「作兵衛ってエビフライ派?からあげ派?」
「んん〜〜〜、どっちでも好きだけど、弁当に入ってて嬉しいのはやっぱりからあげだよな」
「ジャストミィイト!!からあげいっぱい入れたからね!!!」
「まじかあああ!!!」
じゃんっ、と弁当箱が包まれた風呂敷を作兵衛は目を輝かせてそれを受け取った。いいなぁともらす左門と三之助を横目に、作兵衛は嬉しそうにそれを抱きしめるのであった。
「大丈夫いっぱいつくってきたから、からあげだけならみんなの分あるよ」
「本当か八千代!」
「もちろんだとも!左門も三之助も食えよ!萌衣ちゃーん!?今日のデザート何ぃ!?」
「今日はみんなで食べられるようにシュークリームいーっぱい作って来ましたー!!」
ホールのケーキを入れる用の大きな箱は一体何処から取り出したのだろうか。っていうか何個入っているんだろうか。萌衣もそれをじゃーんと高らかに掲げ、私たち4人のテンションはさらにヒートアップした。沢山焼いてきたとはいいつつも、恐らく左門の分は少なからず大きくなっているであろうことは大体予想できるから困る。なんなんだよお前。早く結婚しろよ。私と。左門とじゃない。私とだ。
それを見て、萌衣のファンである男子たちは羨ましそうに萌衣が手に持つ箱と萌衣を交互にみつつ、左門たちを恨む目で睨み付けていた。男子のアイドル萌衣ちゃんの手作りお菓子。絶賛片想い中の男なら是非とも口にしたいであろう一品であろう。しかも高度なシュークリームなど。私が萌衣に片想いしてる男子なら左門か三之助か作兵衛を殺してでも食う。または数馬か藤内。孫兵は無理。ジュンコ様おられるし。
「ねぇ今日も屋上でいいのー?」
「天気いいから屋上でいいよねー?」
「僕は何処でもいいよ」
「屋上に決定しました!!!」
教室に入ってきた藤内と数馬、孫兵の発言により、本日も昨日と場所は変わらず屋上でお弁当をすることになった。今日も天気良くてよかった。
「八千代、行かないの?」
「ごめんちょっと板書うつしてから行く。先行ってて」
「そ?じゃぁ他に誰か来ないように場所とっとくわね!」
「おけ!ごめんね!」
いつも通り左門と腕を組んでいく萌衣ちゃんデラカワイイ。左門いい加減にしろ。
おそらく私以外の四人はノートをとってないから授業終了と共に弁当を取り出したのだろう。だって化学なのにあいつらがあの先生の板書スピードについていけるとは思えない。っていうか三之助寝てたの知ってるし。あくまで私の予想だが、これは期末勉強教えてとか言われるパターンのヤツや。許さない。午後からちゃんとノートとらせよう。これでも私生徒会長だし。
あぁそういえば今日はやっと生徒会始動の日だわ。うちの学校の生徒会まじでやる気ないから、去年は鉢屋先輩と尾浜先輩と私だけという史上最少人数でやってたなぁ。今年は一人でも入ってくれればイベントの司会進行私だけじゃなくて済むんだけど。今年の一年荒くれてるのばっかりだったから心配だなぁ。一年三組酷かったなそういえば。まぁあそこからは誰も出てこないだろう。特化クラスと言われた一年一組から出て来てくれると嬉しいかも。
やっとノートへかきうつしが終わり、私はペンを筆箱に、ノートを机の中にしまった。少々時間がかかってしまったけど、あいつらなら食わずにまってくれているはずだ。いや食べてたらちょっと怒るかも。作兵衛なら許す。
「ねぇ八千代」
「んー?」
机の横に引っかかっているバッグの中から弁当が入った手提げを取り出していると、私の机を囲む女子の生足が目に入った。太ももぺろぺろ。
「あのさぁ聞きたかったんだけど」
「何?授業内容?」
「いやいや、八千代って、富松と付き合ってんの?」
