嫉妬しちゃうぐらい愛して!
「どうするかこいつ…」
「学園長に相談する前に連れて帰っちゃまずいかな」
「でも怪我してるしなぁ」
「"でも"や"しかし"。こういった接続詞が、ハチの飼い時を邪魔する。じゃぁいつ飼うか?」
「今でしょ!!」
忍務先の森に入った場所で見つけた一匹の鷹。片方の羽に大きく穴が開いていた。きっと何処かの猟師に撃たれて落ちたんだろう。もう血も流れまくって体力も無いのか、鷹は小さく早く呼吸を繰り返しながらも、近づく俺達を威嚇するようにもう片方の羽を大きく広げて見せた。
名前はそれにビビることもなくざりざりと足音を立てて怪我をしている鷹に近づいた。
「大丈夫大丈夫。君の怪我を治してあげるだけだから。乱暴はしないよ。落ち着いて」
バサリと広げた羽を優しく撫でて、名前はそう声をかけた。同時俺は名前の後ろで眠り火を焚く。頭巾で俺達は口元が隠れているからなんともないのだが、鷹は次第に力尽きるように羽を下ろして眠りについた。
「よし、周りの警戒頼むよハチ」
「おう」
名前は鷹を抱えて、樹に飛び移り学園へ足を急がせた。俺は両手がふさがっている名前の護衛係だ。
あいつ死ななきゃいいけど。
忍務から戻り早一週間。あれから全く、名前の姿を見ていない。
いつもなら暇さえあれば俺の部屋に遊びに来ていたはずなのに。ここのとことトンと見ていない。
「なぁ、名前っていねぇのか?」
「あら竹谷先輩、名前先輩ならしばらくくのいち教室に来ておられませんよ」
「は?」
「拾った鷹の治療とリハビリのためって、裏裏山の小屋にこもっているそうです。先日シナ先生がおっしゃられておりました」
「そうか…。や、すまん。ありがとう!」
くのいち教室のユキちゃんに声をかけると、驚きの返答が。そういえば治してあげなきゃと名前はあの鷹を部屋につれて帰っていた。
俺は散歩だぞーと狼を一匹小屋から出して、裏裏山へ向かった。
名前の気配を探りながら狼にも名前の臭いがついたものをかがせ、姿を探した。
しばらく山の中を歩くと、ケーンと遠くで鳥が鳴く声が聞こえた。あっちかと狼に声をかけると、肯定するようにグゥと喉を鳴らした。
「名前!」
「…え、ハチ?久しぶrギャァァア!」
「お、おいおいやめろやめろ!」
俺と名前に懐いている狼は、名前の姿を見つけるやいなや飛びつくように名前を押し倒した。
やめろと制しても止まらない狼は思う存分名前の顔面を舐めまわした。うひゃひゃと笑い転がる名前。なんだこの光景。
「おい、聞いてねぇぞ、こんなとこであいつの治療してるなんて」
「あ、ごめんごめん、ちょっと理由があってさぁ」
「理由?」
「それがー……っ!ハチ伏せて!!」
「は!?」
グイと転がる名前に腕を引かれ、俺は地に倒れこんだ。倒れこんだその直後、俺の頭上をものすごい速さの何かが通っていった。チッと一瞬頭をかすった何かのせいか、俺の結んでいた髪はバラッと落ちた。俺はびっくりして顔を上げる。
そこを飛んでいった正体は、先日名前と俺が見つけた鷹だった。枝に止まる鷹のくちばしにはさっきまで俺の髪を束ねていた髪紐。ゾッとした。名前が俺の腕を引っ張らなければ、頭を嘴でやられていたのかもしれない。
「こらー!むやみやたらと人襲うなって言ってるでしょー!!」
ごめんねと声をかけ狼の頭を撫でて名前は立ち上がり、ピィと短く指で音を鳴らした。鷹は、それに答えるようにばさりと枝からおりて、名前が突き出した腕にしっかりと止まった。
名前が出す腕には、古い一つの歯型と、真新しい大量の傷がついていた。きっと、こいつの爪だ。
「名前、」
「この通り、まだ知らない人みると興奮しちゃうみたいでねー。やっと私には慣れてくれたんだけど」
クルルと喉を鳴らして名前に擦り寄る鷹。近くで見ると、まだ羽には包帯が巻かれていた。
「タッちゃん、これは使い古されたモップみたいだけど、人間だよ」
「おい」
「それに、私の大事な人なの。手は出さないで」
タッちゃんと名づけられた鷹は、まじかよ、とでも言いたいように俺をジッ…と見つめた。どうやら理解してくれたようで、名前が出した手にパッと俺の髪紐を渡した。はいと突き出された紐を俺は受け取り、バラバラになってしまった自身の髪を高い位置で結びなおした。
名前の短い髪の毛がフワリと風に靡かれ、その風に乗るように鷹はまた森の中へと消えていった。
すりよる狼の頭を名前が撫でていると、鷹は名前の手のひらに大き目の魚を落とした。いい子だねぇと名前は満足そうに笑い、魚に木の棒を刺して焚き火をしているそばに其れを置いた。名前が行っておいでと言うと、狼はクゥンと鳴いて鷹の後を追うように走り出した。
「仲良くなるといいねぇ」
名前は昔から不思議なヤツだった。俺たちがまだ一年だった時、くのいち教室の子から「変な子」と指差されていたやつがいた。その先にいたのは、頭に鳥を乗っけて、ぼーっとしているくのたまだった。よく見ると足元にも大量の猫がいるし、膝の上には兎も乗ってる。
「なぁ、あいつの何が変なんだ?」
