奇天烈物怪物語…の場合
「作兵衛ただいまー」
「名前さん!おかえr………っっ!?!??!」
「おいおい警戒しなくて大丈夫だから落ち着け落ち着け」
南瓜のランタンを持って部屋に戻ると、黒い猫は警戒するかのようにフーッ!!と息を荒げた。まぁ長いこと生きてきても、人に飼われなければこういうイベントごとは解らないだろう。ちょっとお勉強もかね本日のイベントを楽しもうかと、帰り道の商店街で土産に既に加工済みのかぼちゃのランタンとお菓子を大量に買い込んだ。
だけど作兵衛には逆効果だったようで、不気味な南瓜に驚いては後ろに飛び跳ねるように逃げて行ってしまった。
「さ、作兵衛、幽霊とかじゃないから、落ち着け」
「だ、だってそんな気味悪ィもん…!」
「おいでおいで、ただのかぼちゃだから」
「……南瓜?」
ソファの影に隠れるようにして尻尾をしびびと立たせていたのだが、ぶらぶらとランタンを動かすとほのかに香る甘い香り。気味の悪い笑みをしたそれがやっとかぼちゃだと理解してくれたようで、さくべえは恐る恐る出てきた。可愛い。死ぬ。
化け猫とは言えどやはり猫。長い間生きているとはいえ中身は子供。甘い香りには勝てないようで、かぼちゃに興味を示し終わった後は、もう片方の手のビニール袋の中身を気にしていた。
「こっちは全部お菓子だよー」
「お菓子…!」
「作兵衛、トリックオアトリートって言ったら、これ全部作兵衛にあげる」
「鳥っ苦?」
「トリックオアトリート。"お菓子くれなきゃイタズラするぞ!"って意味」
「とりっくおあとりーと……?名前さん、今日は何の日なんですか?お菓子の日ですか?」
「いやぁ、ハロウィンと言ってね」
ソファに腰を沈めると作兵衛もその横に座った。かぼちゃのランタンがお化けではないことが解った今もう怖くはないみたいで、ぐるぐるとそれを回しながらそれを見つめた。
ハロウィンを1から説明すると誠に面倒なので、「お化けに仮装すればお菓子を貰える日」とざっくり説明すると、それだけで何となく理解はしてくれたようで、なるほど、と作兵衛は小さくつぶやいた。
「お菓子持ってなかったらイタズラされちゃうんだけどね」
「へぇー。でも、じゃぁ、俺の得意分野じゃないですか」
「あはははは!本物の化け猫だもんね!確かに作兵衛の得意分野だわ!」
「じゃぁ、……名前さん!とりっくおあとりーと!」
「よーし良い子だー!全部くれてやるー!」
お菓子の入ったビニール袋をつきだすと、作兵衛は嬉しそうにそれを受け取った。
夕飯前だけど、まぁ別にお菓子ぐらい食わせてもいいか。中には小さいマタタビも入っているしで、作兵衛は中々上機嫌だった。
テレビを見ながらまったり。作兵衛にお菓子を全部あげたが、あげます、これもあげます、と私の口元に運んでは食わせてくるのでなんか三分の一ぐらい私も食べてしまっているような気がする。くそう、これは作兵衛のために買ったのに。
気が付くともうお菓子は終わっており、私たちの腹はそこそこ膨れていた。もう夕飯いらないかなとか思うぐらいには。
だけど私は、この時を待っていたのでございます。
「作兵衛、」
「はい?」
「トリックオアトリート」
「……はい?」
多分今私、とんでもなくゲス顔してるはず。
「お菓子をくれないと、イタズラするよ」
「………」
作兵衛は、からっぽになってしまったお菓子の入っていた袋を見つめ、
顔を真っ赤にして、
「やられた」と呟いたのだった。
とりっくおあとりーと!
「お菓子がないならイタズラかなー?」
「ひ、卑怯ですよ!!」
「何を言うか、そのために多めに買ってきておいたのにむしゃむしゃと作兵衛が」
「名前さんも食べてたじゃないですかー!」
「作兵衛が食べさせたんじゃないですかー!」
「ち、ちくしょー!!」