適当に生きていくっていうのがこの世は丁度良いんだよ | ナノ


「篤とご覧あれ!」  




再びの休日。

授業もないこんな日は、やっぱり部屋で勉強しているよりも右京先輩のお部屋でいろんな話を聞いていた方が楽しい。先日は忍務の話をしてくださった。忍務内容の口外は御法度だから虎之助先輩にも秘密だぞって、押し入に入ってこそこそ話したり、その時の陣形図なんかを見せてくれたりするから、勉強にもなるし、とても楽しい。解らない宿題は右京先輩に聞くに限る。答えが解らないと言ったことなど一度もない。強くて、頭が良くて、優しくて、そんな右京先輩みたいな忍者に、私はいつしかなりたいと思っていた。


「右京せんぱ……あれ、」


少し開いた右京先輩のお部屋の扉。こっそり中を覗いてみても、同室の先輩のお姿も、右京先輩のお姿も見当たらなかった。三味線もない。何処かへお出かけされたのだろうか。今日は日が高いうちから忍務だなんて仰っていたかな?


「六年長屋に狐面の井桁模様。鉢屋だな?」

「!す、水明先輩、こんにちは」
「おう」


部屋の中を覗いていた私の頭上から語りかけるのは、聞きなれた低いが優しい声。見上げた先にいた水明先輩は、おうと軽く手をあげた。

「右京に用事か?」
「はい」
「悪いタイミングだな。今し方出かけたところだぞ」
「えっ」

「週に一度のあいつの決まりだ。日曜のこの時間は必ず町へ出るんだ。三味線背負ってな」

この間の休みは撥のせいで行かなかったみたいだが、と水明先輩は続けた。水明先輩の話ではもうすっかり直ったらしい。そういえば昨日の委員会は少々機嫌がよさそうに見えた。

「急ぎの用事なら追ったらどうだ?多分、此処からすぐの町の橙色の暖簾の団子屋だ。行けばすぐに解る」
「団子屋…。…はい!ありがとうございます!」
「気を付けてな」


どうせ今日は暇なのだ。先輩の後を追って出かけるのも悪くない。水明先輩に頭を下げ、私は部屋に戻り私服に着替えた。同室のやつが何か言いかけていたが、今の私はそれどころではない。右京先輩は一人でお団子屋に行ってなにをされているのだろう。いや、団子を食べていることは確かだろうけど。三味線を持ってお出かけされる用事なのかな?

門の近くにいた事務のおばちゃんに外出届を提出し、私は横の小さな門をくぐって走った。

道中、手を繋ぎ前から歩いて来る親子がいた。私より小さい子供は、私を指差し「狐のお面!」と言った。あ、そういえば変装するの忘れてた。此のまま行っては少し怪しいかもしれない。子供はどこかでお祭りをやっているのかもしれないね!と楽しそうに母親に話しかけるが、母親はどこだろうとでもいうかのように考え込んでしまった。

よし、今日はあの子供の顔を借りよう。見ず知らずの学園の生徒じゃない者の顔なら、右京先輩は気付かないかもしれない。

狐面をとり、念のために川に映る私の顔を確認した。よし、完璧。絶対にバレないぞ。私は狐面を懐にしまい道を急いだ。



町に近づくにつれ段々とあたりは騒がしくなってきた。町に入り物を売る者もいれば旅の途中の侍もいる。

「ねぇ旦那、橙色の暖簾のお団子屋さんって何処ですか?」
「団子屋ァ?あぁ、それなら周さんの家だなァ。ほれ、あの茶屋右に曲がったとこだよ」

少々酒臭い旦那に話しかけ団子屋への道を聞くと、向かって右を指差した。私はありがとうと頭を下げ、また先を急いだ。


近づくと聞こえる三味線の音。あ、右京先輩がいらっしゃる。


曲がり角を曲がり目の飛び込んだのは、団子屋の椅子に座り三味線を弾く右京先輩のお姿。今日は忍び装束ではない私服だ。だけど黒い袴に赤い服。なんだかちょっと、忍者っぽいなぁ。砂利を蹴りながら歩き近寄ると、さっきまでは見えなかったが、右京先輩は女の人に囲まれていることに気付いた。腕に絡む女の人の姿を見て、私はギョッと一歩後ろへ後退してしまった。お、花魁かと思った…。


