五章:対ドラゴン

出番だと土井先生が外からカーテンを開いた。開かれた向こうは全校生徒にプラスし魔法界のいろいろな著名人が集まっているようだった。見たことのある芸能人?みたいな人もいれば、恐らく正面あたりに座るのは与四郎のチームメイトだ。魔法省からもお偉いさんが来ているのが画面に映し出されていてわかる。一つとなった雷蔵コールと千鶴コールは大きく大きく響き渡り、あたりにある山や谷に響いて、さらに大きな声となっていった。

「すごぉい、本当に殺し合いするみたぁい」
「冗談キツいですよ」


余裕をぶちかましながら階段を降りていくと、下は岩場で歩くのすら困難なほどにゴツゴツしているところだった。岩場のど真ん中に、金の卵。奪うべきはあれか。

一番下まで降りると、正面の折が上に開き、中からドラゴンの唸り声であろう低く大きい声が聞こえて来た。雷蔵の手が、緊張に震える。



「ここで、緊張している雷蔵くんに問題です」
「は、はい」

「今から私たちが対決する種類、バイパーツース種の大好物は、我々人間であります」
「!」


「魔法省はこれを危険視し、国際魔法使い連盟が数を減らすため日々奮起しております。これは一体、どういう意味でしょう?」


ゴクリと唾が呑み込まれる音がし、雷蔵はゆっくり口を開き、












「手加減はしなくていい、ということですね」












「大正解、さすが私の可愛い後輩だ!」



先生が手を上げたのを合図に、私は杖を回し、檻の鍵を開けた。それを見て、雷蔵もポケットから杖を取り出し、構えた。

がじゃりと重い音が鳴り、視線を向ける。檻の向こうから出てきたのはドラゴンにしては小柄だが、私たちから見れば十分すぎるほどの大きさをしていた。見上げた体は胴のように赤黒い色で、目は鋭い紫色。尾は尖り、角は少し短く、牙からじゅわりと、毒が垂れ落ちた。


嗚呼、なんて、なんて美しい生き物なんだろう。



「…綺麗…!!なんて美しい…!!」
「ちょ、先輩!?」

「うおおおおおなんて綺麗なんだお前はぁぁあああ!!!」

「千鶴先輩ぃいいいい!?!?!?」


こんな間近くドラゴンという存在を見たことがない。この間は森の中で、こんなに近くまで接近できなかった。私は一瞬にして今が競技中なのだということを忘れ、杖を持ったままドラゴンの近くまで駆け寄ってしまった。ドラゴンもそれに一瞬気を緩めたからか、私がダッシュでドラゴンの元まで近寄ると、さすがのドラゴンも「なんだこいつ!」という目で私を見下ろした。あぁその見下す目すら美しい!こんなに美しい生き物がこの世界にいただなんて信じられない!なんでもっと早く逢いにいかなかったんだろう!!


「お前がバイパーツースか!なんて美しい生き物なの!これからお前と戦えるなんて信じられない…!光栄だよ!本当に!」


ドラゴンはたじろぎながらも、私を見下ろしたままだ。私はその隙に、手を後ろに動かしひらひらと雷蔵を動かす指示を出した。雷蔵の気配は徐々に後ろへ下がっていく。回り込んで卵を上手いこと奪えよ雷蔵…。直接ぶつかったら勝てない可能性もあるんだかね…。


「傷が多いね、魔法使いに狙われた傷跡なのね?私が今薬を持っていたら塗って治してあげたのに…!でも首の傷なんて私とお揃いね!ほら!昔薬品間違えて調合して爆発した時に出来た傷なの!火傷のあと残っちゃってさぁ、」

ドラゴンの言葉はまだ習得してない。人間の言葉が今目の前のドラゴンに通じているとは思えない。恐らく今のこの状況はドラゴンを勢いで押しているだけだ。べらべらと解らん言葉を話す人間に、ドラゴンは困惑しているだけ。だけどこれはこれ。一歩でも引けばこのままバクンと食われること間違いなし。でもなんだかキョロキョロとしている目が可愛くて、私はそのまま喋り続けた。


「ほらね?」


首元にある大きい傷を見て、私は自分の首にある傷とそっくりだと思った。私はシュルリと制服のネクタイを外しそれを投げ捨てワイシャツのボタンをはずして、首元から胸元にかけてうっすらと痕が残った火傷の跡をドラゴンに見せつけた。

