「ぐっもーんにんえびばで!!!!!!!」

ガラッと勢いよく開け教室に入ると、可愛い可愛いJK達が私におはよーと手を振ってくれた。ぐへへ今日も可愛いな女子高生達よ。微笑ましいぞその絶対領域。

「おっす三之助」
「よぉ八千代……、お前手に持ってるそれなんだめちゃめちゃカッコいいな」
「だろ?今朝の通学スタイルこれだったから」
「まじか、お前最先端だな」
「真似してもいいよ」

私が今手に持っているの紫のラインが入ったインラインスケートだ。そう、私は今朝寮からこれで通学してきた。
ローファーは動きづらいし足が疲れる。私はいつだって学校へ来るときはスニーカーなのだが、今朝靴ひもがきれていることに気づき、ちょっと危ないなぁと思い代わりにこれで来たのだ。別の靴?ねぇよ。あとヒールかサンダルしかない。代わりの靴とか買っとけばよかった。だって学校着いたら基本上履きだし、代わりとかそういう発想なかった。

貸して貸してと三之助が楽しそうに私のインラインを受け取ると、次いで後ろから作兵衛につながれた左門も教室に入ってきた。おはようと作兵衛が言うと同時に、どうやら左門も三之助が教室でインラインを履いているのを見つけたらしく、うおおおおとテンションを上げていた。

なんでインライン?と疑問を持つ作兵衛にかくかくしかじかと説明すると、作兵衛はえっ、と顔をしかめた。

「八千代スニーカーなのか?体育は?」
「そのままそれ使ってるよ」


「今日の三限目古文から体育に変更だぞ、今日どうすんだよ」


「……………やべぇ忘れてた…」

スニーカーといってもおしゃれな靴なんかじゃない。ただの黒い運動靴。色気がないとか言われたこととかないから疑問にも思っていなかったのだが、そうだ、今日体育あったじゃん!変更とか言われたじゃん!やべぇ!どうしよう!確か今日マラソンだった気がする!すっかり忘れてた!!

「…インラインで参加」
「出来るわけねぇだろ!」
「デスヨネー!」

教室の一番後ろ側をしゅーしゅー呑気に滑る三之助を追う左門。あぁ、やかましい子供にやかましいものを貸してしまった。

「俺ら今日体育館だった気がする。八千代サイズ何?貸してやろうか?」
「私小さいよ、23.5」

「うげ、俺25.5だわ。三之助は?」
「俺25。左門は?」
「僕は4.5だ!」

男子は今日は体育館でドッヂボールらしい。体育館履きを使うならスニーカーは使わないので貸してくれるらしかったのだが、残念ながら三人とも私よりサイズは大きいようだった。くそぅ成長期め。
だったら他のクラスに借りてこようかな。私23.5だけど、こんな小さいやついんのかなぁ。


「あ!多分孫兵が23.5だった気がするぞ!」


三之助からインラインを受け取り次は左門が履いていた。いやいやお前ら、それ私のだから。好き勝手遊ぶな。

孫兵というのは、恐らく伊賀崎のことだろう。あの噂によると一年の時クラスが一緒だったという。伊賀崎かぁ、喋ったことないけど、サイズが確実なら借りてみようかな。マラソンだから臭くなるかもだけど貸してくれるかな。


「じゃぁ俺が紹介してやろうか」
「作兵衛、いいの?」
「来いよ。お前ら留守番な」

「えー!僕らも行く!」
「そうだ作兵衛、八千代と二人っきりになるのは許さん」

「てめぇら連れてったら面倒事が増えんだよ!!おとなしくそれで遊んでろ!!!」


いやいや、それ私のインラインだから。

ブレザーの下に着ていたパーカーをぐいぐいと左門に引っ張られるも、迷子の面倒を見るのは却下だとその手を離させた。パーカーを直してチャリ、とピアスを鳴らして、作兵衛は私を手招きして教室を出て行った。伊賀崎かぁ。初接近だなぁ。

