「幼稚園につくぞー!ハンカチ持ってる?」

「もってる!」

「ティッシュ持ってる?」

「もってる!」

「よし!到着!!降りるんだ三郎!!」


ママチャリなんてあるわけもなく、私は通学用の自転車でニケツをして幼稚園まで送り届けた。スタンドをかけ三郎を荷台から降ろす。座布団代わりに三郎の尻にしいていたブレザーをバサリとはらってしわをのばし、シャツの上からそれを羽織った。

「はい三郎約束のおにぎり!」
「おわー!でっけぇ!ありがとう!」

「じゃぁ私は学校へいくからな!!」

「え…」

「え、て」

「…やだ、平仮名ねえちゃんもいっしょがいい」
「やだこの子本当に可愛い…」


スタンドをガタンと蹴り飛ばし自転車にまたがったのだが、渡したお弁当袋を片手にいやいやと首を振りながら三郎は私のスカートをはしっと掴んだ。

しょーがないなーと私はいったん自転車から降りて三郎をぎゅーっと抱きしめた。三郎はそれにこたえるように短い腕を必死に私の首に伸ばして回した。
ちょうど今は子供を送り届ける時間のラッシュ帯なのか、門の前にはたくさんの親とたくさんの子供、それから「おはよう」と声をかける先生方の前を、送迎バスが横切った。

そんな中高校の制服を着た私が三郎をぎゅーっと抱きしめている姿、かなり浮いてる。三郎の親と思われてるか、姉と思われてるか。まぁ後者だろうけど、何処からその噂が流れてしまったのか、三郎の話は親御さんに伝わっているみたいだ。「ほらあの子よ」なんて陰口をたたかれている。聞こえてるよそのこババァ。こっち見んな。

余所の家庭のことなんてほっといて欲しいけど、まぁ目立つもんは目立つからな。仕方ない。

しかも行くなと引き止められてしまっては無理に引きはがすわけにはいかない。よし、ここはあの手でいこう。


「三郎、そんなんじゃ憧れのヒーローになれないぞ」
「!」

「大きくなったら何になるんだっけ?」

「コヘレンジャー!」

「我が名は小平太!いけいけどんどんの精神で全世界の悪を根絶やしにする!」
「あくのそしきカイケーイーンをゆるしはしない!!」

「細かいことは!?」

「きにするな!」

「いけいけ!?」

「どんどーん!」


私が変身ポーズをとると、三郎も私のスカートを離してビシッと変身ポーズを決めた。


「暴君戦隊コヘレンジャー参上!!」

「ちょうひっさつおうぎ!!いけどんすぱーいく!!」


三郎がジャンプしてバレーボールをアタックするように腕をブンッと振り下ろした。やだこの子本当に可愛い今度は別の意味で目立ってる周りのお母さん方が悩殺されてるの視界の端で見えてるドゥワハハハ可愛いだろこいつは私の弟だ!!!


「さぶろー!コヘレンジャーごっこいれてー!」

「かんちゃんだ!平仮名ねえちゃんあれともだち!」

「何!?編入早々もう友達が出来たのk…なにあの子けしからん可愛い!」


遠くから走り寄ってくる可愛い子はペロペロキャンディーを持ちながら爆走してきた。お菓子の持ち込みはアウトだろどう考えても。
かんちゃんを紹介された子は三郎の側に(私の足元に)来ると、おはようございますと深々私に挨拶をしてきた。ここの幼稚園お持ち帰り制度はないのかな。ないか。なるほど。

近くにいた三郎の担任の諸泉先生によろしくお願いしますと頭を下げて、私は再び自転車に戻った。


「おはよう友達!よし!友達も元気だ!じゃぁ私は学校行くからな!いい子にしてろよ!」

「らじゃー!」

「あばよ!」

「あばよー!」


今度こそと自転車にまたがると、友達がいたからか今度は私にしがみついてきたりしなかった。よかったよかった。


猛スピードで自転車をこぎ閉められるぎりぎりの門をなんとか通過した。始業のチャイムと同時に教室に入ると、おはようと見知った友人の顔が二人目に入った。一人は朝から本を読んでいるし、もう一人は朝から周りに女の子を侍らせている。よくもまぁ彼女たちもこう毎日近寄れるもんだ。私ならこんな存在遠くから見ているだけで十分だというのに。