ドラゴンはそれに反応したのか、私の傷口をじっと見つめるように目玉を動かした。そして首を低く低く構えて、信じられないことに、私の火傷の痕の臭いを嗅ぐようにふんふんと鼻を動かした。私にも、それは全く信じられない行動で、ドラゴンが人に懐いたというのか。

……そうか、国際魔法使い連盟の始末屋に襲われすぎて、人間というものには慣れているのか。警戒しているとはいえ、一向に攻撃心を見せない私にちょっとでも興味を持ってくれたのだろうか。あら、なんてかわいらしい子なんでしょう。


「〜〜〜〜〜っ!!やめてやめて!!くすぐったいじゃん!!」


一人で喋って一人で笑って、回り方みたらバカみたいだろうなぁ。でもなんか今私楽しいよ。ドラゴンとこんなにきゃっきゃうふふ出来るなんて思ってもいなかったし。いや、なんというか、観客席が戦いを見ている目じゃなくてほんわか和んでいる目で私を見下ろしているのが良く解る。身体を横にズラすもドラゴンは傷に興味を持ってしまったのかぐるぐると私の傷を追っかけて顔を近づかせてくる。私生物委員会に入るべきだったかな。

くすぐるように鼻を動かしてくるもんだから思わず私はぐいぐいとドラゴンの顔を押し返してしまった。…よく考えたら敵とこんなに仲良くなるのはおかしい、というより、ドラゴンと仲良くなってる私恐ろしい。きゃっ☆千鶴ちゃんまじ天才っ子☆

よーしよしとハチみたいにドラゴンの鼻のあたりを撫でてやると、ドラゴンの後ろから






「千鶴先輩!!」






雷蔵が、卵を掲げて姿を現した。ドラゴンは急に響いた雷蔵の声に驚き後ろを振り向いたのだが、卵をとられたことに激怒したらしくギャァァアと高い叫び声をあげ雷蔵に向かって火を噴いた。あ、やべ、怒らせた。あーやべー。綾部ー。

んな事言ってるばやいじゃねぇぇええ!!


「雷蔵左に飛べ!!」
「は、はい!」


卵を抱えドラゴンに背を向け出口へ走り出した雷蔵だったが、吐かれた炎。そのまま直進では間違いなく丸焦げになる。私は大声で後ろを振り返れぬ雷蔵に支持をとばすと、持ち前の反射神経と運動神経で飛び出ていた大きい岩を右足で蹴り角度で言えば九十度ギュンッと走る方向を方向転換した。横へ飛び、さらに私の声で横へ逃げ、……まぁ結局私の元へ帰ってきてしまったわけでありますけれど。

さっきまでのほのぼのした空気から一変。一気に戦闘モードへ入った会場は、どよめきと歓声とで中途半端な温度になっていた。私の声に従い一切ドラゴンを見ずに逃げる雷蔵に危ない!と言う観客の声。いやはや、よくあの指示で無事だったもんだ。

「おかえり雷蔵、よくやった」
「し、死ぬかと思いましたよ…!」

「だけど卵は死守した。偉い偉い」
「あなたのためですから、僕だってこれぐらいやります!」

「よく言った!さぁ始めようか!」


ドラゴンがいるのは東出口の前に居座っている。グルルと低くうめきながら体勢をかまえて目は私たちを殺さんとしている目だ。仲良くなったのが間違いだったかな。戦いヅラいや。


「Bombarda!」


私の杖の先から光線が出て、それは一直線にドラゴンを繋ぐ鎖へと伸びた。バギッ!と大きな音がすると、ドラゴンを解放したということを知った観客席が悲鳴に包まれたが、教師陣、ゲスト陣、上級生は、これを待っていたと身を乗り出して闘技場を見下ろした。


「さぁこいドラゴン!正々堂々と勝負しようじゃないか!」


ドラゴンは大きく空へと叫ぶと、大きく息を吸い私たちに向かって炎を吐きだした。まずは私は左手に、雷蔵は右手に逃げる。狙いはもちろん雷蔵だ。私じゃなく、雷蔵が卵を持っているのだから。吐き続ける炎を、雷蔵は大きな岩場に身を隠しじっと耐えた。


