席を変えよう。そう思った。
そりゃもちろんこんな三人に囲まれて勉強するなんてことできない。学ぶ気?あるけど?成績?良いよ?当たり前じゃん成績落ちてたら学費払ってる意味なくね?
だからもうこの席嫌なんだけど。っていうか次屋がめっちゃこっち見てる気がするんですけど。
「……」
「……」
いや、気のせいじゃない。めっちゃこっち見てる。テメェ神崎と席変われよキモ女とか思ってる視線だろ。うわぁぁぁ嫌だ嫌だ。
「じゃぁ今座ってる席でいいなー。今メモとったから次の席替えまで勝手に変えるなよー」
木下ァァアアアーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!!
こうして、私の高校生活最後の一年が華々しく散ったのであった。
「それにしてもお前が生徒会長か」
「そりゃまぁ、三年連続で生徒会に入ればそうなりますよね」
「お前は同学年にも後輩にも慕われているからなぁ」
「ちなみに、先輩たちにも、でしたけどね」
そういうと、先生と私はプリントを閉じながらふふふと笑った。
木下先生と何故こんなに仲が良いのかと言うと、一昨年木下先生が担任をしていた三年一組の尾浜先輩と私が親しかったからだ。新しく入った生徒会はこの学年は私だけだったので、尾浜先輩は大層新入生である私を可愛がってくださった。それで仲が良かったのだ。生徒会長の鉢屋先輩ももちろん仲良くしてくださったが、実は私は尾浜先輩にバイト先を紹介してもらった身なのだ。高校生になったからバイトと早くしたいという話を尾浜先輩にしたら、尾浜先輩が働いているカフェで人手不足が出ていたらしく、もしよかったらと紹介してくださったのだ。だからよくシフト変更のお願いとかで度々教室を訪れていた。それで尾浜先輩を通じて久々知先輩と仲良くさせていただいたり、生徒会の仕事で質問があったら鉢屋先輩に聞いてたので、不破先輩と仲良くなったり、竹谷先輩と仲良くなったり。バイト先にいるとめさん先輩を通じて伊作さんや文次郎さんや仙蔵さんや小平太さんや長次さんや……。
つまり私の交友関係はあっちこっちで広がっているということだ。
「尾浜は元気か?」
「えぇ、この間変なお客さんに絡まれたら助けてくれました」
「ほぉ、尾浜がな」
「尾浜先輩いい人ですよ?」
「わしが担任をしていた時宿題を出したことなど一回もなかったぞ」
「……ははは…」
そうは言いながらも、木下先生の目がちょっと嬉しそうだ。やっぱり卒業されても教え子の成長っていうのは気になるもんなんだろうなぁ。
「はい、先生プリントこれで終わりです」
「すまんな大神、新学期初日から手伝わせてしまって」
「とんでもない。今年一年、何かとご迷惑をおかけするかもしれませんが、何卒宜しくお願いいたします」
「おう、最後の一年全力で過ごせよ!」
「はい!じゃ、失礼します」
ペコリとお辞儀をして、私は社会化準備室の扉を閉めた。
ポケットにしまっておいたスマホの電源を付けLINEの未既読を消すと表示された時計は、夕方の5時を回っていた。もうこんな時間かと一瞬窓の外を見る。
新学期早々部活は新入生を勧誘するため必死で活動をしている。ちなみに私は料理研究部に所属しています。何故かというと、私は料理が苦手だったからだ。萌衣と一緒にあの自由気ままな部活に入部した。萌衣は女の子らしくお菓子作りが超得意な子だった。今年からは萌衣が部長だし、私はその他大勢(※大勢もいない)で充分。
萌衣はお菓子が得意。私はお菓子が苦手。
私はごはん系が得意。萌衣はごはん系が苦手。
というわけで、今年からはお菓子だけじゃなくごはん系も作ろうぜということになりました。つまり私は副部長という位置に立たされてるのかな。うおおめんどいなそれ。まぁいいけど。
