好き放題言いやがって。俺にだって女の好み位あるっつーの。
なんで好き好んでお前らみたいな化粧の濃い香水臭ェクソビッチなんかと恋人ごっこなんてしなきゃいけねぇんだよ。
誰がお前の彼女とったって?俺じゃない。あの女が勝手に俺に言い寄ってきたから相手してやっただけだろ。そんなにテメェの女気に入ってんなら首輪でもはめておけっつーの。
一応言っておくが、関わったら最後まで面倒見ろよ。生き物は大切にしろ。ただしビッチ、テメェはだめだ。
最近の女は礼儀とかそういうのがなっていない以前に、女としての自覚がない。すぐにセックスだのなんだの求めてくるし、俺が彼女にしたい女はこういう女じゃない。
男に媚を売るな、スカートは折るな、化粧は控えめにしろ、香水なんてもってのほかだ。
最近は大和撫子がいない。なんつーか、学校の女ケバい。俺の好みじゃない。
「はちー!今日一緒にカラオケ行かない?」
「最近はち付き合い悪くなーい?」
「んー悪い、俺もうそういうのやめたんだわ」
「…えっ、え!?えー!?なにそれどういうことー!?」
「はちがへーん!!」
飛びつき首に抱き着く化粧の濃いスカートの短い女は、俺のその発言に目を点にさせ、
俺の腕に絡みついてきた香水の臭い女は、俺のその発言に頭を打ったのかと額に手を当て熱を測った。
「は、はちそれどういうこと!?」
「私たちと遊ぶの断るの!?」
「おう、もうそういうのいいわ」
「は!?なんで!?」
「も、もしかして、はち、お、お、お、」
「そう、新しい女が出来た」
えぇーーー!!と絶叫する女を背に、俺は自転車に飛び乗り猛スピードで帰り道を急いだ。
そうだ、もう女遊びはやめた。お前らの相手をしているほど、今の俺は暇じゃない。喧嘩もやめた。あんなやつらと無駄な殴り合いをしているほど今の俺は暇じゃない。
新しい女が出来た。お前らなんかよりずっと良い子でお前らなんかよりずっと暇しなくてお前らなんかよりずっっっっと可愛い女が出来た。
赤い信号だが車はどっちの方向からも来ていないことを確認して、俺はそのまま道路を突っ切った。一分一秒が勿体ない!車が来ないなら信号なんて待ってる必要なし!!
ギッと急ブレーキをかけ正門を飛び越え玄関へ走る途中で逢う名前の友達。ちっちぇえな!!可愛いな!!
だが一番可愛いのは、
「名前!迎えに来たぞ!」
「はちにいちゃーん!!」
教室の扉を横に開き俺の声に反応して飛びつく、俺より一回りも二回りも小さい影。
びっくりした、本物の天使かと思ったわ。おうなんだ名前か。
「……蒸発?」
「そう、母さんの妹がね。その子供が名前ちゃんよ。まだ五歳なのにねぇ」
「へぇ」
御袋の妹、つまり叔母さんが蒸発したらしい。叔母さんの子供である、名前を置いて。
正直俺は叔母さんのことがあまり好きでななかった。大人しいような人だったし、俺の外見で不良だと決めつけいたのか、俺にはいい態度をとってこなかった記憶があるからだ。だから叔母さんに子供が生まれたとか聞いた時も、そっか、程度に思ったぐらいで、見に行くことなどなかった。正月や盆などのイベントでも勘右衛門たちと遊ぶことが多くてあまり親戚の集まりにも顔を出していなかったし、叔母さんと言う存在はそれほどまでにどうでもよかった。
そのおばさんが、どうやら子育てに疲れたのか、子供を置いて消えてしまったんだという。お前の子供だろ。なんで育児放棄なんてしやがった。関わったら最期まで面倒を見ろ。それが親として当然の務めだろ。いや、これは俺の御袋の受け売りなんだがな。
「悪いけど、私も父さんも仕事で忙しいの。休日はもちろん手伝うけど、幼稚園の送り迎えとかお願いできないかしら」
「俺も出来る限り休みはとるつもりでいるから。叔母さんが見つかるまで家族で力を合わせよう」
「おう、それぐらいなら別に、俺はいいけど」
よろしくねと母さんと父さんは俺の肩を叩いた。
そして残してきた仕事を片づけに二人とも出かけた。特に何の用事もない俺は制服から私服に着替えて、庭に面している窓の近くで積み木を積み上げている小さい影を見つめた。
名前。赤ん坊のころの写メを御袋に見せてもらったことがあった。赤ん坊なんてみんな猿みたいな顔しているから面影があるなんて言えねぇ。だって覚えてねぇし。
でもまぁ、大きくなったら可愛い系の顔になりそうなやつだ。髪はふわふわだし。タカ丸さんに献上したら喜びそうだな。
「……楽しいか?」
「!」
ガチャンと音が鳴り、積み木が崩れた。笑いもしないし悲しそうな顔もしない。なんというか、ただの暇つぶしって感じがする。積み木なんてやって楽しいのか。
「名前、でいんだよな?」
「…」
「八左ヱ門。竹谷八左ヱ門。俺の名前。しばらく一緒に暮らすことになるけど、そのー、よろしくな?」
「…」
名前はこくんと小さく頷いて、再び積み木を始めてしまった。
……育児放棄をされた子供の気持ちか。俺にはさっぱりわかんねぇな。でもどうなんだ。大好きだった母親にある日突然捨てられた気分は。大好きだった女に急に振られた感じか?いやそれも解んねぇな。
…大好きだったおもちゃを突然取り上げられた感じか?