一つ隣の教室に作兵衛が顔をのぞかせ、私も続いて教室の中を覗いた。あ、おはよー八千代、と挨拶してくれる友達ににこりと笑い手を振ると、横にいた作兵衛が「孫兵!!」と声を上げた。
喧嘩番長の作兵衛の声が教室に響いたからか、1組の人間ほとんどがビクッと肩を揺らした。作兵衛はそんなこと気付づいてか気付かずか、視線は伊賀崎に向かっていた。

伊賀崎が座っていたのは、うちの教室で言う三之助の席だった。窓側一番後ろの席。顎に手を当てぼーっと外を眺めていた美形は、作兵衛の声に気が付くと、パッとこっちを振り向き席を立った。やはり、伊賀崎もここでは浮いてしまっているのか、周りには誰もいなかった。まぁ独特な雰囲気持ってるし、しかたないか。

廊下に出てきた伊賀崎。私はなぜか咄嗟に作兵衛の後ろに隠れてしまった。うぉおお、二の腕に蛇絡まっとるがな!!!こりゃ誰も寄り付かないって!!!危ないよお前!!!


「何どうしたの?用事?」
「お前靴のサイズ何だ?」
「靴?スニーカー?23.5だけど?」
「なぁ、八千代に貸してやってくんねぇかな、三限目体育になったの忘れてたらしくて」

作兵衛が一歩横にずれて、作兵衛の背後にいた私は伊賀崎の前に姿を現す形になった。どうも、と頭を下げると、伊賀崎はびっくりしたように目を大きくして、困ったように視線を私から作兵衛へうつした。

「…待ってて」

伊賀崎は教室の中へ戻って自分のロッカーへ向かった。教室からこっちを見ている友達は、「何で富松と八千代!?」「どういう組み合わせ!?」と私を作兵衛を見ながら話していた。やっと作兵衛も気が付いたのか、げんなりしたような顔でため息を吐いてしたをみた。あ、やめてみんな作兵衛傷ついてる!これでも傷ついちゃうような可愛い人間だって知ったの!やめてあげて!!


「…はい」

「ご、ごめんね!ありがとう!」
「……じゃ」


受け取ったスニーカーはところどころ汚れてるぐらいの綺麗なスニーカーだった。あんまり運動とか好きじゃなさそうだし、外の体育の時は本気じゃないのかな。




一限目、二限目を真面目に過ごしてとうとう来てしまった体育の時間。ドッヂボールいいだろと左門に自慢され体育着の入った袋でぼふぼふと何度もたたいた。マラソンやだなー、疲れるからやだなー。

伊賀崎から借りたスニーカーをもって玄関へ。萌衣ちゃんと可愛いピンクのスニーカーを持って玄関へ向かうと、外には先生がもうすでに待機していた。ダルぅ。

女子は毎回5km。まぁマラソン大会は10kmだし半分だって考えれば楽っちゃ楽なんだけど。走ってるときにウォークマンすることができたら私多分タイムもっと上がると思う。音楽あるなしで結構集中力違いますよね?そうですよね?っていうか5kmずっと無音で走るって結構キツいよ。ずっと自分の呼吸音しか聞こえないしつまんないし。先生ウォークマンの着用ありにしよ?事故とか起きないから大丈夫だって?え?無理?あ、そうですか。ですよね。

一緒に走っていた萌衣とバタバタと疲れた足音を鳴らしながら外から校門へ帰ってきて、そのまま水道へ向かった。疲れた。水飲みたい。


「暑ぅーー!!死ぬ!疲れた!死ぬ!」
「っていうか、八千代、ちょっと、また、早く、なったんじゃ、ない、の!?」

校舎にぶさがっている時計に目をやる。スタートから20分か。確かに早くなったかも。

「ほんとだ、ちょっと早くなってる!」
「なんで八千代呼吸乱れてないのよ!化け物なの!?」
「そう?」
「文武両道って、本当、八千代の、こと、よね……。こりゃ、男子も女子も、憧れちゃう、わけだわ…」

とか言ってるけど萌衣もそんな私についてきてるとか中々やるよね。人の事言えないよね。

ぜぇぜぇ言いながらその場に座り込む萌衣ちゃんは、あつぅいと色っぽい声でHカップの乳を覆う体育着の首元をつかみパタパタとあおいだ。なんだお前それ誘ってんのか?あ?っていうか乳デカくなりすぎじゃね?