「動物の声が聞こえるんだって。絶対嘘よ」
「きっと動物が寄り付きやすい体質なだけじゃない?」
「!」
行こうとくのたま二人はその場を離れた。
昔から動物も虫も人間以外の「生き物」というものが大好きだった俺にとって彼女の風貌は神様みたいだった。なにもかもの動物が懐いているって凄ぇと、小さいながら俺は目を輝かせて名前を見ていた。だから俺はどうしてもその子と話をしてみたくて、その場から動けずにいた。
「クェッ」
「あ、そう?じゃぁまたね」
「!?」
名前に近寄ろうと一歩進むと、彼女は頭上に止まっていた鳥にそう言い、手を振った。まさかと思ったが、鳥はその言葉に答えるように、その場から離れていった。
名前はやれやれと縁側に寝転がった。すると足元にいた猫は縁側に上がり名前の腹の上やふとももに乗り丸くなって眠りについた。
すげぇ。本当に会話してる。
話すきっかけを失ってしまった俺は、名前の名前すら知ることが出来なかった。
だが次に彼女を見つけたのは以外にも近く、生物委員会の顔合わせの時だった。
やっぱり名前の噂は忍たまの方にも届いていたらしく、当時の生物委員会の先輩達はうそつきは出てけと名前をからかった。
名前は悔しそうに顔を歪めて小屋の前を後にした。
俺が声をかけようとした、その時、
「逃げろ生物委員!!学園内に狼が進入したぞ!!!」
名前の向こうから木下先生の叫び声が聞こえて、先輩方も俺も、身を強張らせた。名前の向こうからこっちに一直線に走ってくるなかなか身体のでかい狼。先輩方は狼の進行方向にいる名前を助けることもせず、うわああと叫んで逃げていった。
「苗字!!!」
名前は狼に押し倒された。暴れることもなく、狼の好きなようにさせていた。顔を引っかかれ、爪をたてられ、名前の右腕に噛み付いた。
「苗字!大丈夫か!!」
「おい!!苗字!!」
名前は一切暴れることなく、痛みに顔をゆがめることなく、身体を起こして、血まみれに、傷だらけになりながらも、狼の頭を撫でてこう言った。
「友達になろっか」
立派な歯が生えていた当時のこいつが噛み付いた歯は深く深く刺さっていたらしく、もう一生消えない傷となった。こいつはその傷を見るたびにクゥンと耳を垂らすのだが、気にして無いよと名前が撫でると、嬉しそうに鳴くのだった。
なんでこんな関係になったのかとは正直覚えてない。いつのまにか一緒にいるようになっていつのまにか生物委員会でも名物コンビみたいに言われてたし、忍務を任されればペアは必ず名前だったし。
「つまり、お前一人じゃないと誰かを襲うかも知れないと思って」
「そ。さすがにあそこは人が多すぎた」
「なるほどな。そりゃ仕方ねぇか」
「ごめんね黙っていなくなって」
「もう見つかったから気にしてねぇよ」
「嘘。寂しかったくせに」
「……寂しかった」
「やっぱりね」
狼と鷹は名前に助けられた仲間同士意気投合したのか、鷹が取ってきた魚を一緒に食っていた。
俺はそんなあいつらを見ながら、ゴロリと横になり胡坐をかく名前の膝の上に頭を乗せた。
「名前」
「あ?」
「ちょっと……あいつらのほうにかまいすぎ」
「え?」
「俺は?ほっとくの?」
「何ハチ、あいつらに嫉妬してんの?」
「あぁ」
「…」
「俺のことも気遣ってくれよ」
「……そーだね。はいはい、ごめんごめん」
「お前本当に解ってんのか?」
「解ってるよ」
「嘘」
「嘘じゃない」
「気持ちがこもってねぇよ」
まさか俺があいつらに嫉妬する日が来るなんて思わなかった。言わせんなよチクショウ恥ずかしい。
「…いやちょっと察してよ。テレてんだから」
「え」
「は、ハチ、そんなこと言ったこと、なかったから…」
「名前」
「ご、ごめんね。ちゃんと構ってあげるからね」
名前はテレているからか俺の目を隠しながらわしわしと頭を撫で回した。
きっとこれはこいつなりのテレ隠し。生き物を大事にしてる名前のことを俺も大事に思ってる。遠くでこっちを睨んでるあいつら以上に。
「なぁ名前」
「おう」
「愛してるって言ったらどうする?」
「…らしくないって返す。ハチがそんなこと言うなんて」
「ダメか?」
「ダメ」
「じゃぁ大好きって言ったら?」
「そっちのほうがいい。私も大好きって返す」
小さく口付けをすると同時に、俺の腹部にドスンと狼と鷹が飛び乗った。
ぐぇっと情け無い声が出たけれど、笑っている名前の笑顔があまりにも可愛くて、俺はこのやろう!と二匹を追い掛け回した。
嫉妬しちゃうぐらい愛して!私だって君に構いたかったわよちくしょー!
「イデデデデデデデ!!!」
「いいぞータッちゃん。そのまま頭突き割れー」
「ケーンッ」
「ケーンじゃねぇよ!!!」
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生き物>>>>>>>越えられない壁>>>>>竹谷
mp9wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
第二位八谷竹左ヱ門でした。