二章:代表選手決定

大川から、兵庫第三から、風魔から、続々と代表者に名乗り上げるものが紙に名前を書いて、大広間にある炎のゴブレットに羊皮紙を入れて行った。ボボボと青い光が舞うように燃え上がり紙を呑み込んでいった。年齢宣言はない。出たい者が出ればいいのだ。私はもちろん、ろ組からは小平太も名乗り上げた。長次は興味がないのか、大広間に来てまで本を読んでいた。あぁ、長次はこういうイベントとか興味ないもんねぇ。
離れた場所で本を読みながら、長次は誰かが名前を入れるたびに視線を移すだけだった。小平太?小平太なら今クィディッチの競技場にいるよー。自主練だってさ。


「年齢線でもかかってれば、私の老け薬の実験が出来たんですけどね」
「やめときな三郎、あんたの老け薬なんかで学園長の魔法が敗れるもんか」
「そうだよ三郎。お前の発明品じゃただ老人になっちゃうオチだよ」
「千鶴先輩……雷蔵まで…」

がっくりとうなだれる三郎にはははと笑いかけると、大広間の扉がギィと開いた。其処からやってきたのは、"風の悪魔"だ。やはり、あいつも名乗り上げたか。
燃える紙はゴブレットに入り、風の悪魔の名前を呑み込んでいった。

「千鶴せんぱーい!」
「喜三太!んんん今日も可愛いねぇ!」
「千鶴せんぱぁい、千鶴先輩に、ご紹介したい方がいるんですぅ」
「んー?誰かなー?」

「おらだよー」

「!」

飛びつく喜三太をなでなでしていると、喜三太の後ろに立っていたのは、白いマントを揺らす風魔の生徒。"風の悪魔"だ。
突然の出現に、雷蔵と三郎が私の後ろで杖に手をかけたが、別に決闘を挑まれたわけではない。私が立ち上がり手でそれを止めると、風の悪魔はにっこり笑って右手を出した。


「これはこれは、風の悪魔とご対面できるとは」
「そんな呼び方やめてけろ。おらは錫高野与四郎って名前があるんだがら。与四郎でえーだよ」
「そっか。じゃぁ与四郎。私は、」

「千鶴だべ?円城寺千鶴」
「!私の名前、」

「知らん方が可笑しいだよ!おめぇさの論文そりゃもうでげぇニュースになってんだがら、顔も名前も知ってるーよ!あんだげすげぇもん書くやづといっけぇ話してみでぇおもってな、喜三太に紹介してもらいてぇ言ったーよ!」

「うわぁ、かの有名な風の悪魔に私のことを知ってもらえているなんて光栄!嬉しい、有難う!私も千鶴でいいよ」
「千鶴、よろしくな!んでもおめぇさんみてぇなべっぴんさんにんなおべっか言われっとテレんべ、やめてくんろ」

がっしりと掴まれた右手は離れる様子もなく、与四郎は人懐っこい可愛らしい笑顔で私に逢ってみたかったと言った。嗚呼恥ずかしい、あんなくそみたいな論文を読まれてしまっていたのか。もっと力を入れて書いておけばよかった。もうこういうの恥ずかしいからやめてほしいーーーー。


「おめぇも名前入れたべ?」
「えぇ、もし代表に選ばれたら、お手柔らかにね」
「それはおらの台詞だーよ。んじゃまたな!行くべ喜三太!」

「はーい!それじゃ千鶴先輩、失礼しまーす!」
「はいよ、じゃぁまたね!」


軽く触れる程度の手の甲にキスを落とされ、私の思考回路は再びショート寸前となった。流行ってんのかな女の手の甲にキス落とすの…。これ西洋の文化じゃないのかな…。
喜三太の手を引き抱っこして、風の悪魔…与四郎は、大広間から出て行った。なんとうか兄弟のようだな。嗚呼、喜三太は元々風魔からの転校生だった。そうだそうだ。そりゃあそこまで仲良いはずだ。

