午前の授業終了のチャイムが鳴り響き、先生は今日は此処までと黒板を綺麗にしてから教室を出ていかれた。地理の先生は地図まで持っていかなければいけないから面倒くさそうだ。荷物が毎回多くて大変そう。

「左門、今日何処で食べるの?」
「屋上とかどうだ?」
「いいね、じゃぁ先行っててくれる?先生手伝ってから行く」
「おう解った!新田も一緒良いんだよな?」
「うん、仲良くしてやって」

にっこり笑った左門に萌衣のことを任せ、私は黒板近くで荷物をまとめるのに梃子摺っている先生にかけよった。はたして左門に声をかけられて萌衣は平気でいられるのだろうか。彼女の命だけが心配である。
私は荷物を抱え先生の横を歩きながら職員室へたどり着いた。ありがとうと言われ頭を下げ、急ぎ教室へ戻った。もう机をくっつけてあっちこっちでグループを作り昼ご飯を食べているグループが多い。左門たちの姿がないとなると、やっぱりもう先に屋上へ行ったのか。くそう早くせねば貴重な昼休みが無くなってしまう。


「ねぇさっきのさぁ、新田ヤバくない?」
「新田って新田萌衣?左門にベッタリだったやつ?」


弁当箱とバッグを持ち、インラインに履き替えている最中に耳に届いた、明らかなる悪意のあるような萌衣の名ざし。


「なんであいつ左門と腕くんでたわけ?付き合ってんの?」
「さぁ、知らない。でも新田って左門狙ってなかった?」
「うわでたよクソビッチ死ねよ。あいつ男なら誰だっていいんでしょ?」
「美奈の彼氏とられたってマジ?」
「うわ、最悪」


美奈の彼氏は萌衣に惚れて勝手に美奈をフッただけ。萌衣は当時フリーだったから遊んであげただけ。別に萌衣がとったわけじゃないし、美奈は萌衣のこと嫌いだったからそういう噂になっただけ。お前ら何も知らないで変なこと言うな。

うちのクラスの子が二人と、他の教室の子が三人。あ、あれは私がお近づきにはならない方がいいと判断した部類の子だ。なんか煙草吸ってるとこ一回ファミレスで見たことあってから避けてる部類の子。あんまり近寄らんとことは思っていたのだが、話題が話題なだけに私の動きは一瞬止まった。だって友人の悪口言われているのだもの。萌衣が何言われてるのか聞いておきたいじゃん。あとで萌衣に告げるけどね。萌衣怒らせると怖いし。

だが内容はまあ陳腐なものだった。あれはおそらく萌衣に左門をとられるというのを危惧して出たただの負け惜しみ。やれ化粧が濃いだのやれぶりっ子だの。確かに萌衣は化粧も濃いしぶりっ子してるとこもあるだろうが、それは萌衣が可愛いから今まで全て許されているのだと彼女たちは知らない。何故化粧が濃いか。萌衣は新しい物が好きだから新しく出た新商品の化粧を使いたいだけ。ぶっちゃけすっぴんはもっと可愛い。ぶりっ子しているわけではなく本当の萌衣はキチってる。主に左門が絡むと恐ろしい程に興奮する。あと萌衣は本当に可愛い。可愛いといわれるのが大好きなために日々の美容を怠らない。絶対に。毎日隣の部屋からドタドタエクササイズ的なのやってるの聞こえてる。左門のために乳デカくしたとか言ってた。あのウエストであの乳は相当努力せねば出来ないこと。全く萌衣の事何も知らないで。

お前らみたいにただ化粧して目のまわり黒くして髪染めてスカート折ってただ女子高生をエンジョイしてるのとわけが違う。萌衣を悪く言うな。


「新田まじキモい」
「左門と付き合えるわけねぇじゃん」


お前らよりは余程希望あるよ、なーんて脳内で言いながら私は荷物を抱えインラインを滑らせ教室を後にした。あーいうのは関わらないに越したことはない。

「八千代なにそれ!超かっこいい!」
「今日靴忘れたからこれ」

「なんで廊下で滑ってんだよ」
「皆の視線を集めるためさ!!」

あんな女よりもっと可愛い子たちはいっぱいいる。あれはただの萌衣への嫉妬。悔しかったら萌衣ぐらい可愛くなってから出直せ。





失敗した。インラインで階段のぼるの辛すぎワロタ。
無事にのぼりきり屋上のドアを開けると、ふわりと気持ちのいい風が全身を包んだ。こっちこっちと三之助に手を振られ、ガーッと滑って移動をすると、孫兵はブフォォと吹き出して笑いだした。汚ぇ!


