不器用な君を愛してあげる!



《 留三郎 》


ピクリ

金槌を打つ俺の手が止まった。名を呼ばれた。矢羽根だ。

視線だけゆっくり動かすと、正面の木の裏からこちらを見る影。あぁ、また名前か。


《 伊作が探してたぞ。今日の実習で怪我をしたのに保健室に来ないと 》

《 今は委員会がある。後で行くと伝えておいてくれ 》

《 私は飛脚じゃない。伝えたいことが在るのなら自分で行け 》

《 伊作が待ってるんだろ?頼むよ 》

《 お前が行け。私は知らん 》

《 行ってくれ。伊作は待たせると後が怖い 》

《 行かなかったお前が悪い 》

《 頼む 》

《 断る 》






……。






「よぉ名前、そんなところで何してんだ!」




「!?」


頼みを聞いてくれない名前に仕返しとして俺が声をだしてそういうと、


「あ、名前せんぱぁ〜い!」

「名前先輩こんにちは〜!」

「こ、こんにちわ…!」

「あ、名前先輩こんにちは!!」


「ギャァァアアアアアアアア!!!」



頭を下げる作兵衛に、名前に抱きつく一年生達。名前はそれに動けず、ただただ大声で叫んだのだった。

忍びにあるまじき叫び声。いい加減にしろと何度言わせればいいのだろうか。


名前はくのたまの六年だ。冷静沈着成績優秀容姿端麗と言われ、まぁ、その、いわゆる俺の相方だ。

なにかと例えれば、仙蔵によくにたくのたまだ。だがそんな名前にはただ一つ、欠点があった。




それは、「極度の年下嫌い」ということ。




それを知った伊作はよく言っていた。「何もかも留三郎と正反対の子だね」と。縦割りで言えば「あほのは組」と言われた俺、そして優秀ない組の名前。ここでもう正反対なのが解る。
そして俺は後輩達を可愛がる。気持ち悪いと言われるぐらいには可愛がる。何故って、可愛いからだよ!!!

それにくらべて名前はどうだ。用具の後輩だけじゃない。後輩という後輩が全て苦手なのだ。嫌いという言い方をするとこいつらが傷つくな。うん、苦手。ずいぶんやわらかい表現にしたほうだ。

五年はだんだんと慣れてきたが、ぶっちゃけ関わりたくない。

四年はそこそこと慣れてきたが、ぶっちゃけ関わりたくない。

三年はできれば関わりたくない。

二年はこっち関わらなければ関わってこないので良し。

問題は一年だ。あんなに可愛い後輩が他にいるのだろうか。否、いるわけがない。なのに名前ときたら、「一年が一番嫌いだ」と一刀両断だ。


その理由は、「何を考えているのか解らない」という理由だった。


五年、四年と上級生の仲間入りをすれば、やつらの思考回路はほぼ読めてくるも同然。どう対処すればいいのかは六年にもなればすぐわかる。

だが、問題の一年はどうしても名前は苦手を克服できないのだという。
それは主に一年は組の良い子達に対してだ。

今は組のしんべヱと喜三太が名前に抱きついているが、名前が一番苦手なのはこの二人だという。


「何故一年のくせにあの仙蔵を振り回せる…!?」

「どうしてあいつは蛞蝓なんてものを溺愛している…!」

「あいつはどうして鼻をかまずに当たり一面に撒くのだ…!!」


それだけではない。成績が悪いし不運と言われている乱太郎の俊足も理解できない。デストロイアーと言われている戸部先生を敬愛する理由も解らない。何故あのは組であそこまで冷静を装っていられるのかも解らない。

最大の苦手理由は、「ここまであいつらを嫌っているのに何故私が好かれているのかが理解できないのだ!!」と名前は一度俺の部屋でそう叫んだことがあった。

そう、名前の後輩からの圧倒的な支持。これがどうしても理解できないらしい。

名前は「近寄るな」「失せろ」「後輩は嫌いだ」と口に出してあいつらを毛嫌いしている。しているのにもかかわらず、名前を取り巻く後輩は後を絶たない。うらやましいほどに。



