ものごっつドキドキする。

「はいこれ、お弁当」
「おぉ!ありがとう八千代!」

私が作ったお弁当じゃないのに、私が作ったを装ってあげてる。めっちゃドキドキする。ばれてないよね。ばれてないよね。左門はいつも通りの太陽のような笑顔で、私が差し出したお弁当箱を受け取った。いつも通り、事前に左門からお弁当箱を預かっていたから、それを萌衣に渡して、今朝、できたよと寮の戸を開けたところで私に出してきたので、私も萌衣の代わりに作ったデザートが入った箱を渡した。しかも、いつもビューティーな萌衣ちゃんの目に隈がある。コンシーラーでごりごりに隠したつもりだろうが、うっすら見えている。どんだけ精神削って左門に弁当を作ったんだろう。そして私はそれを今、渡してしまった。
約束通り手作りのお弁当がきたということに喜ぶ左門の背後で、緊張の面持ちになっている萌衣ちゃんが見える。自分が作ったと言えばよかったのに、なんでわざわざこんな回りくどいことをするのか。

左門がお弁当箱を開いたので中を覗いてみたのだが、中は特に、これと言って何か特徴があるような手の込んだものはなかったものの、一つ一つがとても美味しそうなお弁当だった。卵焼きにウィンナー、から揚げもあるし、おひたしもある。ご飯の段には生姜焼きがのっかってるし、高校生男子の腹には満足であろう量が所狭しと名詰め込まれていた。

「おぉー!うまそうだな八千代!さっそくいただきます!」
「はい、召し上がれ。私たちも食べよ」

「俺ももう一回八千代の弁当食いたい」
「やめてよ三之助。僕らだってまだなのに」
「そうだよ。二周目はいる前に僕と藤内が先だよ」
「まぁ明日は僕なんだけど」
「ちょっと男子〜黙って食べなよ〜〜」

弁当一つで全く喧しい連中だ。っていうか弁当ぐらい自分で作ればいいのに。

「美味いな八千代!」
「それはようござんした」

ばくばくと口に放りこむ左門。まずいの一言もでないとなると、萌衣ちゃん物凄い頑張ったんだね…!お母さん感動したよ…!恋する乙女って料理のレベルまであがるんだね…!まぁ私も留さん先輩直伝のチーズケーキを焼いてきたし、萌衣とは反対隣の部屋の子にも味見してもらって美味しいの判定ももらえたし、自分も少しは成長しているってことかな。

「あ、そういえばさぁ、二年の四郎兵衛とかいう子いるじゃん?可愛いなぁと思ってたんだけど、昨日左門の後輩の能勢くんだっけ。っていう子もいたけど、一年顔面偏差値高くない?私金持ちだったら四郎兵衛飼いたかったんだけど」
「八千代の発言やばくね?」
「でも確かに二年はイケメンおおいよねぇ。僕の処にも川西っていうやついるんだけど、美人なやつだよ。歌舞伎の女形って顔してる」
「へぇー」
「あとは池田じゃない?作兵衛の天敵の」

「天敵じゃねぇよクソ!あいつぜってぇシメてやる!」
「作兵衛さん怖いです」

池田くんという子が理由はわからないが作兵衛に命を狙われている。生意気な性格で作兵衛に喧嘩でも売ったのか。それとも池田くんがイケメンすぎて作兵衛の気にふれているのか。何にせよ作兵衛に狙われるのはかわいそうだ。見つけ次第忠告して助けてあげなければ。

「八千代の後輩の一年にも目鼻立ちがいいのいるじゃないか。ほら、黒木なんとか…」
「あぁ庄ちゃん?」
「僕の委員会の後輩と同じクラスだけど、あそこも結構顔がいいの揃ってるよ」
「一年三組かぁ。確かに、乱太郎も顔可愛いよね。伏木蔵も。しかし乱太郎とかしんべヱはいいとして、あそこもお前らみたいに短気な連中多いからなんともいえないけど」