「ねぇ神崎くんて好きな子のタイプとかある?」
「好きになった女かな!」
「いやあああああああ本当男前えええええええ!!!」


「なぁ八千代、暴れる新田のおさめ方知ってるか?」
「ごめん作兵衛、こうなったらしばらくほっといてくれる?」


やっぱりというか思った通りというか、左門の左腕にしっかりと抱き着く萌衣の姿が。左門も笑顔で嫌がってはいないと見受けるが、萌衣の幸せそうな顔ったらない。素晴らしいほどの笑顔。なんつーか、お似合いだと一瞬思った。イケメン左門に美女萌衣。うん、あの化粧の濃い子たちとは比べ物にならないぐらいお似合いだ。

ガッとインラインのつま先をあげブレーキをかけ私は萌衣と孫兵の間に腰を下ろした。丸になってるけど、後ろは貯水タンクだし、まるで前後左右囲まれてるみたい。

とか思っていると、さっきは三之助の向こうに隠れて見知らぬ二人を発見。にっこり笑ってこちらを向いた新顔が、お二人。


「作兵衛から話は聞いたよ、大神八千代ちゃん?でいいんだよね?」
「そういう君は三反田数馬くん。で、浦風藤内くんでしょ?えーっと三組だっけ?」

「そう、僕ら三組。藤内でいいよ」
「僕も数馬でいいよ」
「そっか、じゃぁ八千代でいいよ。あ、今更だけど此処入っていいの?」

「もちろん良いに決まってるじゃん!」
「さ、早くお昼ご飯食べよ!」


どうやら私を待ってくれていたみたいで、数馬のその言葉を境にみんなバッグからお弁当やら購買で買ったパンやらを取り出した。


「萌衣、萌衣、ほら」
「ありがとっ!はい八千代!」
「ありがたき!」


私がバッグから、二人分の弁当を取り出すと、三之助はそれに疑問符を浮かべて見つめた。


「なんで萌衣の弁当お前が出すの?」
「萌衣の弁当は私が作ってんだよ」
「え、なんで?」

「私と萌衣調理部だから。あれ?言わなかったっけ?」
「聞いてない」


「私お菓子苦手でご飯系は得意で、萌衣はお菓子は得意だけど普通のご飯とかが苦手なの。だから萌衣はデザートを作ってくれて、」
「あたしのお弁当は八千代が作ってくれるの!」


これは中学卒業時、二人して寮に入ると決まった時に決めた約束だった。元々調理部的なところにはいりたいと言った萌衣は、ご飯系も作れるようになりたいといういい女磨きを目的とした入部希望だった。私はお菓子が苦手だったから付き添うように入ることにした。ところが寮に入ってぶつかった課題は毎日の購買での昼食代について。バイトをしているとはいえかさむことはかさむ。たまには甘いものだって食べたい時もある。家にいれば親が作ってくれるのだが、弁当を取りに態々実家に帰るなんて馬鹿な真似はしたくない。

そこで考えたのが私と萌衣の共同お昼ご飯。私が弁当を作り萌衣がデザートを作る。料理をすることは苦ではないし、人に美味しいと言ってもらえること自体は凄く好きなので、萌衣が提案したこれに私はのることにしたのだ。最初の一ヶ月の出費と次の月の出費を比べてみると結果は一目瞭然。出費が減ってる減ってる。これは大成功。後は己の苦手分野を克服するだけだ。


「なぁ八千代、」
「絶対嫌」
「俺まだ何もいってねぇだろ!」

「どうせ俺の分の弁当も作ってとか言うつもりだったんでしょ?三之助のいう事とかすぐ解る。嫌だよそんな乙女ゲームみたいなことするの」


頂きますと手を合わせて弁当の箱を空ける。萌衣もわお!とか言いながら弁当箱を開けて、満足そうな笑顔になった。今日のメインディッシュはエビフライである。おほほ2匹も入れてやったわよ。


「ところでさ、」


私が藤内と数馬の方をむくと、二人は、ん?と顔を疑問符を浮かべた。


「気に障るような言い方するかもしれないんだけど、私二人は毒舌だって聞いたのね?二人は私に対して変な目もたないの?」
「変な目って何?」

「作兵衛とか左門とか三之助とか孫兵と仲良くなってお近づきになりたいだけでしょ?みたいなさぁ」


よくある漫画のワンパターン。女の子がイケメンの男の子に近寄ってあわよくば恋愛関係になりたいみたいなゲスいお話。まぁ私は皆に恋愛感情内からそういわれても困るけど、ぶっちゃけ今までの体験を踏まえると二人がそういう性格なら私はそうとげとげしく言われてもおかしくはない。

私が正直にそういうと、箸を持った手で藤内がいやいやと手を振った。


「急にお弁当一緒に食べ始めたのならさすがにそう疑うかもだけど、八千代って元々作兵衛達が仲良くしてみたいなぁって言ってた相手だしー」
「正直僕らも仲良くしてみたいと思ってたし。さすがに僕らもそんな子にあからさまに敵意出したりしないよー」