「えっ、私が?何で?付き合ってないけど?」
「そ。いや、お弁当作ってたから、もしかしたらって」
「仲良いなーと思って」
「いやー此れには深いわけがあって」
かくかくしかじかと事の流れを説明すると、可愛い友人たちはなぁんだと笑ってその話を聞いた。可愛そうな男子のために恵んでやってんだよ、と。
二人は私の話を聞いて、ありがとと手を振って別の机に戻ってしまった。違うってと今の話を聞かせているのか、周りの女子たちもなぁんだと弁当を口に運び始めた。
……あれも作兵衛たちのファンクラブ的なヤツらなのか。なんだそんな話一言も聞いてないぞ。作兵衛が好きならアタックすればいいのに。どうしてこう付き合ってるかもしれないという私に直接聞きに来ないんだ。気になるなら自分で聞きに来ればいいのに。っていうか作兵衛に直接聞きなよ。作兵衛そんなことでキレたりするようなヤツじゃないよ(多分)。
なんというか、やっぱりみんな遠目にヤツらのこと見守ってるだけなんだなぁ、と、改めて感じた。好きなら好きと、言えばいいのに。周りの評価のせいでこう遠巻きに見ているだけなのだとしたら、絶対にその恋成就しないと八千代ちゃんは思うよ。好きなら好きって、自分の気持ち素直に伝えればいいだけなのに。っていうか、好きなのにあいつらがちゃんといい性格してるって、どうしてわかろうとしないんだろうか。ちょっと絡んだだけでも、藤内は別に正論を言ってるだけで毒舌なんじゃないって言うのも解ったし、作兵衛だってからあげではしゃぐほどの子供っぽいところもあるって解ったし、仲良くなるのに時間なんて関係ないとはよくいったもので。一回お昼ご飯食べただけで、数馬とも藤内とも仲良くなれたわけだし。
ちょっと勇気出せば、友達になんかすぐになれるのに。
「遅くなってごめんねー、やっと終わったわ!」
「八千代遅い!腹減った!」
「ごめん作兵衛!さて食べよ食べよ!」
萌衣と三之助の間に座り、手を合わせ、いただきますと言うと、各々弁当箱やら購買で買ったパンやらを取り出した。孫兵は冷凍鼠が入ったタッパーも取り出した。あぁジュンコさん用か。
「うめえええ!!」
「冷凍食品のからあげじゃないからな!」
「すげぇな!うめぇうめぇ!」
「からあげだけならみんなの分もあるから、食べて食べて」
一回り程大きいタッパーを出してふたを開けると、みんな声を漏らして箸をのばしてくれた。
「忌み箸やめろ三之助!お里が知れるぞ!」
「いいじゃん別に」
しばらく雑談しながら昼食を食い終え、萌衣はシュークリームの入った箱を取り出した。待ってましたとみんな手を伸ばし口にいれた。まじでプロの味。萌衣ちゃんまじ天使。そしてやっぱり左門のシュークリームはあからさまにでかい。もうみんなそうなることが予想できていたからなのか、誰もなにもツッコむことは出来なかった。
「八千代」
「何?」
「弁当ありがとう!美味かった!!」
「はい!お粗末様でした!」
「失礼しまー………おっ、」
「お先に失礼します」
「はじめまして!」
「今年は一年生二人かぁ。歓迎するよー、好きなとこ座って座って」
背負ったスクールバッグをソファに放り投げるようし、持っていた紙袋をテーブルの上に置きソファに座ると、教室の中にいた中々イケメン二人は私が座った正面のソファに浅く腰掛けた。これは尾浜先輩と鉢屋先輩がどこぞの部屋からかっぱらってきたという謎多きソファである。同じようなソファ図書室でみかけたけど、何も見なかったことにした。
「一年一組の今福彦四郎です。はじめまして」
「一年三組の黒木庄左ヱ門です。宜しくお願いします」
「あー、別にそんなにかたくなくていいから。気を楽にしてね」