嵐来たようだったなぁと思い再び腰を下ろすと、また開く大広間の扉。


「うげ!」
「千鶴先輩?」

入った来た人物達を見て、私は立ち上がりピュッと逃げるように長次の後ろに逃げ隠れた。

「…千鶴?」
「かくまって長次ぃ、私あの人苦手…」

長次の座る机の下に入り込むと、長次は細い目をゴブレットの方へ向けた。
入ってきたのは兵庫第三魔法魔術学校の生徒だ。名前は忘れたけど、私はあの人に全校生徒の前で口説かれ手にキスをされたトラウマを持つんだもの。正面で逢えるわけないじゃない!また何されるか解んないんだから。
長次の太ももに抱き着くように姿を隠していると、あいている方の手で長次は私の頭に手を置いた。

ボボボと火が燃える音がして、いぇーい!と盛り上がる雄々しい声。どうやら兵庫第三も名前を入れるのを終えたらしい。

よいしょと机の下から出ると


「よぉ嬢ちゃん」
「あんぎゃぁぁああーーーーーーーッッ!!!」

「おい待て待て逃げるな!」
「変態ィイイ!!イダッ!!!」

机から出てきた目の前にいるあの男。瞬時に身体をテーブルの下に再び隠し長次の逞しい太ももに抱き着くように隠れたのだが、ローブのすそをがっしり掴まれてしまい、私は机の下から引っ張り出されるような形でまた出てしまったのだ。
人懐っこい……いや、胡散臭いって言った方があっているであろうこの笑顔。与四郎と違ってやんわり包まれたこの手から伝わってくる女たらしの香り。絶対こいつロクなやつじゃねぇ。女ったらしっぽそう。

「えーっと…」
「俺、義丸。嬢ちゃんは?」
「……千鶴です、円城寺千鶴…」
「可愛い名前してんな、千鶴な」

「義丸さん……見た目年上っぽいですけど…OBですか?先生ですか?」
「いや?俺も生徒だよ?」
「…失礼ですが…」
「二十五」
「にじゅうご!?!?!?」

にっこり微笑まれさらにちょっと力をくわえられた手。まさか、25歳で生徒というのか。どうなってんだ兵庫第三の年齢基準は。
義丸さんという男性が私に胡散臭い笑顔を向けていると、ごんと義丸さんの頭が叩かれた。義丸さんの後ろにはこれまた年上そうな男性がたっていらした。あらやだこの人もイケメン。
すっと出された右手に、今度は抵抗もなく私はその手を握った。


「初めまして、新聞で貴女のことは知ってますよ。その若さでマーリン勲章をとった円城寺千鶴さんでいいですね?」
「あ、え、はい」
「鬼蜘蛛丸です。俺も二十五ですが、生徒をしています。この度はうちのバカの愚行をお許しください」
「あ、い、いえその、あんまり、気にしてないんで」

どうやら鬼蜘蛛丸さんは常識人のようだった。私の横で長次と義丸さんがにらみ合ってるのは見てないことにしてスルーしよう。


「兵庫第三は、いわゆるスクイブやおちこぼれが集まるところですよ。本物のスクイブもいれば、そう呼ばれふさぎ込んでたやつもいます。ですが、やはり何処かに才能というものはある。うちのお頭……いや、校長はそういう俺たちみたいのをほおっておけないお優しい人でね。昔はお頭もそうだったみたいで。スクイブは魔法を使えないなんて言われてるけど、実際は頑張れば力がつくっていうのが証明されてます。お頭は昔は魔法省で働いていたけれど、俺たちみたいのをどうしてもまともな道に行かせたいっていう気持ちで開校した学校ですよ。疾風さんや蜻蛉さんや由良四郎さんは、お頭と同じ志を持った方々で、俺たちみたいなんぞの教師をしてくださってるんです。義丸もこんなですが、徐々に力をつけているんです。どうか軽蔑しないでやってください」


鬼蜘蛛丸さんはそこで私の握手を解いた。
確かにちらりと後ろをみると、義丸さんをはじめとして、他の方々も結構年上の人もいるみたいだった。むしろどの人が教師か解らない。
いわゆるマグルの世界で言うところの不良高校ってやつだろうか。別に私はスクイブを差別しているわけじゃない。落ちこぼれだから諦めろとも思っていない。むしろそこまで言われて努力をしているというのが尊敬に値するレベルだ。私は魔法族に生まれたんだから魔法なんて使えて当たり前だと思っているけど、もちろんこういう存在もいるわけで。兵庫第三がどんな学校なのかとかは知らなかったけど、ってことはこの学校は努力家の集まりってことでしょ?素敵じゃない?