ガタンと着席すると、私の前に座っていた親友がよぉ!と手を挙げた。


「おはよう小平太。あ、小平太ー、今度うちの弟に逢ってやってよ。将来お前になりたいんだって」

「ん?名前に弟なんかいたっけ?」
「ほら昨日電話で話たじゃん」
「……あぁ!そういえばそうだったな!あのかわいそうな子な!」
「かわいそう言うな!!」

「すまん!いいぞ!今度遊びに行ってやる!」

「さすが親友!」

「じゃぁその三郎ってやつのためにレンジャー全員集合して遊びに行ってやる!」
「えっ、パープル役の子のサイン欲しいんだけど…!!」

「あいつ男だぞ」
「やめろー!!!滝ちゃんは絶対に女だーー!!!!お色気担当だーーッッ!!!!」


私が暴君戦隊コヘレンジャーのレッドと友人だということを、三郎はまだ知らない……。


昨日今日で私と三郎はかなり親密度が増した。おにぎりの材料を買いに行ったスーパーで目当ての鮭フレークは品切れで見つからず、がっかりしてしまった三郎。私はこのままではいけないと思って商店街へと自転車を走らせたのだった。かなりフレンドリーな魚屋さんに三郎を連れて行くためだ。

通称"お頭"と呼ばれる強面の漁師さんにことを事情を説明すると、お頭は「これを持ってけ!」とデカい鮭をドンと突き出してきたのだ。私と三郎は興奮したのだがそんなお金ないと断った。当たり前だ。あんな三郎と大きさがどっこいどっこいな魚買えるわけがない。だが、残念だけどと言おうとすると後ろから出てきた鬼ぃさん(鬼蜘蛛丸さんだったかな)がきってあげるよとちょうどいい大きさに切り分けでくれたのだ。かなり嬉しかった。
新鮮なお魚をフレークにしるだなんてなんて贅沢。
三郎にお金を渡して、鬼ぃさんに渡させた。それをみた漁師仲間さんが三郎の可愛さにやられたからか、これも持ってけこれも持ってけとどさどさ海の幸を籠に入れていったのだ。昨晩は海の幸フルコースだった。

そんなこんなで、のりたまはなかったが、無事に鮭をゲットすることができたのだ。家に帰って鮭を焼き明日の準備はばっちり。今朝はかなりおいしそうなおにぎりを三郎に持たせて上げることができて満足した。

子供のために早起きとか…!!名前まじえらい…!!


「てなわけで可愛い弟のためにお昼ご飯作ってあげたわけよ…」
「…偉いな……」
「でしょ!?私にしてはよくやったと褒めてやりたいぐらいだわ」

「凄いなー!今度私にもお昼作ってくれ!!」
「だが断る!!」


かったるい授業を右から左へ受け流し続け早四時間。待ちに待ったお昼ご飯のチャイムが鳴り、私と小平太は財布を持って立ち上がった。食堂へ行くためだ。
長次は本を片手に私と小平太の間を歩き、共に食堂へ向かった。食堂で先に食べていた伊作と留三郎の横の椅子に座り、私と小平太はパンを買いに行った。

そこでふと、あっちこっちで食べている女子の弁当が目に入った。なんか、めっちゃ可愛いお弁当だらけだ。

私は母さんから弁当を作ってもらっていない。お母さんは父ちゃんと利吉兄ちゃんの弁当を作るのに忙しいから、私の分はいいよと高校生活が始まるときに辞退していたのだ。お昼ご飯代ぐらいはバイトで稼いでるから問題はない。たまーに時間に余裕があるとお母さんから作ってくれるのだが、私のお昼はほとんど学食だ。

だから、改めてほかの子のお弁当をみて、なるほどこういうのをお弁当というのか、と思った。


「…」
「どうした名前、顔色悪いぞ」
「いや、なんでもねぇ」
「口も悪いぞ」


焼きそばパンとクリームパンを買い、席に戻った。仙蔵と文次郎もくわわっていて、私は改めてテーブルの上を見た。

仙蔵と長次、それから留三郎と伊作は弁当組だ。よーーーく見ると、みんなのお弁当も、いろいろおかずが入っていて、可愛い。


「なんだ名前、物欲しそうな目をして」
「違うわとめ。いや、みんなの弁当すごいチャラチャラしてんなーと思って。嬉しいのそういうの?」

「なんだと名前、貴様人の母親が作った弁当に文句があるのか」
「そういう意味じゃないわ仙蔵チクショウ!!おにぎりは!?おにぎり!!おにぎり一個!!」


突然の私の発言に、その場にいた友人は一斉にポカンとした。私の言葉が通じていないのか。おにぎりだよお握り。ONIGIRI。
私はその発言の真相を話した。っていうか1から話した。小平太には昨夜話したが、弟が出来たということをだ(意味深)。そして今朝お弁当に、特大おにぎりをひとつ作って渡したということ。

その話を聞いて残念そうな顔をする文次郎、目を伏せる留三郎、飽きれた顔をする仙蔵に、本を閉じてじとっとこっちを見る長次。え、私何か悪いこと言った?


