高校生活最後の一年間、二日目。

私の生活は昨日と一変していた。


下駄箱へ靴を投げ入れバッグを担ぎ直し廊下を進んでいく。道行く友達におはようと声をかけられおはようと返事を言う。教室についたら自分の席にバッグを置いてとりあえず席に座る。

「おはよー八千代!」
「あ、おはよー、今日のグロス色昨日と違くない?」
「えー!八千代凄い!彼氏でも気付かなかったのに」
「解るよー、今日はピンクなんだね!可愛い可愛い!!」
「八千代がそういってくれると嬉しい!」

「ねー八千代ところでさー」
「八千代ー!」


机の周りに集まってくれる友人(JK可愛いハァハァ)達といつも通りに接しいつも通りイチャイチャしいつも通り昨日のテレビ番組などの話で盛り上がる。髪のセットが決まらなかったから萌衣は私より後から教室に入ってきて、慌てたように私にごめんねと手を合わせて謝ってきた。可愛いから許す。萌衣も混ざり朝の女子トークの話題はアイドルの新曲の話へ。そういえば今朝新曲CDのCMをやっていたような。私は既にチェック済みである。

チャイムが鳴ったら各々またあとでねと手を振り短いスカートをひるがえして席へと戻っていった。萌衣のパンツは白でした。絶滅寸前の白パンツ………グッジョブ……。



此処まではいつも通り。そう、此処までは。





「おはよう三之助」
「よっす八千代」


「おはよう左門」
「おはよう八千代!!」


「おはよう作兵衛」
「おはよ八千代」



私の新しい友人、次屋三之助、神崎左門、富松作兵衛に挨拶をする。

これが、私の新しい日課となったのだ。





























「……友達がいない…」

「……」
「…冗談は前髪だけにしてくれる?」
「いや冗談じゃないから。前髪もこれ地毛だから」
「嘘つくなよ」
「嘘じゃねぇよ」


次屋は寮生だ。私も寮生だけど。でもうちの寮は門限がない。バイトも自由。だけど私の部屋に次屋を招くわけにも行かない。だってファンと言うか信者と言うか、過激派に見つかったら困る。また逆もしかり。

てなわけで、私たちは一旦近くのファミレスへ行くことにした。道中次屋の方向音痴っぷりったらない。まじこいつ病気の領域だと思う。方向音痴うんぬんよりまず脳外科医か精神科かもしくは眼科へ行くべきだと思った。早急に。なんで看板見えてるのに左折すんだよ。直進で良いに決まってんだろヴォケ。

何名様ですかと爽やかな笑顔で尋ねられると二名で禁煙でと次屋は指を二本差し出して店員に言う。案内された場所はちょうど店の端で外からは見えない位置だった。よかった。窓側で学校のやつらに見つかったりでもしたら事だ。さっきの店員さんにチップ渡したいレベルにはありがたい。

とりあえずとドリンクバーを二つ頼み、私は紅茶を、次屋はコーラを持ってきて椅子へ座った。

さて、本題に入りたいと思う。


「……さっき、私に友達になってくれって言った?」

「…言った」



「…………嫌なんだけど」
「えぇー……」



正直にそう告げると、次屋はやっぱりな、とも、嘘だろ、とも表現しづらい顔で落胆したように頭を抱えた。


「…そういえば大神、今朝俺らのこと…苦手とか言ってたな」
「聞いてましたか」
「ばっちり」
「最悪だ」

「初対面でこんなこと聞くのもあれだけど、なんで俺たちのこと苦手なの?」


私は高校に入学時からこいつら六人には関わりたくないと思っていたのだ。

入学式前に教室でわいわいと友人を増やす傍ら、女子の視線を全てかっさらっている奴がいた。当時一年生だった私はその時神崎と伊賀崎と同じクラスだったのだ。あの二人は中学からの仲なのか親しそうに笑顔で話をしていた。その笑顔にクラス中に女子がヤられていた。カッコいいだのイケメンだの、そんなに気に入ったのなら声でもかければいいのに。男子でも女子でも私は友人になりたいと思ったやつには積極的に話しかける人間。コミュ障ではない。確かにイケメンだし近寄りがたいと言えば近寄りがたいのだが、話をしている話題は私も好きな漫画の話。あれなら入れそうと近寄ろうとしたとき耳にした言葉。