「あれ?萌衣ちゃん、なんか一年三組の子が入部届持ってきたって言ってなかった?」
「あぁいたいた。この間土井先生に声かけられて渡されたのよ。うちのクラスの奴が入りたがってるんだが、男だけどいいか?って」
「あぁ男なの、珍しいね」
「料理好きなんだって。えーっと二郭くんだったかな?」

ほう、後輩には全く目を向けていなかったが、一年にもイケメン揃いの教室があるのか。しかも庄ちゃんのクラスかぁ。っていうか、彦ちゃんもイケメンだったな。あのクラスにも他にイケメンいるのかな。今度覗きに行ってみよう。

チーズケーキも美味しいと高評をいただけたので、どうやら無事に私も成長をしているようだ。よかったよかった。

「ごちそうさまでした!」
「はい、お粗末さまでした」

「明日は僕かぁ。楽しみだなぁ。あ、これお弁当箱。よろしくお願いします」
「はいよ。なに入れてほしい?希望きくよ?」
「あれたべたいな、真っ赤なタコさんウィンナー」
「可愛いの極みかよ」

ねぇジュンコと言うと、シャツの中から出てきた真っ赤な蝮のジュンコさんが孫兵の首をはってでてきた。ジュンコさんも赤いタコさんウィンナーを欲すのか。ではたくさんいれてやろうではないか。

午後の授業は数学と歴史なので、特に難なく終わらせ、今日は部活もないので普通に帰ることにした。帰ってとっとと宿題を終わらせよう。

「私今日このまま帰るけど、萌衣どうする?」
「私も帰る。コンビニ寄っていい?雑誌買いたいの」
「おっけー」

「ちょっと待ってくれ!」

バッグに荷物を詰め込み萌衣ちゃんの席にいったとき、一緒に帰ろうと立ち上がった萌衣ちゃんの腕を左門が掴んだ。一瞬目がハートになっていた萌衣ちゃんだったが、一瞬にしてなんで左門に腕を掴まれているのか解らないという顔に変わってしまった。

「萌衣、僕と帰ろう!部活の休みは貰ってきた!」
「え、な、なんで?」

「知ってるぞ!今日の僕の弁当作ってきてくれたの、萌衣だろ!」

「え!?」
「な、えっ!?なんで解った!?」
「ばっ…!ちょっと八千代…!」

うっかり口を滑らせて私じゃないということをばらしてしまったが、左門はどうやらご飯を食べているときから気づいていたのだという。

「なんでって、から揚げの味が八千代のと違かったし、食満先輩のチーズケーキの味とだったから、これはおかしいなと思ったんだ。やっぱり萌衣が弁当作ってくれたんだろ?」
「あ、う、うん…!そ、そう…!」

「で、八千代が食満先輩のチーズケーキつくったんだろ?」
「うわすげぇなお前全部あってるよ…」

「だから、今日は萌衣にお礼がしたいぞ!時間があるなら、僕と一緒に遊びに行こう!」

多分今教室に私しかいなかったら、萌衣ちゃんは発狂して頭から窓ガラスに突っ込んでいたことだろう。好いた男にここまで言われ、嬉しくならない女がいないはずがない。手首を掴まれたままの萌衣ちゃんは耳まで真っ赤にして、やっと、ゆっくり頷いた。

「じゃぁ僕先に萌衣と帰るから!作兵衛、三之助、八千代、また明日な!」

「じゃぁなー」
「新田ぁ!頼むから左門の手ぇ離ねぇでくれ!」

「クソお幸せに〜」

物凄いスピードで教室から出て行った二人。今日の夜にどこにいって何したのか全部聞いてやろう。

「なぁ八千代知ってるか」
「なんだ作兵衛」

「あいつらあれで付き合ってねえんだぜ」
「知ってる〜〜〜☆」

「えーいいなー俺も彼女欲しい。八千代俺と付き合ってよ」
「今三之助のメアド出会い系に登録した」
「うわちょっとやめて」
「嘘だよ」
「怖いこと言うなよ…」
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