こんにちは。私はただのモブです。っていうか、尾浜くんのクラスメイトの一女子です。
尾浜くんといえばこの学年1のプレイボーイであり同じクラスの久々知くんに次いで成績優秀な人です。まぁあの風貌からは誰も想像できないと思うのですが。

なんでってそりゃもちろん…あのアクセサリーとかあの制服の着崩し方とか…。そうですね、世間一般としては「チャラ男」とか「不良」とか言われるんでしょうね。

女子にも男子にも分け隔てなく優しくて、それでいて「恋人」という存在を絶やしたことがないという伝説を持つ彼ですが、まぁ、その、もちろん私もあの尾浜くんの可愛い笑顔にやられた一人なのですがね。クラス中の女子は久々知くん派か尾浜くん派にわかれるって感じなんです。私はもちろん尾浜くん派なんですけどね。比率?どっこいどっこいじゃないですか?

そんな尾浜くんに最近、本命の彼女が出来たみたいなんです。ほら、今もケータイの待ち受けを眺めてうっとりしてる尾浜くん…。


「はぁ〜〜〜〜………名前まじ可愛い……!!」

「新しい名前の写真!?勘ちゃん俺にも写真見せてよ!!」
「見る!?今朝俺の腹の上で寝てた写真!!」

「どれdうわぁぁああああ!!」
「可愛いだろ!?な!?可愛いだろ!?」


その方がそんな人なのかと言うのはクラスの誰も知らないんですよ。多分知ってて、久々知くんと鉢屋くんと竹谷くんと不破くんだけだと思うんです。

「今日お休みだから家で留守番してんだけどさぁ、出かけに行かないでって俺の制服掴んじゃって…!!」
「ギャンワイィイ」
「お前が迎えになんか来なけりゃ俺はあのまま二度寝してたのによぉ!」
「そんなこったろうと思って迎えに行ったのだ」

っていうか、あの尾浜くんがここまで一人の女性の虜になるってこと今までなかったみたいで、クラスの女子も他のクラスの女子も驚きに頭を抱えています。勘ちゃんなんで…!とかいいながらハンカチを噛みしめているのはその謎の「名前」さんという方の虜になる前の尾浜くんの彼女さんです。噂によるとその「名前」さんに出会ったから別れを告げられたんだとか。そりゃますます「名前」さんという方の存在は許せませんよねぇ。
尾浜くんのお腹の上で寝てるだなんて……お泊り?同棲?なんなの?


「兵助俺もう帰りたい」
「そうはさせない」
「名前に逢いたい!!!」
「勘ちゃんだけそうはさせない!!」

「おい尾浜、久々知、授業中だってことわきまえろ」

「「ウィッス」」


木下先生に注意されながらも尾浜くんはケータイの画面をなおデレデレした顔で見つめております。凄い、どれほど魅力的な彼女さんなんだろう。

きっとこの学年中の女の子が憧れるような素敵な人なんだろうなぁ。






































画面を見つめていて、突然画面にメール受信の文字が。送信者は「母ちゃん」の文字。俺が学校にいる間に母ちゃんからメールが来るなんて珍しいことだ。そういえば母ちゃんも今日は家にいるはずだ。何かあったのかな。っていうか大体俺が学校にいるときにメールが来るって言うのは帰りに買い物を頼むときとk

「なぁぁああああああぁぁぁああああああああああーーーーーーーーーーーーッッッッ!?!?!?!?!?」

開いた画面に現れた母ちゃんからのメールに俺はあまりにもビックリして思いっきり椅子をひっくり返して床に身体を投げた。どどどどっどどどdddっどおどどおどういうことだってばよ!?!?!?!

「かかかか勘ちゃん!?」
「どうしよう兵助!!ど、どう、どうし、どういうことだってばよ!?」
「勘ちゃん落ち着け!!どうした!!」

「おい尾浜どうした落ち着け!なにがあった!」

「どどっどdどうしよう木下先生!ちょ、だ、d、名前、名前が!!名前が!!!」
「誰だ!?」
「名前が!!名前が!!!」

ケータイをぶんぶんと振り回しながら暴走する俺に駆け寄ってきた木下先生の肩をガッシリ掴み、ぶんぶんと先生を振り回す。この光景を全く理解できないクラスメイトの視線を一気に掻っ攫っているのが良く解る。

だって、名前が!名前が!!名前が!!!









「尾浜くーん、君に面会だよぉー」

「こんにちは!かんちゃんにいちゃんはいませんか!」







「ぎゃぁぁあーーーッッ!!名前ーーーーッッ!!!」
「かんちゃんにいちゃーん!」


がらっと教室の扉が開いて、入ってきたのは、小松田さんが抱っこしている、可愛い可愛い名前!!!!

