「はははは!八千代が避けようと思ってた男と友達になっちゃったのか!」
「笑い事じゃないですやい!」

バンと音を立てカウンターにお盆を叩きつけると、尾浜先輩はうひぃとわざと驚いたように手を挙げた。

「良かったじゃないか、友達が増えるのは八千代にとって最高に嬉しいことだろ?」
「いや、まぁ、そりゃそうですけど…」
「向こうにとっても良いこと、お前にとっても良いこと、プラマイ0じゃないか」
「まぁ…そう考えれば…そう、なんですけどね……」

壁にたてかけてある箒を手に取り床をはきはじめると、尾浜先輩もカウンターを拭く布巾を持つ手を動かし始めた。

夕方からこの店はガラガラになる。そりゃそうよね、カフェが夜遅くまで混雑してるなんてないない。給料もいいし先輩も優しいし絶対定時で帰れるし、ここ最高だ。紹介してくれた尾浜先輩に感謝。

てなわけで、今日、昨日おこった出来事を、閉店作業中に尾浜先輩に聞いてもらっているのだ。尾浜先輩は大学に行きながらも、高校からのバイト先は変えたくないとこの付近に一人暮らしをされておられるらしい。まぁ大学もそう遠くない場所に決まったし、それはそれでいいんだろうけど、毎朝バイクとか心配。尾浜先輩絶対居眠り運転とかしそうだし。

誰の事なの?と尾浜先輩に聞かれ、とりあえずあの三人の名前を出した。次屋三之助と、神崎左門と、富松作兵衛です、と。尾浜先輩はあーはいはい!と覚えているように手を叩いた。

「覚えてる覚えてる!富松作兵衛ってあれだろ?入学式の日にうちの学年のバカにつっかかられて高校生活初日に乱闘したって大馬鹿野郎だろ?」
「あ、そうですそうです、よく覚えてましたね」

そういえばそんなこともあったなぁと、箒ではく手を休めて思い出すように手を叩いた。

「ねぇ食満先輩、富松って食満先輩の後輩でしたよね?」

尾浜先輩はカウンターから調理場へ体を向けると、中から「作兵衛?」と声が聞こえた。今皿を洗ってる留さん先輩だ。

「あ?作兵衛?作兵衛ならうちの近所に住んでた後輩だったが、作兵衛がどうした?」

「八千代がその富松と友達になったみたいですよ!」
「へぇ、珍しいな。八千代が作兵衛となんて」
「変な流れでしたけどねぇ」


丁度皿を洗い終わったのか、乾燥機の蓋を閉じスイッチを入れ、とめさん先輩はエプロンで手を拭きながらホールに出てきて、たてかけてある箒をもう一本持ち、私と一緒に店の中をはいてくれた。
留さん先輩も大学生だけど、此処が気に入ってるみたいで、進学をされてもここのバイトは辞めなかった。先輩がたのご友人も常連のようにくるし、今のとこ先輩方との絆が消えたなんてことは一回もない。

先輩は「作兵衛なぁ…」とつぶやき椅子に腰かけた。


「あいつは扱いが大変でなぁ」
「大変?作兵衛が?」
「なんだお前、もうすっかり仲良しか?」
「んー、まぁ、普通に喋れるぐらいには…」

「最初の作兵衛は酷かったぞ。作兵衛のことは小学校の時に委員会が一緒だったからその時から知ってるが……全然心開かねぇしな、敬語も使えないししょっちゅうあの時から喧嘩してるし」

「…作兵衛の小学生時代…」

「そういえば神崎も次屋も、迷子して俺たちの学年とか先輩たちに何処見てんだって喧嘩ふっかけられてボッコボコにしてたなぁ。あ、次屋たちのほうがボコボコにしてたの。あいつらやたら強いからなぁ」
「えぇー知りませんでした」


私は正直彼らと同じクラスになったことはない。あ、左門は一年の時同じだったか。そういえば伊賀崎もおなじだったな。一年通して一回も喋ったことないけど。

左門がよく怪我をして教室に戻ってきて、クラス中の人間をビクビクさせたことがあった。そのたびに笑顔で伊賀崎から絆創膏貰ってたのを私は見て、あぁ別に怖いわけじゃないのか、怒ってるわけでもなさそうだなど机に肘をついてぼーっと見ていた。喧嘩の理由なんて興味ないけど神崎すばしっこそうだから喧嘩有利そう、なんてのんきに思ってた時期も私にはありました。なんだよあれ喧嘩マシーンじゃねぇか。高性能喧嘩探知センサーでもついてんじゃねぇの。だからひょいひょい喧嘩ありそうな場所に行っちゃうんじゃないの。

「いきなり話できてるなんて、よっぽどお前と友達になりたかったんだろうな」
「……なんか、そう言われるとテレますね」

ぽんと頭に手を置かれてぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。そんな危ないヤツらと友達になったというのは事実だが、『私と友達になりたかった】なんて聞いたら、そりゃテレるにきまってる。恥ずかしい、私どんな人間だと思われてたんだろ。

