「ほらもっと本気出せ富松!」
「は、はい!もう一回お願いします!」
「よーし!いくぞ!いけいけどんどーん!!」













「えぇ?富松先輩が体育委員会にぃ?」
「先日の……御姉様の件でですかぁ…?」
「じゃぁ、用具委員会はどうなるんですか?」

「いや、一週間みっちり鍛えてもらうといっていた。きっと期間限定移動だ」


なぁんだ、と下級生三人が用具倉庫の前で息を吐いた。今此処にいない作兵衛は、体育委員会の活動へ行っている。今週一週間、作兵衛はあの姉との決闘に向けて猛烈に体を鍛えると言っていた。とはいったものの何をすればいいのだろうと悩んだ作兵衛に助け舟を出すため、俺は小平太にその趣旨を伝えた。体育委員会委員長である小平太はそれを快く受け入れてくれて、事の流れを理解した作兵衛は、張り切って体育委員会に混ざって活動している。小平太の横にいた滝夜叉丸によろしくと伝えると、お預かりいたしますと深々頭を下げた。

「てなわけで、俺だけでお前らを見るのは少し難しい。悪いが今週一週間は用具委員会の活動を停止とする」
「「「はーい」」」

「勝手ですまないな。それじゃ、解散」


お疲れ様でしたと三人は頭を下げて、長屋の方へ走って行った。俺もそれを追うように、ゆっくり長屋の方へ足を向けた。

作兵衛はあの菖蒲さんに勝つために必死で体を鍛えている。ならば俺はあいつのために何が出来るだろうか。大事な後輩の願いだ。出来る限りのことはしてやりたい。


「入るぞ」
「やぁ留さん。怪我でも?」
「いや、伊作がいるとおもってな」
「相談事かい?」
「まぁな」

薬の匂いが充満する保健室へ足を踏み入れた。どうやら今日の保健室の当番は伊作だけのようで、部屋には誰もいなかった。
どうぞと出された座布団に腰を下ろして深く深く息を吐き出すと、伊作はキョトンとしたような目で俺を見た。


「珍しいね、留さんがそんな深いため息するなんて」
「……なぁ伊作、」
「なぁに?」

「俺には弟なんてものはいないから解らん。菖蒲さんは、何故あそこまでして作兵衛を連れて帰りたいのだろうか」

「うーん、僕にも兄弟いないから解んないけど、約束は約束だからじゃない?」
「…そうか……」
「三年で帰ると言ったのは富松だろう?だったらあの人もあそこまで怒るのも当たり前じゃないかな?」
「……」


確かに、三年前の約束とはいえ、作兵衛は菖蒲さんに三年で帰ると約束していたという。だが、作兵衛はさらに上を目指したいという夢をもった。学園に入ることを後押しするぐらいなら、その作兵衛の新しい大きな夢は応援するべきじゃないのか?

作兵衛は確かに礼儀正しく責任感もあるし、成績もかなりいい方だと聞いている。今年で辞めると言っても、安心して送り出せるぐらいのものは持っている。
しかしそれでは物足りず、まだ上を目指す。それは素晴らしいことじゃないか。富松家の家がある町の治安が悪いというのなら、作兵衛はさらに強くなるため力をつける、それでいいではないか。なんで応援しないんだろうか。なんで、あそこまで約束を守らせようとするのか。

菖蒲さんが、愛する弟に決闘を挑むほど、それほどまでに作兵衛を連れて帰りたい理由は、なんだ?



「誰かいるかい?入ってもいいかな?」

「はい、どうぞ!」

「や、」
「利吉さん!お久しぶりです!」

「少し、傷薬を分けてもらいたいんだけど…」
「えぇどうぞ。留さん、座布団を」
「あぁ」

「やぁ、すまないね」


うんうんと唸っていると、すっと音もなく保健室の扉が横へ開いた。そこから入ってきたのは、山田先生の御子息である、利吉さんだ。
利吉さんは服をまくりあげると、そこには切り傷のような傷から血がぷつぷつと出ていた。伊作は立ち上がり、箪笥から包帯と不思議な色をしている傷薬を出した。


「どうしたんですか?」
「いやぁ、少し戦場で仕事があったんだが…少し情報が足りなくてね……」
「挟まれたのですか?」

「うん、情けないことにね」

「危なかったですね…」
「うん、もう少しでもう一発当たるところだったよ。ありがとう伊作くん」
「いいえ、ご無事でなによりです」


ぐるぐる巻きにされた包帯を固く結び、伊作は救急箱をしまった。お茶を入れてくるねと伊作は保健室を出て行った。


「ところで食満くん、君は用具委員会だったね?」
「は、はい、そうですが」
「最近何かなかったかい?」
「はい?」

「…富松作兵衛の姉だよ。ここへ来ただろう?」

「!! な、何故利吉さんがそれを!?」


イラズラっ子のような笑顔で、利吉さんは菖蒲さんの話を持ち出した。


「実は忍術学園のことを話したのは私でね」
「利吉さんが?」

「彼女が遊処で働いているという事実は?」
「知ってます」

「遊処は忍にとってかなりの情報がある場所でね。私も良く菖蒲のいる店に行くんだ。あそこはかなりの情報がある場所なんでね」
「!そうでしたか…」

「私はよく菖蒲の世話になっているんだ。いや、そういう意味じゃなくてね。相談事も聞くような仲なんだよ。そこで聞いた菖蒲の本名。そして、富松と言う菖蒲の苗字。聞き覚えがある名だなと思ったら弟は忍術学園と言う場所に通っているという話を聞いてね。
三年で帰るという約束をしたという三年生の弟がいると。やはり此処の富松作兵衛の姉だったようだね」

「先日此処へ来ましたよ。利吉さんが場所を教えたんですね」

「ははは、大層暴れて帰っただろう」
「えぇ、あんなに強いとは…」
「彼女は強いよ。太夫の護衛を任されるぐらいだ」
「……」


そりゃ勝てないわけだ。俺は落胆したように肩を落とした。

それを察してくれたのか、利吉さんは苦笑いして俺の肩に手を置いた。


「逢いたいかい?」
「えっ、」

「菖蒲に、逢いたいんだろう?君のその顔色では、富松作兵衛を連れて帰る菖蒲を止めたいんだろう?」


「………何処で逢えるんですか…?」













「すいませーん、善法寺先輩いませんか?」


「やぁ鉢屋三郎、丁度いいところに」
「これは利吉さん!いらしていたんですか、こんにちは」

「こんにちは。今少し時間あるかい?」
「え?えぇ、大丈夫ですが?」

「ちょっと、君に頼みたいことがあるんだが」
 
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