朝起きて顔を洗って飯を食ったら服を着替えて洗濯物を干したら部屋の掃除をして財布から取り出した一週間分のレシートを広げてお小遣い帳を付けたら一休み。此処までで大体午前中が終わる。時計の針はもうすぐ正午をさそうとしているところだった。今日は日曜日だし、バイトが無ければ用事もない。と、いうことは一日中暇という事だ。洋服でも買いに外に出ようかな。そう思い化粧を整えていると、部屋のインターホンが鳴り響いた。

「はーい」
「八千代、私」

ドアの向こうから聞こえた声の主は私の愛する萌衣ちゃん。どうぞというと鍵を開けっ放しにしていたので萌衣ちゃんが中に入ってきた。

「ねぇ、これ食べてほしいの」
「なにこれどうしたの」
「いいから。とりあえず食べてみて」

萌衣ちゃんが持って来たのはラップをかけた皿に乗ったからあげと卵焼き。突然持ってきても理由は教えてくれなかった。朝食はもう既に食べたとはいえもうすぐ昼時。これぐらい食べる余裕はある。キッチンから洗ったばかりの箸を持ってきて玉子焼きを口に運んだ。

「ど、どう?」
「どうって、まぁ、甘くて美味しいよ」
「こ、こっちは?」
「うん。からあげも美味しいよ。どこで買ったん?」
「そ、そう!良かった…!あ、あのね、これさっき私が作ったの」
「ヴェッ!?萌衣が作ったの!?これ!?」

前も言ったが、萌衣ちゃんは超が付くほど料理が苦手。お菓子系統は得意だがなぜかお惣菜やらが苦手なのだといつも嘆いていた。そんな萌衣ちゃんがこれを作った、だと。なんという急成長ぶり。お母さん見直したよ。

「どうしたの、めっちゃ料理上手くなってるじゃん。ごめんねどこで買ったのとか市販疑って」
「ううんそれはいいの。ただ、ちょっと、八千代に頼みがあって」
「あ?何?」

「月曜日さ。神崎くんにお弁当作る役目……。私に、やらせてくれない?」

「…おっ?」

そういえば、三之助の次は左門に作ると言った。三之助に作ったのが金曜日だったから休み明けは左門ねーとか確かに約束したはず。そうだった。そういえばその買い物に行くのすっかり忘れてた。

「別にいいけど。なんかあれだね、あんたガチになってきたね」
「やばいもう本当神崎くん好き。結婚してほしい」
「順序おかしいよぉ」

「い、一応ほら、神崎くんは八千代のお弁当を期待しているわけだからさ、本当はダメかなーなんて…思ったりもしたんだけど…」

左門に遊ばれたいと、そう言っていたのは何時のことだったか。今では左門の事を本気で好きになっているようで。いやこれは良い事ですよ。左門も幸せもんだよこんなおっぱいの大きい可愛い子に好かれてしまっているんだから。私が左門だったら私から告白するレベル。

しかし萌衣ちゃんは一つだけ約束してほしいと言った。それは、そのお弁当を萌衣が作ったんじゃなくて私が作ったという設定で渡してほしいのだと言った。ただただ単純に料理の感想が欲しいだけなのだと。あと周りにバレたくないからって言ってたけど、いやもうバレてるバレてる。手遅れだから。萌衣ちゃんがバレてないのだと思っているのならいいよ。可愛いよお前。結婚してくれ。

一応約束したから、昨日のお昼頃左門と約束して一度会い、お弁当箱を預かっている。萌衣にはそれをあらかじめ渡しておいて、萌衣が料理を詰めて、明日の朝、私がそれを持って学校へ行けばいいという事だ。自分が作ったって言えばいいのに。なんだかもったいないなぁ。

「じゃぁ明日は私がお菓子作るよ。なんとか頑張ってみる」
「え?本当?だ、大丈夫?」
「うん大丈夫。留さん先輩書き下ろしの『猿でも作れるチーズケーキレシピ』があるから」
「ちょっと待ってなにそれ欲しい」

萌衣はお弁当箱を持って、頑張るねと意気込みを残して部屋から出て行った。可愛いなぁ。恋する乙女。あの子の敵は私が全て排除してやろう。

暫くすると外からバンと扉が閉まる音がした。おそらく萌衣ちゃんの部屋。あぁお弁当の材料でも買いに行くのかな。チーズケーキの材料は家にあるし、私も買い物に出よう。服とあと米が欲しい。そろそろきれそう。

寮から一番近いデパートで全て済ませようと私は部屋に鍵をかけて階段を降りた。到着した先は休みだからか結構混んでいた。可愛いと思った服を買い込み食品売り場に行くと、そこでふと見知った影を見かけた。コロコロと棒付飴をくわえながらお菓子売り場でカゴを持っているのは

