十三章:最終決戦

「おはよ…」
「おいおいどうした!最終決戦の日に元気がないな千鶴!」
「ちょっと…寝不足……」

「ぼ、僕が一緒に寝てたから……!!」
「ち、違ぇ!!平太のせいじゃないからごめんねちゅっちゅっ!!」

げんなりした様子の顔をしていたらしく、大広間に入った瞬間小平太に顔色が悪いぞと覗き込まれた。手を繋いできた平太に至っては昨夜自分が一緒に寝ていたからかと勝手に己を責めはじめ泣きそうになっていたので、慌てて抱きかかえほっぺにぶちゅぶちゅとキスをしてやりなんとか泣かずに済んだ。なんで寝不足かですって?そりゃぁもうみなさんご存知の通り。寝る前に愛の告白を受けてそれでいて心臓もバクバクしてたのに安眠できるとお思いですか???いいえ、思いません。

誰が、世界的シーカーから愛の告白を受けると予想できましたか。風の悪魔と呼ばれる世界を代表するクィディッチの選手に、好きだと言われると想像できますか。こんなの生まれて初めての事だし、頭が混乱しないわけがない。風の悪魔は一体私の何が良くて好きだなんていってきたんだ。トライウィザードトーナメントの期間だけうちの学園に滞在しているだけの仲。トライウィザードトーナメントの試練を共に潜り抜けているだけの仲。それ以外に与四郎と私の繋がりなんてない。なんでそんな与四郎が!!私に!!愛の!!告白なんか!!

「気が乱れている…」
「うえええん長次怖い夢を見たんよおおおおお」
「…よしよし……」

嗚呼、お父さんの匂い…。

大広間からろ組寮の席に歩いていく途中、他の寮からもうちの寮からも、今日は頑張れと声援を送られた。ありがたい。トライウィザードトーナメントの最終戦、代表選手もそのペアも、すべてを見ても女は私だけらしい。これは三郎から流れてきた情報だ。どうせまた先生に化けて職員室にでも潜り込んできたんだろう。その変身術の腕や素晴らしい事。お前の情報のおかげで助かることも多々ある。

今回の代表選手は、思った通りというメンツだ。仙蔵のペアには文次郎が。伊作のペアには留三郎が。そして私のペアには小平太。長次は何もしないのかと小平太が犬が尻尾を垂らすように問いかければ、先生方と共に会場設備を手伝ったらしいが、今回のフィールドについて代表選手である私たちに詳しく話す事のできない呪いをかけられているらしく、それ以上は口の前で指を×にして喋るのを止めた。客席から全力で応援すると言ってくれた。嬉しいことだ。

いや、もう、悩むのはやめよう。そうよやめるのよ私。今日はトライウィザードトーナメントの最終戦の日。これを勝てば永久の栄光が手に入る。それに今日は小平太という心強いペアがいる。足を引っ張りたくない。

「千鶴先輩、これもらってください!」
「おはよう可愛い三年生!うん?何かな?」

「き、昨日ろ組寮の全員で編んだんです!」
「千鶴先輩が優勝できるようまじないもかかってます!」

三之助の後ろに左門と作兵衛がいて、先頭の三之助が私の掌に何かを置いた。それはとても綺麗なミサンガだった。細かく細かく編まれたそれは窓から入る陽の光に美しく反射し、虹色に輝いていた。あまりにも綺麗なミサンガで思わず目を奪われてしまう。どんなまじないがかかっているのか、っていうか、たった一晩でこんな素晴らしい物を下級生だけで作ったというのか。これほどまでに美しく光る魔法、きっと古い魔法に違いない。私が優勝できるようにと、私のために、その魔法を使ってくれたというのか。あぁ!私はなんて幸せ者なんだろう!これは絶対優勝しなければならない!

「綺麗…!ありがとう!さっそく腕に付けていくね!」
「なははは!これは千鶴は何が何でも優勝しないといけないな!」
「そうね!頼んだよ相棒!」
「おう!任せておけ!」

先に会場に行ってます!三年生は頭を下げて大広間を出て行った。他の連中はほとんどが早くに食事をとりいい席を確保しようと会場へ向かったらしい。長次もやることがあるからと席を立った。小平太とガッシリ握手を交わし、長次は大広間をあとにした。腕に愛しい後輩からの贈り物。横には相棒。天気は晴れ。心は一部もやもやしているけれど、なんだか今日はことが全て上手く行くような気がする!優勝できる気がする!!

