「んー、弁当か…」


あれほど張り切って弁当ぐらい作ってやらぁとは言ったものの、誰かに食べさせるとなるとそりゃぁ中身にも気を遣ったりするもので。

萌衣は昔からの馴染みだから何が入っていようと文句は言わせないが、明日からはもう一人出会ってから日の浅い友人に食わせねばならんのだ。それも育ちざかりの男に。私の心境はまるで母親だ。高校生の息子に何を食べさせたら喜ぶだろうかという思考。彼氏でもなんでもないから何を入れようと何を思われようと勝手だけど、調理部の副部長背負ってんだから恥だけはかけない。美味いと言ってもらわなければだめだ。私のプライドが許さない。

………まぁ、今右手にぶらさげてる紙袋には今日の部活で失敗したお菓子が入ってるんですがね。


「冷凍食品は、ないな」

制服のままスーパーの買い物かごをかかえ冷凍食品の前で悩み続ける若者はこちらです。通報はしないでください。
お弁当と言えばからあげ。うん、そう、からあげ。明日は作兵衛に作るんだから。作兵衛絶対お肉好き。お弁当で嬉しいのはエビフライかからあげの二択に別れるとしたら作兵衛は絶対にからあげ派。うん、そうだと思う。よし、からあげは入れないと。冷凍食品には頼らないことにしよう。


「八千代、」

「あ?あ、藤内」
「あのさぁ女の子が振り向きざまに『あ?』はないんじゃない?」
「テヘペロォ」


まったくもうと腰に手を当て激おこ状態なのは、麗しい美貌の持ち主の藤内さんその人でした。お昼ぶりだねと言えばそうだねと、藤内は買い物を終えたしるしであるビニール袋を持ち直して言った。

「買い物?」
「明日のお弁当の材料」
「あぁ」
「藤内は?」
「お菓子の調達。これから数馬と部屋で映画見るんだ」

「何見るの?」
「ノートルダムの鐘」
「男ふたりでディズニーとな…」


それもまた渋い所をチョイスしたなと私はその言葉を喉の奥で止めた。
袋の中には大量のジュースと大量のお菓子。絶対二人じゃ食べきれないだろうという量が入っている。しかも甘いものとしょっぱい物の比率が五分五分。これ無限ループに突入して出てこれなくなる√じゃないですかやだー!!

これ数馬が大好きでねとかごからお菓子を取り出した。数馬たけのこ派なんだ。私きのこ派だよ。戦争だね。


「よく二人で映画見るの?」
「週に一回数馬と二人で映画見るんだ」
「仲良しだねぇ」

「今週は数馬がDVD借りてきて、僕がお菓子調達。来週はその逆。たまに他の連中も来るよ」
「へぇー。なんか、いいねぇ仲良しで」
「いいもんか。男ばっかでむさくるしいったらないよ」
「ははは確かに」

もう既に買い物を終えたというのに、私がこれから精肉へ行こうとしていたのに気付いていたのか藤内はそのまま私の横をついて歩いた。帰らなくていいのかと聞けばまだ時間に余裕があると言った。学園内の購買で売っていないお菓子はスーパーまでわざわざ買いに来るそうだ。それほどまでに映画鑑賞デーが楽しみなのね。

「何かうの?」
「明日のお弁当用にお肉。鳥のもも肉が欲しい」
「冷凍食品じゃないんだ」
「馬鹿だなぁ調理部副部長だよ?」
「さすが八千代だね」
「どういう意味ぞ!」

「いやぁ、教室で馬鹿みたいに手作りだよーって恋人にあげてるやつ、大体中身冷凍なのに何が手作りだよって、いつも鼻で哂ってたから」


そこで私はどくんと心臓をはねさせた。これが藤内が毒舌と言われる所以か、と。確かにこの麗しき美貌でこんな台詞言われたら普通の女の子は傷つくだろうに。あぁ可哀そうに藤内に告ったあの子。この目でフラれたのね。同情するわ。

でも藤内のは毒舌というか、ただの正論だ。冷凍食品だらけの弁当を渡して手作りとは笑わせる。バレンタインもそうだ。チョコを溶かして再度固めただけで手作りとは笑わせるわははは。それを藤内というイケメンにつつかれて傷ついた女の子が藤内とか同じような性格してる数馬の悪口とか言ったんだろう。それで噂だけで二人を決めつけて本当は好きだけど遠巻きに見ているだけって子がいるんだろうなぁ。二人も苦労してんだな。まぁ普通の性格してりゃ顔だけならモテるのにね。