「時友くーん」
「あっ!生徒会長!こんにちは!」
「ちょ、名前で良いよ名前で…なんか恥ずかしい…」

三之助の後輩の時友くんでした。大声で生徒会長なんて言うもんだから近くのお客さんの視線を独り占めしてしまった。は、恥ずかしい。

「じゃぁ、八千代先輩!お買い物ですか?」
「そうお買い物。時友くんも?」
「四郎兵衛でいいですよ!僕もお買い物です!お菓子のストック無くなっちゃったんだな」

と、可愛く言いながらカゴにばんばんお菓子を入れて行った。ポテチから飴ちゃんから煎餅からチョコからガムから…。

「え、ちょ、ちょちょ、こ、これ全部四郎兵衛だけで食べるの?」
「え?はい」
「な、何故太らない…!?」
「部活かなりハードなんで、なんか食べてないとすぐお腹減っちゃうんです」

カゴ山盛りのお菓子。おそらく今私が持っている米袋と同じぐらいは重さがあるだろう。一体こいつの身体はどうなっているんだ。身長は私より大きいけど、おそらく体重は筋肉で私よりはあるだろう。この間三之助といたときに見た腕の筋肉のつきかたは正直ヤバいと思った。おそらくヘッドロック一発で殺される腕だと思う。細マッチョってやつだ。怖い。

四郎兵衛と一緒にレジに並んで買い物を済ませると、四郎兵衛もこれで目的の買い物は終わりだったのか一緒に帰りましょうと私の横を歩いた。右手でお菓子の山の袋。反対側の手で私からお米の入った袋を奪い取り持ってくださった。私の荷物は洋服だけ。くそ、なんてイケメンなんだこいつは。

「ごめんねー持ってもらっちゃって」
「いえいえ、これぐらい軽いもんです」
「バレー部ってそんなに厳しいの?」
「次屋先輩が一年だった時の一個上の先輩の、その更に二つ上の先輩がかなりすごい先輩だったらしくて。そこからバレー部は凄く強いチームになったんだそうです」
「へぇー」

バレーで凄い人といえば、そういえば七松さんも昔バレーやってたとか言ってたなぁ。そういえば出身校どこなんだろう。訊いたことないなぁ。そのすごい先輩っていうのが七松さんの事だったりして。それだったら強くなっても仕方ないわ。

「だから、お米ぐらい楽勝ですよ!気にしないでください!」
「じゃぁお言葉に甘えようかなー。お礼に今度部活に差し入れしてあげるね」
「え!?本当ですか!?わーいやったー!!」

やったー!と喜びながら米の袋を持って飛び回る後輩の恐ろしさよ……。それ5kgあるやで…。こいつだけは敵に回してはいけない…。結局寮まで送って貰っちゃったし、いつか必ず差し入れを持っていくことを心に誓った。さよならー!と手を振り、四郎兵衛は男子寮へ走り去っていった。が、それを目で追っかけていたのは、おそらく迷子真っ最中であろう左門の姿だった。

「あれ?時友四郎兵衛と八千代がなんで一緒に居たんだ?デートか?」
「いやお前こそなんで袴で寮の近くうろついてんのよ」
「部活しててな!顔を洗って帰ろうとしたらここが何処だが解んなくなってしまってな!!」
「馬鹿ーーーーー!!!」

左門は確か会計委員会の委員長でもあり弓道部に所属していたはず。汗をかいて顔を洗って…戻ろうとしたら迷子ってか……。病気かよ……。ここで放っておくのもあれなので、此処で動くなと左門に言い、一度部屋に戻って米を置き、左門を弓道場へ送ることにした。目を離したすきに逃げられても困るので、袖を掴んだまま歩くことにした。

「あぁ!神崎先輩何処に行ってたんですか!!」
「おぉ能勢久作!すまんすまん!」
「あ、あの、ありがとうございます…えっと…生徒会長、ですよね…?」

「あ、うん初めまして。私大神八千代」
「神崎先輩を届けてくださって本当にありがとうございました。僕二年一組の能勢久作って言います」

「なんだ久作!人を物の様に言って!」
「あんたは物以下の知能でしょうが!!!」

二年生という事は四郎兵衛と同級生か。一組ってことはクラスは違うけど、きっと顔見知りではあるだろう。それにしてもこの子凄い度胸だ。問題児とはいえ先輩の胸ぐらを掴んで物以下と罵るとは。イケメンで強気な性格。こりゃモテるわ。

「じゃぁ左門、部活頑張ってね」
「おう!あ、明日のお弁当楽しみにしてるぞ!」
「はいはい、まかせといて!」


萌衣ちゃんが秘密にしてくれというのなら秘密にするとも!当たり前じゃないか!

だからどうか神様!!明日だけで結構です!!萌衣の料理の腕前を上げてください!!!
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