朝一番で職員室に用事があった私は荷物をすべて持ったまま足を運んだ。昨日の部活の活動日誌を先生に提出するのを忘れていた事を昨日の夜、顧問(仮)である学園長先生から絵文字付きでメールを受け取った。可愛いジジイだなと思いながら朝一で届けますねと行ってしまった手前、HR前に届けなければならないだろう。学園長がいなかったので昨日のオムライスは残ってないから、次の料理はとっときますねと言えば、学園長はそれならよいとヘムヘムを撫でた。学園長室を出て職員室を通って出口に向かおうとした時、「大神」と名前を呼ばれた。呼んだ主は木下先生で、HR前にこのプリントを配っておいてくれとピンクの用紙を手渡された。遠足のお知らせ。あぁそういえばそんな事もあったわ。了解ですと返事をし職員室から出たその時、閉じられた扉が再び勢いよく開き、私は見たことのない生徒に手首を掴まれていた。おっとこれは後輩ですね。誰だテメェら!

「今あなた、木下先生に大神先輩って呼ばれてました!?」
「大神先輩って生徒会長の八千代先輩ですか?」
「そうだけど…」

「まじっすか!庄ちゃんから聞いてましたクソ可愛いッスね!俺と付き合ってください!」
「いや俺と付き合ってください!」
「ファック!名を名乗れ!」

「一年の佐武虎若って言います!」
「俺は加藤団蔵です!」
「ファーーーック!!」

出たー!庄ちゃんと彦ちゃんが言ってた(おそらく)下半身節操無一年コンビだー!夜中に出歩くと出てきますよって言ってたやつらだこいつらだー!

「気持ちはありがたいんだけど私年下興味ないから」
「庄ちゃんもそう言ってフラれたって言ってました」
「俺たちのイケメン級長があなたにふられたって嘆いてたんで」
「せやろ?聞いたやろ?良い子だから諦めような」

プリントを手に荷物もまだ持ちっぱなしだ。とっとと教室に行って降ろしたいところだが、道をふさぐ二人がそうさせてくれない。くっそなんなんだよこの無駄にガタイの良い一年コンビは。誠に解せぬ。作兵衛ぐらい筋肉あるんじゃないのか。高1でこの体付は結構な事ですが、今は非常に邪魔です!どうやら二人は昨日ゲームの持ち込みがバレたらしく没収されていて、今朝返してもらえることになっていたらしい。馬鹿だなぁ先生今日の朝返すんじゃなくて放課後に返さないとまたこいつら学校内でやるでしょう…。

「道をあけなさい。さもなくば職員室に戻って担任である土井先生に放課後じゃないとまたあいつらゲームやりますよってアドバイスしてやるぞ」
「八千代先輩手厳しいッスね!」
「その前に連絡先教えてください!」
「死ね筋肉野郎!いでよ土井先生!」

「あ"ぁ"ーーー!待ってください待ってください!」
「お話だけでも!!」

まるでナンパ。職員室に戻ろうとする私の手首を掴んだ一年生はなんて礼儀知らずな奴等なんだろう。先輩の手首を掴んで引き止めるだなんて礼儀知らずな奴らめ。お前らなんか蝋人形してやろうか。離せ離しませんの攻防戦を続けている中、騒いでいるのは職員室前。ここで問題起こして生徒会長の顔に泥を塗らせる気かこいつらは。庄ちゃんにきっちり指導してもらわねば。そろそろ本気でキレないとHRに遅れてしまうぞと思っていると、ぬっと私の前に腕が一本伸びてきた。おやと思い顔を上げるとそこにいたのは見慣れた顔で


「うちの生徒会長いじめてる馬鹿は何処のどいつかなー」


私の手首を掴んでいた加藤の腕を掴みあげた。

「つ、次屋先輩!おざす!」
「おはようございます!」

「金吾に言っちゃうよ。早く教室戻んな」

舎弟かなんなのか。二人は三之助の顔を見た瞬間私から手を離してそそくさとじゃぁまたなんて言いながら階段を上がっていった。改めて「おはよう」と私に頭を下げた三之助は汗ををかいていて、しかも制服じゃなくてジャージだったので、部活の朝練終わりだというのが見えた。

「三之助部活終わり?」
「そう。俺バレー部の部長」
「へぇー知らんかった」

「次屋先輩はアタッカーですよ!力ありあまってるんで」
「お、シロ。まだ帰ってなかったんか」
「御忘れ物届けに来たんだな!ストップウォッチ忘れてましたよ!」

あぁありがとと三之助は後ろからひょっこり顔を出した可愛い子ちゃんから黒いストップウォッチを受け取った。可愛い子ちゃんもジャージ姿で、マイバレーボールを持参しているところを見ると三之助の後輩なのだろう。私という存在に今一度振り向き、ぺこりと頭を下げて、

「はじめまして生徒会長!僕二年の時友四郎兵衛っていいます!」

にぱっと可愛い笑顔を向けてくれた。

「わ―可愛い!飴ちゃんあげちゃう!」
「ありがとうございます!」

「え、ちょ、八千代俺には?」
「プロテインでも食ってろ」
「嘘だろ」

汗をかいているであろうからレモン味の飴を口に放り込んでやると彼は嬉しそうに口の中でころころ転がしながら階段を上がっていった。年下はないと思っていたけど時友くんはあり。あの子めっちゃ可愛いわ。加藤と佐武もあれぐらいかわいかったらいいんだけど。三之助は一緒に教室行こうといって職員室に入っていった。体育館の鍵を壁にひっかけて出てきた三之助はエナメルのバッグから餡パンを取り出してもさもさと口に入れ始めた。

「ふぁんふぇふぁひふふぁふぃふぁふぁふぁふぁふぇふぇふぁふぉ?」
「ベイビー食うか喋るかどっちかにしたまえ」

口に入れた餡パンを必死に飲みこんだ三之助は「なんであいつらに絡まれてたの?」と再び私に問いかけた。正直私が聞きたいぐらいだったが、だいたいは庄ちゃんのせいだということがよーくわかった。庄ちゃんが二人に私という存在の話をして、興味本位で近づいてきたんだろう。年下は恋愛対象じゃないという事も一緒に広めてくれないと後が困ると言うのに。赫々云々でと三之助に説明すると三之助は少々不機嫌そうに「ふぅん」とかえして再び餡パンを口に運んだ。

「あ、そうだ三之助」
「んー?」
「ほらお弁当。約束通りちゃんと作ってきたよ」

お弁当を入れているバッグを三之助に突き出すと、三之助はそれをみて本当に嬉しそうに口元を綻ばせた。そしてがさがさと食いかけの餡パンの袋を閉じて乱暴にバッグの中に戻すのだった。

「おろ、パン食べないの?」
「今から腹空かせとかないと、もったいない気がする!」

朝練が終わった後は腹が減るから、三之助は部活後にパンを食うのが決まりらしい。だけど私がお弁当を作ってきたと聞いて、今から腹を空かせて昼飯に臨みたいと今日のパンはお預けとすることにした。そんな大したもんじゃないんだけど。でもこんなに喜んでくれるなら作り甲斐があるというものだ。


「其処まで言って貰えて嬉しいけど、HR始まるから早く教室いこ」
「おう」


再び三之助に用事があったため戻ってきた時友くんに、食いかけのあんぱんを押し付けようとした三之助を殴ったことは左門と作兵衛には内緒である。
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