普通に仲良くして普通に話してれば


「僕も早く八千代の弁当食べたい!」


普通にいい子だって解るのになぁ。




「嬉しいねえそう言ってくれるの!」
「だって得意なんでしょ?萌衣ちゃんもそう言ってたし」
「普通の料理はねぇ」

「お菓子が苦手なんだっけ?」
「そう」

「お菓子と普通の料理と何が違うの?」
「いやー、これは私個人の意見だけど、普通のご飯て調味料いっぱい使うのが多いからさぁ、目分量でも失敗してもなんとかごまかせるじゃん?」
「うん」

「でもお菓子って本当にちょっとでも分量違うと失敗するのよ」
「そうなの?」

「シュークリームなんて水吹きかけるの忘れただけでぺしゃんこだし、マカロンなんか上手くいかないとヒビだらけになるし」
「へぇー」
「つまりそこまでの細かい作業が私は苦手ってこと」

まぁそんな話をしたところで藤内は料理とかあんまりしなさそうだからへぇー程度で終わる話でしょうけど。だから私はお菓子が苦手なんだよと付け足したら、なるほどね、と藤内はいい大きさの鳥肉をとってくれた。お、これいいね。


「藤内も数馬と仲良いよね。よく廊下で二人でいるの見かけてたけど」
「まぁ僕らクラス一緒だし、ほとんど一緒に行動してるよ」

続いて向かった場所で卵をかごに入れると、藤内はさりげなく私のかごを持ってくださった。ひいイケメン。みんなこういうとこちゃんとみなよ!藤内イケメンだよ!さりげなく女子の事気遣える紳士だよ!ねぇみんなちょっと!カラオケとか行ってる場合じゃないって!スーパーに来なよ!


「八千代の得意料理って何?」
「オムレツかな」
「えっ、本当?今度晩御飯にお呼ばれしたい」
「女子寮くるの?大丈夫なの?」
「何が?」
「いらん誤解受けるかもよ?」


「別にかまわないよ。じゃぁ逆に今度僕らの映画鑑賞会来る?」
「絶対行く!!!」


こうして私たちは別の予定までブッキングしたのだった。まだお弁当すら作っていないというのに。早く帰んなよと言っても八千代が作る弁当の予習しておきたいとかわけのわからないことを言いだし、結局藤内は自分の荷物を抱えたまま私の買い物に最後まで付き合ってくれた。途中数馬からまだー?と電話があったのだが、私が代わりに出て謝罪をすると気にしないでと数馬は優しく言ってくれた。ううう、イケメンすぎて困る。萌衣ちゃん今なにしてるかな。左門とLINEつながったしイチャイチャしてんのかな。

……それにしても萌衣の悪口言ってたやつらどうなったかなぁ。あの後皆と別れた後一応報告として萌衣に言っておいたけど、萌衣行動にうつしたのかなぁ。萌衣あぁみえてキレると怖いし………。


「眉間に皺寄ってるよ」
「ぐぇ」
「何か悩み事?」
「ん、別に何も」
「そう」


買い物袋を自転車のかごに入れ、自転車に跨り、私たちは帰路についた。自転車に乗りながら今から帰るからと作兵衛に連絡を入れておいた。お弁当箱を受け取らねば。

道中藤内と改めて自己紹介をしたり、藤内のオススメ映画を教えて貰ったりもした。私は逆に藤内でも作れる簡単料理を口で説明したり(信号で赤になった瞬間メモとってた)して、中々楽しい放課後を過ごすことが出来た。

うーん、やっぱり友達は多い方がいいね。こういう映画の話とかなかなかしないし。新しい扉が開けた。


「さくべー!」
「!八千代!」

駐輪場に入っていくと、柵にぶらぶら腰掛けながらケータイをいじる姿。あの橙色の髪の毛は作兵衛くんではありませんか。
自転車を止め、藤内もいることに気が付き、作兵衛はよぉと藤内と一言二言交わしていた。

「作兵衛も来る?」
「後で行く!」
「じゃぁ先行ってるね。じゃぁね八千代、おやすみ」
「うん、おやすみー」

まぁおやすみ言うにはまだ早いけど。


「じゃ、お弁当箱受け取ります」
「本当にいいのか?」
「もう買い物済ませちゃったし、今更やっぱりいいとか言われても困るけど?」

「…じゃぁ、お願いします」
「おう、まかせとけ」


作兵衛が渡したのは真っ黒い中々でかいお弁当箱だった。萌衣のより一回り大きい。おほほこれは作り甲斐がありますね。

それじゃぁ明日は楽しみにしててねと言うと、作兵衛は嬉しそうに笑っておう!と言うのであった。くぅ、こいつもイケメンやでぇ。




「ところでそっちの紙袋は何?」
「やめろ、これは今日の部活で失敗したお菓子だ。触れるな」

「食わせてよ」
「黙れ小僧!失敗したと言っておろうgうわああああああやめて食べないで本当に失敗したんだから!!」

「まずっ!!」
「てめぇ!!」
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