「私、スクイブに軽蔑なんかしてませんよ」
「…」
「むしろ素敵じゃないですか。諦めずに努力してる姿」


そう考えると、義丸さんも努力を怠らない素敵な人じゃないか。(ちょっとだけ)見る目変わった。


「…本当はな、ニュースとか新聞とかであんたの顔と名前みて、ああ、天才ってこういうやつのこと言うんだなって思ってたんだよ。あんたを尊敬してたんだ。だからあの時、本物を見つけちまってテンション一気に上がっちゃってな。悪かったよ」

「いえいえ、もう、気にしてないんで」
「先に言っとくが俺は一応スクイブじゃない。ただのおちこぼれさ。今度うちの連中紹介させてくれ。そんで、勉強ってやつ教えてくれよ」
「もちろん!いつでもろ組寮室でお待ちしてますよ。あ、お名前入れたんですよね?」
「あぁ、もしお互い選ばれたらよろしくな」
「えぇ、こちらこそ」

再び交わした握手はそれはもう力強い物だった。命がけのゲームに参加表明した心がしっかりと伝わってくるほどだった。

兵庫第三の方々はあっちこっちでうちの学園の連中に話をかけ親睦を深めていた。は組寮にいるのだ。い組とろ組の人間とはあまりかかわらないからだろう。兵庫第三の人の好さからか、あの人たちはは組寮の一年生に多層懐かれているようだった。あの歳の差の仲良しはなごむなぁ。

長次に声をかけ、私と長次は大広間から出て行った。雷蔵と三郎はまだ大広間で様子を見ているらしい。


寮に戻り宿題を終え昼寝をとり、夕食の時間のため競技場へ行き小平太を呼び戻す。泥んこだらけの練習着から制服に着替えさせ、私たち3人はそろって夕食を食べるため大広間へ足を運んだ。道中の香ばしいいい香りもう腹がいっぱいになりそうだ。
席につくと、周りはもうトライウィザードトーナメントの代表者の話でもちきりだ。あるものは小平太と予想し、あるものは私と予想を飛ばしていた。長次が参加表明をしていないという話題が持ち上がると、皆口をそろえて「まぁ、そうだろうな」とつぶやいた。長次だし。イベント興味ないし。みんなそれには驚かないのか。



とうとう夕食の時間は終わり、大広間の前は片付き、其処に炎のゴブレットは置かれた。皆が緊張でそわそわする中、やはり長次は本を読んでいた。

炎のゴブレットの横には風魔の山野先生、そして兵庫第三の兵庫第三協栄丸校長がたっていた。

しんと静まる中、ゴブレットが紙を一枚吐き出した。燃え落ちる紙を掴み、学園長先生は、


「風魔流魔法魔術学園から代表は、錫高野与四郎!!」


そう叫ばれた。

拍手が起こり、与四郎は老けたおっさん(先生だろうか)と握手をして、長い杖をジャラジャラと鳴らして壇上へと足を運んだ。



「兵庫第三魔法魔術学校から代表は、義丸!!」


よっしゃぁ!!と両の拳を高く突き上げ、兵庫第三の皆様とハイタッチをかわし、義丸さんは壇上に上がった。



「大川学園、まずは、い組寮……代表は、立花仙蔵!」


仙蔵は予想通りとでもいうかのようなドヤ顔で文次郎とハイタッチを交わし、壇上へ向かった。



「とんで……は組寮から、代表は、善法寺伊作!」


僕!?と心底驚いたように伊作は立ち上がり、おめでとう!と留三郎に背中を押され、壇上へ向かった。





最後に燃え上がった紙。ろ組の代表が決まる。





「最後にろ組寮から……、代表は、円城寺千鶴!」








……………………。





「嘘!?私!?!?」


「よう!!おめでとう千鶴!!」
「頑張れ…」


長次に背中を押され、小平太に背中を叩かれ、五年から指笛を貰い、私はまだ夢なのではと思いながらも壇上へ向かった。


よろしくなと義丸さんに握手をされ、仙蔵に頭をぐしゃぐしゃにされ、伊作に頑張ろうねと微笑まれ、与四郎からはハグをもらった。ギョェェエエエ唯一の女やないかいこれフラグじゃないのかしら………!!!