『あの二人には近寄らないでおこう』


女子が、頬を赤くしてそう言っていたのだ。



その瞬間、私の中の"何かがヤベーセンサー"が警報を鳴らした。
これだ、こいつらだ。こいつらには近寄ってはいけないのだ、と。


私は昔から男女問わず友人が多かったせいか、よくそこまで仲良くなかった女子から恨まれることがあった。



『〜ちゃんは〜くんが好きなんだから、八千代、あんまり仲良くしないでよ』

『大神さんて男好きだよね〜』

『〜くん、八千代のこと好きなんだって!〜ちゃんフラれちゃったじゃん!』

『なんで大神さんは〜くんのこと好きじゃないのにそんな親しくするの!?』



萌衣はいつだって「そんなの、あんたに魅力がなかっただけでしょう?」と私を守ってくれていた。可愛い萌衣に言われれば誰だって言葉が出なくなる。
確かに私は男子とも仲が良い。だけど恋愛対象としてみてるやつなんていないし、あの子がフラれたことなんて私には知ったこっちゃない。それはあなたの彼に対するアピールが足りなかっただけ。そういうことでしょう。ま、そんなこと言っても理解してくれなかったんだけどね。さすが中学生。都合の悪いことはみんな他人のせい。


それ以降、私は友人は多ければ多いほどいいとはいえど、「あ、こいつはダメだ」と思った人には近寄らないようにしてた。また巻き込まれても、面倒だし。


「それより、大体なんで次屋なんかが私と友達になりたいわけ?」


氷が溶けた紅茶で喉を潤し私はカップを置いて次屋をみた。次屋は私の目をハの字に下がった眉毛でみつめ、んー、と頭をかいてコップを手に取った。


「……いままで、女子の友達がいたことがない」

「えっ、」

「セフレとか、彼女とか、そういうのは別として、友達って存在がいたことがねぇ」


ちょっと黙ってろ!!!!!!!

セフレとか彼女とかそういう単語は今聞きたくないわチクショウメ!!!!!!!


「避けられてるんだと思ってた。作兵衛も左門も、俺も喧嘩っ早いし。藤内も数馬も意外と毒吐いたりとかするし、孫兵は、まぁ見ればわかる通りなんだけど。だから女子の友達がいたことがない。怖がられてるんだか、避けられてるんだか…。俺たちに寄ってくる女って、そういう、身体だけとかそういうのだし」


「…で、なんで私なの……」


次屋は見上げるように私をみて、テレくさそうに口元をゆがめてコーラを一気に飲み干した。



「大神、生徒会やってるだろ」
「え?あ、うん、まぁね」

「イベントあるたびに、いっつも目立ってるし、先輩にも気に入られてたし、いつだって男も女も関係なく囲まれてるし、なんか、その、………う、羨ましいなと思って」
「……」

「多分藤内とかな…一回だけお前と話したことあるの覚えてない?」
「え!?いつ!?」

「多分一年の時だったかな。美術室は何処だって聞いたら初対面なのに怖がりもしないで三階の東側だって答えてた時があったんだけど」
「ぜ、全然覚えてねぇ…」

「はは、だろうな。あー、なんか、すげぇいいやつだなーって。こういうやつ友達に欲しいなって二人で言ってて。女子だから無理かと思ってたんだけど」
「……」

「やっぱり無理だった。クラス違うから関わることもねぇってあきらめてたんだけど。でも孫兵と左門にその話したら


『うちのクラスの大神?すげぇいい奴だ!話したことはないけど、いつも笑顔で友達たちに囲まれてるぞ!』
『大神さんはいい人だと思うよ。多分、僕らを怖がってはいないと思う』


…ってさ。」


すげぇ、あの二人に私一年生の時そんな風に見られてたんだ……!全然知らなかった…!


「だから、クラスも一緒になったし、今年こそはって、思ったんだけど……やっぱり新しいクラスの女子も俺のこと避けてるみたいだった…」


そういうと次屋はコーラを飲み干してコップをテーブルに置いた。





………なんか、話おかしくない?女子お前らのこと避けてねぇからな?むしろどっちかっていうと暖かく見守ってるからな?