んー、なるほど。解らんでもないぞ。
無言でカチカチと小さい音を鳴らしながら、積み木を重ねていく名前は、本当に顔色一つ変える様子がない。ま、ほっといても大丈夫だろ。良い子そうだし。
近くのソファに座り、散らかしっぱなしの雑誌を開くと、突然ケータイが震えた。今日はカレーにするから材料を買ってきてくれという御袋からの内容だった。
俺は腰をあげ学校へ持っていくバッグの中から財布を取り出しポケットに突っ込んだ。
「名前、買い物行くけど一緒に行くか?」
「……」
小さく頷いて積み木を置いて、名前は俺の後ろをぽてぽてとついて歩いた。
……本当に、大人しいな。
スーパーにつき必要なものを全てかごにぶちこみレジへ持っていき買い物を済ませる。その間、名前はずっと俺の後ろにくっついて回っていた。
名前ぐらいの歳ならスーパーへ行けばあれが欲しいこれが欲しいと騒ぐだろうと思っていた。さすがの名前でも何かしらねだってくるはずだと思っていた。ケバいうちのクラスの女のように。
だけどどうだ。名前は一切そんなこと言ってこない。あれが欲しいとも言わないしこれが欲しいとも言わないし人参嫌いだから買うなとも言わない。名前はいったいどんな生活をしていたんだ。わがまま言ったらビンタでもされてたのか?もしくは日々虐待でもされてたのか?こんなに感情を外に出さない子供なんて見たことねぇよ。まるで幼少期の三郎みたいだな(雷蔵談)。
車が何台も行きかう交差点で信号が青になるのを待つ。ふと、下にいる名前に視線を向けると、信号の前にある、つまり今背後にあるゲームセンターに視線が一直線に向いていた。視線の先にはぬいぐるみが大量に入っているクレーンゲームが。
「……名前、ちょっと来い来い、寄り道するぞ」
「?」
ここのゲーセンは俺の(っていうかあいつらとの)常連の場所だ。入ってすぐ顔見知りの店員に買い物袋を預かってもらい、俺は名前が見ていたクレーンゲームに100円玉を投入した。
「よっ、」
「!!」
「いいか、よーく見てろよ!」
俺は名前を右腕で抱え、左手でアームを操作するボタンを絶妙なタイミングで押した。アームは下に伸び、掴む力は弱いながらもクマのぬいぐるみの足に引っかかり、それは見事に穴へと落ちた。
「ほら」
「…」
中からそれを取り出ししゃがんだまま名前に手渡すと、名前はおずおずとぬいぐるみを受け取った。
「あのな名前、お前の母ちゃん何処行ったか俺にも解んねぇんだよ。御袋も解んねぇし親父も解んねぇみてぇなんだ。ごめんな。だけどな、いつか絶対名前のこと迎えに来てくれるから、それまで俺と、そのくまと一緒に、お前の母ちゃん待ってような?」
名前は、俺その言葉に、ぎゅっとクマを握りしめ下を向いた。
「それまで、お前の我儘は俺が全部叶えてやるから。言いたいことあったら全部言えよ。遠慮なんかすんな。今日から俺がお前のママ代理だから、なんでも言えよ」
ぐしゃりと名前の頭を撫でたながら立ち上がると、
「平仮名、…っ、ママがいい…!!」
名前が初めて、俺の前で感情を出した。
「平仮名、ま、ママのとこいきたい…!」
「…名前、」
「平仮名、ひとりぼっちやだ…!ママがいい…!ま、ママがいい…っ!」
「おう、そうだよな」
「平仮名のことっ、き、…っ!きらいになっちゃ、やだ…!!」
「おう、やだな」
名前の視線に合わせるぐらいにしゃがみこむと、名前は俺の首に抱き着いて、泣いた。
「やだ!やだ…!平仮名のことすてちゃやだ…っ!」
「大丈夫だよ、お前のこと捨てちゃいねぇよ」
「ひとりぼっちはやだー…っ、!!」
「…大丈夫だよ、お前は一人じゃない。俺がいる。今は俺がいるじゃねぇか」
ぐずぐずと鳴く平仮名を首から離して、目線を合わせた。
「いいか!俺が今日から名前とずっと一緒にいてやる!俺がお前のママ代理だ!」
