十二章:ジーザス!!

「明日で全部終わるなぁ」
「そうだねぇ。長かったような短かったような」

「……最後まで…頑張れ……」
「ありがと長次。っていうか、宿題手伝って貰ってごめんね…」
「気にするな…」

談話室の真ん中にある円卓で、羽ペンをするする滑らせる。ここしばらくトライウィザードトーナメントに夢中でやらなければならない課題がすっかり手つかずだったことを思い出し、急ぎ長次に手伝って貰うことにしたのだ。実は提出は3日程前だったのだが、長次が先生に私はトライウィザードトーナメンで頑張ってるから見逃してほしいと頼み込んでくれていたらしく、なんとか提出期間は今夜中までと伸ばしてくれたらしい。小平太はすっかりそれを忘れていたのだが、長次が珍しく嘘をついて「千鶴を手伝っているから」と先生に言い、小平太もなんとか見逃してもらえたそうな。ありがとうございます長次さん。あなたのおかげで補習を受けなくて済みます。今度何か奢ります。

今夜これを終わらせれば、明日は決勝戦。明日で、全てが終わる。

長いようで短いようなトライウィザードトーナメント。ゲストの人たちもすっかりこの学園に溶け込んでいるし、帰りたくないと言ってくれる人もいて嬉しい。少しでもこの学園の思い出が心に残ってくれれば、此の学園の生徒で入れることを誇りに思える。

そうそうそういえば、明日の決勝戦、私のペアは、満場一致で小平太に決まった。長次がこういうイベントごとに興味がないと言うのはもとからみんな知ってたから、やる気がないというのも解ってた。でも小平太が選ばれたのはそれだけではない。恐らく他の寮も、最終戦だけは同じ6年の友人をペアに決めるだろうと確信していたからだ。おそらく、仙蔵は文次郎を。伊作は留三郎を。今までの試合で同級生を使わなかったのは、最終決戦まで温存させておこうとでも考えていたのだろう。明日は皆殺す気でかかってくるといっても、過言ではないはずだ。

てなわけで、私のペアは小平太ということで確定した。長次は先生方のお手伝いをすることになっているらしいので、応援側に残るらしい。まぁ長次はこういうのに熱くなるタイプじゃないし、長次がそれで満足するならそれでいい。

「終わった!ありがとう長次!」
「もそ…」
「小平太終わった?」
「私も終わった!」

「じゃぁ私見回り兼ねて先生のとこ提出してくるよ。小平太は皆の就寝チェックよろしく」
「わかった!じゃぁ宜しく頼んだ!」

「うん、明日はよろしくね小平太」
「おう!いけいけどんどんであいつらぶっ飛ばしてやる!」
「私裁判にだけはかけられたくない!」

小平太からボロボロのノートを受け取ると、長次と小平太はおやすみと手を挙げた。夜遅くに寮の外に出られるのは監督生の特権だ。今で歩いているのは、恐らく他の寮の監督生と先生方だけだろう。

動く階段を歩き目的の先生の部屋へ行き、まずは期限を延ばしてくださったことに礼を。手土産に葡萄酒を持ってきているとこ、私まじぬかりない。少々上機嫌になってくださったところで、私は部屋をあとにした。あの先生は話すと長いから困る。私も今日は早く就寝して、明日に備えたいところだ。

ぐいと背伸びをして大きく欠伸をしたところで、ふと、誰かの気配を感じた。誰だろう。先生かな。それとも仙蔵か、留三郎か…はたまた左門か三之助か?いやいや、あいつらはさっき作兵衛につれられてベッドに行ったはず…。

足音は確かに小さくだが聞こえている。それも、私の後ろの方で。少し進むとそれはついてくる。止まれば止まるし、まるでピクシーにもてあそばれているようだ。

ちょっと駆け足で歩き曲がり角を曲がった。曲がってすぐ歩くのをやめその場で立ち止まり振り返ると、其処に現れたのは、


「おわっ!?」

「ぶぇっ!!なんだ与四郎じゃん!何してんのこんなとこで」

「なんだべ千鶴、つけてんの気付いてたか?」
「えっ、気付いてたけど……バレてないとでも思ってたの?」


馬鹿みたいにトテトテと歩く音を鳴らして私の後ろをついてまわれば、そんなの一年生だって解るよと言えば、与四郎は参ったなと頭をかいた。くそう、可愛い。

「何してんの?もう就寝時間過ぎてるよ?与四郎がうちの生徒だったら減点されてるとこだよ」
「あぁそっか、おめぇらんとこ時間厳しんだったな。こっちかしと違ぇから知らんかった」
「そっか。まぁ気を付けてね」

おやすみと手を振れば、ちょっと待て待てとその振る手を止められた。

「千鶴は何してんだ?おめぇこそこんな時間にちょろついてうんならかされねぇか?」
「私は先生に課題の提出してきたとこ。っていうか、私は怒られないよ。だって監督生だもん」

「ははは、そりゃ特権だべな。したっけ、千鶴に話したいことがあってな。ちょっとしんねこ話すっぺ」
「うん?ここじゃダメ?」
「誰かによこはいりされたら困んでな」
「じゃぁ…んー、屋上でも行く?」
「おぉそれいいべな!よし、そうと決まればすったらかすべ!」

内緒話がしたいと言うので、私と与四郎は屋上へ行くことにした。この時間帯じゃ大広間も施錠されているだろうし、テラスは秘密話するには広すぎる。と、いうわけで休憩用のベンチもあるし、今日は星が綺麗だろうから屋上を選んだ。動く階段を最後の最後まで登り終え外に出ると、今日は天気が良かったから、空はいい感じに満天の星空だった。