…嗚呼なるほど、こいつらは自分のモテ度を理解していないのか。だから怖がられて避けられてるとか、だから女子が近くに来ないとか、そういう考え方をしているんだな。なるほどな。




え、おいおい、なんかかわいそうになってきたぞ。





「あのさぁ、次屋って自分がモテてるって自覚してる?」
「えっ、」

「正直次屋と関わると、絶対次屋のこと好きな女の子から恨まれたりとかするって目に見えてるんだよね」
「…」

「女子の恨みは怖いから。経験済みだから。だからうちの学年で人気のあんたたち六人には絶対にかかわりたくないと思ってたの。ただそれだけ」
「…」

「むしろあんたたち六人て怖がられてるんじゃなくて見守られてんだよね。あんたたちのファンが勝手に抜け駆け禁止条例みたいなのつくったもんだか誰もあんたたちに近寄れないってことなの。解った?」
「え、え……え!?」

「うわモテてんの無自覚かよ死ね!!」


その後困惑する次屋に期末テストの勉強を教えるぐらいの勢いで今お前らがどういう立場にいるのかと言う説明をしてやった。


・怖がられているわけじゃない
・むしろモテてる
・女子がよらない原因は女子にある
・抜け駆け禁止条例がある
・セフレなどはその条例を無視する輩
・純粋なファンはあたたかく見守ってるだけ
・私はお前らのテモ度加減が苦手
・巻き込まれるのは御免だ
・だから苦手だと言った

・本気出せば、友人ぐらいできるはずだ


使っていないノートをだし相関図のようなものを書いた。ここまでやって次屋はやっと理解をし、「あああ……」と頭を抱えてテーブルに伏せた。



「………解った、解ったよ。じゃぁ、まず私が次屋の友達になる」

「……まじで!?」

「私でリハビリすればいいじゃん。そんで私になれたら、セフレとか、彼女とか、そういう目的じゃなしに女子に近寄ってみたらいいじゃん」
「大神……」

「友達が増えるのは私も嬉しいし、なんか色々私も勘違いしてたみたいだし…」
「……」

「…隣の席になったのも、何かの縁だしね」
「大神……!!」


次屋は其処まで私が言うと、立ち上がって私の手を取った。あ、次屋さんここファミレスです落ち着いてください。


「ありがとな大神!!」
「いやそのお声をもう少し小さく」

「お前に言って本当に良かった!!!」
「静かにしてください」

「今日から友達な!!八千代でいいか!?三之助でいいからさ!!」
「何でも結構ですので手を離して静かにしてください!!!!」

「コーラとってくるわ!!なんでも奢るから飯食おうぜ!!!」
「静かにしろハゲここファミレスだぞ!!!!」


急速な展開に私はさも友人と離しているかの如くのテンションでつっこみを入れてしまった。

…嗚呼、そうか、私は今彼とお友達になったんだ。だったら、つっこみをいれても問題はないのか。



……なるほど、関わりたくないと言ってた人物と、友人になってしまったのか。


まだ高校生活残ってるのに…この先不安だわ………。



「八千代!!僕とも友達になってくれ!!!」
「お、俺とも頼む!!!」

「紹介するわ、左門と作兵衛な」

「コーラ取りに行ってたんじゃないの!?!?」

























その後何処から現れたのか追加でやかましいのが二人、同じテーブルについたのだった。左門と作兵衛に三之助に説明した通りの今の皆の立ち位置を説明すると、なるほどなと納得した。お前ら何もしなけりゃただのイケメンなんだから。何もするな。頼むから。

「昨日は悪かったな」
「嫌別に。三之助と友達になれてうれしいよ」

ニッコリ笑ってそう返せば、テレくさそうに三之助も笑った。

「なぁ八千代!あと三人紹介したいやつがいるんだけどいいか!」
「出来れば断りたいけど」
「昼飯を一緒に食おう!!」
「出来れば断りたいけど」

「左門に目ぇつけられちゃ終わりだぞ」
「止めろよ作兵衛お前の子供だろ」
「子供じゃねぇよ!!」

友人と言えば名前呼びだろと三人には名前呼びを強制され、私も名前で呼ばれることになったのだ。まぁ別にいいけど。



制服のポケットで揺れるケータイには萌衣から「なんで三人と仲良くなってるの!?w(゜0゜)w」という可愛いメールが。顔を上げると困惑したような表情で萌衣は後ろを振り向いていた。私はごめんと手を顔の前で立てにし、「後で詳しいこと話すわ」と返信を送った。






……あと三人増えるのかー…。




…………タノシミダナー……。
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