「右京さんなんで先週来なかったのぉ?」
「私たち此処で一日待ってたのよぉ?」

「馬鹿野郎!俺にだってはずせねぇ用事の一つや二つあるわ!」

「あぁんツレないお人。忙しいなら私たちその御用事とやら、お手伝いするわよぉ?」
「右京さんたら今何処に住んでいるのかも教えてくれないんですもの」


「生憎、旅芸人なもんで、住むところは決まってなくてな。情がわいたら其処から離れらんなくなんだろ!にしても、やはりこの町はいいなぁ!飯も、酒も、女も美味い!」


やだぁと甲高い声でケラケラ笑う女の中で、右京先輩は豪快に笑って弦を弾いた。なるほど、右京先輩は忍たまではなく、旅芸人としてこの町に来ているのか。それなら、三味線を持っていてもおかしくはないなぁ。


「ねぇ若旦那。あの団子屋で三味線弾いているお人は誰?」
「なんだ坊主、崇徳院の旦那を知らないのか?」
「うん、初めて見た」

「崇徳院の旦那は旅芸人でなぁ、っつっても、もう此処二年とちょっとこの町に住んでるみてぇだが。でもな、だァれも崇徳院の旦那が何処で寝泊まりしてるのか解んねぇのよ。宿を取っておられるのか何処ぞにいい人でもいるのか。だけどなんでそれを誰も疑わねぇのか。それはあの人の人徳と三味線の澄んだ音色のおかげよ。どっから来てるのかとか、んなもんどうでもいいと思っちまうんだよなぁ」


茶屋に座る若旦那も、右京先輩の音色に聞き惚れているようで、茶をすすっては目を閉じて、町に響く音色に耳を傾けていた。

学園でもこの町でも、右京先輩って人気者なんだなぁと、私は実感した。右京先輩の前を通る人ほとんどが、右京先輩に挨拶したり、必ずと言っていいほど右京先輩の姿を目に入れる。中には立ち止まってその音を聞く者もいるぐらいだった。これで、「自分は実は忍者だ」と言っても、冗談にしか聞こえないだろうな。

私ももっと近くで右京先輩の曲を聞きたい。まぁ今日は見知らぬ子に変装しているから右京先輩に気付かれることはないだろう。小腹も減ったし、お団子でも食べよう。

茶屋の若旦那に礼を言い頭を下げ、私はその団子屋へ足を踏み入れた。女は用事があるのか、「また今度ねぇ」と甘い声を残して、私と入れ違いで店を出て行った。


「おやっさん、餡子一本頂戴」
「あいよ」




「おいじじい、俺もみたらしも二本追加だ。こいつの分は俺がまとめて払う」




「!?」

「なんだ右京、知り合いか」
「可愛いだろう!初めて見せるな!一緒に旅してる俺の弟だ!」


仏頂面の団子屋のおやっさんは串をひっくり返しながら私から視線を上げ私の顔よりはるか上を見た。誰かにガシリと掴まれた頭部。人攫いかと一瞬背筋が凍ったが、その声は、どう聞いても、


「よぉ三郎、こんなところへ散歩か?」
「……」


やっぱり、右京先輩だった。

おやっさんから受け取った団子と茶を持って、先ほど右京先輩が座られていた場所へ二人で戻った店先にある椅子は日当たりもよくて気持ちがいい。そうか、店の中で弾いてたらお客さんでいっぱいになっちゃうから、店先にいるのか。

「右京先輩、」
「んー?」

「……なんで、私だって解ったんですか」

右京先輩は一口で団子を二つ食べ、茶を飲んだ。

そう、私が解せないのはこれだ。右京先輩はすぐに私の変装を見破る。私はこれでも鉢屋衆きっての変装名人だ。学園でも、先輩でも先生も、私の変装の右に出るものはいないと思っているぐらい自信はある。右京先輩も、私の腕には敵わないと先日おっしゃっておられた。それなのに、右京先輩はあっさり私の正体を見破った。何故。


