なかったが、さすが武士とでもいうか、最後の最後まで城主についていったヤツらもいた。その意気やよし。安らかに眠れ。

「凛子、見て見て!大量大量!」
「いいねぇ、こんだけ金あればあの人たちもこの先豊かに暮らせるよ」

かき集めた金は後日引っ越していった人たちの処へ平等に届ける。まるで鼠小僧だ。

「それでね、これは学園長先生がお気に召すと思ってパクってきた」
「おぉいい刀だね、こりゃ学園長先生もお喜びになるよ」
「…こんなにいい生活してたのに、町の人たちはあんなに苦しんで…」

「最低な城だね。こんな城は、残さない方がいい」

宝を持ったヤツから、私は導火線を受け取った。これに火をつければ、これにつたわって、設置された火薬の元へ届くだろう。そして城は、爆発する。全て上手く行ったとのろしを上げると、遠くの方から返事がきた。向こうも順調にやれているみたいだ。

導火線を持つ手とは反対の手には、血だらけの刀が一本。私自身も、今回は大きく返り血を浴びた。こんな姿、左近ちゃんに見られたらどう思われるんだろう。怖いとか、気持ち悪いとか言われたくなくて、左近ちゃんに逢うときは必ず着替えてから保健室に行っていた。出来るだけ血の匂いも消して左近ちゃんに逢いに行かないと、嫌われちゃうと思って。

私も随分と成長したもんだ。五年前までは私が人を殺して平然としていられるだなんて思っていなかっただろうに。これは立派に卒業できますな。

足元に転がる城主、空っぽと化した城下町。宝もがっぽり手に入ったし、これで課題は終了。無事に卒業できるってわけだ。いぇえええい合格だぜぇえええ!!


「ほんじゃ、一気にこの城脱出するよ。準備は良い?」


宝を持たぬ者は持つ者を警護しながら帰らなければ。各々得意とする武器を構えて、天守閣の柵に足をかけた。部屋の隅で細々と燃えていた蝋燭を手に取り、私は導火線に点火した。思っていた異常に導火線の火の進みは早く、あっという間に廊下に出て行ってしまった。私たちも急ぎ屋根から飛び降り門まで駆け抜け、無事に、城脱出することができたのだった。

炎に包まれる町の間を駆け抜けていくと、ふと森の方から誰かが走ってくるのが見えた。宝を背負っている者を先に行かせ、私たちの班三人はその誰かの元へ近づいた。女の人だ。バカな。この町に飛び込むつもりか。


「ちょっとお姉さん!この先は瓦礫と炎の渦だよ!近寄っちゃ駄目だ!忘れ物ならあきらめた方がいい!」
「貴女方、私たちを救ってくださった方なのでしょう!?町に、町に誰か残っていませんでしたか!?」
「は!?」


「私の息子がいないんです!!はぐれてしまって!だけど、誰かと移動していると思っていたのに、何処にもいないんです!!」


私の服を掴んで泣き崩れる母親からの両足からは、血が出ていた。バカな、本当にこの山の中を駆け戻ってきたのか。向こうにいなかっただなんて、だとしたら、本当にこの町に取り残されているか、山道で迷子になっているに違いない。

「凛子、どうしよう!」
「…落ち着いて、あんたはこの人を移動先に連れて行って。その途中、山道で迷子がいないかも確認しながら行って。あんたはさっきの連中を呼び戻して町の隅から隅まで探して!!」

そういうと、友人は母親の首の後ろを叩き気を失わせ、体を担いで森へ消えた。もう一人は樹に登り空高く救難信号用の閃光弾を打ち上げた。閃光弾が空で爆発すると、それに応えるように離れた場所から同じ色の閃光弾が打ち上がった。もう少ししたら戻ってくるだろう。私達は先に探すべきだ。私はあっちをと言うと、友人は反対方向へ飛んで行った。

「誰か!!誰かいないの!!返事をして!!誰かこの町にいないの!!」

当然のことながら返事は帰って来ない。開かぬ扉は刀で切り崩し中を確認し、倒れた樹によって入口が塞がれていたら刀で切り落として中を見た。何処にも子どもなんていない。だとしたら、山道で迷子になった可能性にかけるしかない…。


………だがふと、目に入った建物に視線を奪われた。あれは、なにかの蔵か。入口が隣の家の倒木やらなんやらで塞がっているが、もしや、炎に怯えてあの中に駆け込んでしまったなんてことはあるまいな。嫌な予感はこういう時には当たる物。私は喧しく騒ぐ心臓を押さえながら蔵の瓦礫を動かした。だが入口は完璧なぐらいに塞がれていてちゃんとした扉からは入れそうにない。では鉄格子から、とも思ったのだが、此の蔵には窓がなかった。仕方がないので隣の家の木が突っ込んできた拍子にできたであろうヒビに何発か蹴りを入れると、ヒビが深くまでいっていたのか、ばこっと壁に人一人通れるぐらいの穴が開いた。のだが、


「うわああああああああああああいたあああああああああああああああああああ!!!」


子供が一人、入口の近くで倒れているのが、その穴から見えたのだった。

「い、いた!!子供此処にいた!!ちょっと手ぇ貸してぇえええ!!」

遠くにそう叫ぶと、私の声を聞いた友人たちが一気にこちらに駆け寄ってきた。わずかな穴に身をねじ込ませ蔵の中に入ると、其処は煙で充満していた。思わずむせ返り、涙目になってしまった。懐に入っていた小さい水筒の中身の水で頭巾の口元を塗らし、子供に近寄った。

「おい、起きてる?私の声聞こえる?大丈夫?」

身体を抱えると、かすかに感じる呼吸。まだ、ギリギリ生きてる。


「凛子大丈夫!?子供は!?」
「ギリギリヤバイかも…!っていうかここ苦しい…!この子抱えてそこから出るの無理…!木とか、瓦礫なんとかして…!入口作れない…!?」

「ちょっと待ってて!やってみる!」
「凛子死なないで!今助けるからね!!」

友人たちが外でがしゃがしゃと音を立て崩れた隣の家やら瓦礫やらを撤去している音が蔵の中まで響いてきた。煙で酸素が足りなくなり、ちょっとふらふらしてきてしまった。できるだけ煙の少ない低い位置に居ようと座ったとき、地面でざらりと、砂ではない何かを触った。このザラザラ感は、よく焔硝蔵で触っている火薬の触り心地だ……。

……焔硝蔵は、もし火がつき火薬に点火し爆発が起こっても、外への被害が少なくて済むように壁が分厚く、そして、格子窓は、ない。




この蔵、格子窓なかった。







あ、やばいかも。







「ヤバイ…!みんな離れ









































「っ、!」

「左近…?どうした?」
「い、いや、何でもない…」
「そう……おやすみ…」
「おやすみ、さぶ、ろうじ……」

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