「……なんか不運…」
「僕だって留三郎が選ばれると思ったのに…まさか僕が選ばれるなんて…」
「頑張ろうね伊作…」

「い組寮からは私と文次郎しか立候補者が出なかったんだ。二分の一の確率だったが、まぁ選ばれたので良しとしよう」
「男子も女子も、あんたたち差し置いて代表になれるだなんて思ってないんでしょ」


大川の代表は仙蔵と伊作と私。とはいえトライウィザードトーナメント中は敵同士だ。協力し合えるところは協力して、試合は全力でぶつからなければ。




「代表がそろった!!近日、トライウィザードトーナメントを開催する!!

代表選手は課題をこなすペアを決め、わしに報告しに来ることを忘れぬように!!」




大きな拍手が送られた今、私の命は炎のゴブレットに託されることになったのだ。

一歩間違えれば、死ぬ。






























「大木先生、頼まれていた肥料薬出来上がりましたよー!今年の南瓜は出来はどうですか?」
「おぉ千鶴!まぁまぁじゃな!今年は肉食蛞蝓が畑を食い荒らすこともなく順調に育っておるわ!ラッキョウは毎年のごとく豊作じゃ!もってけぇ!」
「うおおおありがとうございます!!」

すまんと受け取った私得性の肥料薬の入った瓶を、大木先生は小さい籠の中にしまった。大木先生は教師を辞め、森番をつとめていらっしゃる。あ、ラビちゃんこんちは。
茶でも飲んでけと出された薄汚れたカップ。先生の入れてくださったお茶の美味しさは異常。どんな魔法薬よりも元気が出る。何使ってんだろ。


「聞いたぞ千鶴!お前トライウィザードトーナメントの代表に選ばれたそうじゃな!」
「えぇまぁ、唯一の女なんでちょっと不利っぽいんですけど」
「だはははは!!んなもんド根性で乗り切れ!!」

膝に飛び乗ったラビちゃんを撫でながらそういうと、大木先生は私の不安を吹き飛ばすかのような大笑いした。

だが正直不安だ。遊び半分で入れた名前。ぶっちゃけ小平太が代表になることは確実だと思ってたレベルには気を抜いていた。まさかゴブレットが私を選ぶなんて思いもしていなかったから。落ちこぼれとは言っていたが、とはいえ経験は私より確実に多い義丸さん。風の悪魔と呼ばれる与四郎に、最優秀成績をおさめている仙蔵。完全なるダークホースの伊作。

命がかかっているゲームに名乗りを上げ代表に選ばれた以上、引くわけにはいかないが、やっぱり不安はかなりある。

はぁとため息をはくと、大木先生はうーんと声を低く何かを考えられた。


「…のう千鶴、」
「はい?」

「別に秘密厳守とは言われておらんから、お前さんに言ってもいいだろうし、お前さんが誰かにバラしてもかまわんと儂はおもっちょる」
「…??」

「だが、当日になってから知るより、お前さん、対策を練るために今知っておきたいじゃろう?」

「……一体何のお話ですか?」


カップを置いた大木先生は、いたずらっ子のように手をちょいちょいと私を呼び寄せるように動かした。私もつられてカップを置き、大木先生に耳を近づけると、



「第一回戦目の課題のヒントを握っているのは、この儂だ」



そう、言った。

私は驚いて大木先生の顔を見上げた。まだ伝えられていない課題の内容を、大木先生が知っているなんて。


「仙蔵と伊作も代表に選ばれたんじゃろ?お前さんが知ってるだけでも、二人に教えてやるも、お前さんの自由!ついて来い!」


膝に乗るラビちゃんを大木先生は肩に乗せ、小屋から出て行った。突然のことに頭の整理が追い付かず、私はあわあわしながらも小屋を飛び出し大木先生の後を追った。

何故、禁じられた森に入っていくんだろう。この先に何か置いてあるのだろうか。





「ええか千鶴、驚くな。だが、お前たちが一回戦で倒さにゃならん相手は、かなり手強いぞ」





草木をかき分けるようにしばらく歩き続け、ようやく大木先生が足を止めた。


大木先生の向こうから聞こえる、大きな唸り声。そして燃え上がる謎の炎。








…うそ……。





























「お前さんらの第一の課題は、ドラゴンを相手に戦う事じゃ」
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