生徒会と部活とバイトとのかけもちで辛くないのかと聞かれたら真っ先に「余裕です」と答えられる。だって料研は週に1階活動があるかないか微妙なラインをいっている部活だ。むしろ同好会のほうが正しい呼び方かもしれない。
生徒会はイベントがないと動かないし、結構私は自由に遊べている。
今日は何もない。木下先生に手伝えと言われなければ帰って寮の部屋の掃除する予定だったし、ほら暇人でしょ。今日は帰ったらご飯作って洗濯物してー……。
「……oh…」
バッグを取りに戻ると、教室にいたのは、私の机の横に座る、次屋の、姿が。
「……」
「…zZ……」
こいつが友人なら、「なんでまだ残ってるの?」とでも声をかけられただろうが、安易に想像できる。どうせさっきまで誰か女とイチャついてたんだろ?え?そうなんだろ?今賢者タイムか?お?いいご身分だな下半身節操無め。私と席変われ。窓側の一番後ろなんていい席座りやがって。
次屋は本当に賢者タイムなのか、机に顔を突っ伏し寝息を立てていた。起こさなければどうってことない。そうよ、気付かれなければいいのよ。
「……」
「…zZ……」
なんで寝てるのか知らないけど関わりたくない。関わったら絶対ロクなことない。こんなやつと仲良くしているところを誰かに見られてファンだか信者だかからバッシングでもされてみろ。私の学校生活がまだ1年も残っているのにもうゲームオーバーになっちまう。それだけはアカン。
あの六人とは関わらない。これが私の中の今年の誓いだ。
抜き足差し足忍び足。やばい私多分前世忍者だったかもしれない。物音立てないで歩くの上手すぎ。
そっと次屋を覗きこむと、本当に寝ているようだった。金髪の前髪が目元を隠してたが、長い睫は確実に下に垂れていた。いいぞそのまま寝てろ。
起きる気配は一向にない。このミッション成功しt《 八千代!愛する萌衣ちゃんからメールだよ!八千代!愛する萌衣ちゃんからメールだよ!八千代!愛する……
「……」
「……」
前略:新田萌衣様
貴女のことを此処まで恨んだのは、
貴女に出会ってから初めてのことです。
「……」
「〜〜〜〜っ!!起こしてごめんねッッ!!」
「お、おい!!ちょっと待て待て!!」
「ギャァァアアア!?」
「待て!!待ってくれ!!」
バッグを引っ掴み次屋から逃げるように思いっきり逃げる姿勢に入ったのだが、まさか手首を掴まれて其れを阻止されるとは思わなんだ。思わず叫んで腕をぶんぶんと振りほどいた。のだが、一向に解ける兆しはない。次屋はがっちり私の手首を掴んでいた。
なんでだ。なんで私を引きとめた。
「大神、だよな?」
「み、見ての通りだけど」
「ちょっと、あの、ちょ、」
「え!?え!?何!?なんで!?てかこの手離して!?」
「いや、その、」
「じゃぁ何用でござるか!」
正直ほぼ真っ暗で顔が見えない。っていうかもはや次屋の前髪の金ぴかぐらいしか見えない。なんで私がいま次屋に手首を掴まれているのか。
「大神、を、」
「え?私?」
「待ってた」
「………はい?」
やっと離してくれた手首は、次屋の発言に驚き空しくだらりとたれた。
私を待っていた?次屋が?なんのために?話?私に?
「…なん、で……?」
「……」
嗚呼!最もり関わりたくない人物に問いかけるとは!関わりたくないのに関わってしまった!
……いやだって気になるじゃん次屋が私を待ってるとか…………。こういうシチュでは告白がベタだが、次屋が私に気があるわけがない。そんなわけない。だからきっと別の話だ。
ふむふむ。読めたぞ。なるほどな。きっとこれはカツアゲだ。ヤヴァい。次屋三之助に私の生活費を持って行かれる。きっと私が良いカモだと判断したんだ。ヤバい死ぬ。
「おおおお金なら勘弁して下さい」
「え、」
「カカカカツアゲですか」
「違うから」
「じゃ一体何事でござるか」
「……あの、」
「はい」
「…その……」
「…はい…」
「俺と…」
「…次屋…と…?」
「友達になってくだsdg」
「え?」
なんですって?