「おいこら妖怪爆乳女、誘ってんのか」
「何いってんのよ八千代だってEあるくせに。でもやっぱり大きくなったと思う!?神崎くんこれで私に夢中になってくれるかしら!?」
「左門のための乳かよ!!ふざけんな私に揉ませろ!!!」

どうやらまじで左門に夢中の萌衣ちゃんは依然何処かで左門がおっぱいは大きい派だと言ってたのを聞いたらしい。それからただでさえFでデカかった乳をHまでデカくしたんだそうな。なんなんだお前、早く左門とくっつけよ。


「じゃぁ今日左門と三之助と作兵衛とお昼食べるから、一緒に食べようか」

「本当!?!?!夢みたい!!!!ちょっと先教室帰るわね!!この汗臭いのなんとかしておくわ!!」
「左門ェ…」


信じられない速度で校舎の中へ戻り、萌衣ちゃんは汗をなんとかしに行きました。くそ、私の萌衣と此処まで行動させるとは…。左門、許すまじ……。

ふと、体育館の方を見上げた。二階にある体育館の床窓から、男子の足がちらほらと見えた。やっぱりこの角度では中までは見えないかー。
続々と戻ってくるクラスメイトと他クラスの女子たち。私は校門前でタイムを計る先生に萌衣が腹を下したのでトイレに行きましたと告げた。こうしとけば呼んで来いとか言われないからな。八千代ちゃんやっさしぃー!

ありがとうございました!と礼をして私も急いで教室に戻った。教室の中には石鹸のいい匂いがする萌衣の姿が。髪もくるくるでさっきまでマラソンをやっていたのが嘘のようだった。くそ、良い女め。左門、貴様はとんでもない良い女の心を掴んだことを知っているのだろうな。貴様萌衣を幸せにせんかったら絶対に許さんぞ。

男子が返ってくる前に女子は制服に着替え、全員が制服にも戻ったところで、廊下から疲れたーという男子の声。女子がいようといまいとおかまいなしで男子は制服に着替え始めた。

「えっちだな八千代!」
「死ね左門。っていうかあんたたち体育の時ぐらいアクセサリー外しなよ、汗でサビるよ」
「落ち着かねぇんだよ外すと」

ネックレスをちゃりと鳴らしながら後ろから来た三之助が体育着を脱いだ。あらやだ素敵な腹筋。

「三之助意外と腹筋割れてんだね」
「一応体育委員長だし、バレー部部長だからな」
「ああそうだったね」

不良であり腹筋バキバキ。容姿良し。勉強出来ないとこがキズですが、中々この三人向かうとこ敵なしじゃね?もっとこいつらの良いとこ皆に知ってもらえればモテること間違いなしじゃね?