「Accio!」


空に向かって箒を振るう。頼む、早く来てくれ。


「!来た!雷蔵今行くよォオオ!!」
「は、はいいい!!」

岩場をかけ抜け一気にドラゴンの背を駆け上がった。私が背中に乗っていると解ったドラゴンは首をそらすように上に向けた。なんて都合のいい!やっぱりドラゴンは最高の生き物だ!!
首の反りを利用し空へジャンプするように、私は飛び上がった。其処へ、開いた私の足の間に飛んでくる愛用の箒!まってたよ私の可愛い7号ちゃん!!!

何処からともなく飛んできた箒に飛び乗る私に観客席は湧き上がる。だけど今はそれどころじゃない。まず雷蔵を救出せねば。私に蹴り飛ばされたドラゴンはそのまま上を向き、標的を私に変えた。


「雷蔵今だ!」

「Accio!!」


ドラゴンから視線が外れた今がチャンス。雷蔵は卵を抱えたまま、私と同じように杖を空に向かって振り上げた。


「手を出せ!」
「はい!」


一気に急降下し、岩場の後ろに隠れていた雷蔵を右腕で掴み引き上げた。一時私の箒の後ろに座らせておき、ドラゴンの炎から雷蔵を守った。…だけど、それも今で終わりだ。


「雷蔵飛べ!」
「はい!」


私の箒に立ち上がり、雷蔵は空中へ飛び上がった。雷蔵の足の間に丁度いいタイミングで入り込む箒。私と雷蔵は身を空中に上げ、戦闘態勢を整えた。雷蔵と私が無事に箒に乗り、縦横無尽に飛び回ると、観客席は大いに盛り上がった。本番はこれからこれから。



「千鶴先輩!いきますよ!」

「はいよ!!」



雷蔵は大きく振りかぶって、卵を私に向かって投げた。

私はそれを片手で受け止め、方向転換しながら、空を舞い、



「雷蔵!」

「はい!」



また再び雷蔵へパスした。



「先輩!」

「あいよ!」



キャッチしてすぐパス。キャッチしたらすぐにパス。ドラゴンは、恐らく空を飛んで私たちを捕らえようとしていたのか、序盤は羽を羽ばたかせていたのだが、卵があまりにもあっちこっちに飛んだり、私たちがあまりにも早く移動するため、もはやどこを見ていいのか解らない、といったような状態になった。

そう、私たちの作戦は「クィディッチ大作戦」だ。私たちろ組寮のクィディッチチームが優勝をもぎとるまでどれほどまでに練習を積んできたか、これは本当に、先生方にもほかの寮の人間にも解るまい。毎日小平太の鬼のような特訓に重ね、個人練習から私のトレーナーの指示のもとの自主トレ、さらに私たちは先輩方が熱血系が多かったことから、下級生の頃から特訓に特訓を重ねてきた。

そう、それは私も、雷蔵もおなじこと。

パス練なんてやらない日はない。ろ組のクィディッチは「魅せる技」にある。ただボールを投げるだけじゃない。トス、レシーブ、アタックからなる小平太の技や、手を使わずに足で掴んで入れるような技まで、私たちのシュートパフォーマンスやパスパフォーマンスは多種多様だ。これを使えば、敵チームの視点は、必ず定まらなくなる。


人に見抜けないのだ。ドラゴンごときに、見抜けるはずがない。


相手がこうなったら私たちの風だ。私は鉄棒にぶら下がるように箒に足をかけ卵をうけとったり、雷蔵はブタの丸焼きのように箒に逆さになってパスをしたり。もはやここまでくると雑技団の見世物のようだ。体制をかえ、ふざけた状態でパスをする。標的はいちいち動くし、奪還すべきものはあっちこっちへ飛び回る。ドラゴンはなすすべなく、適当な方向へ炎を吐き散らしていた。観客席には保護呪文が」かかっておらず、上級生が下級生たちを守りながら闘技場を見つめていた。歓声は大きくなるばかり。