「あー、八千代耳赤いぞ」
「うあああやめてください!っていうか尾浜先輩早く掃除してくださいよ!」
「テレちゃってかーわいい!」

ズシズシと私の頬を強くつつく尾浜先輩の手をパァンと勢いよく叩き落した。
そっか、私はクラスが一緒じゃなかったから知らなかったけど、留さん先輩は小学校の時から知ってるんだ。へぇー、それは初耳だわ。


「仲良くなってからは近所だって知ってからよく俺の家に遊びに来てたし、学校じゃ後輩も可愛がってるようだったから安心したが、やっぱり同学年の友人ってのはあの五人しかいないみたいだったな」
「へぇー、作兵衛が後輩をねぇ」
「あぁみえて結構責任感が強くて面倒見がいい奴なんだ」
「そうは見えませんよ」
「お前はまだ仲良くなって日が浅いからな。男女関係なく分け隔てなく仲良く接してるお前が、羨ましく見えたんだろうなぁ」



そういえば、三之助にもそんなこと言われたなぁ。男女隔てなく〜とか。そんなに珍しいことだったかなぁ、今男の友情も女の友情も大事にしてるって。他の子ってそういうのあんま考えないのかなぁ。
確かに私はどっちかといえば目立ってる方だと思う。あっちこっちに知り合いいるわイベントごとになると絶対目立つようなポジションにいるし。顔が知られてない、って言う方が逆にビックリだよって友人に言われたことがある。知らない後輩にも「大神先輩だー」とか言われたことあるし。いやいやそう考えるとちょっと恥ずかしいな。

いつからあいつらは私と友達になりたいと思い私に声をかけるタイミングをうかがっていたんだろうか。

………早く仲良くなってればよかったなぁ。


今日のお昼に、左門に残りの三人を紹介してもらう約束だったのだが、伊賀崎は急な委員会が。浦風と三反田は提出するはずのレポートをまだ終わらせていなかったらしく、一緒にご飯を食べる余裕がなかったみたいだ。まだ私のことは話していないらしい。萌衣も一緒でいい?と言ったら喜んでOKを出してくれた。良かった。



掃除を終え更衣室で尾浜先輩と着替えていると、ちょっといいかと留さん先輩が入って


「八千代、悪いがこれ、明日作兵衛に渡してくれないか?」

テーブルの上に、ホールケーキを入れる箱をとんと置いた。

「いいですけど、なんですかこれ?」
「チーズケーキだ」
「チーズケーキ?」

「俺の作ったチーズケーキ、よく家に食いに来てたんだ。今日は材料が余ったから久しぶりに食わせてやりたいと思ってな。実家に帰る余裕もないから、お前に渡しておこうと思って」

「え!?留さん先輩の作ったチーズケーキ!?私の分は!?!?」
「先輩俺のは!?」

「俺がお前らの分を用意してないとおもったか!?」

背中から出したのは別の箱。作兵衛のよりはひとまわり小さいけれど、中は出来たてのいい香りのするチーズケーキだった。箱を開けて、尾浜先輩はジュルリと涎をたらした。汚い。

「わーーーー!!留さん先輩のチーズケーキ!!!ありがとうございます!!」
「うめぇッス!!」
「尾浜先輩食べるの早ァ!!」


キッチンを担当する留さん先輩のケーキの美味さは異常。なんで製菓の専門行ってないんだろう。これが趣味の範囲の美味しさとかズルすぎる。私なんてお菓子作れないのに。作れてロールケーキぐらいなのに。留さん先輩の女子力の高さに嫉妬。嗚呼そういえば長次さんもお菓子作り美味かったな…。伊作さんのモンブランとか…………。


なんだろうこの敗北感……。




「八千代、今度俺のシフォンケーキ食べる?」
「食べたいです……!!」
「じゃぁ作ってきてあげるよ!」


うおおおおおーーーーーーーー!!!尾浜先輩のシフォンケーキうおぉおおーーーーーーーーーーーッッ!!!




………なんなんだよもう…。女子力ってなんなんだよ……。



もっとお菓子の研究してキッチンもホールも出来るようになりたい…。部活頑張ろう……。

留さん先輩からケーキの箱を受け取り自転車にまたがり、いつも通り尾浜先輩に家まで送っていただいた。遠回りだからからいいのに。
ケーキ今届けに……あ!そういえば作兵衛のアドレスとか知らないんだったわ!まぁいいか明日ケーキ渡して、それと同時にアドレス交換しようかな。

寮の階段を上がり部屋に入ろうとすると、お帰りーと扉が開き隣の部屋から萌衣が顔を出した。

「バイトお疲れぇ」
「ただいまー。あ、萌衣ちゃん萌衣ちゃん」
「うん?」
「留さん先輩からチーズケーキ貰ったんだけど、一緒に豚にならない?」
「えっ!?食満さんのチーズケーキ!?行く!」
「おっ、珍しい。寝る前3時間は食べないのでは?」

「食満さんのケーキなら太ってもいい!今行くから待ってて!!あと同時に神崎くんたちの話も聞かせて!!」
「あwwすっかり忘れてたwwww」




私の可愛い萌衣の心を奪った神崎ェ……。


よし、紅茶淹れよ。
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