「名前せんぱーい」

「やかましい!ターコに落ちるぐらいなら死んだほうがましだ!」


「名前先輩!」

「ジュンコなど知るかたわけ!私に聞かずに竹谷を使え!」


「名前せんぱーい!」

「お前のカラクリには断じて付き合わん!」


「名前先輩」

「貴様の作る豆腐など死しても食うものか!」


「名前先輩!」

「バイトの頼みなど私に持ってくるな!土井先生にやらせろ!」


「名前先輩!!」

「食堂はこっちじゃない!それ以上近寄るな!!」


「名前先輩…」

「字なら仙蔵に習え!貴様に字を教えている暇など私にあるものか!」


「名前先輩!」

「己の美談などしている暇が在るのなら小平太の元へ行け!」



後輩に言うにあるまじき暴言の数々。それをあびせられているのに何故あいつらは名前の後をくっついて回るのか。それが名前には全く理解できないのだという。嫌いだと表面にだしているのに何故やつらはそれを理解してくれないのか。

だがその後、すぐ俺が近くに居たときだ。また名前は暴言をあびせているのかと理解し、すぐにその後輩の下へ言った。


「す、すまんな、名前は今ちょっと、虫の居所が悪いというか…!」


きっと後輩は酷く悲しんでいるだろうと思ったのだが、返ってきた返事は全て






「いえ、別に、気にしてませんけど?」



というものだった。






「名前先輩って喋ったこともない僕達のことよく知ってくれてますよねぇー」

「あーは言ってますけど、心配してくれてるっていうか」


「僕一度も喋ったこと無いのに名前先輩、僕がカラクリ得意って知ってくれてますし、」

「豆腐の話題なんて名前先輩の前で一言も出したこと無いのに」

「なんでバイトの話だって解ったんスかね?」

「食堂の道を聞こうとしてたなんてどうして解ったんでしょうか!?」

「名前先輩の字が綺麗だと聞いたので…」


「まさかこの私の思考を読むだなんて!さすが名前先輩!」


名前が後輩達の考えを先読みして+暴言まで吐くのは、無駄な会話をしたくないからという理由で思考を次の口の動きを読んでいるからだ。

だが後輩は、それを「関わったことも無いのに自分達の事を理解してくれている凄く後輩想いのテレやな良い先輩」という風に解釈してしまっていたのだ。

後輩達の思考がとんでもない方向へ行っていると一度名前に話したとき、「何故そういう考え方になるのだ!!!」と床を強く強く叩いた。


それ以来、名前の後輩嫌いは進行するばかりだった。







「離れろ!!お前らと戯れ合ってる暇などない!!」

「えー、名前先輩も一緒に用具委員会やりましょうよー」
「黙れ山村!!貴様のなめつぼをむけるんじゃない!!」

「名前せんぱいからあまーい臭いが…」
「ギャァァアアアアア涎を垂らすなクソ福富!!殴られたいのか貴様!!」

「名前先輩…」
「止めろー!!負のオーラを移すんじゃないッッ!!!」


必死に身体を暴れさせ足にへばりつく三人を必死に振りほどいた。


「…名前先輩って、本当に俺達のこと嫌いなんでしょうか」

「…見て解らんか作兵衛」

「…でも、俺は……やっぱり、そうは見えねぇんスよね」

「何?」


「なんつーか、喋ったことも無ぇのに、兵太夫の趣味知ってたり、久々知先輩の大好きな物知ってたり。きり丸がバイト頼むのだって、団蔵が字を習いたいと思っていたのだって。…嫌いっつーなら、そういう情報知らねぇはずですよね」


「…」

「例えば俺が名前先輩のこと大嫌いなら、名前先輩の近くに寄ろうとも思わねぇし、名前先輩を視界にも入れたくねぇですし、名前先輩の趣味なんて知りたくもねぇです。聞いたってすぐ忘れちまうんじゃねかなーって。…でも名前先輩は俺達のこと大嫌いだと言いながらも、俺達の近くによく現れますし、俺たちのこと凄くよく知ってくれてるんですよね」

