「これは大変だ!左内頚動脈海綿静脈洞婁です!」
「ではしじゅちします!」
「先生お願いします!」


「待て待て待て待て待て!!!やめんか伊作!!変なこと教えるな!!」


「やぁ留三郎、あ、お茶?ありがとう!それにしても名前ちゃんはいい医者になるよ」
「平仮名せんせいになれるー?」
「なれるさ、僕が病気になったら平仮名が手術してね」
「わかったー!」
「それより僕と結婚しないかい?僕と結婚すれば将来玉の輿だし院長夫人になれるよ?」
「たまこし?いんちょーふじん?」

「やめろー!!変な知識を教えるんじゃない!!」


伊作が家に遊びに来た時点で変なことを教え込まれるであろうという不安はあったのだったが、まさか医者ごっこを開始するとは思わなかった。なんだ今の病名。五歳の医者ごっこには早すぎる内容だろう。俺だって知らんぞ。

茶を入れお菓子を部屋に持ち込むと、名前は伊作とくまのぬいぐるみを俺の漫画を手術台に見立ててその上に置き、シャーペンと定規でくまの手術を開始するところだった。手術という言葉がしっかり喋れていないところがまた可愛いが、変な知識を入れないでほしい。

テーブルの上に茶と貸しを置くと名前はシャーペンと定規を置いて俺に「ありがとー!」と言った。今日は伊作が持ってきてくれたケーキだ。俺のショートケーキのイチゴは全て名前のもの。これは法律で定められている。


「ほら名前、俺のイチゴもあげるぞー」
「じゃー平仮名は、とめにいちゃんになまくりーむあげるね!あーん!」
「おっ、ありがとな。あーん」

「留三郎、鼻血鼻血!」
「イチゴだ」
「違うよ!?」


そういえば冷蔵庫の中にはもう食いきれんほどの菓子が入っている。大体は長次の手作り差し入れ菓子なのだが、仙蔵が買ってくる菓子もある。冷蔵庫の外には他の連中が名前のためにと毎日のように置いていく菓子ばかりだ。そろそろ賞味期限を確認しながら食わないとヤバいことになるのかもしれん。
それに仙蔵に至ってはデザイナーを希望しているからかよく名前の服を仕立ててはうちに届け、写真を撮らせろと名前の写真を撮って消え去る。何故あいつが名前の服のサイズを把握しているのかと言うと、一度抱きしめたときに大体把握できたらしい。俺より変態じゃねぇかふざけんな通報するぞ。

伊作は家が近所だから毎日のように遊びに来るのだが、他の連中はあまり遊びには来ない。理由は「危ない道に走りそうだから」だという。「お前のようにはなりたくない」と言われた時はどういう意味だとさすがの俺もキレた。名前を愛して何が悪い!こんなに可愛いのに!天使を愛でて!なにが悪い!!


「とめにいちゃんあしたがっこ?」
「ん?いや、土曜日だから休みだが」
「おしごとはー?」
「バイトも明日は珍しく休みだぞ」

「ほんとー?あのねぇー、平仮名、とめにいちゃんとどっかおでかけしたい!」

「おでかけ?」
「いいじゃないか留三郎、バイトも休みなんだろ?行ってきなよ!」


そういえば、買い物以外であまり名前と二人で出かけたという記憶がない。長い間この家にいるが、俺がバイトだったり親が仕事で留守番してたりでなかなか出かけたような記憶はないな……。

