十章:誰がマーピープルやねん

「千鶴先輩ちょっとこっち寄らないでください」

「おいその言い方はないだろう!こっちを見ろハチ!ハチが選んでくれた水着じゃん!」
「年頃の男が水着の女を目の前にしてしまったら俺の俺が」
「下ネタかよ!!」

バシッと背中を叩いてしまって反省した。海パンなんだから紅葉になっちゃう。からかわれる前に薬ぬっとこ。さすがにハチが可哀そうだ。

第二戦目がついにやってきた。生憎の曇り空。少々気温は低いが、水に入るのならちょうどいいぐらいだろう。今はちょっとした肌寒さに鳥肌が出ているが、おそらくもう少ししたら緊張で鳥肌どころではないはずだ。心臓が喧しい。もうそろそろ、はじまってしまう。今日も今日とて、外部からの観客が多すぎる。

がやがやと騒ぎ始める観客席は、今回は頭上。私たちは水の中。競技中の私たちの様子は、コロシアムで行われるものとは違うため見ることは出来ない。まぁ正直そっちの方がいい。緊張するし。っていうか今回水着だし。あんまり見られたくないというのが本音です。まだ時期には少し早いけど可愛い水着が在庫で残ってるとお店の人に言われ無理言って引っ張り出してもらったのだ。

パレオ着きビキニとか、


「ねぇ見てくださいよ義丸さん!私めっちゃ可愛くない!?」

「いいなぁ千鶴!人魚みてぇだな!」
「キ、キモイ!その手キモイ!」


セクシーポーズをドンと決め真後ろでこっちを見ていた義丸さんに問いかけた。涎をたらして両手をわきわき動かす手をガシッと止めるのは、

「はじめまして、俺今回義丸さんのパートナーになった舳丸って言います!」
「舳丸さん、宜しくお願いしますね」

ちなみに23ですと指を2と3にする舳丸さんの可愛さプライスレス。その変態押さえておいてくださいね!と義丸さんを指差すと、ガッテンだと義丸さんの手首をギュッと握ってくださった。


「舳丸は兵庫第三で一番泳ぎがうまいんだよ」
「へぇ!」

「海の底に沈んだお宝の探索はこいつの仕事だ、暗い海でも平気で泳いで回るやつだぜ!」



ほぉこれはなんともいえぬ強敵が現れたもんだ。泳ぎに関しては私もそこそこ。でも私よりハチのほうが上手いかな。今回は何かを探すようだし、舳丸さんにはかなり得意分野じゃないな。
いやいや、だけどこっちのパートナーは狼男の八左ヱ門よ。こっちだって敵はいないはず。それにマーピープルならハチもちょっとは顔見知りのはずだし、何とかなるとは思う…けど……。


「………ね、ねぇ与四郎、」
「んー?」

「……気持ち悪いです…」


完全に、水着が盛り上がって♂おります。義丸さんから逃げたその瞬間後ろからホールドされまとめ上げた髪をくんかくんかしてくる変態はおそらく与四郎しかいない。なんかもう太ももに変なの当たってる。死んでほしい。


「やめてよもー!!っていうか今更だけどなんで代表選手私が紅一点なのーーー!!みんな同じ学校の女の子パートナーにしなよー!!」

「なんだべ千鶴、今更恥ずかしがるこっちゃねぇべよ」
「いやー!離してー!歩く生殖器ー!!孕まされるー!!!」


ただでさえ代表選手の女は私一人。それでいて周りは肉体派の代表選手ばかり。なにこれなんて乙女ゲーなの。くっそみんな無駄に胸筋つけやがって。まぁ小平太がいたら足元にも及ばないだろうがな!

仙蔵も伊作も水着に着替え競技台の上に来た。今回待機場は屋外のため私たちの会話は丸聞えである。そのため先ほどの「歩く生殖器」発言により女子たちの視線が与四郎に向けられていることを与四郎はまだ知らない。お前、うちの学園の女の子たちの肉食度ナメるなよ。ぼーっとしてると食われるからな。

今回仙蔵のパートナーには勘右衛門が。伊作のパートナーには藤内が。与四郎も後輩を引き連れ来たものの、私の乳を揉まんとする姿に後輩君はドン引きだった。解るよ君の気持ち。私も世界最速のシーカーの選手がこんなにド変態だと思ってなかったもの。


「千鶴、パレオ脱いで泳ぐべ?」
「いや、与四郎が気持ち悪いからこのまま入る」
「なんでだよー!おらの楽しみ奪うんじゃねぇ!」
「いやぁぁああもう離してよこれは絶対に脱がないいいいいいい!!!」


どうやら与四郎は私のパレオを脱がしたかっただけらしい。冗談じゃない。お前に脱がされるような水着ではないわ。




『それではこれより、トーナメント第二回戦を開始する!』




Sonorusを唱えたであろう学園長の声が、湖面上に響き渡った。


『代表諸君は昨夜、あるものを隠された!とても大切な、宝物をじゃ!代表諸君は湖に入り、その宝を、一時間以内に持ち帰ること!一時間を過ぎれば、どんな魔法も効果を持続させることは出来ん!』


「宝……。なんだろうね?」
「さぁ、俺にも解りません…」


『では代表諸君!位置について!』



「ハチ、食え」
「はい」



ズルリと手に持っていた薬草を口に含んだ。何とも言えない気持ちの悪い触感にぶわりと全身の産毛が逆立感覚を覚えた。ハチも中々に気持ちの悪い物を食ってしまったからか、目はかっぴらき肩は上がり手が硬直してしまっていた。


ゴクリ、のどを通る。





……耳の裏が熱い。




『では大砲の準備とともn





ドォオオオオンッッ





小松田くん!!!!』


「ひょぇええすいませんんんん!!」







「行きますよ千鶴先輩!」

「ちょ…!これ予想以上にイタタタ……!」









耳の後ろの謎の感覚に襲われ、スタートが一歩出遅れた。ハチは私をお姫様抱っこよろしく抱き上げ


湖の中に飛び込んだ。









「……お、おぉ!息が出来る!」

「すげぇ、呼吸できてる…!」

「うおおおヒレもある!すごい!」

「千鶴先輩ますます人魚みたいですよ」

「誰がマーピープルやねん!」
「そこまで言ってないですよ!」


「さーて私のせいで出遅れちゃったね。ごめんごめん」
「お気になさらず」

「それにしてもお宝ってなんだろうね。ハチの鼻頼りにしてるよー」
「お任せください!」



残り、あと59分。
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