川西、委員会やめるってよ | ナノ

▽ 大嫌いだってよ


「やっぱり仙蔵の茶が一番美味しい」
「身に余る光栄だな」
「思ってもないくせに」


それは


「お前の作った菓子が一番美味い」
「身に余る光栄だなぁ」
「思ってもいないことを」


卒業試験を間近に控えた


「ところで優秀な仙蔵くん、宿題の答え見てほしいんだけど」
「ほう、どれどれ」


霜が降りるほど寒い冬に


「おう凛子、来てたのか」
「やぁ文次郎、お邪魔してるよ」


飛び込んできた


「丁度いい、お前に伝えたいことがあったんだ」
「私に?何?」



悲報だった。





















「川西、委員会やめるってよ」





































「左近ちゃんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!?!??!??!」


忍びらしくない荒々しく鳴る足音が向かう先は言わずもがな保健室。横を過ぎ去る後輩たちに挨拶をされるもそれどころではなく流れ去る声を背景に私はただひたすらに走った。運よく先生に逢うこともなくあっというまに保健室にたどり着いた。

保健室の扉を開くと、其処にいたのは、正座する伊作と数馬と乱太郎ちゃんと伏木蔵ちゃん。その正面で、正座する、左近ちゃん。


「あ、凛子…!」
「ちょっと伊作!左近ちゃんが保健委員会やめるって聞いたんだけど!?嘘だよね?!」

「凛子先輩…」
「左近ちゃん嘘って言ってよ!!何で左近ちゃん委員会やめるの!?」


左近ちゃんは、私の可愛い可愛い後輩ちゃん。委員会は違えど、結構前に山で遭難しているところを助けてから仲良くしていた忍たまの後輩だった。火薬委員の私とはいえ薬草も火薬も似たようなもん。薬草や火薬の知識を左近ちゃんに教えてあげたり色々仲良くいちゃいちゃしていたというのに、この知らせは一体なんだというの!

何!左近ちゃんが保健委員会をやめる!?私そんな話一言も聞いてないんですけど!?保健室のマイエンジェルは一体何処へいっちゃうわけ!?




「左近ちゃんが保健委員やめたら私一体誰に治療してもらえばいいのよ!」

「っ!!」




私はいつも実習などで怪我をしていた時は、保健室のエンジェル左近ちゃんに治療してもらっていた。もはや左近ちゃんは私の担当医である。治療の仕方を教えてあげたりと、左近ちゃんは私の担当医であることを誇りに思っています!とかめちゃくそ可愛い笑顔で言っていたのに、


左近ちゃんは…


左近ちゃんは……



「凛子先輩なんか……!!」

「!?」


















「凛子先輩なんか…!!大ッッッッ嫌いです!!!!!!」






















































「さ゛こ゛ん゛ち゛ゃ゛ん゛が゛わ゛た゛し゛の゛こ゛と゛き゛ら゛い゛っ゛て゛い゛っ゛た゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛゛」


「よしよし、凛子先輩よしよし」

「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!゛!゛!」



「あー……伊助…?」
「あ!久々知先輩」

「…取り込み中?」
「えぇとても。久々知先輩も慰めてあげてください」
「えぇ…何これ……?どういうこと…?」


委員会に行こうとと焔硝倉に向かっていた時の事。蔵の中から泣き声がすると、通りかかった三郎から聞いた。誰かが泣いている?蔵の中で?

一体何があったのかと急ぎ蔵へ向かうと、鍵は開いていて、扉も少し開いていた。確かに、泣き声が聞こえる。女の声。くノ一?いや、この声は委員長の凛子先輩だ。ギィと重くなる扉を開き奥へ行くと、誰かが倒れている足が見えた。ギョッとかけよると、其処には、正座した伊助の膝に顔をうずめわあと泣きわめく、凛子先輩の姿。

「実は、かくかくしかじか」
「うんうん」

伊助の話では、委員会に此処に来たときにはすでに凛子先輩は膝を丸めて泣いておられたのだという。どうしたんですかと隣に座って声をかけると、いきなり膝で泣かれこの状態だという。ポツリポツリと話す凛子先輩の言葉を全てつなげてみると、今までラブラブだった二年の川西左近にフられたのだという。

そんなバカな話が合ってたまるもんか。凛子先輩と言えば食満先輩に負けず劣らずの後輩好き。その中でも『保健室のエンジェル』と呼んでいた川西は一番のお気に入りだったじゃないか。ほっぺがすべすべだっただの髪がいい匂いしただの委員会の時はべらべらとのろけを語ってくる、そんな凛子先輩が、あの川西にフられた?これは一体どういうことだ。

「そういうことか…」
「凛子先輩が泣いちゃうのもしょうがないです」

伊助が撫でる手を止めていたので、代わりにもならないが俺が凛子先輩の頭を撫でた。うううとまだ涙を流す凛子先輩が、ガッチリと伊助の腰に抱き着いたままだ。伊助の母上感ヤバイ…。


「ほえぇ!?なんで凛子ちゃん泣いてるのぉ!?」
「凛子先輩が!?」

「タカ丸さん、三郎次、丁度良かった」


伊助が俺の背で凛子先輩を慰めている間に、かくかくしかじかで、と事の流れを全て話した。タカ丸さんはかわいそうにと言いながら伊助の横に座って凛子先輩を励ました。


「…三郎次、お前なんか知らない?」
「ぼ、僕もはじめてしりましたよ……左近がなんで…?」

「悪いんだけど、今日は委員会参加しなくていいから、ちょっと川西から探ってみてくれないかな。土井先生には俺から言っておくから…」
「わ、解りました!」

三郎次にそれを頼むと、急ぎ蔵を飛び出した。本当は人の色恋沙汰うんぬんには関わらない方が良いとよく勘右衛門が言ってたけど、委員会の委員長がこのざまでは放っておくわけにもいかないしなぁ。


「凛子ちゃーん、そんなに落ち込まないで?」
「う゛うっ…!左近ちゃんが……っ!左近、ちゃんがっ……!!」

「…重症だねぇ」
「左近先輩、一体なんで凛子先輩の事……」





「今までツンデレの、ツンが長かったことは多々あったけど……っ!嫌いなんて言われたの初めてだよぉおお…っ!!」



川西が先輩を嫌いかぁ。

まぁ、絶対的に何か理由があるんだろうけど……。








「左近ち゛ゃ゛ん……っ!わ、私の゛…え゛んじぇる゛……!!」







……………こりゃ早期解決しないとな…。

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