「おぉー、見事にまたあんたと一緒だわ」

「嬉しくて仕方ないんでしょ?」
「ちょっと何言ってるか解んないです」

親友の萌衣とクラス替えの結果を見上げる。知っている名前が沢山並んでいるその中で、私の名前が見つかった。大神八千代。ここね、私は高校生活最後の一年を、三年二組で過ごすのね。了解しました。


「あー!!!」
「あ?」

「見て見て!!次屋くんと富松くんと神崎くんが一緒ーーーー!!!」

「……」


そして私は、新学期始まってすぐに、クラス替えを要求するレベルに最悪な事態を知ってしまったのである。

あの連中の3人と、クラスが一緒とな………。


「……最悪…」

「えー!なんで!神崎くんとか超かっこよくない!?」
「あんた趣味悪いよ」

「えっ、ちょ、ちょっと待って!八千代!」


最悪だ。最悪だ。最悪だ。まさかあのチャラチャラ集団六人のうちの三人が同じクラスだと。ありえん。何故。何故二分の一の確率で私とクラスが一緒なんだ。ふざけんな。散れ。散りとなれ。

友人である萌衣をほっといて、私は玄関口へと足を進めた。おはよう、とか、よろしくね、とか、毎年毎年聞いてる挨拶に適当に返事を返しながら教室へ向かう。途中で出会った学園長や先生達にも、ペコリと頭を下げて、さらに足は教室へとむかう。


「八千代って、あの六人嫌いなの?」
「いや、嫌いっていうか苦手」

「苦手?」

「うん、なんか、無理。私と合わないんだと思う」
「何が?」
「……気?」

なにそれぇと、萌衣は可愛くデコレーションされたケータイを取り出して笑った。萌衣は可愛い。髪の毛は茶髪でウェーブかかってるし、カラコン入れてるし極めつけはミニスカにしてニーハイだ。JKを満喫していますと言わんばかりのその容姿に、うちの学年の男子は虜である。何人の男といままで付き合ったの?なんて聞いたら、きっと今まで食べたパンの数覚えてる?とか返されそうで聞いたことがない。


「あれ、ケータイかえた?」
「そ。可愛いでしょ?春の新作!本体代かかっちゃったからしばらく遊べないわ」
「まだ二年たってなかったんじゃなかったの?」
「可愛いから欲しくなったの!」


しかしそんな萌衣でも、付き合ったことのない男版高嶺の花が、この学年には六人いる。通称、毒虫野郎、不運委員長、予習厨、喧嘩番長、節操無、方向音痴。大川学園始まって以来の問題児六人集だ。
クラス替えの結果を見たが、毒虫野郎は一人で1組、不運委員長と予習厨は3組。そしてまさかの節操無と方向音痴、喧嘩番長が同じクラスだなんて。私はなんて運がないんでしょうか。萌衣が同じクラスじゃなかったら自主退学申し出るレベルには最悪だった。

萌衣ほどの女が彼らと付き合ったことがないのは、別に彼らに興味がないから、というわけではない。女子の間である謎の協定、「彼らは黙って遠くから見守ろう法」というものがあるかららしい。馬鹿馬鹿しい。好きなら告白でもなんでもすればいいのに。

つまり「抜け駆け禁止」ということだ。彼らが高嶺の花過ぎて、誰も手が出せない。ってことは、彼らの方から好きな子ができなければ、彼らは永遠に私たちのもの……!?というわけのわからん女子たちの行き過ぎた妄想による協定ってわけだ。ははは、なにそれちょーおもしろーい。


「っていうか神崎くんに一回でいいから遊ばれてみたーい…」
「神崎……左門か。えー、なんであれがいいの。あれ完全に犬じゃん」
「え!そこが可愛くない!?」
「何言ってんのお前それ日本語?」


階段を上がり曲がり角に置かれたゴミ箱に今朝買ったばかりの豆乳の紙パックをぶちこんだ。美味しい。久々知先輩のオススメの豆乳が美味しすぎると私の中で話題に。


「あ、八千代ー!もうクラス離れちゃったじゃーん!」
「残念だったねー、二組だから逢いに来てね」

「八千代!今年同じクラス!よろしくね!」
「おぉついに一緒かー、あとで教室でね」

「八千代今日暇ー?」
「ごめーん、今日は寮の部屋掃除したいからー」

「八千代ー!!あのステージ終わんないんだけど!!」
「だからあそこは始まってすぐ右に隠し通路があると何度も!!」


其処行く友人にあっちこっちから声をかけられ、すべてに返事を返すたびに思う。コピーロボットが欲しいと。

友人は多ければ多いほど楽しい。私はそう思ってる。彼氏より友人がたくさんほしい。合コンに誘われしぶしぶいっても男と仲良くなる良し参加している女の子と仲良くなっちゃう系女子とは私のことです。どうもこんにちは、合コンクラッシャーです。