急ぎ朝食を口にかきこんで私と小平太は会場へ向かうことにした。試練がどんなものかも解らないけど

「絶対優勝!!」
「おう!絶対優勝!!」

親友と一緒なら、きっと大丈夫だ。


「おはよう千鶴!良い朝だね!小平太もおはよう!」
「浮かない顔してんな。緊張か?」

「おはよう留三郎、伊作。ううんなんでもない!ちょっとね!」
「だがさっそくコーヒー零したのか?シミになってるぞ不運コンビ!」

「言わないで小平太…。今日の不運はこれだけだと信じてるよ!」


「おはようお前ら。会場へ向かおう」
「今日はお前らギンギンに敵だからな!」

「おうともよ!誰が勝っても恨みっこなしだかんね!」
「文次郎こそ吠え面かくなよ!私も全力でいくからな!」

「小平太とは強敵だな。だが我々も負けるわけにはいかんぞ」


会場へ向かう道中、階段から降りて来てた伊作と留三郎。廊下の向こうから現れた仙蔵と文次郎。私達もだけど、今日は試合のユニフォームではなく、堂々と胸を張ってこの学園を背負うため大川のローブで試練に臨むことにした。いつも通りのローブ。いつもの制服。いつもの靴。いつもとかわらない髪型。いつもの私達。そりゃぁもちろん特別な日だし特別な格好をした方がいいのだろうけど、これで十分だ。無意味な武装などいらないし、必要ない。大川の代表選手なのだから、今日はこの格好で良い。みんなみんな同じ思いでこの格好しているだなんて、六年間も一緒にいるとこう思考も似てしまうものなのだろうか。

道中私たちが歩いているのに気が付いたのか、後輩たちは道を開けてくれた。まるでヒーローでも通っているみたいだ。私達はそんなに大したものではないのに。ただの最高学年。ただの代表選手。みんなの期待を背負って此処を歩いているだけ。



会場にはいつも以上の観客が集まっていた。学園の生徒はもちろん、最終戦だけでもと見に来たお偉いさん達がいるみたいだねと伊作がひそひそ言った。最初から見に来ればよかったに。そっちの方がきっと楽しかっただろうに。

裏口から選手入場口に入る。入場口から私たちの入る場所は別々のようで、い組寮、ろ組寮、は組寮、兵庫第三、風魔と別々の扉が用意されていた。中に入るとそこは本当に何もない空間。ただ、天井も床も壁も真っ白いだけの不思議な空間になっていた。

「ここはいいな。何も聞こえないし、心が落ち着く」
「そうだね。控室にはもってこいだね」


「なぁ千鶴」
「何?」

「最終決戦だし、もちろん難易度は格段に上がってると思うんだ」
「うん、そうだね」

「一回戦はドラゴンと。二回戦は水の中。三回戦で何が起こるかはさっぱり見当もつかないが、私は意地でもお前を優勝させるつもりでいるぞ!いざとなったら私を見捨てる覚悟がある、というのなら、私は一緒にこの先の扉をくぐる」
「何言ってんの…ダメだよ一緒にゴールしなきゃ」


「いや!それぐらいの覚悟を持っていくれないと、私も一緒に戦えない!ゴール目の前にして私に何かがあってお前が引き返すなんてとこ見たくないからな!これだけはどうしても誓ってほしいんだ!な!お前ならできるよな!」


一回戦二回戦がかなり命にかかわるような試練だった。だったら三回戦で誰かが命を落としてもおかしくはない。普通に考えても冷静な判断だ。何があっても、おかしくない。それを理解したうえで、小平太は最終戦のペアになってくれた。小平太に覚悟ができているのなら、代表である私がその誓いを断るわけにはいかない。