「八千代、靴、孫兵に返したか?」
「…あ、やべ!忘れてた!ありがと左門!」

そうだ靴を返しに行かないと。すっかり忘れてた。
私は机の横に置いておいた伊賀崎から借りた靴をもって、一組の教室へ急いだ。やばいやばい、チャイム鳴っちゃう。

確か伊賀崎の席は窓側一番後ろのはず。教室の後ろのドアを開き、すぐそばにいた友人に八千代!と声をかけられ、さっきと同じようにようと手を挙げ返事をした。

あ、いた。朝と同じく顎に手ぇ当てて窓の外見てぼーっとしてやがる。ちくしょう綺麗な顔しやがって。


「…伊賀崎、」
「!」

伊賀崎の横に立ち声をかけると、物凄いびっくりしたようにガタッ!!と体を強張らせた。あ、驚かせてごめん。


「これ、靴ありがとう」
「あ、あぁ、うん、別に」

何故私が伊賀崎に話しかけているのだろうかと、一組の視線は独り占め状態である。


「ごめんね急に靴借りて、助かったよー」
「あぁ、うん…」

「……今度なんかお礼さして?何がいい?」

そういえば左門に、あと三人紹介したい奴がいるのだと言われた。恐らくそのうちの一人は伊賀崎で間違いないだろう。
此処で引いては一歩前進できないなと思い、私は無理やりにでも会話してやろうと、靴ごときでお礼をすると言った。伊賀崎は、え、と再び驚いたように私を見上げた。

「……」
「……」
「……」
「……な、」
「な?」


「…なんで、靴、……わ、忘れたの……?」


意外にも、会話を広げてきたのは伊賀崎の方だった。


「あ、あぁ、靴?うん、私いつも運動靴で学校来てそれで体育出るんだけど、今朝靴紐切れちゃってさぁ、代えの靴もなかったからインラインで学校来たんだよねー。左門と三之助と作兵衛がサイズ大きくて、他の人に借りようと思ったんだけど、作兵衛が伊賀崎紹介してくれるって言う、か……ら…………」


私は伊賀崎の質問を無駄にするまいとペラペラしゃべっていたのだが、気付いたら伊賀崎は腹を押さえて机に顔を当てるように背中を曲げ、肩をぴくぴく揺らしていた。


「……伊賀崎?」








「………〜〜〜〜っ!!あはははははは!!い、インライン、…っ!!イ、インラインで、学校来たの!?く、靴の代わりに…!?…ぶっ、あっはははははははは!!な、なんで、靴持ってないのに…っ!!んなの持ってんの…!ぐっ、あ、あーっはっはっはっはっはっ!!!」






……これには、さすがに私も驚いた。
全く伊賀崎のことは知らないとはいえ、あまりにも笑いの沸点低すぎじゃないのだろうか。伊賀崎は私がインラインで来たというところが見事ツボにジャストミートしたらしく、過呼吸を起こすように声を大声にしずっと笑っていた。クラスのみんなも、伊賀崎が大口開けて笑っているところなんて初めて見たのだろう。ぽかーんとした表情で、みんな伊賀崎が笑い転げる様をずっと見ていた。

「い、伊賀崎、其処まで笑われると逆に恥ずかしい」
「〜〜〜っ!だっ、だってインライン…!!」
「解ったよもう!!悪かったから!!もうやめてよぉ!!」

ついに涙を流して笑い始めた伊賀崎。くそぅ、美形が笑うとこんなにもまぶいしいのか。みんな早く伊賀崎の魅力に気づきなよ。もったいないよこんなイケメンほっとくなんて。

ひぃひぃ言いながら、伊賀崎はゆっくり立ち上がり、私と正面に向き合った。


「ごめん、ごめんね、ちょっと、あまりにも、面白かったから…」
「いや、別に、インラインで来たのは事実だしね」

私がそういうと、第二波とまではいかないが、伊賀崎はぶっとまた笑った。


「そういえば、僕また自己紹介してなかった。一年の時クラス一緒だったの覚えてる?」
「ごめんね、それ覚えてなくてさ。三之助に言われて思い出したんだ」

「そっか、それでも僕の事知っててくれただけで嬉しいよ。僕も君と話したかった。孫兵でいいよ」

「うん、ありがとう孫兵。私の名前は?」
「大神八千代でしょ?」
「そ、八千代でいいよ。今日作兵衛たちとお昼食べるんだけど一緒にどう?」
「いいの?是非一緒させて」


「もちろんだとも。天気良いし中庭か屋上で食べよ。そしたら イ ン ラ イ ン 貸してあげるね」




もうだめだ、と、伊賀崎は膝を床について、腹を押さえてまた笑い始めたのであった。
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