「おぉー、大川の星空も綺麗だなぁ!」
「風魔とは違う?」
「おらんとこの学校は山の中だから、此処よりもっと綺麗に見えんぞ!」
「へぇー、私も1回風魔に遊びに行ってみたいなぁ。山と山の間の崖の中に建ってるって本当?」
「おぉ!写真でも見せてやりてぇぐれぇだ!帰ったら送ってやんべよ!」
「まじか!うおおお楽しみ!」

「な、その前にちょっと話するべ」
「うんうん。じゃぁこっちこっち」


こっちこっちと手招きした先にあるのはいつもサボるときに横になって寝っ転がってる私専用ベンチである。あ、製作者はもちろん留三郎です。グラウンドからも見えないし、屋上入ってすぐの場所からも此処は見えない。先生方にみつかる可能性はほぼ0なのだ。いつものポジションに座ると夜と昼とではやはり雰囲気は違うと感じた。いつもなら寝転がれば眩しい太陽が私の視界を眩しく照らすから本を顔に乗っけなきゃ昼寝もできないのに、今日は見上げれば満月。満月……。ハチ、叫びの屋敷行ったけど………大丈夫だろうな…。

「千鶴?」
「あぁ、うん、なんでもない。ちょっと後輩がね」
「おめぇはいろんな後輩に愛されて幸せ者だなぁ。ばんきり囲まれてるとこ見かけんぞ」
「まぁ寮長だし、一番成績いいし?」
「ははは、羨ましいな」
「与四郎だって後輩からめっちゃ慕われてるじゃん」

「……あのな、千鶴」
「うん?あ、話って何?明日の決勝戦について?作戦?えっ、教えないよ?」
「ち、ちげぇちげぇ!!あ、あのな、」

星空の下、男女二人きりとは中々ロマンティックな感じだけど、まぁ、緊張感はないよね。

「千鶴」
「うん」
「好きだ」
「うん。うん!???!?!?!?!!」


「千鶴、おらおめぇのこと好きだ」
「はい!?!?!?」



「おらと、一緒に、風魔けぇってくんねぇか…?」
「ひ、ひぇっ…!」



緊張感などないと言った矢先に、まさかのこれだ。愛の告白。藪から棒。寒空の下、青天の霹靂。

よ、与四郎が、わわわわわ私の手を握り、すすすすす好きと、い、いま、私に、


「わ、私!?」
「おめぇだ。おめぇしか此処にいねぇべよ」
「そ、んな、ふ、風魔って…!わ、私……!」

「…明日終わったら、もう、けぇることになっから……そ、その前に、おめぇさに言っておきたいと思って…」
「よ、しろ……」


握られた手は離されず、あったかい手に包まれたままだった。

そのまま与四郎は、私にとっては赤面レベルの話をぽつぽつと続けた。ぶっちゃけ初対面で惚れてたとか、ダンスでペア組んだ作兵衛にめっちゃ嫉妬したとか、図書室での勉強会混じりたかったとか、正直個人レッスン()受けたかったとか。聞いているこっちの身になって欲しい。

いいですか。こんな満天の星空の下、こんなイケメンな人に手を握られて好きだと言われて、トキめかない女が、この世にいると思いますか!?い、いません!いませんけど!!


「いや、その、わ、わたしは…」
「やっぱ駄目か?おらのこと、嫌いか?」
「い!いやいや!き、嫌いってわけでは!」
「…じゃぁ、」
「い、いきなりそんなこと言われても……!」

顔から火が出そう。っていうか口から光線出そう。

い、いや、よ、与四郎の事は、その、す、好きか嫌いかで言えば、その、す、好きだけど、それ、それは別に、恋愛感情じゃなくて、友人としてで、お、大川捨てて、風魔に、い、一緒に行くとか!!

む、無理無理無理無理!!!なにそれもはやそれ転校とかじゃなくて結婚のレベルじゃん!実家一緒に帰りましょうとか言われてるレベルの話じゃん!!!!


「む、無理無理!!大川から離れるとか無理だから!!」
「そ、そいじゃ、おらとt」
「ご、ごめん!そ、そういうことで!!無理だから!!!!」



「あ!!千鶴!!」



与四郎の手を解き自分でもびっくりする速度で動く階段を駆け下りた。駆け下りたって言うか、移動してるの待ってて与四郎に追われても困るから飛び降りた。猿みたいに飛び降りて別の階段に飛んで飛んで、私はそのまま、談話室に駆け込んだ。

「ひっ…!…あれ、千鶴先輩お帰りなさいー…」
「た、ただいま平太…!ま、まだ起きてたの…!」
「おトイレにー……………、千鶴、先輩…?」


「ひゃぁぁああああ……!!こっ恥ずかしいことを……!!」


扉に背を預けずるずるとその場に腰を抜かしてしまった。多分今、私の顔真っ赤だと思う。

なんて、なんてこったい。与四郎が、まさか、私にあんな感情持っていたなんて。


っていうか、私風魔の学校に行くことは拒否したけど、







告白の返事は、してなくね………!??!?!






「ジーザス……!!」

「…それ、新しい呪文ですか…?」
「平太ぁ…!」
「…千鶴先輩、どうしたんですかぁ……?」

「千鶴先輩胸苦しいから千鶴先輩のお布団で一緒に寝ようねぇぇぇ…!!」
「はいー……」
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