「…作兵衛」

「そんなん、嫌いになるほうが無理ッスよ。俺らのことなんでも知ってくれてる名前先輩のこと、嫌えって言うほうが無茶ってもんです」



へらりと笑って、作兵衛は手元の器具の直しに再び取り掛かった。







「やかましい!!いい加減に離れろ貴様らァ!!!」


ぼふんと煙が舞い、喜三太としんべヱと平太は、なかなかでかい丸太に押し倒された。


「うわぁ!」
「はにゃぁ!」
「おわぁ!」

「あ、名前先輩消えちまいました!」

「…すまん、少し席を外す。委員会を続けていてくれ」


はぁいと可愛らしい返事が四つ同時に帰ってきた。俺はアヒルさんボートの飾りを作兵衛に任せて、長屋へ戻った。
























「作兵衛にはバレているみたいだぞ」

「…」


伊作のスペースと俺のスペースを隔てる衝立の向こうで、膝を抱えて座り込む陰。名前だ。


「…いい加減素直にあいつら可愛がったらどうだ」

「……無理言うんじゃない…」


「…お前、いつになったら平太の頭撫でるんだ」

「…」

「しんべヱの腹をつついてみたいと言ってたじゃねぇか」

「…」

「喜三太もなめくじも、別に嫌いじゃねぇんだろ?」

「…」

「作兵衛だって、お前のこと大好きだって言ってたぞ」


正面にどかりとあぐらをかいて、名前の頭巾を取って頭を撫でた。














「……キャラじゃないだろう。こんな私が、後輩を可愛がる姿など…」


名前が後輩に対して、何を考えているか解らないと言っていたのは、嫌いオーラを出しているのに引っ付いてくることが原因だが、それゆえに、こんな態度の自分が彼らを可愛がったら気持ち悪がられるんじゃないかという変なプライドから来るものでもあった。

素直になれないのならいっそのこと、嫌いと表現して彼らのほうから遠のいて貰いたいと名前は言っていた。それ故の、この態度だ。


冷静沈着。後輩からも恐れられているような名前が「可愛い可愛い」と後輩を可愛がれば距離をとられるのではないかと。

容姿端麗。後輩からも同性からも憧れる名前が、だらしなく顔を歪ませて後輩を可愛がられるわけがない。


それを知っているのは、俺だけだ。名前が正直じゃないだけだというのを知るのは、俺だけ。




本当に俺と正反対だ。

不器用で、可愛いやつ。





「そろそろあいつらも気づくんじゃねぇのか」

「…気づくものか」

「三年の作兵衛が気づいたんだ。四年も五年も、そろそろ気づくだろう」

「…」







それから、多分、これも原因だ。




「…俺は別に、お前がだらしなく顔を歪ませて後輩を愛でる姿を見ても、名前のことを嫌いになったりしねぇよ」

「!」




出会ったころからクールなやつだった。付き合ってもこんな感じだ。俺からも、嫌われるのではないかと思われてたんじゃねぇだろうか。



「…」

「…」

「…留三郎…」

「あ?」

「…下坂部を撫でたい……」

「あぁ」

「…福富をつつきたい…」

「あぁ」

「…山村をなめつぼごと抱っこしたい…」

「あぁ」

「…富松に………よく解ったなって…褒めたい……」

「あぁ」

「…留三郎」

「あ?」

「…こんな私を、軽蔑しないで……」



ぎゅっと膝をかかえて、小さい声で、名前はそうつぶやいた。


「しねぇよ」

「…本当か」

「するわけねぇだろ」

「…」

「あとはお前が素直になればいいだけだ」

「…」

「頑張れ」

「…」

「…」

「…ありがと」

「…おう」


「…好きだよ留三郎」

「!」



「…それ以上に後輩のことが好きなんだよ…」

「……だろうな」























不器用な君を愛してあげる!

君の気持ちはみんなに伝わるよ!














「てなわけで、おい、お前らそろそろ入ってきていいぞ」

「!?」


「名前先輩!」
「名前せんぱぁ〜い!」
「名前先輩…!」

「ギャァァアアアアアアアアアアアアア離れろォオオオオオオオオ!!!」



「やっぱり、俺名前先輩のこと大好きです」

「俺もだ作兵衛。だが名前はやらんぞ」

「あ、そういう惚気いらねぇっス」






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食満先輩は器用ですね!

名前先輩は不器用ですね!

いろんな意味でね!!


あれ?今回一切いちゃいちゃしてなくね?
企画方針に沿ってなくね?

しかも作兵衛がいいとこ持っていってね?食満何もしてなくね?

食満あたま撫でこ撫でこしてただけじゃね?これ作兵衛回じゃね?作兵衛祭りじゃね?


あwwwww作兵衛の人気にあやかって一位になった
食パン満先輩wwwwwwwこんにちわーーーーwwwwwwwwwwwwwwwww


第一位食パン満さまでした。

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