小松田さんから離れて走り来る名前は、五歳児とは思えないジャンプ力で俺の胸に飛び込んできた。


「何してんの名前!?なんで学校来ちゃったの!?」
「かんちゃんにいちゃんあいたかったー!」
「いや俺もだけど!いや、俺もだけど!!」

「へーすけにいちゃんこんにちは!」
「なんで名前此処に来たの…!?何してんの!?」


そして丁度鳴る学校のチャイム。此の音が鳴ればみんな学食へ行ったり隣のクラスへ行ったりとするのだが、クラスメイトは誰も動かない。そりゃそうだ。今ここにいるわけがない大きさの女の子が此処にいるのだから!

母ちゃんからのメールは、「そういえば30分くらい前に名前ちゃんがあんたに弁当届に行ったわ」という内容だった。あまりにも急すぎて俺はひっくり返ったのだった。
だって!まさか!学校に!名前が!来るだなんて!思いも!してなかったんだからぁぁああーーーっっ!!!


「で、名前、な、何しに……」
「平仮名かんちゃんにいちゃんにおべんとーとどけにきたのー」

「……べ、弁当……?…なんで弁当なんk…………あ、そっか…!」


名前がリュックをおろして中をごそごそと漁り始めた。

そういえば、今朝俺は弁当を家に忘れてきてしまったのだった。久々に母ちゃんが仕事が休みで弁当を作ってもらったのだった。だけど兵助が迎えに来たことに気を取られてうっかりテーブルの上に忘れてしまったのだった。来る途中の信号に止まってる時に思い出して、まぁ夜に食えばいいかとそのまま学校へ向かってしまったのだった。
学校に到着してから「貴様」と一言だけ母ちゃんからメールが来たときは殺されるかと思った。

まさかその弁当を名前が届けてくれるとは。


「名前、あ、いや、その、」

「かんちゃんにいちゃん…………平仮名にあいたくなかったー…?」


リュックを漁る手を止め、名前はじんわりと目に涙を浮かべた。





「〜〜〜〜〜〜〜っ!!んなわけねぇじゃん逢いたかったよーーーーーっっっ!!!」

「きゃー!」




あぁなるほど、ただのシスコンか、とついに理解してくれたのか、動き出さなかったクラスメイトは名前を視界に入れながらもみんなばらばらと動き始めた。

顔は怖いが子供は大好きな木下先生はこの状況を黙って見守っていた。きっと先生も名前の可愛さに脳内がパンク寸前なのだと思う。俺は抱きしめていた名前を下して授業が終わってもなお教室から出ていく気配のない木下先生の処へ名前を連れて行った。


「名前、この人が俺の先生だよ」
「せんせー…?」
「先生、こいつがこの間話した新した俺の女です」

「おんな?……勘右衛門の妹なのか?」

「は、はじめまして!平仮名です!かんちゃんにいちゃんに、おべんとう、とどけにきました!」

「おぉおぉ、偉いな。そうかそうか、いくつだ?」
「ごさい!」

「そうかそうか。私は木下鉄丸だ。勘右衛門より大人だなぁ」
「ほんとー?平仮名、おねえさんみたい?」
「おう、勘右衛門より立派なお姉さんに見えるぞ」
「やったー!」

「ちょっと先生酷い!!!」


そしてあんねーと俺の方をくるりと向く名前。
どうやらこの後母ちゃんがちょっと出かける用事が出来てしまったため、家には今誰もいないのだという。ついでに弁当も届けさせて俺に名前を預けてしまおうということなのだろう。全くここは託児所じゃないんだけど。母ちゃん無茶苦茶すぎんだろ。
てなわけでと事情を説明すると、木下先生はさすがにしょうがないなと言い、次の授業の先生に交渉しておいてやると仰った。名前と一緒に頭を下げると、木下先生は名前の頭を撫でて教室を出て行かれた。

つまり、午後の授業は名前と一緒ということだ!素晴らしいじゃないか!!なんてこった!!兵助と喋ってる余裕もないわ!!!



「あれ!?名前!?」
「なんで名前がいるの!?」
「おほー!名前だー!」


「あー!らいぞーにいちゃんとさぶろうにいちゃんと、はちにいちゃんだー!」

「や、やめろ名前ー!!あいつらに近寄るな!!食われるぞ!!」
「食わねぇよ!!」

その後うちのクラスで弁当を食う予定となっていた三人が教室へ来て、教室はさらに騒がしい空間と化してしまった。
窓側一番後ろの席に座る俺の膝の上に名前が俺の方を向いて座り、えへへと首筋に顔を埋める名前ンギャワィイイイイ。きっと今俺はクラスメイトには見せたことのない気色悪いレベルの気持ち悪いデレデレ顔をしていることだろう。だからなんだ。好きに言え。俺は離さんぞ。膝の上に座る名前を離しはしないぞ!!!