耐えずに鳴るケータイ。他校の友人からあの子と同じクラスになっただの八千代はどうだった?など、可愛い連絡がたくさん来て思わず頬がゆがむ。みんな可愛い。女子高生天使。萌衣が一番天使。


「……つくづく思うけどさぁ」
「あ?」

「八千代って本当友達多いよね…」

「友達は多ければ多いほどいい!これ譲れない!」


フリック入力で全てのLINEに返事を返し、ストラップをジャラリと鳴らしてケータイをポケットにしまった。

友達なんてそこらじゅうにいる。学校内も外も。もちろんバイト先の先輩だってその先輩の友達だって友達だ。私の友人関係は広く深くがモットーです。広く浅くなんてとんもでない。一人の男に振り回されるよりいろんな友達と遊んでる方が楽しい。その子が彼氏いるとか彼女がいるとか言っても別に気にしない。ただの友達!それだけ!


「でも、あの六人とは友達にならないの?」
「いやいや、あれらと友達になってもデメリットしかなくね?」


女遊び激しいんでしょ?だったら私なんか友達にならなくてよくね?仲良くなったらどうせ周りから叩かれるんでしょ?メリットなんてないじゃん。だったら別に、ねぇ?


「そんなに嫌いなの?折角同じクラスになったのにー」

「だーかーらー、私は嫌いなんじゃなくて苦手なの。次屋と富松と神崎は特に苦手な………の……」


そう言ってがらりと教室の扉を開けると、










「……」
「……」
「……」

「……」









扉の向こうには、あの三人がいました。


連載開始一話目にしてヒロインである設定の私に死亡フラグが立ったみたいです。





「…おざす………」

「……」
「……」
「……」



あまりにも目つきがヤバすぎて、私は低い腰で、小さい声で、体育会系挨拶をして、三人の横をすり抜けて教室の奥へ入っていった。

ウオォオオオオオヤベェ……!!今の絶対聞かれた……!!し、死んだ………!!!!


「あれー、もう二つ並んで空いてる席ないね」
「おおう、残念。じゃぁ萌衣あっち座んなよ。私ここ座るし」
「おっけー!じゃぁね!」

ガタリと椅子を引いて荷物を置いた。

空いていたのは窓側の席が一つと、一番後ろの窓側から二つ目が一つ。まぁここもいいか。よしとしよう。隣のベストポジションを獲得したのは誰だろう。

萌衣が椅子に座ってこっちにひらひらと手を振った。可愛い。まじ萌衣ちゃん天使。振りかえすとニッコリ笑って姿勢をもとの位置に戻した。多分あの視線の先は神崎のことを見つめているに違いない。神崎め。私の可愛い萌衣の視線を奪うとは罪作りな男だ。絶対に許さん。


………それにしても、神崎も次屋も富松も……さっきの私の発言聞いてねぇだろうな…。

とんでもない暴言だった。絡んだこともない人間に「苦手」と言われて嫌な思いをしないわけがない。私もこれから発言を気を付けなければ。同じクラスなんだしな。うん、気を付けよう。




「おはよう三年二組の諸君!!今年このクラスの担任を務める木下鉄丸だ!!席につけ!!出席をとるぞ!!」



あ、木下先生だ。木下先生うるさくて面白いから大好き。今年木下先生が担任なんだ。嬉しいぃい。






「………!?」









と、のんきに思っていたのもつかの間。


私の右隣に神崎が座り、

私の左隣に次屋が座り、

私の前に富松が座った。





私はゆっくり、机に顔をふせた。












…えっ、



……え!?!?


意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん意味が解らん!!!!!!!!!!!

なんで!?!?!?なんで!?!?!?

なんでお前ら三人で座ってここ開けてたの!?!??えっ!?!??!なんで?!?!?!?


なんで私此処座っちゃったの!?!?!?!?

















「あ?左門なんでそこ座ってんだよ」
「こっちだって言っただろ」

「おぉ!間違えた!」



神崎テメェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!
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