スケルツォも笑った…の場合
ピンポン、と小さくインターホンが部屋の中に響く。待ってましたと私はエプロンで手を拭きながら玄関へ向かった。
準備は万端だ。さぁどこからでもかかって来い!
「はーい、どちら様ー?」
「お化けでーす!」
「…っ!!」
この時点で私のライフは100あるうちの99は消された。今の返事はズルすぎる。死ぬしかないじゃないか。
あまりの可愛い返事にバン!と壁を叩いてしまうが、隣の部屋からの苦情は聞かない。そう、今はそれどころじゃないのだから!!
ガチャリとドアのカギを外し、扉を開け、其処に待っていたのは、
「「「「「トリックオアトリー!!」」」」」
「ああああああああああああああああああああ!!!!」
色々な仮装に身を包んだ、金吾と、金吾のクラスメイトの皆々様。くっそおおおなんだこの可愛さ信じられないいいいいい!!!
「お菓子くださーい!!」
「やだもう…!本当に可愛い……!死んじゃう…!」
扉の向こうはまさに私のラフテル。死ぬほど可愛い子たちが足に群がってきて、呼吸が乱れないわけがない。
土井教授から、もしかしたら初等部の生徒があっちこっちへお菓子をねだりに来るかもしれないと仰っておられた。そうなったら大目にみてやってくれと困ったように顔をぽりぽりとかかれたのだが、私とあの野郎どもはそれを完全に想定していた。
情報はまず三郎から。庄ちゃんがマントなどを持っていませんかと三郎を尋ねたらしい。何に使うのかと聞いても答えは帰って来ず。だが残念ながらそんなものを持っているわけもなかった。でも可愛い後輩が欲しいと言っているのだ。三郎が用意しないわけがない。もう着なくなった服をざっと切り、軽く形を整え、これでどう?とそれをあげると、庄ちゃんは嬉しそうに羽織って帰ったのだという。
次いで情報は兵助から。近くを通りかかった乱太郎くんが、包帯がたくさんほしいのだと言っていたという。近くにいた善法寺先輩に相談すると、何かピンときたものがあったのか、快く新品の包帯を沢山わけてくれたらしい。
そして雷蔵から。きり丸くんに魔女の本とかありませんでしたっけ?と聞かれ、幻想本コーナーへ。いつもならファンタジーものなんて読まないのに変なの、と思っていたらしい。
今度はハチから。三治郎くんが真っ白い大きな布を兵太夫くんと一緒にかぶってお化けのように飛び跳ねているところを目撃したという。
最後は勘ちゃんから。しんべヱくんに遭遇したので飴ちゃんを差し出すと、「10月31日にいーっぱい食べれるので今は我慢してるんです!」と、ネタバレにもほど近い発言をしてしまって、逃げられたという。
一連のこの子たちの行動にしんべヱくんの発言をプラスし考えると、10月31日、つまり今日。ハロウィンに、あの子たちにお菓子をたかられる。この答えを導き出すことは容易かった。
そして後日、金吾から届いた「10月31日をあけておいてください!」という信じられないぐらい可愛いメール。このメールで私の財布のひもは、一気に緩んだ。
「来たなクソ可愛い良い子たち!!さぁはいりたまえ!!お菓子ならすでに用意してある!!」
「わーい!」
「やったぁ!」
「いい匂ーい!」
ドアを全開にして良い子たちを招き入れると玄関は小さい靴でいっぱいになってしまった。軽く方向を整えているうちに、リビングの方がわっ!と騒がしくなる。
ははははそりゃそうだ。みなさいこの私の最高傑作を。テーブルの上に置かれた色とりどりの市販のお菓子にくわえ、パンプキンケーキにパンプキンクッキー。シュークリームからかぼちゃのジュース。全て私の手作りだ。吸血鬼の子のためにトマトジュースまで用意した私の用意の良さよ…!やっぱり金吾は吸血鬼だったか!だろうな!そんな金吾のためを思えばこれぐらい痛い出費ではない!!さぁ思う存分食べていけ!!
「お残しは許しまへんでーーーーッッッ!!」
「「「いただきまーす!!」」」
市販のお菓子はラッピングして包んであるがケーキその他もろもろはテーブルの上でバイキング形式だ。好きなだけ食べるといい。冷蔵庫の中にある大きいケーキは雑渡さんたち用。明日になっちゃうけど来たら差し入れさせていただこう。甘いの好きだといいけどなぁ。
「名前先輩美味しいです!!」
「金吾ほっぺにクリームついてるよぺろぺろ!!」
「うわっ、恥ずかしいところを、す、すみませんっ」
「何を言うか!!可愛さに磨きがかかってるよ金吾!!」
そうか、金吾は吸血鬼か。うん、可愛いな。さすが俺の嫁だ。死ねる。
私も少し小腹がすき、わちゃわちゃとしている良い子たちから少し離れたところに立ったまま背を壁に預けシュークリームを口にした。うむ、我ながら美味しい。これは完璧だ。ハチったちにもおすそ分けしてやろう。まだ材料は残ってたはず。
「名前、先輩!」
「おうなんだ金吾!」
「ちょっと、しゃがんでください!」
「?」
食べかけのシュークリームを片手に、疑問符を浮かべしゃがむと、
金吾は、私の頬についたクリームを、食べた。
「い、イタズラ完了です!」
「お、お前はよぉ……!!お前はよぉ………!!!!」
「はにゃぁ、金吾、名前先輩泣かせたぁー!」
「金吾いけないんだー!」
「七松先輩に言っちゃおー!」
「えっ!名前先輩!?」
「可愛いすぎんだよこんちくしょーーーーーーー!!!!」
お菓子をあげたのにイタズラされるとか金吾まじ金吾…!どうなってんのこいつの可愛さ……!!
「みんなせっかく仮装してんだからさー、記念に一枚写真撮ってあげようかー!」
「「「やったー!」」」
食満先輩に送っちゃおー。羨ましがらせちゃおー。
「名前先輩も一緒がいいです!」
「本当?じゃぁセルフタイマーしようか」
金吾にそう言われ良い子たちに手招きされ、テレビの上にケータイを置いてストラップで絶妙な加減にバランスを取り、ピントをあわせて、私は小走りでクリームなどで顔を汚すみんなの後ろに立って、
そして、金吾を抱っこした。
「はい、笑ってー!」
「「「いぇーい!!!」」」
トリックオアトリー!
「名前先輩、ケータイずっと鳴ってますけど」
「いいのいいの。ただの変態からだから」
「?」