「声だよ」


「え?声?」
「そう、声。俺が特別耳がいいからかもしれんが、お前の声は、いくら姿、形を変えていてもお前の声だ。三郎の声は覚えてる。素顔が解らずとも、お前の声ですぐに解るよ。その凛々しい声でお前のことなどすぐに見つけられるさ」

べべんとなった三味線の音は、店の中にも響いた。


「悔しいか?」
「はい…すごく…」

「だははは!精進しろよ三郎!俺にバレるようじゃまだまだだぞ!」


正直、悔しすぎる。何故こんなにもあっさり、私の変装がバレてしまうのか。
素顔を見られたくないのは、"鉢屋"という名前ばかりで、私自身を見ようとしない周りのヤツらから素顔を隠すためにしているだけ。"鉢屋三郎"ではなく、"鉢屋"しかみないヤツらのためにこの顔を隠し別の顔をつけている。別に、右京先輩は私自身の事を見てくれているから素顔を晒してもいいとは思ったこともあったけど、だけど、こうも簡単に私の正体を見破られるのは、誠に解せない。私の変装は完璧のはずだ。だけど、まさか、顔で判断されているのではなく、声で私を見つけているだなんて。そんなこと言われたの、始めてた。


「だがお前の腕前は本物だな!天才だぞ!そう気を落とすんじゃない!」
「まだまだですよ。見抜かれるようでは、私の腕なんて…」

「何を言うか!俺からしてみりゃその腕、羨ましい事此の上ねぇぞ!」

「いえ、本当に、私などまだまだです。今までそこそこ自信あったのに、右京先輩に、まさか声で見抜かれていただなんて……」


別に右京先輩を馬鹿にしているわけじゃない。むしろそういう見つけ方があったことに気が付かなかった私が馬鹿だった。そうだ、顔だけ変えたところで喋ればすぐにバレてしまうに決まっているじゃないか。変装の腕だけあげても駄目だ。次の課題が喉か。これは大変なことになりそうだなぁ…。


「自信を持てよ三郎。お前は本物の天才だって」
「いえ、まだまだですって……」

「んー………」


私がシュンと肩を落として団子を口に運ぶと、右京先輩は何を思ったのか、よし!と膝を叩いて立ち上がり、私を置いて店中に入って行ってしまった。

「おいじじい!笊貸せ!出来るだけデカいのがいい!」
「なんだクソ餓鬼、そんなもんテメェで持っていきやがれ」
「悪いな!」

右京先輩はさらに店の奥に入り団子を作っているおやっさんの後ろに行った。作業をしているその裏でなにかを探すようにごそごそと漁り、借りるぞ!とおやっさんの肩を叩いて戻ってこられた。手に持っているのは、大きい笊。

これで一体何をするのかと思っていたのだが、急に私の首根っこを掴んで右京先輩は私の身体を道に投げるように飛ばした。突然右京先輩に乱暴され何が起きているのかさっぱりわからなかったのだが、道の真ん中に立たされた私。其の横に、ぽいと投げられた、なかなかデカい笊。

後ろを振り向くと、右京先輩は私の後ろに立ち、とびきりの笑顔で


ベベン!と三味線を叩いた。







「東西東西!さァさ皆様お立合い!御用とお急ぎでない方はゆっくりと聞いて見ておいで!!!」






「右京先輩!?」

「笑いたい者は寄っといで!泣きたい者も聞いていけ!此れを見んぞと申すものなら今宵は飯が不味くなる!此れを聞かぬと申すものなら今宵は酒が不味くなる!」



右京先輩の三味線の音とその声に、町ゆく人々は足をとめてこちらを見た。



「拙者右京と申しますは御存じ無いとは申されまいまいつぶりの桜貝!さァてこちらこちらはお初の登場!此処に控まするは我が愛しい弟!日ノ本ぐるりと兄弟揃って旅を続ける我が愛しい相棒でござりますれば此の者、名を崇徳院三郎と申しまする!」
「!?」