なるほど、これはデートだな。


「よし、じゃぁ明日どっか行くか!」
「ほんとー!?やったー!いさくにいちゃんもいっしょにいこ!」
「伊作は明日暇か?一緒にどうだ?」

「うーん、誘ってくれてありがたいんだけど、僕明日は黄昏大の雑渡教授の公開講習を特別に受けさせてもらえることになってるから…」

「いさくにいちゃんおべんきょうするの?」
「そうなんだぁ、だから名前は留三郎とデートしておいで?」
「うん!とめにいちゃんと、で、デートするー!」

「伊作なぁ伊作、こいつは天使か?天使なんだな!?おい!!」
「ところがどっこい、人間なんだよこれが」


それじゃぁそろそろと伊作は立ち上がり、名前に別れを告げて家から出て行った。なるほど、伊作は大学へ行くのか。なら無理に誘うことは出来ないな。

今日は親は遅いのか、いつもなら帰ってくる時間に家の扉は開かなかった。だったら飯を作らねば。名前はお気に入りの俺の小さい時のエプロンを腰に巻いて、台に乗り、まな板の上で人参を切る作業に取り掛かった。名前は最近包丁を扱えるようになったのだ。まだまだ見ていないと危ないが、「とめにいちゃんのおくさんになるれんしゅう!」と毎日のように料理を手伝っている。可愛くてしょうがない。俺は犯罪者だ。もはやここまでくれば犯罪者だと堂々と胸張っている。こんなに可愛い名前を愛でずして生きている意味などなし。

いつ愛でるか?今でしょ!

名前が切った人参を鍋にぶち込み、シチューが煮えるのを待った。横でサラダを作る俺に、名前は明日が楽しみだと言った。


「そういえば出かけるとは行っても行き先を決めてなかったな。名前、明日は何処へ行きたい?」
「うーん?えっとねー、平仮名、とめにいちゃんといっしょならー、どこでもいいー!」
「〜〜っ!!なんて可愛いんだお前は!!」
「きゃー!」

鍋の火を止め器に移す。お盆に二つ乗っけてやると、名前はよろよろしながらもテーブルへと運んで行ってくれた。それを追うように俺も飯とサラダを運び、エプロンを外して椅子に座った。いつもなら隣の椅子に座るのだが、親がいないので注意するやつがいない。そういうとき、名前は俺の膝の上で飯を食うのだ。よう、犯罪者とは俺のことだ。


「「いただきます!」」


手を合わせ、飯を口に運ぶ。
と、そこへついていたテレビ番組がCMにはいった。そして放送されたのは、イルカが水面から飛び出し、中吊りになってるボールを口先でタッチしている映像だった。大川水族館、そういえばそんなのがちょっと遠くにあったな。

「…名前、水族館行とかどうだ?」

「すいぞくかん?」
「そうだ。お魚さんがいっぱいいるぞ」
「おさかなさんがいっぱいいるの?みたい!いきたーい!」

「じゃぁ明日は水族館だな。よし、食ったら明日の準備すっか!」

「うん!せんぞうにいちゃんがつくってくれた、あおいわんぴーすきるの!」
「よーし、じゃぁそれも出しておかないとな!」
「やったー!ごちそうさまでした!」
「早ッ!?」


食器を片づけて風呂に入り、俺の部屋に戻ると、名前は箪笥をひっくり返して仙蔵から貰った青いワンピースを探し始めた。あまりにも仙蔵が張り切りすぎて服がしまいきれないので名前専用の箪笥を俺が作ったのはつい最近の話だ。
やっと見つけ出したワンピースをベッドの下に置き、名前はたのしみー!とはしゃぎながら布団へ入っていったので、俺も荒ぶる理性を押さえながら布団に入るのだった。相手は五歳相手は五歳相手は五歳相手は五歳相手は五歳……

「とめにいちゃんおやすみのちゅー」
「っ!やったなこの野郎!」
「きゃはー!くすぐったい!」

相手は五歳相手は五歳相手は五歳相手は五歳相手は五歳相手は五歳!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
































「うわぁ………!おっきぃー…!とめにいちゃんあれなに!?」

「あれはエイっていうんだ」
「えーっていうんだ、すごーい。おいしそう!」
「……え、エイは食用なのか…!?」


青々とした水槽の中をさまざまなスピードでいろんな魚が泳ぎまくり目の前を通り過ぎていく。正面にべたりと張り付いたエイの大きさに、名前はびっくりして目を奪われてしまっていた。俺が小さい時はこのエイにビビッて泣いた記憶があるが、名前は泣かないのか。なかなか大物だな。

「わー!わー!とめにいちゃんあれなにすごーい!」
「ん?ありゃマンボウだ」
「まんぼー!ひらべったい!」

「名前もマンボウの真似ー」
「むー!」


名前の頬に手を当てむぎゅっと顔をつぶすと、名前は楽しそうにむーっと顔をつぶして笑った。ハァァアアアァァァアアアアーーーーッッ!!可愛い!!可愛い!!めちゃくそ可愛い!!どうしよう!!まじでどうしようかなこの天使!!攫おうかな!?いやもう俺んちの子だったわ!!キスしたいですね!!このままちゅーってしたいですね!!!!