「ありえんな…」
「そりゃないだろ…」
「お前というやつは…」
「…もそ……」
「まだ、五歳でしょ…?」

「そ、そんな、」


そしてえーっと、と伊作が口をひらくと、どんどーんという意味不明な奇声を発しながら、正義のヒーローが席に戻ってきた。


「なんの話をしているんだー?」
「小平太!!お昼ご飯におにぎり一個はアウト!?」

「ん?話が読めんぞ?昼飯に握り飯ひとつだけ?おかずなしか?死んだ方がいいんじゃないか?」

「!?!?」


私は風化した。




















「こんちわー…。三郎を迎えに来ましたー……」

「あ、山田さん、……なんかお疲れですね」
「諸泉先生チッス。いやいやいろいろありまして」
「お疲れ様です。三郎くん、お迎え来たよ!」

「平仮名ねーちゃん!!」
「おぉおお私の癒し!!こっちおいで!!」


教室に顔を出すと、三郎はブロックで遊んでいたが、それを放り投げてこっちへ飛びついてきた。ぎゅーっと抱きしめ、抱きしめ返される。あーもう、本当にちっちゃい。可愛い。死ぬ。
帰るから片づけしておいでーと言うと、三郎はうん!と元気よく返事をして教室に戻っていった。バッグをぶら下げ帽子をかぶり、さようならと先生にお辞儀をする三郎まじ天使。


「三郎、お弁当箱買いに行こうか」

「えっ」
「…やっぱりあれでしょ、三郎も、おかず欲しかったでしょ」

「…」


ブレザーを脱いで三郎を荷台に乗っけて、私は自転車にまたがりペダルを踏んだ。三郎は私のお腹に手を伸ばしていたが、ちょっと強くシャツを握ったのがわかった。


「……うん、さぶろー平仮名ねえちゃんのおべんとうたべたい」

「ごめんね気が利かなくて。今日は友達に変なこと言われなかった?」
「……」


言われたのか………!!!ごめんね三郎…!!また嫌な思いさせて!!


「よし!!明日からはお弁当箱でお昼作るぞ!!」

「ほんとー!?」

「作っちゃう!!三郎のためにお弁当作っちゃう!!おかずなにがいい!!」

「おにぎり!」

「その他だ!!」

「あまーいたまごやき!」

「やっぱりおかず欲しかったのか…!!」


私はシャツで流れる涙をぬぐった。くそっ、こんな可愛い子に気を遣わせてしまうなんて……!!!


「買い物だ三郎!!まずはお弁当箱から買いに行くぞ!!」

「やったー!」

「なんのお弁当箱がいい!?」
「コヘレンジャー!」

「そんじゃぁ雑貨屋行くぞぉおおお!!」
「おー!」

「いっけいっけ!」

「どんどーん!」











おにぎりだぜマイ・ボーイ!

明日はキャラ弁当だコノヤロー!!











「はい試食してみて!!」


「ほぅ!やればできるではないか」
「これなら文句はねぇな」
「……もそ…」
「卵焼き美味しい!」
「うん、うめぇな」
「美味しいぞ名前!」

「ッッシャーーーみたか上から目線's!私が本気出しゃこんなもん楽勝じゃーー!!」




「すげー!さぶろうのべんとうコヘレンジャーレッドのかおだー!」
「さぶろうのおねえちゃんすごーい!」

「…名前ねえちゃんすごい…!!」





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ちなみに伊呂波もキャラ弁当は得意。
昔は慶次のキャラケーキも作ったりしたもんだ(ドヤァ…

何気に神経使いますよねあれ。


ちなみに"暴君戦隊コヘレンジャー"とは日曜の朝にやってる
悪の組織"カイケーイーン"をいけどん精神でぶっ潰すスタイリッシュアクション戦隊物ドラマです。

赤→コヘータ
┗幅広い年齢の男女から絶大な支持
紫→タキヤシャマル
┗主に女子高生から絶大な支持
緑→サンノスケ
┗幅広い男子から絶大な支持
青→シロベエ
┗ベストオブ可愛すぎてなんで戦隊に入ってんだ
黄→キンゴ
┗"弟にしたい俳優ランキング"堂々の一位

初期に連載を考えていてボツにした俳優パロをぶち込みました。小平太はアドリブ大王。


第四位はちやさぶろうくんでした!
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