「……うん、解った!」
「よかった!よし!じゃあ行くか!」


にっかりと太陽の様に微笑んだ小平太は傷だらけでごつごつした手を私に差し出した。覚悟を決めて、私もその手を取る。その手に引かれ扉は開かれ、耳には痛いほどの歓声が飛び込んだ。見上げるとそこは一回戦とはまた別のコロシアムのような会場。360度観客に囲まれ、吹奏楽が音楽を鳴らした。丁度見上げた先がろ組寮の席だったようで、みんながみんなこちらに向かって手を振ってくれていた。応援してくれているのが嬉しくて私も手を振りかえすと、続々と扉が開き、他の代表選手もフィールドに集まってきた。仙蔵は文次郎の後ろを歩き、伊作と留三郎は肩を組んだまま。反対側からは風魔の選手である与四郎と、与四郎のペアである仁之進さんという方。ぱっとみ先生かと思ったが、三郎情報では中年になってから忍者を目指し始めたという珍しい生徒。故にあの見た目で一年生らしいのだが、与四郎と仲が良いらしく勉強も教えてもらっているため知識は豊富のようだ。その横の扉から義丸さんと、あぁあのイケメンは鬼蜘蛛丸さんではないか!兵庫水軍の数少ない常識人!私あの人には初対面の事もあって良い印象しかない!あれが大人の色気か!義丸さんにはない色気がある!いい匂いしそう!胸板素敵!

「おはよう千鶴。今日はよろしくな」
「おはようございます義丸さん!鬼蜘蛛丸さんも、おはようございます」
「おはよう御嬢さん。今日は義丸と全力で戦わせてもらう」
「こちらこそ!小平太とつぶしにかかりますから!」
「なはは!こちらこそよろしくお願いしますだ!」

「おはよう千鶴」
「ほあはははああhhっはあ与四郎」
「なぁ、終わったらちゃんと返事聞かせてくんろ」
「わ、解ってる解ってる!き、昨日はごめんね」
「いんや、こっちこそ。今日はよろしくな」
「よろし、く。あ、仁之進さんですよね。今日は宜しく願いします」
「いやぁ有名な円城寺さんにおらの名前知っててもらえて光栄だ。こちらこそ」

んあああああああああ兵庫第三とは普通に話せたのに!!与四郎意識しちゃう!!仁之進さんとも普通に話せたのに意識しちゃう!!いやまぁ仕方ないよねこれ!!そりゃぁ告白された次の日なんか普通緊張しますよね!!これ正常ですよね!顔赤くなるとか普通ですよね!私が意識しすぎってわけじゃないでうすyだはsjdjb!!

「おい千鶴顔赤いぞ。風邪か?」
「んんんんんなわけねぇでしょうや!!」

例え小平太でも与四郎に告られただなんて口が滑ってでも言えるもんか!!言えるわけねぇ!!

顔を押さえながら必死に熱を押さえようとする私の横で、小平太は屈伸運動をして体を伸ばしていた。他の連中も同じく、クィディッチ試合前かというほど入念に準備運動をしていた。いかんいかん。私も準備をしなければ。小平太に腕を引っ張ってもらいフュージョンでもするかの大勢になり体を伸ばした。ここの絵だけじゃ魔法戦じゃなくて肉弾戦でも始まるようだ。

準備運動を重ねていると、学園長先生がフィールドの真ん中に立った。それと同時に吹奏楽の音楽も止まり、客席が静まり返った。


《 これよりトライウィザードトーナメント、最終戦を行う! 》


魔法により響いた学園長先生の声に再び客席がわいた。さすがの最高学年とはいえ、この空気には緊張するようで、あの文次郎の顔が強張っていた。小平太は武者震いといったところだろうか。学園長先生が客席に向かいルール説明をし終えると、代表選手はこちらへと私たちに手招きをし、私たちは自然と学園長先生を囲むように集まった。


「この先には巨大な迷路が広がっておる。その何処かに、優勝杯が隠されている。今回の場にはドラゴンも水魔も出んじゃろう。だがこれまで以上に恐ろしい課題がお主らを待っていることじゃろう。命の危険が迫ったら赤い花火を打ち上げるのじゃ。以上。……ただただ、お主らの健闘を祈る。では代表諸君は位置について!!」