生憎だが今日は土曜日、家族連れもいればカップルもいる。なかなか人が多くて混んでいる。俺の腰ほどもない身長の名前では、抱え上げてやらないとなかなか水槽を見ることは出来なかった。仙蔵が仕立てたワンピースを着ている可愛い子を抱っこしているのは俺だ。だがこれは仕方がないことだ。罪にはならないはずだ。そうだろう。

天井まで水相違なっている場所を抜け、別の場所へ来ると、また人だかりで俺は見えるがきっと名前には見えないであろう。ぴょこぴょこと頑張ってジャンプする名前を一旦写メに収めておき(五人に転送済み)、名前を再び抱え上げた。


すると、







「ぶわーーーーーーーーー!!!」







「どうした名前ッ!?なんだどうした!?」

「やだー!すごいおっきー!こわーい!やー!!」


急に名前は大声で泣き叫び始め、俺の首にしがみついた。なんだと水槽の方に顔を向けると、そこには尋常じゃない大きさのサメがゆらりと大きく口を開けて横切って行ってしまった。こ、こいつか!名前を泣かせたのはお前かこの野郎!!


「だ、大丈夫だ名前!ほら!もういなくなったぞ!」
「こわーい!やだー…!」
「サメはもういないぞ!ほら!もうだいじょうぶだ!」
「うううこわいよー…!」


あまりにも大きな声だったからか、周りの視線をかき集めてしまっていた。あらあらなんて言いながら笑うお母さん方にすいませんと苦笑いし、俺と名前はいったんその場を離れて土産コーナーの前に移動したのであった。

「大丈夫か?もう怖いのいないぞ?」
「うー、こわかったー…」
「ごめんな、俺が何も考えないで持ち上げちまったから…」
「んーん、平仮名も、ないてごめんなさい…」

「…………おっ、名前、サメがいるぞサメが!」
「!?」


ほら、と渡したのは土産コーナーの店頭に飾ってあった、なかなかデカい大きさのジンベエザメのぬいぐるみだった。
さっき名前が見た種類のサメとはちがうが、これならいくらか可愛くなっている方だろう。

指差す先のぬいぐるみを見て、名前は目をぱっと輝かせてそのサメのぬいぐるみに近寄った。





「……かわいー、さめさんかわいー…」






お前の方が可愛いわこんちくしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!





「名前!それ買うぞ!」
「えー!やったー!」

「他に欲しいものないか!?全部買っちゃうぞ!!」
「ない!さめさんだけほしい!」
「すいませんこれあるだけください!」
「いっこでいいの!」
「一個でいいそうです!!!」



結局その後名前があまりにも可愛すぎて名前が気に入ったであろうと俺が判断した物は全て買占めたのであった。




家に帰ってぬいぐるみを部屋中に飾り、

「とめにいちゃんのおへや、すいぞくかんみたいねー!」

とはしゃぐ名前に鼻血を出し倒れたのは蛇足である。





















デートだぜマイ・ガール!

何処にだって連れてってやるよ!!!










「いさくにいちゃんもこんどいっしょにいこうね!」
「いいなぁ水族館。でも僕が行ったら水槽割れそうで怖いからやめとくよ」

「さすがにそこまで不運じゃないと思うけどな」










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水族館に行っただけで食満のケータイのSDカードは
メモリ不足になったんだそうな。めでたしめでたし。
(※大丈夫だ、予備がある)


第二位、食満ペド三郎くんでした!!
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