「あ、そうなんだ。なーんだ思ってたよりも普通の人っぽくて安心した」


なにそれぇと二人して口元を押さえて笑う二人は、まるで女子高生のよう。ほのぼのしてやがる。可愛い。

藤内と数馬は、噂で聞いたほど毒々しいというわけではないようだ。前、藤内に告白した子がこっぴどくフられて三日学校を休んだという子が友人にいた。なんでも酷い言い方をされたのだとか。「初対面が好きとか何言ってんの?僕の何が解るの?」みたいな感じだったはず。その日から私の中の藤内のイメージはドSとなっていた。なんだ、これも噂が噂を重ねて悪くなっていっただけの結果か。で、イメンで、付き合いづらいから遠目で見ておこうってか。そっか。二人も誤解されてんのか。


「そういえば作兵衛、」
「あ?」
「これ、留さん先輩から預かってきたの」
「とめ…もしかして、食満先輩か…?……え!?け、食満先輩と知り合いなのか!?」
「あ、これも言ってなかったっけ?バイト先一緒なんだ」

はい、と別の手提げを渡した。保冷袋に入っている、昨日留さん先輩から預かったチーズケーキだ。留さん先輩からの預かりものというと作兵衛は目を輝かせて手提げを受け取った。中身が想像通りだったのか、作兵衛は今世紀最大の笑顔とでも題した方がいいレベルに素敵な笑顔を輝かせた。うおお眩しい。


「作兵衛食満先輩のチーズケーキ好きなんだもんね」
「孫兵も食べたことあるの?」
「食満先輩と作兵衛がお茶してるとこに偶然出くわしてね、作兵衛の家に行くことになってたみたいで誘われて。食満先輩が持ってきていたから御相伴にあずかったんだ」

本当においしいよねと孫兵はジュンコちゃんにお弁当のタコさんウィンナーをあげた。

「私も留さん先輩のチーズケーキ大好きなんだぁ。萌衣もよく一緒に食べるもんね」
「食満さんのチーズケーキには勝てないわ。いくら私の腕があったとしても」
「萌衣さんちなみに今日のデザートはなんでしょうか」
「オレンジのスフレよ、皮は容器として使ってみたけど、それは食べないでね!」

私は急ぎ萌衣から受け取ったタッパーをあけると、中には可愛らしいケーキが入っていた。私の素晴らしい弁当と萌衣の素晴らしいデザート。男子軍はこの女子高生らしい昼食を目の当たりにして、ゴクリとツバを飲んだのだった。

確かに寮生活では手作りの料理が恋しくなるだろう。ぶっちゃけこいつら家事とか一切しなさそう。彼女でもいない限り、手作り弁当なんて購買のおばちゃんの数量限定弁当でしか口にすることなんてないはず。羨ましいのだろうな、私たちのこの料理スキルが。


……それにしてもやめろよその捨てられた犬みたいな目。ほっとけなくなっちゃうだろ。



「………解った解った!解ったよもう!こんなんでいいなら弁当ぐらい作ってやるよ餓えた彼女無どもめ!ただし一日一人だからね!日替わり制度だからね!それと金はさすがにとれないけど対価は何か寄越せよ!タダじゃ割に合わないからな!」



孫兵のときはジュンコちゃんのもねぇと鼻の頭をつつくと、ジュンコちゃんは嬉しそうに私の指にすりよった。


「私もデザートぐらいならいくらでも増やせるから、皆の分作ってくるわね。神崎くんも食べてくれる???」
「おぉ!もちろん食べたいぞ!」
「やだ!!じゃぁ神崎くんの分は1,5倍多くするからね!!」


萌衣は左門に好きとはいっていないだろうが、誰がどう見ても片想いまっしぐら。とっととくっつけよこの野郎。左門も純情な乙女心で遊ぶな。解ってんだろお前にこの女惚れてるの。


「いつから作る?」
「…ほ、本当にいいのか?」

「別に、ぶっちゃけお弁当箱さえくれれば二人分も三人分も変わらないしね」

「じゃぁ明日俺に作ってよ、部活の朝練あるから早弁しちゃうかもしんねぇ。じゃぁ代わりに俺は31奢るってのでどう?」
「まじか最高!!!解った作兵衛からね。いいよ、じゃぁ放課後お弁当箱頂戴」
「おう、連絡するわ」

「いやいや連絡先知らないじゃん」
「…あ、」







「あ!そうだ!これを機にさ、皆の連絡先教えてよ!」





私が、ストラップのあまりついていない赤いケータイを取り出すと、

みんなそろって、ポケットからケータイを取り出したのだった。
















「なぁなぁ、神崎くんてくすぐったいから左門でいいぞ。だから萌衣でいいか?」
「結婚して!??!?!?!」

「萌衣落ち着け」
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