「兄弟と申せど顔が似ておらん?他人の子供を連れ込んだ?嘘八百を並べる程この右京阿呆者では御座りますまい!此処に控えます三郎、此れ「唯の旅芸人」と言うが其方にもいる此方にもいると言う者とは出来が違う!崇徳院三郎と申します者、又の名を、『千の顔を持つ男』!其処行く旦那に化けましょう!其処行く母に化けましょう!其処行く嬢ちゃん寄っといで!爺さん婆さん揃いも揃って腰を抜かして驚くなかれ!さァさその技、しかとその目に焼き付けなされ!!」


何が何やら解らないまま右京先輩の口上はつらつらと流れ、とうとういくところまで喋られてしまった。しかしこうも人が集まってきてしまっては、私も腹をくくるしかない。右京先輩に恥をかかすわけにはいかない。それに、なんだか少し楽しそうだし、やってやろうという気持ちもふつふつと湧き上がってきた。

軽やかな音を奏で続ける三味線の音を背後に、私は懐から、しまっていた狐面を取り出した。



「さァさァ皆さんお立合い!此れよりお目にかかりますは千番に一番の兼ね合い!皆々様の顔に、この三郎、見事化けて見せましょうぞ!」


一音大きくなったその音を合図に、私は仮面を顔に付け





「篤とご覧あれ!」





目の前の、腕を組み興味本位でこちらへ来たであろう、刀をぶら下げた侍の顔に化けて見せた。





「わ!?私の顔ではないか…!」

「こいつぁ驚いた!」
「いやはや全く持ってお見事!」

「あらやだ可愛い弟さんねぇ!」
「右京の旦那の弟かい!」
「これはまた芸達者なやっちゃなぁ!」


「はははは!まだまだ驚くことなかれ!こんなのほんの序の口に過ぎますまい!!」


それからというもの、右京先輩の三味線は一向に鳴りやむことがなかった。そして音に合わせ舞い、私も客として寄ってきた人の顔に次々と顔を変えた。だが其れと同時に、嬉しいぐらい、拍手も止まなかった。

あぁなるほど、右京先輩は私が変装に関して自身が無くなったように見えたから、励ますようにこんなことをしたのか。首根っこを掴まれたときは一体何をする気なのかと思ったけれど、あの時の私はこれをやるとぞいっても、きっと嫌だと拒否していたであろう。右京先輩の強行手段、右京先輩なりの、荒々しい励まし方だったのか。そして"鉢屋"の名を隠し崇徳院を名乗ったのも、恐らく、右京先輩なりの私への気遣い。なんて、なんて優しい先輩なんだろう。

そして何故右京先輩が笊を持って来たのかはすぐに理解できた。其処へ投げ入れられたのは、金だった。完全に私を見世物として扱うつもりだったのか、右京先輩の思惑通りその笊の中はあっという間に金でいっぱいになっていった。……凄い、量だな…。



「それでは今宵皆様の上に満月が上りますように!此れにて幕とさせていただきまする!東西東西〜!!」


ベベンッ!と大きく弦を弾かれ、右京先輩と私は、深々とお辞儀をした。その場にいた人たちの拍手は大きくなっていき、しばらくし、次第にそれはぱらぱらと散って行った。


「だーっはっはっはっ!!やりゃぁ出来るじゃねぇか三郎!!お前のおかげで大儲けだぞ!」
「右京せん……あ、右京兄上!酷いです!私を見世物扱いにするなんて!!」
「馬鹿野郎これでお前の腕前が本物だって解っただろう!自身なんかなくすもんじゃねぇ!胸張って生きろ!」

右京先輩は三味線を背に回し、金の入った笊を持ち上げた。おっと、と右京先輩がバランスを崩す。そんなに重いのか…。
懐から風呂敷をだし、その上に三分の一ほどの金をうつしてしばり、右京先輩はそれを笊に入れて団子屋のおやっさんに着き返していた。

