「名前、」
「!へーすけにいちゃん!」
「俺もいるぞー」
「はちにーちゃんだ!こんにちは!」
「おう、こんちは」

「おかえり、帰るよ名前」
「へーすけにいちゃんもおかえりー!」
「んー!」
「あいたかったー!」
「〜〜っっ!!」


建物の玄関で私服の男が五歳の女の子を抱きしめている姿を見て周りの親たちはどう思っているだろうか。俺があまりにも若いから「え?父親?」「若すぎない?」「デキ婚?」とか思われてんのかな。向けられる視線が凄い不思議な顔してる。っていうか私服の男二人が子供を迎えに来るとか普通に見ておかしい。ホモに見えてたらどうしよう。まぁにいちゃんて言ってるしまぁ解るよな。

「へーすけにいちゃんそれなに?」

「これ?名前にゲーセンでいっぱいぬいぐるみとってきた」
「わー!くまさんだー!」

「三郎と雷蔵と勘ちゃんもとってくれたから、今度お礼言おうな」
「うん!」

今日は一日学校をサボってハチと二人でこの辺のありとあらゆるゲーセンを回って名前が気に入りそうな景品をドサドサと回収し始めた。なんか勘弁してくださいとか言われたけどハチのクレーンゲームの腕をナメてるからこういうことになるのだと言った。最初に店員には言ったはずだ。「こいつは止められないので景品を入れる袋を沢山ください」と。
ハハハと笑いながら袋をよこしたのは店側だ。ハチは気合を入れて名前のためにと1000円札を100円玉に両替したのだ。俺も。
途中で三郎と雷蔵と勘ちゃんも学校をさぼっていたようで、見つかり、五人がかりで名前のためにと10枚もらった袋をパンパンにしたのだった。お前ら名前気に入りすぎ。名前はやらんぞ。

「ほら名前、はんなり豆腐のストラップもあるぞ!」
「わー!カバンにつけてー!」
「よしきた!二つあるから兵助とお揃いだぞ。羨ましいな!」

ほんと!?と嬉しそうに見上げる名前に俺は、すでにケータイについているストラップをじゃらりと見せた。それを見て名前は嬉しそうに顔を赤くしてぴょんぴょんと飛び跳ねた。本当に可愛い。ハチも名前の可愛さにやられその場でバタリと倒れた。南無。


「久々知さんこんちは!」
「五条先生、名前迎えに来ました」
「ごくろーs……こ、この人大丈夫ですか!?」
「あ、大丈夫です。ただ鼻血出してるだけなんで」

「はちにいちゃんしっかりー!!」
「…」

「名前ほっとけ、返事がないからそれは屍だ」
「しかばねー?」


はちをわさわさをゆする名前の頭を撫でていると、五条先生は「そういや」と口を開いた。


「明日、遠足なんでお弁当忘れずにお願いしますね!」
「…えっ、明日遠足なんですか…?」
「え?えぇ、あ、あれ?知りませんでした?」

「へーすけにいちゃんあした平仮名えんそく!どうぶつえんいくのー!」

「……な、何ー!?」


そこで俺は、大変なことに気付いた。


「……ヤバいぞハチ、どうしよう今日明日仕事で母さんも父さんも帰って来ない…!!」

「あ!?弁当は!?」
「いつも母さんが作ってんだよ俺が作れるわけねぇだろ!」


今日という日に限って母さんも父さんも会社に泊まり込みで仕事を終わらせると言って、今朝家を出て行った。まぁどうせ明日は土曜日だし、名前の面倒ぐらい一人で見られると俺は安心して見送ってしまった。しまった、この話を聞いておくのを忘れていた。そういえば昨日の夜何か話したいことがあったのに忘れた…と母さんが頭を抱えていたのを思い出した。これか!これだ!めっちゃ重要なことじゃないか!!

