八章:舞踏会の夜
「じゃじゃーん!どうよ!」
「おぉー!綺麗だな千鶴!」 「…もそ……」
「もっと褒めて!私褒めてもらってから伸びる子だから!」
「いや、もういい」 「小平太ェ…」
真っ赤なマーメイドドレスに身を包み部屋を仕切るカーテンを開いた。髪の毛は先にタカ丸にセットしてもらい、あとは申し訳程度に化粧をしてドレスを着るだけ。まだ靴は疲れるからスニーカーのままだけれど、足首より上は完璧である。いつでも嫁に行ける。作兵衛に。だって作兵衛が赤いドレスがいいって言うから買ったのよ!!赤で仕立ててもらったのよ!!んんんんん赤い生地を指差す作兵衛の可愛さといったらねぇわ!!!!
「はい、じゃぁ小平太も後ろ向いて」 「おう!」
結局恵々子は小平太と踊ることになったようだし、長次はなんと観客として遊びに来ていたしんべヱの妹であるカメ子ちゃんをペアに誘ったようだ。お前ら、その、身長差気を付けろよ。唯でさえガタイデカくて身長高いんだからな…。 小平太のもさもさした髪をいつもより低い首ぐらいの位置で結んでやった。小平太のドレスローブの色は深い緑(ほぼ軍服である)なので髪を結ぶ紐をいつもの白い紐ではなく私の私物だが黒で結んでやった。長次はバーテンのような黒いドレスローブだったので、白い髪ひもでも違和感はないな。だけどいつもポニテの位置で結んでいる二人がいつもより随分低い下の位置で髪を結んでいるのはちょっとカッコイイな。くそう恵々子もカメ子ちゃんも幸せだな。ちゃんとリードしてもらえよ。
はいできたと肩を叩くと、小平太は満足そうににっこり笑ったのだが、長次にぐっとネクタイを直され、ちょっと不機嫌そうな顔になってしまった。我慢しろよ、その格好でネクタイ緩めるのは駄目だって。
もうほとんどの人間が寮を後にして大広間へと移動したらしく、寮の中には私たちと下級生がちょっとしか残っていなかった。着替えていたり、相手をまっていたり、お菓子食べてたり。まぁこれからダンスパーティーだし、あんまり腹減らしとくのもあれだしね。っていうか私もそろそろ靴履き替えて作兵衛のとこいこ。作兵衛もう大広間行ったかな。
「あ、千鶴先輩、」 「おっ、作兵衛…………ウオォオオオアァァァアアアアアアアアアなんて可愛いんだ作兵衛!!!そんな衣装にしてもらったのね!!可愛いぞ作兵衛!!作兵衛ェェエエーーーーーッッ!!!!」
「そんな、!千鶴先輩もお綺麗です!」
「なはは!ラブラブだな!じゃぁ千鶴、私たち先に大広間行ってるな!」 「…遅れるなよ…」 「あ、うんじゃまたあとでね」
開かれたカーテンの向こうへ、小平太と長次は消えて行った。作兵衛を手招きすると、おずおずとカーテンの中に入ってくるその姿があまりにもかわいかった。黒の正装とはいえ、胸元のリボンは赤く、赤いボタンで前を止め、わたしより小さい身体なのに、しっかり大人びた顔をしていた。髪型も小平太たちと同じくいつものポニテより低い位置で結ばれており、でも前髪のぴょんぴょんは変わらず顕在していた。 何故私が此処まで興奮しているのかというと、当日までのお楽しみということで、私たちは両者で別の店員に仕立てを頼んでいたのだ。作兵衛が赤がいいと言ったので私は作兵衛に黒がいいと生地を指差し、お互い別の部屋で仕立てをしてもらっていた。まぁ六年ここで生活していて正装を必要とする場面は多々ありましたよ。魔法省行くのに制服では行けないし。それにより顔見知りになった此処の店主には作兵衛をとびっきり可愛くしてくれと頼んでおいて正解だった。ぐうかわ。まじ作兵衛ぐうかわ。このままホグズミートでデートしたい。
だがしかし、作兵衛には一つミスをしている部分がある。
「……作兵衛」 「はい?」
「それ、私にくれるの?」
さっきからずっと腕を後ろに回しているのが気になっていたのだが、それがなんなのかはすぐ解った。長次が視線を作兵衛の背中に注目していたのも気になっていたのだが、その後閉められたカーテンの風で届いた花の香り。まじか作兵衛。まじなのか。作兵衛まじクソ紳士。
「!バ、バレてしまいましたか…」 「いい匂いがする」
「千鶴先輩のために摘んできました!」 「作兵衛が!?」
「はい!受け取ってください!」