さぁ、そろそろフィナーレだ。




「雷蔵!レシーブ!」


「千鶴先輩!トス!」




高く高く上げられた卵。私の手からも、雷蔵の手からも離れ、空高くへレシーブされた卵は、くるりくるりと、空を回転した。


ドラゴンはそれを見て、翼を羽ばたかせ、空へ一直線に飛び上がってきた。




「トスをされたら!!」




私は上昇する箒の上に立ち、箒から飛んで、空中へ身を投げ、













「アタックあるのみーーーーっっ!!!!」













クィディッチの試合の時に小平太がするいけどんシュート、もとい、小平太直伝のいけどんアタックは、いい具合に手に当たりそれはまっすぐ、勢いよく飛んで行った。

そして私がアタックした卵は、それはもう勢いよく、ドラゴンの顎へと当たったのだった。

ドラゴンは目を白黒させながら羽の動きを一瞬にして止め、真っ逆さまに闘技場の岩場へと落ちて行った。顎を叩けば脳も揺れる。これ生物の常識な。
恐らく今、脳がぐらぐら揺れていることによって意識ははっきりしていないだろう。

はじかれた卵をキャッチした私が、真っ逆さまに落ちているというのに無反応だなんて。



「あ、やべ、死ぬ」

「何やってんですか千鶴先輩!!!!!!!」



むくりと起き上がったドラゴンは、大きく息を吸い、ギャアアアア!!と叫ぶと同時に、落下する私に向かって炎を吐き出した。あ、これ丸焦げフラグ。グッバイ今生…。





「ぐぇっ!?!?!?雷蔵!??!」

「お叱りは後でたっぷり受けます!!!」

「ギャァァアアアアアアア!?!??!?!」





真っ逆さまに落ちる私の足を掴んで、雷蔵は一気に出口へと急降下した。目の前に迫りくる炎。掴まれた足。どうやら私は雷蔵に足を持たれて空を飛んでいるみたいだ。よくキャッチしたなお前すげぇえええ!!!




「千鶴先輩!!受け身は取れますね!?」

「は!?」

「お先にどうぞ!!!」

「うわぁぁあああああ投げないでぇえええええええええええ!!!」




ブンッ!!と大きく身体を振られ、私の身体は出口のゲートに一直線に飛んで行った。咄嗟に受け身なんて取れるわけもなく、残念なレベルに背中から身体を強打する形で出口に飛び込んでしまった。卵を抱えた私が出口に飛び込んだことにより、私たちろ組寮チークは合格が確定した。客席も盛り上がっている。それなのに、なぜか雷蔵が戻ってこない。もしかして何かあったのかと闘技場を見たいのに、強く打ったからか、体が上手く動かない。激痛が走る。ゲホッとむせている間に雷蔵も飛び込んでくるのかと思ったのだが、まだ来ない。何でだ。

私が飛び込んで30秒後ぐらいに、客席はまた再び、大きく盛り上がった。




「先輩僕も其処行きますから避けてくだsあqwせdfrtgふじこlp;@!!!!!!」

「……っ!!ら、いぞ!!」



背中を強打してすぐに動けるわけもなく、寝そべったまま出口の向こうへ必死に視線を動かした。雷蔵は箒にまたがったまま出口に飛びいるような体勢で飛び込んできた。上手いこと私の横に着地した雷蔵は右半身を強く打ちつけるようにして、私の横へと転がった。








『 これにて!全チームの課題を終了とする!全チーム!無事、クリアじゃ!! 』







学園長先生のアナウンスにより、客席は歓声に包まれた。あぁ、よかった。終わった。なんとか、命、残ってた…。








「…らいぞ、お前、なにしてたん……」

「っ、……千鶴、先輩…こ、これ、」










ゆっくり、むくりと起き上がった雷蔵の手には、














「お忘れ物ですよ…!」












私が投げ捨てたはずのネクタイが、握られていた。









「〜〜〜〜〜〜っ!!ほんっっっっとうに可愛いヤツめ!!」

「千鶴先輩!」

「おう!」

「やりましたね!!」

「おう!!」



「「いよっしゃぁああああ!!!」」









足元の檻は勢いよく閉まり、保護呪文によって、炎は中に入ってくることはなかった。


動けぬ私に覆いかぶさるように、雷蔵はとびっきりの笑顔で、私に抱き着いた。





















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調子に乗って描いた落書きだよ!

興味ない人は此処出戻ってね!



































「先輩いきますよ!」

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