とりあえずどうしようと頭を抱えながら、門の前でハチと別れ、名前と手を繋ぎながらスーパーへと足を進めた。ハチは完全に他人事のような顔で、別れ際に俺の肩に手を置いて「頑張れよ」と微笑んだ。手伝えよテメェ。


「もしもし平仮名です!さぶろうにいちゃんですか!くまさんありがとー!…………あれ?もしも………あ!らいぞうにいちゃん!?うん!くまさんありがとー!」


ありがとう言ったよ!と平仮名は俺にケータイを渡した。片手で電話帳を再び開いて今度は勘ちゃんに電話をかけた。名前は偉いな。早くお礼言いたいから電話貸してくれだなんて。


「もしもし平仮名です!かんちゃんにいちゃんですか!くまさんありがとー!うん!うれしー!」


小さくギャアァァと叫び声が聞こえる。多分勘ちゃんも死んだ。

俺のケータイを耳に当てて電話の向こうできっと悶えているであろう三郎、雷蔵、勘ちゃんの死を拝んだ。俺のシャツにつかまり名前は俺の後をついて歩いた。片や俺はかごを片手に冷凍食品の棚の前でうーんと唸った。


「はいへーすけにいちゃん、おでんわおわった!」
「うん、いい子だね名前」

「あのねー、かんちゃんにいちゃんが平仮名のことだいすきだってー!」
「あれ?名前は俺と結婚すんじゃなかったの?」
「へーすけにいちゃんとけっこんする!でもかんちゃんにいちゃんもすき!」
「名前、浮気はだめなのだ」
「ちがーう!」

帽子の上から頭をなでてやると、名前はテレたように俺の手を掴んだ。


「……名前、明日の弁当何食べたい?」
「!へーすけにいちゃんおべんとーつくってくれるの!?」
「うーん、だって母さん帰ってこないしな…」

お弁当箱はある。問題は中身だ。弁当なんて作ったことない…。冷凍食品ですませていいだろうか。まぁまだ五歳だし…俺ほど量を食うわけじゃないだろうし、そんな大量に作らなくても大丈夫だろうとは思うが…。
名前はうーんと一緒に唸りながら冷凍食品を眺めはじめた。可愛いぃいいい。

うーん、冷凍食品と言ってもなんだか家にあるようなものばっかりだな。名前はあっちもこっちも食いあきてるだろうし………。


「……よし!決めた!」
「へーすけにいちゃん?」

「明日の弁当は俺が気合入れて作るぞ!冷凍食品はなしだ!」

「えっ!へーすけにいちゃんすごい!」
「何食べたい?」
「う、うーん、えーっとねぇ、ハンバーグ!」

「よし、お肉売り場行こう!」
「いくー!」

手を取りかごを持ち、名前はかごの中に俺が言う必要なものをぽいぽいと投げ入れた。とりあえずひき肉と玉ねぎとなんかその辺買っときゃなんとかなるはず。調味料とかは家にあるし。でもハンバーグだけは…。野菜も入れたい…。豆腐もできれば入れたい…。いや豆腐は無理か…。さすがに無理か……。豆腐ハンバーグか。あ、その手があるか。豆腐なら家にあるぞ。よしクックパッド先生に聞こう。そうしよう。豆腐はヘルシーだ。名前の美容にもいい。