「いらねぇ気遣いすんじゃねぇよクソ餓鬼」
「うるせぇクソじじい。ほんの礼だこれぐらい黙って受け取っとけ」

なるほど。見世物をやる場所を貸してもらった礼金か。此方へ戻り残った半分を風呂敷につつみ、それは無理やり私の懐にしまいこんだ。受け取れないといっても右京先輩は全く聞く耳持たず、残りの半分を自分の懐にしまった。


「来い三郎、買い物だ付き合え」
「え!あ、は、はい!」

ごちそうさまでしたと店に頭を下げ、私はスタスタと歩く右京先輩の背を追いかけた。其処行く人達が右京先輩に声をかけ店に誘うが、右京先輩の行き先は決まっているようで、手を振りやんわりその誘いを断って行った。

たどり着いた先は賑やかな町から少し離れた裏通り。小さく店がぽつりぽつりと並んでいるようなところだった。


「よう婆さん、元気そうで安心した。久しぶりだな、お迎えはまだか?」
「あぁ右京、生憎この通りまだまだ元気さね」

たどり着いた先は、いろいろな面が並んだ小さい店だった。店番をするお婆さんの手は塗料で染まっていて、其処に並んだ面は全てお婆さんの手作りなのだということがすぐに解った。和紙の匂い、塗料の匂い、うん、いいお店だ。ぐるりと店の中を見回すと店のお婆さんと目があい、にっこり微笑まれたので小さく頭を下げた。弟かい、なんて聞かれる声にまぁなと返事をしながら、右京先輩は店の中の面を手に取ってみていた。


「おっ、こいつがいい。婆さんこれ貰うぞ」
「おやお金がとても多いねぇ」
「今ちょいと儲けたんだ。せいぜいそれで余生楽しめよ」


あばよと暖簾をくぐって外に出てくると、右京先輩は

「三郎、お前の狐の面を出せ」

と、私にむかって手を突き出した。一体何をするんだろうとは思いながらも、懐から右京先輩の手にいつも使っている狐の面を乗せた。すると右京先輩はそれを受け取り、

「今日からお前はこれを使え」

と、ポンと私の顔に別の面をつけた。


「…?………はっ!?」
「この狐の面は俺が預かる」


その面は、不細工なひょっとこの面だった。


「なっ、右京先輩!?」


「三郎、一丁勝負をしようではないか」

「……勝負…?」




「俺は明日の日の出から十日間、お前の姿を探し続ける。お前は、学園内で俺から姿を隠し続けろ。変装する時に面をするのは、その面を使え。他の面を買うことも、他の面を使うことも許さない。俺はお前の姿を見つけたら、肩を叩き、お前の名を呼ぶ。当たっていたら、その日はお前の負けだ。十日間、俺から姿を隠してみせろ」




「…………」

「一日でも見つからない日があれば、お前の勝ちだ」


なんて、無茶苦茶な事を言うお人だ。今度は、右京先輩から、隠れて見せろだって?

ひょっとこの面なんて、格好悪い。右京先輩は使えるわけないと解っていて、これを選んだな…。


「……もし、」
「ん?」

「もし私が、一日でも見つからなかったら、その時は何をしてくれるんですか?」

「…この面を返し、一つだけお前の願いを聞いてやろう」


「では、私が負けたら」

「俺が買ったその面を返してもらいそして、……友を作れ」


「!」


右京先輩からは、予想外の言葉が出てきた。


「友を作れ三郎。お前、教室で友がいないだろう。悪いな、虎に委員会以外のお前の動きを探ってもらった。食堂も風呂も、部屋でも教室でも、お前は一人だそうじゃないか。何かあれば俺の処へ来る。いや、それが邪魔なわけじゃない。むしろ嬉しいが、私と虎以外に心を許せる友を作れ。俺が勝ったら、これを守ってもらうぞ」



…友なんていらない。私を見てくれない友なんて、そんな薄っぺらい関係、いらない。



「………解りました。勝負しましょう」

「良く言った!それでこそ俺の後輩だ!」



この勝負、負けない。





「絶対に、貴方から隠れてみせます!」

「おう、せいぜい頑張れよ!」





とりあえず虎と勘右衛門に団子買うかと、右京先輩は、私の面を懐にしまって歩き出した。


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