「…っ、…ほんとー…?」
「おう!ずっとだ!まぁ幼稚園以外はな!」
そして俺はもう一度財布を取り出しクレーンゲームに金を入れた。見事に引っかかった小さいクラスの女子が携帯につけるにはデカいだろというレベルの大きさのぬいぐるみが二つ、穴へと落ちた。
「それに……」
俺はそのぬいぐるみを顔の前に持っていき、
「ボクタチモ、ズットイッショダヨー」
くまの手を動かして、そう裏声で言い渡すと、
「……あはは!」
「!」
涙を流していた名前が、にっこり笑った。
「はちにいちゃん!」
「…!おう!」
「はちにいちゃん、平仮名とずっといっしょ?」
「おう!ずっと一緒だ!」
「ごはんも?」
「一緒に食うか!」
「おふろも?」
「一緒に入るか!」
「ねるのも?」
「一緒に寝るか!」
「わー!はちにいちゃん、平仮名のママみたい!」
「おう!今日から俺がお前のママだ!」
ぎゅっと再び抱き着く名前の小さい体を抱きしめた。
この小さい小さい小さい影を、俺は今、全力で守っていくぞと誓った。
「…じゃぁ、こっちのちいさいくまさんひとつ、はちにいちゃんにあげるね」
「ん?いらないか?」
「んーん、これようちえんのばっくにつけるの」
「俺はどうすればいいんだ?」
「はちにいちゃんがそれもってたら、いつでも平仮名といっしょだね!」
俺はこの日、イケない道へと足を踏み外してしまいそうになった。
「名前!帰るぞ!」
「かえる!」
「はやくしろー!」
「まってー!」
バッグについている小さいくまのぬいぐるみが左右へ小さく揺れた。通学帽子を深くかぶりバッグを肩にかけ、
「いっぺーくんばいばい!」
「ばいばい平仮名ちゃん、またあしたね」
一緒に遊んでいた男の子にそう挨拶をして、教室を飛び出して俺に飛びついた。
「なんだ平仮名、もう彼氏が出来たのか?」
「えー?」
「あの子だよ。好きなのか?」
小さく指差す先には、さっき名前が挨拶をした男の子が積み木を片づけていた。
「うん、いっぺいくんやさしいからだいすき!」
「そっかそっか、そりゃよかったな」
「でもね!平仮名、いっぺーくんすきだけど、はちにいちゃんのほうがもーっと!ずーっと!いーーーっぱいだーいすき!!!」
【速報】イケない道にたった今足を踏み外しました。
「〜〜〜〜っっ!!俺も名前大好きだよ!!」
「やだー!平仮名のほうがはちにいちゃんだいすきだもん!」
「な、なにー!?俺の方が名前のこと大好きだ!」
「ちがうよー!平仮名のほうがはちにいちゃんのことすきー!!」
「よーし、ならあそこの俺の自転車が置いてある場所まで競争だ!」
「よーいどんっ!」
「早ァ!?」
初対面の時の無表情が嘘のように、名前は楽しそうな声を上げながら一直線に走っていく。
「待てコラァァアア!!」
「きゃー!!」
俺はその背中を、ただただ変態のように悶えながら追いかけていくのであった。
ずっと一緒だぜマイ・ガール!これからしばらくよろしくな!
「ハチ変わったね」
「そうか雷蔵?」
「うん、なんか雰囲気柔らかくなった」
「さては新しい彼女でも出来たか?」
「鋭いな三郎!見ろ!これが俺の新しい女だ!!」
「「……うわぁ…」」
「なんだその食満先輩を見るような目は」
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ょぅι"ょの面倒に悪戦苦闘しちゃう竹谷にするか
手慣れた感じの竹谷にするかすごく悩んだ結果
どうでもいいラインをいっている竹谷にしましたーーーーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
虫キングでも買い与えて名前ちゃんの機嫌損ねるといいよ!!!!!!!プギャーーー!!!!!!!
てなわけで第五位 屑谷塵左ヱ門でした!