巨大な迷路の先で、私たちを待つ優勝カップ。それを一番最初に掴んだものが、優勝だ。ただそれだけ。ただそれだけだけど、迷う場所は迷路。心と頭と視界をやられ、精神的に来るものがあるだろう。小平太の足を引っ張らないように頑張らなきゃ。そして、何が何でも優勝しなきゃ。愛しい後輩たちから受け取り腕に付けたミサンガを握りしめ、私と小平太は入口前に立った。小平太は心身ともに余裕なのか、またろ組寮席に向かって腕を高く突き上げた。ろ組寮ではないクィディッチ実行委員も手をぶんぶんと振っていた。

「頑張ろうな千鶴!」
「うん!よろしくね小平太!」




《 ではスタートの大砲の合図d  ドォオオオン!!!  小松田くん!!! 》

「すいませんんんんんんん!!」




聞きなれたお馴染みのスタート合図と共に、私たちは迷路に足を踏み入れた。一歩踏み入れたところで観客席と私たちを遮るように垣根のように入口は塞がってしまった。一瞬にして聞こえなくなる音楽、歓声。横にいる小平太の心臓の音まで聞こえてきそうだ。

「よし!お前はもしもの戦闘にしなえて体力を温存しろ!」
「ワッツ?」

「道はお前の指示と、それ以外は私の勘で歩くぞ!」

思いきり背伸びをした小平太は地に這うように体を倒し、そして体を一瞬にして真っ白い毛で覆った。おぉ、山犬小平太。ふわふわと毛を堪能してると早く乗れよと言わんばかりに小平太は喉をぐるると鳴らした。

「ごめんごめん。よし、よろしくね」

この背中にも何回乗ったことだろう。あぁ落ち着くこの高さとふわふわ感。小平太の背に乗るとき必要になる縄を轡の様に噛ませると、小平太はのしのしと迷路を歩き始めた。誰かの匂いはするかと問えばがうと答えるが、長次や、先生たちが歩いた匂いはあるかと問えば残念そうに首を横に振った。なるほどな、足の匂いすらも消すか。先生方の準備と警戒は相当だな。ゴール地点が解らないよう、この迷路には徹底的魔法がかけられている。塀の上を歩こうとすればまるで天井があるかのように垣根以上の高さには行けず、垣根を突き破ろうにもなぜか道は開けない。歩いていくかないか。ま、そんなズルいことして勝ち取った優勝なんて嬉しくないしね。

「!」
「おぅっ!?」

「なっ!?な、なんだ小平太と千鶴か…」
「早い段階で出会ったな。だがこちらは全て行き止まりだったぞ」

開始して何分たったかは解らないが、曲がり角で小平太が足を止めた。何かと思いきやその角から出てきたのは文次郎と仙蔵だった。もうずいぶん歩き回っているのか大体の地図の図形は頭の中でできてきたと仙蔵は言った。

「そっかぁ、早く見つかると良いね」
「ふっ、呑気だな。それではな」

「頑張れよ小平太」
「♪」

文次郎にわしわしと頭を撫でられ小平太は嬉しそうに目を細めた。足止めのためにと戦闘をしてこない。友人だからか、体力はまだ温存しておきたいからか。あっちに行ってみるかとまるで散歩の様に仙蔵は文次郎に言い曲がり角を曲がり姿を消した。小平太はその二人を見送り、再び歩き始めた。




「芝!」
「!」

「し…し…………信仰!」
「……!」

「またし!?もうしから始まる単語ないけど!?」
「♪」

「えーもうないだろ……し、し、…あ、新聞紙」
「!?」

一時間は歩き回っただろうか。私の意見と小平太の勘で突き進むもあまりにも沈黙が耐えられなかったのか。小平太がしりとりをしようと言い始めた。さっきからし攻めにあっていたが、ようやく反撃することができた。不機嫌そうにぐるると喉を鳴らしながら、小平太もしから始まるまた使っていない単語を探していた。っていうか新聞紙をまだ使っていなかったとは。不覚。

T字路に差し掛かったところでさてどっちに行こうかと悩んでいたその時、小平太が耳をピンと立てて後ろを振り返った。それには私も気づいた。何処からか声がする。それも叫び声の様なもの。行こうと縄を引き返すように引っ張ると小平太は声のする方向へ一目散に駆け出した。左へ右へ、直進してはまた曲がり、たどり着いた先にいたのは、垣根の根元から伸びる蔓に足から腰まで巻き付かれ引っ張られる伊作の姿と、それを必死で助けようとする留三郎の姿。