そういうと、二人は肩から力を抜いたようにふっと肩の位置が下がった。
書記とか会計とかを決める前にこの学園の生徒会とはいかにちゃらんぽらんなのかという事を説明した。去年の人数は三人で、ほぼ生徒会の日はほぼ愚痴大会とかしているということ。イベントの司会進行ぐらいしか仕事がないと言えば、二人は呆気にとられていたかのような顔をした。
「だから本当に何もやることないの。去年も先輩二人と私だけで、なんとかなってたし。それでも内申書は良くなるから、良いとこでしょ?」
冗談めいてそう言えば、ふたりはぶはっと吹き出し笑った。
「先輩は三年生ですよね?」
「あ、まだ自己紹介してなかったか。三年二組の大神八千代ね。早く仲良くなりたいし、下の名前で呼んでほしいな!」
庄ちゃんと彦ちゃんね、と言えば二人とも八千代先輩、と返してくれた。おう、中々良い子たちじゃないか。っていうか彦ちゃんは特化クラスと呼ばれる1の1だけど、庄ちゃん荒くれ者ぞろいの1の3って言ったな。そんなクラスにもこんなに良心的な子がいるだなんて。まだまだ世の中捨てたもんじゃねぇな。
「ところで八千代先輩は」
「ん?」
「彼氏はいらっしゃいますか?」
「………いない、けど…」
「僕、タメより年上のほうが好きなんで、そういう目で見てくれたら嬉しいです」
んんんんんんんんん前言撤回ッッッ!!!こいつとんでもねぇタラシだ!!!!
彦ちゃんもニコニコしながらこっち見てやがるし!!!いやー!!今回変な後輩入って来ちゃった!!!チェンジ!!!
「ごめんね二人とも、私年下は興味ないから」
「一つ二つぐらいなんてことないでしょう」
「その一つ二つが問題かなぁ」
「手厳しいね庄左ヱ門」
「まぁまだ一年あるし」
こいつらまじ……。
「ところで八千代先輩、」
「あんだよ」
「その紙袋はなんです?」
「あーこれ?私調理部だから。今日作ったもの。晩飯のおかずにしようと思って」
「へぇ、そうなんですか」
「中身はなんですか?」
「筑前煮」
「あっ、僕大好きです。僕らも寮生なんでもしよかったら恵んでもらえませんか?」
「彦ちゃんシブいねぇ。別にいいけど、大したもんじゃないよ」
今日は生徒会前にちょっと時間があったから部活に出ていた。今日は私の指示のもと筑前煮に挑戦させたが、萌衣のやつときたらただの煮物なのに焦がす焦がす…。なんで煮物焦がすんだよ…。見てらんねぇよ…。
今朝からあげがはいってた容器を洗って詰めたので臭いは別にうつったりはしていない。紙袋からタッパーを出してあげると、いただきますと庄ちゃんと彦ちゃんは手を伸ばしてそれをつまみ口へ運んだ。どうやら無事にお口にあったようで、可愛い笑顔を見せてくださった。………この笑顔に騙されてはいけない…。
「じゃぁ明日タッパー返してね」
「解りました」
「愚痴大会したい日はいつでもメールちょうだい。バイトと部活が被ってなければいつでも私此処来るから。あ、あと生徒会室の鍵渡しておくね。はい」
連絡先を交換しながら、去年まで鉢屋先輩たちが持っていた鍵を手渡した。庄ちゃんと彦ちゃんの手に渡った。庄ちゃんの手にある鍵には狐のキーホルダーが。彦ちゃんの手にある鍵には電王のフィギュアがついている。先代の忘れ形見である。私はキーケースについているのでなくすことはない。
「じゃ、今日はこれにて解散で」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「じゃーね、鍵閉めてね」
「寮まで送りますよ」
「いいよ遠慮するよ…」
「そう言わずに」
「うるさい大丈夫だからついてくるな」
「八千代先輩ぐらい可愛い先輩が一人でウロついたら…」
「団蔵と虎若が出ますよ」
「だ、誰…!?」