決して、花屋に並ぶような綺麗な場所を選りすぐった花束ではない。だけど真っ赤で、綺麗な薔薇は、まっすぐ私へ向いて届けられた。作兵衛から受け取ったその花束は私が来ているドレスよりも深い赤だった。魔薬委員会が管理している畑の近くにある花畑で摘んできたのたという。受け取った花束。空になった作兵衛の手には小さい傷が沢山ついていた。あぁこんなになるまでこれを摘んできてくれただなんて、なんて可愛い後輩なんだろうか。
「嬉しい…!本当にうれしいよ作兵衛!惚れる!惚れた!」 「本当ですか!」 「うん!超嬉しい!」
私はその花束から一本薔薇を抜き取りまとめ上げておいた髪の毛にぐるりと巻きつけた。
「どうよ!」 「綺麗です!」 「さんくす!」
薔薇の花束をベッドの上に置いて私は机の上から傷薬が入った入れ物を手に取った。これならあっというまに傷口は消える。私のためにボロボロになった手のひら。嬉しいけれど、この傷をそのままにするのは可哀相だ。掌に薬を塗りこみ、作兵衛が何度か掌をぐーぱーした。ちょっとヒリヒリするけど我慢してくれ。 ベッドに腰掛けスニーカーを脱ぎ、作兵衛が選んでくれた靴に履き替えた。ほぼピンヒールなのだが、まぁ仕方あるまい。このドレスにスニーカーもありえないだろうしね。
「かたっぽ、私にやらせてください!」 「へ、」
跪いた作兵衛はシンデレラの王子様のように私の片足をとり、靴に私の足をはめた。ぴったりはまった靴。にっこり笑った作兵衛はあまりにも可愛くて、私は危ない道に走りそう。え、なんなのこの12歳。
「…作兵衛」 「はい?」 「結婚しよ?」 「!?」
靴を履いて立ち上がり、踵を叩く。うん、大丈夫。サイズもぴったり。靴擦れも無。ドレスを巻き込むような心配は皆無。作兵衛は可愛い。私勝ち組。
「さ、行こう作兵衛。リードしてちょうだいね」 「はい!おまかせください!」
恐らく頭1,5個分ぐらいは作兵衛の方が身長が小さだろう。抱きしめれば胸ぐらいの位置であろうが左門からのリークによると身長差がある私とのダンスのため留三郎と必死にステップの練習をしていたと聞いた。もうその時点で私の頭の中はヤバイ。どんだけ可愛いんだこいつ。寮長やっててよかった。代表選手でよかった。
作兵衛の差し出した片腕に掴まり階段を降りていくと、もうほとんどの生徒は大広間前に集合していて、扉の近くは賑わっていた。あ、兵助もいる。よかった、足完治したんだ。
「作兵衛!?お前千鶴先輩とペア組んでたのか!?」 「どうりで僕らに教えてくれないわけだよ…!」
「っていうかお前らこそペア組めてたのかよ。一昨日までどうしようって悩んでたくせに…。あれ?孫兵……は、ジュンコと踊るよな、うん、解ってた」 「解ってるなら聞くなよ。ねぇジュンコ?」
一度私から離れた作兵衛は藤内と数馬の側でわいわいと喋りはじめた。そうか、作兵衛は私とのペアを秘密にしていたのか。いや、そりゃ秘密にもしたくなりますよね代表選手と踊るなんて。あ、ジュンコリボン巻いてる。きゃわわ。
「千鶴!おめぇ着飾れば着飾るほどべっぴんさんになんなぁ!」 「与四郎こそ!真っ白って……あんたね、結婚式じゃないんだから…」 「風魔の正装は白って伝統があんだよ。ほれあそこ見ろ、喜三太も白だべ?」 「あら本当だ。それにしてもカッコいいよ与四郎。与四郎と踊れる子は幸せ者だね」
「…本当はおめぇと踊りたかったんだけどなぁ」 「言わないの。代表選手ならペア組めないんだから、それにこのあいだの練習で踊ったじゃん」 「だども、」
「それに、」
「うわっ、」 「私にはこんなに可愛いパートナーがいるからさ」
ちょんと私のドレスを掴んでいた作兵衛の手取り与四郎に見せつけると、与四郎もふわっと笑って作兵衛の頭をぽんぽんと撫でた。
「おめぇも幸せ者だべぇ。千鶴と踊れるなんて、羨ましいなー」 「あ、ありがとうございます」
与四郎はそんじゃなと大広間の前の扉の近くへ歩いて行った。はぁぁ与四郎もカッコいいなぁ。白のタキシードってお前それ完全に新郎さんやないかい。あ、新婦さんは風魔の女の子か。あぁ私に向かってドヤ顔してる。ごめん私与四郎よりかっこいいペアいるから。私も思わずドヤァ…。
「よぉ千鶴」 「おや義丸さnうわああああやか可愛いよあやか…!なにこのドレス姿…!青!人魚みたい!」 「よ、義丸さんに選んでもらったんです!」