「あ!千鶴〜!小平太ぁ〜!」
「すまん手を貸してくれ!い、伊作が!」

「ちょ!何してんのお前ら!こ、小平太行くぞ!」
「……っ!」



「っこ、小平太!?」



小平太は二人の姿をみて、そして近寄らずに引き返した。元の道をひたすら駆け抜けていったかと思いきや、曲がり角を複雑に曲がるを繰り返して、今私達が何処にいるのか解らない状態になってしまった。行き止まりの場で急ブレーキをかけ、私を降ろして小平太は一度人間の姿に戻った。

「何をしているの!?伊作と留三郎が!」

「今回の試験はどうなっているんだ!私たち以外に誰がこのフィールドにいるんだ!先生方からそんな話あったか!?」
「え、な、何を言って…」


「さっきの伊作と留三郎から今朝零したと言ってたコーヒーの匂いがしなかった!あいつら伊作と留三郎じゃない!本物じゃない!偽物だ!」


小平太がこんなに焦っている顔をしているのなんて珍しい。額から流れる汗は走ったからか、焦りからか。山犬の時の小平太の鼻、疑うわけがない。さっきの伊作と留三郎が偽物?あいつらが偽物?じゃぁ本物は?本物はどこにいる?このフィールドにいるの?何かあったの?あれは、誰だったの?

「こ、こへ」
「しっ!!」

私が口を開くと小平太は私の口を手で塞ぎ垣根に押しつけるように身を隠した。遠くの道を歩き通り過ぎて行ったのは、留三郎と伊作の姿。まさか、此の短時間であの二人があの蔦の魔法を自力で抜け出して此処まで追ってきたというの?し、失礼な話かもしれないけど、あのふたりにそれは無理だ。

「あれ見ろ」

小平太が顎で二人をさす。手元にあるものは、二人の杖じゃない。あの二人の杖より、長い。このあたりに私たちがいないと思ったのか、二人は何か話して何処かへいってしまった。


「やばい、ガチじゃん!」
「伊作と留三郎を探そう!この試練なんかおかしいぞ!」

小平太に飛び乗り、小平太は鼻を必死にひくつかせ二人の匂いを追った。轡を外し、小平太にしがみつき小平太の行く道行く道を、私は本当に下に二人が巻き込まれていないか確認しながら走って行った。私達代表選手以外にこの場には誰もいないはずだ。じゃぁあれは一体誰だ。仙蔵と文次郎にはあった。風魔と兵庫水軍にはあってないけど、兵庫水軍の二人が変身術が得意だとは聞いていない。むしろこの間コツを聞かれたぐらいだ。じゃぁ風魔の二人。いや、風魔の二人がこんな卑怯な手を使うわけがない。っていうか、代表選手だったら小平太が匂いで解るはずだ。つまり、あれは部外者。この試練には関係のない人間。

一体、誰が。


「小平太止まって!!あそこ!!手!!」

「!伊作!留三郎!!」


飛び降りるように小平太の背から降り、垣根の根元から少し出た手を引っ張った。其処にいたのは気を失っている伊作。蔦に絡め取られて、そのそばに杖が落ちていた。小平太の方も引っ張り出したそれは、やはり留三郎だったよう。近くに留三郎の杖もあったし、それに伊作のズボンにコーヒーの染みがあった。本物だ。

「伊作!目を覚まして!」
「おい留三郎聞こえるか!!」

伊作を揺すっても起きない。小平太が殺す勢いで往復びんたをしている。このままでは留三郎の整形の問題になってしまう。二人を一度垣根から引きだし、再び小平太の背に飛び乗った。



「Periculum!!」



小平太の背から杖を空に向け、赤い花火を打ち上げた。これで二人は脱落することになっちゃうけど、でも、この危険な場所で気を失い続けるよりは救助に来てもらった方がいいに決まってる。



「ぎゃぁぁぁああ小平太走って!!!」
「!?!!!?」



花火を打ち上げた瞬間、迷路に強風が吹きつけ、背後の道が物凄い勢いで塞がりはじめた。



小平太が相棒でよかった。多分一人だったら、此処で死んでた。
- 14 -

[*前] | [次#]

×