帰りたくなければ…の場合

「名前さん!ただいま帰りました!」
「おかえりきり丸ー!おっ、いいねぇ大量だねぇ!」

「はい!学校でいっぱい貰ってきました!」


作業部屋から顔を出し廊下へ出ると、手提げを一杯にして楽しそうに笑うきり丸がいた。ほら!と開いて見せる中身はお菓子、お菓子、お菓子。そう、全てお菓子である。

年に一度のお菓子大収穫祭はバレンタインよりももらえる確率が高いとあって世の男の子たちは張り切っていたずらを仕掛ける用のグッズと手提げを持って学校へ向かったのだ。きり丸が昨夜お手製ジェイソンのお面を作っていたのを、私と長次はほっこりしながら眺めていた。うちの子可愛い。世界一。


「……おかえり…」
「ただいま帰りました!」


手提げは私が受け取り、早く上がってきていた長次の腰に、きり丸は飛びつくように抱き着いた。

長次はというと、私の代わりにケーキを焼いてくれているのだ。さっき仕事を終えてメールをうっていたところだが、今から作ったんじゃ間に合わない。長次に頼んでおいてよかった。っていうか長次と結婚しておいてよかった。旦那がケーキ焼けるとか最高すぎ。もこみちさんの次ぐらいに素敵。

部屋はタバコ臭くて解らなかったが、廊下に出た途端にふわりと広がる甘い香りに、私ときり丸の口内は涎で満ちた。長次の料理レベルは一体どうなっているんだ。キッチンは私がご飯を作るときよりも片付いたまま料理をされていて、使用しなくなったものは全て食洗機の中。くっそ、長次さん嫉妬するレベルに料理レベルMAXですね。羨ましい。


一般人からすればすげぇ不機嫌そうな顔でも、長次のあの顔は相当機嫌がいい証拠だ。おそらくケーキの出来が良いのだろう。わくわくが止まらないぜ。


「今日は何もらったん?」
「えっと乱太郎からカップケーキと、しんべヱからチョコとー、」


テーブルの上に次々と並べられるお菓子の量に、正直ギョッとした。こんなに大量のお菓子の交換が行われていただなんて。私が小学生の時なんか学校にお菓子持ち込んだだけで怒られたというのに。土井先生たちの心が広いのか学園長先生の御心が広いのか。


「学園長先生が突然の思い付きでお菓子交換しよう!ってなったんで、だから俺昨日お菓子買いに出かけたんですよ!」
「学園長先生おちゃめすぎだろ!」


やっぱり、あの学園長先生の仕業か。!


「……っていうか、え?きり丸お菓子買いに行ったの?まさか実費?」
「…あ、」

「はぁ…だから言ったじゃない。そういうのは私たちがお金出してあげるから遠慮しないで言いなって…」
「……で、でも、名前さん、」

「でもじゃないでしょう。貴重なお小遣い崩してまでそんなことしなくても、お金ならハロウィンとかいう日本人に全く関係ないイベントやれるレベルには余裕あるんだから。遠慮しないでねだりなよ」
「……だけど、」



「きり丸、私たちもう家族よ?今からそんな遠慮してどうすんの?きり丸の我儘ぐらい全部叶えてあげられるような関係なんだよ?お菓子の十個や二十個買ってあげるわよぉー」



ソファに腰掛け煙草をふかしながら「買ってあげるわよ」なんて、何処の悪役女優だよ、なんて自分自身にツッコミをいれてみる。

だけどきり丸もきり丸だ。施設にいたときの癖でお金を貯めちゃうのはいいとして、其れを崩すぐらいなら私たちに相談してくれればいいのに。長次と結婚してきり丸が子供になってくれて、家族という形にはなったけど、まだまだきり丸は私たちに遠慮している部分がある。それが、まさに金銭面の問題。

買ってとか、そういうおねだりを一切しないきり丸は、欲しいものはお小遣いを貯めて買うと言って聞かない。だったらお小遣いの値段上げてやろうとしてもきり丸は受け取ってくれない。んんんんもどかしい。


「でも、これは俺の勝手な出費ですから!名前さんに負担に」
「負担だなんてとんでもない!だって欲しい物あったんでしょ?なんだか解んないけどまだ目標金額に到達してなかったのに崩す必要なかったじゃん。相談位してよぉ」
「……」

「もう此処は施設じゃないし、遠慮いらないからさ。うちの生活苦しいわけじゃないんだから欲しいものは欲しいってねだっていいんだからね?」


ね?といいながらきり丸の横に座ってうつむくきり丸の頭をがしがしと撫でると、小さい声で「…はい」とつぶやいた。あぁ、あぁ、泣くなよー。これから長次の美味しいケーキが待ってるんだからね。




「…焼けた……」




振り向くとどデカいケーキを両手で抱えたファンシーなエプロンを装備済みの長次が立ち尽くしていた。待ってました!!




「さぁ行けきり丸!遠慮すんな!長次からあれを奪うのだ!」

「はい!!」

「…もそ…」





















トリックオアトリート!



「ところで名前さん、」
「ん?」

「俺、長次さんからはケーキ貰いましたけど、名前さんからは何も貰ってません」
「…!?!?!??」

「トリックオアトリート」
「はわわわ…!」

「イタズラとして煙草没収しますね」
「アァッー!!」



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