「名前、お弁当食べさせて!」
「いーよ!ちょっとまっててね!」

膝の上でもぞもぞとリュックを漁り、中から出てきたのは名前が使ってるにはデカい弁当箱。これは俺の弁当箱だ。
黒い蓋を開けて中を開くと母ちゃんが作ったであろうおかずがぎっしり詰め込まれていた。んまそー。

「かんちゃんにいちゃんなにたべたいー?」
「んー、卵焼きかなー」
「わかったー!まってねー!」


名前用に入っていたフォークでぶすっと卵焼きをさし、




「かんちゃんにいちゃんあーん!」




と、俺に卵焼きを差し出す名前だけで、きっと俺はご飯を五合は食える。

鼻を押さえて机に顔を伏せるのは兵助と雷蔵と三郎と八左ヱ門。追加してクラスの連中。はい、そうです。名前は尋常じゃないぐらい可愛いんです。


「おいしー?」
「うまい!名前が食わせてくれたからもっとうまい!」

だけど母ちゃんの味付けじゃないなぁ。いつもと違う。砂糖が多めだ。なんだろ、スーパーで買った卵焼きかな。まぁいいやうめぇし。
うーん?と首をかしげると、名前はなぜか顔をふせた。


「……」
「…名前?」

「あ、あんね、かんちゃんにいちゃん…」
「うん?どうした?」
「ほ、ほんとにたまごやきおいしー?」
「うん…?お、おう、美味しいけど……」







「……そのたまごやき、平仮名が、おばちゃんにおそわりながらつくったの!」






「おい勘右衛門その卵焼き寄越せ」
「冗談じゃねぇ兵助黙ってろ」

「勘ちゃん卵焼きと三郎交換しない?」
「雷蔵…!?」
「三郎いらねぇし卵焼きはやらねぇ」

「いや俺も名前の卵焼き食いたい!食わせろください!!」
「やらねぇよ引っ込んでろボケ!!」

「名前、俺にもその卵焼きあーんして」
「いいよー!はちにいちゃんあーん!」
「ふざけんな八左ヱ門テメェエエエエエエ!!!!!」
「ゲフゥ!!!」

名前の爆弾投下により一気に目の色を変えて俺の弁当目がけて一直線に箸を伸ばし始めた。名前からフォークを奪い取り全員の目を狙うが全員が機敏な動きを見せそれを全て回避しやがった。卵焼きは二つしか入ってないのでこれを食われたら俺はきっと泣いて膝から崩れ落ちる。


「名前!口開けろ!」
「えー?もがっ」


最後の卵焼きをフォークでさして、ぱかっと開けた名前の口の中に突っ込んだ。その瞬間膝から崩れ落ちる18歳×4人。なんて情けない大人。名前はこうなるんじゃないぞ。
口の中に広がる甘い味に、名前は徐々に驚きの表情からふにゃっと顔をゆがませた。


「な?美味しいだろ?」

「……!あまーい!おいしー!」

「名前は料理の天才だなー!」
「てんさい!?ほんとー!?」

「勘ちゃんのお嫁さんになってくれよ名前!」
「なるー!平仮名かんちゃんにいちゃんのおくさんになるー!!」



五歳児が俺に抱き着いていますが、これは犯罪ではありません。


横で膝から崩れ落ちる四人に、俺は名前をキツく抱き寄せながらドヤ顔をかますことに必死だったのだった。





















ありがとうマイ・ガール!

今度は俺のために味噌汁作ってね!





「名前、兵助兄ちゃんと結婚しようよ」
「うーん、平仮名おたうふつくれないからだめー」

「雷蔵兄ちゃんは?」
「さぶろうにいちゃんがいるからだめー!」

「三郎」
「いや今のは私のせいじゃないでしょ!?」

「ハチ兄ちゃんと結婚は?」
「はちにいちゃんむしさんいっぱいだからやー!!」


「勘ちゃんと結婚すんだもんなー!」
「するー!」


彼らは後程語った。今日ほど勘右衛門のことを嫌ったことはない、と。









-----------------------------------------------------



多分勘ちゃんは彼女は数多いそうだけど
自分からハマらないと愛せない体質だと思う。体質ならしょうがないよね。うん。


てなわけで第3位尾浜の勘ちゃんでした!!!!!!!
×