「名前ー、エビフライとかどう?」
「えびすきー!」
「じゃぁエビフライとー……野菜は?」

「にんじんの、あまーいのがいい」
「グラッセか?グルメなのだ名前は」
「あれおいしいからすきぃ」

一通りの食材を買い込みレジへ向かったが、途中明日のおやつを買うのを忘れたのを思い出し二人で慌ててお菓子コーナーへ戻った。300円分か。大したもの買えないな。


「名前、それ買ったら300円越えちゃうのだ」
「えー、どうしよー」

「……兵助兄ちゃんそっち食べたいから買っちゃおうかな」

「!」
「半分こな」
「うん!へーすけにいちゃん好き!」
「知ってた!!」


名前も持つ!と言ったので小さいビニール袋に少しだけ入れて名前に渡してあげると、お母さんみたーいと嬉しそうに飛び跳ねながら帰り道を歩いた。ギャワィイイ。

家に帰り鍵を開け荷物を全て台所へ移動させた。ちゃっちゃと晩御飯を作り満腹だーと二人でベッドに横になり、風呂へ入る。



さぁ、ここからが本番だ。俺はこれから明日の下ごしらえをせねばならない。明日朝起きて失敗したら大事だ。今失敗すればまだスーパーはあいてる。まだいける。
名前は隣の部屋でテレビを見ている。なんか好きなアイドルの子が出てるらしい。何KBだっけ。ちょっとそういうの興味ないから解らん。


キッチンにノートパソコンを持ち込みクックパッド先生を呼び出しとりあえず豆腐ハンバーグのレシピを出した。OK,豆腐はある。調味料各種ある。ナツメグ?んなもんねぇよバカか。


「ぎゃああああっつぅうううう!!!」

「!?へーすけにいちゃん!?」

「アッー!ごめん名前TV見てていいよ!」
「……ごはん?」

「あ、いや、今から弁当を準備してて……」

「………平仮名も手伝う!」


「……ありがと名前。でもこれは俺にやらせてくれ。俺がやりたいんだ。俺が一人で名前のために弁当作りたい。な、だから俺に任せて」


「へーすけにいちゃん…」
「…俺じゃ、お前の母ちゃんの弁当には勝てないと思うけど…」

「………平仮名、へーすけにいちゃんのおべんとうたのしみにしてる!」


名前はそう言うと俺の太ももにぎゅーっと抱き着いた。今俺の息子が犯罪を犯すレベルになってきているが落ち着け俺。相手は五歳児相手は五歳児相手は五歳児…豆腐豆腐豆腐豆腐豆腐とうふとつふつhとふう


「じゃぁ先に寝てろ。明日遠足なんだから、早く寝なきゃな」
「うん!おやすみ!がんばってね!」

名前はうきうきした足取りで俺から離れ、階段を上がっていった。


うし!やるか!!



「あっつぅううう!!」

































……ん…へーすけにいちゃん!」

「……ハッ」


ゆさゆさと体を揺すぶられ、目を覚ました。外がうっすら明るくて、何事かとガバリと体を起こすと目の前には出来上がったお弁当。俺の下では名前が俺のシャツを掴んでいた。あれ、寝ちゃったのか。背を伸ばすとバキバキとなる背骨。痛い。

名前はテーブルを覗き込むことが出来なくて弁当の中身は見えていないはず。かなり上出来に出来た。向こうまで楽しみにしてもらおう。俺は急いで蓋をして袋に入れた。
急いで朝食を作り名前に服を着せて自転車に乗せ幼稚園へ送り届けた。


「ほら名前、弁当」

「わぁ…!おっきー!」
「名前、俺の愛がたっぷりつまってるぞ!」
「ほんと!?」
「おう!上出来上出来!遠足楽しんで来いよ!」
「うん!おみやげまっててねー!」


あぁぁああぁぁぁああああああああああバスに乗り込む名前がもう可愛いぃいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!























手作りだせマイ・ガール!

俺の愛がたっぷり詰まってるからな!











「へーすけにーちゃーん!!!!」

「っ!名前ーーーー!!!!!」

「おみやげ!どんぐり!」

「かわいぃいいいい!!!!!」

「おべんとうおいしかった!!」

「それは良かったのだぁぁああ!!!」

「ハンバーグがおいしかったよ!」
「名前はよく解ってるのだ!!!」

「へーすけにいちゃんすき!」
「俺もぉおおおおお!!!!」







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兵助は豆腐料理以外は料理下手くそだといい。
あと兵助は海苔細工とか得意だといい。

「平仮名LOVE」とか海苔で書いちゃうといい。

そんな兵助ンギャンワィイイイイイ!!!!!!!!


第四位久々知兵助さんでーした!!!
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