「俺にかかればこんなもんよ」 「義丸さんもいつものタンクトップからスーツはかなりギャップがありますねぇ」 「惚れたか?」
「今日はあやかがパートナーでしょう?そんな台詞私に向けちゃだめですよ」 「おっと、そうだったな。そんじゃ嬢ちゃん、行こうか?」
「失礼します千鶴先輩!」 「うん、じゃぁまた後でね」
義丸さんとあやかペア可愛い。っていうか義丸さんのスーツ姿の破壊力ヤバイ。多分うちの義丸さんファンの女生徒死ぬかもしれん。
「千鶴!」 「?り、利吉さん!!」
「やぁ富松作兵衛、君が千鶴のペアなんだって?」 「は、はい!お久しぶりです!」
遠くから名を呼び手を振ったのは、まさかの利吉さんだった。利吉さんと言えば今闇払いとしてあっちこっちで活躍されている人だ。忙しくて休みなんか今ほとんどないとうかがったのに、まさか学園に遊びに来られるだなんて! 利吉さんと言えば山田先生の御子息であられて、この学園の生徒の憧れの的だ。闇払いを目指す者は利吉さんを目標とし日々頑張っているといっても過言ではないのだから。私も闇払いを目指しているわけではないけれど、利吉さんには常々憧れていた。眉目美麗で頭脳明晰。こんなに完璧な男性他にいないでしょうに。
「やっとまとまった休みが取れてね、トライウィザードトーナメント、観に来たよ」 「本当ですか!?」
「もっと早く休みを取って、今日という日は君にパートナーを申し込もうと思ったんだけど、こんなに素敵なパートナーがいるようでは私の出番はないようだね…。あ、いや、富松作兵衛、そんな目をしないでくれ、千鶴をとったりはしないよ」 「え、あ、い、いや」
ダンスパーティーに出席されるのかと聞いたのだが、休みが決まったのは今日という日で、今からパートナーを掴まえるのも難しいのでヴァイオリン弾きとして参加するらしい。なんだよそれふざけんなよイケメンすぎだろ伝子さんと踊れよ。
「それじゃぁ、第二の課題頑張ってね。困ったら、いつでも相談にのるよ」 「ありがとうございます!」
利吉さんは大広間の中に消えて行った。
「作兵衛、私たちもそろそろ行こうか?」 「はい!どうぞ!」 「失礼します王子様!」
差し出された片腕に私は腕をからませた。作兵衛に連れられ閉じられた大広間前の扉に近寄ると、仙蔵、伊作、義丸さんに、与四郎がペアを引き連れてドア前で待機していた。そうだった、代表選手は一番最初に踊るんだった。すっかり忘れてた。
並んだ順番は一番後ろから二番目で、仙蔵と伊作に挟まれる形になった。ぴっしりと正装を着こなす仙蔵も今日は髪を下で結び、邪魔にならない程度に団子のようにまとめあげた。伊作はいつも通りのポニテだが、泥だらけの制服じゃないだけでもかなり印象は違う。カッコいい。仙蔵と伊作のはめてる白い手袋になりたい。
部屋の中から壮大な音楽が聞こえ、扉は左右に大きく開かれた。強張る作兵衛の肩。頭を小さくなでてやれば、ふにゃりと笑って緊張をほぐした。入場すると大広間はまるで別世界で、いつもの食事をとっている部屋とはまた違く、海の向こうの洋館の内部のような姿になっていた。真ん中にぽっかりあいたスペースの床は大理石で、代表選手は各地に散らばり、止まる音楽に耳を傾け、いつでも踊りはじめられるようにパートナーと息を合わせた。
「千鶴先輩、」 「ん?」
「もう、手の傷治りました」 「そうでしょう?私が作った傷すりなんだから完璧よ」 「ありがとうございます!」
「うん、今夜はよろしくね!」 「お任せください!」
大広間に響く音楽とともに、作兵衛は私の腰に手を回し、傷のなくなった手は私の手を取り、軽やかなステップで私たちは踊り始めた。
次々に観ていた他のペアたちもステージに上がりダンスを始めた。
小平太も長次も、文次郎も留三郎も、いつもの険しい表情からは一変。楽しそうにペアの女の子たちと踊り、
今、命をかけたトーナメントの最中だということなど、完璧に忘れているほどにいい笑顔だった。
音楽とともに始まるダンス。
夜は、まだまだこれから。
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おまけ落書きだよ!!!
いらねぇええって人はここで戻ってね!!!
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