二人だけの空間で愛して!



とてとてと競合地区を歩く。一歩踏み出した場所が、ふわりと感触が違うことに気づいた。でもこんなところに僕が穴を掘った記憶は無い。それに印だって置かれていない。ぴょこっと土から出ていた葉っぱ。ははぁ、これはもしかして名前のおタコさんだ。


僕はその葉っぱをピッと抜き取り、手で土をどかした。僕の予想は当たり、土の下には何枚も葉っぱが敷き詰めてられ、その下には木の枝。その下には布。

土をどかし布を取る。するとそこには名前が膝を伸ばしてぼーっとすわっていた。


「名前」

「わぁまぶしい」

「何してるの?」

「かくれんぼ」

「誰と?」

「きはちろー」

「おやまぁ。じゃぁ名前みっけ」

「あれまぁ。みつかっちった」

「僕も入れて」

「いいよー」


暗闇に居たはずなのに急に光が差し込んだからか、名前はわぁと声を漏らして額に手を当て上を見上げた。


「どうやって此処に入ったの?」

「んー、三年生のなんとかくんが喜八郎が見つかんないから私に落とし穴の掘り方予習したいから教えてくれって。んで埋め方も教えてあげて、ついでに私はここに隠れてた」

「僕が来なかったらどうするつもりだったの?」

「んー、ずっと待ってたと思う」

「そっか」


土だらけでどろどろになった僕の手を名前はきゅっと握ってくれた。僕も思わず握り返す。


「いたたた、喜八郎お手手が痛い」

「気にしない気にしない」


でも僕はほんのり名前の手を握る手を弱めた。




名前はとっても心が優しい子だ。話を聞けば最初はくのいちになんてなるつもりは無かったらしい。此処に来たのだって、もともとは行儀習いのためだとか。

名前は武家の娘なんだって。なのにお父さんの命でくのいちの勉強もしてこいって。


くのいちと合同の殺しの実習をした時、そのときの名前のパートナーが僕だった。僕のペアが発表されたとき、僕は一度シナ先生に呼び出されたことがあった。
あの子は虫も殺せないような子だとシナ先生はいった。くのいちの殺しの実習は今回が始めてだったらしく、どうかよろしく頼むとシナ先生は僕に言った。普段はぼーっとしていて何を考えてるか解らないけど、心は凄く優しい子だって、シナ先生は何度も言った。

正直めんどくさい。くのいちが足をひっぱろうとひっぱるまいとこれは僕の成績にも関わってくる。僕はきっとくのいちの子に気をかけてやるほど余裕は無い。と、思ってた。


無事に忍務を遂行し終え一度学園に戻り忍務報告をした。

風呂は先に帰ってきたやつでいっぱいだと聞かされ、僕は名前を連れていつも使ってる川に向かった。そこで血を洗い流しておこうと思って。
(その後滝夜叉丸にくのいちとはいえ女を川に連れて行くとは何事だと怒られた。うるさい)


お互い初対面だったから、そういう感情は一切ない。僕も名前もすぐに服を脱いで血を洗い流した。
忍たまである僕はもう何度もこの実習は経験してるし、元々『殺し』というものになんの抵抗も無かった。授業で話には聞いていたし、まぁこんな感じなんだろうなとは思っていたし。

春先だから少し風も吹いていた。血の臭いで追っ手が来られても困る。僕は少し急ぎ気味にざぶざぶと水を身体にかけて顔や身体についた血を洗い流した。


なのに、全く血の臭いが消えない。


別の場所からするのかなと、僕はすんすんと鼻を動かした。


「……?……っ、何してんの!」

「っ、」


名前は無心で、手首を切って腕にクナイを刺したり腹にクナイをつきたてたりしていた。何度も何度も身体を傷つけていた。

突然のことに僕は一瞬頭が働かず、名前が手に持つクナイを奪い取りバシリと顔を叩いてしまった。バシャリと音をたてて名前は川の中に倒れこんだ。
無事に帰ってきたのに、なんで名前は死のうとしているのか。


「何してんの…」

「…っ、!もう、もういや!もうこんなのいや!!私はこんなことするために此処に来たわけじゃない……!!こんなの!!私が望んでいた姿じゃない!!!」

「…苗字ちゃん…?」

「嫌!!もう嫌ァ!!嫌ァアア!!なんで私がこんなことしなきゃいけないのよ!!どうして私は血まみれなのよ!!どうして私が人を殺さなきゃいけないのよ!父様の命でなんでこんなことしなきゃいけないのよ!!どうしてよ!!こんなの私じゃない!!こんな姿になるぐらいなら死んだほうがましよ!!こんなの…!!こんなの…!!」


名前はバシバシと叩き、水面に映る血まみれの己自身の姿を消した。叩いても叩いても消しても消しても、憎たらしい月明かりによって何度も何度も名前の姿は川にうつった。

僕はもうなれている姿だったからどうも思わなかったけど、名前は殺しが今回初めて。そうか。シナ先生言ってた。よろしくって。


名前手を顔に当てて大声を上げて泣き始めた。






















「出来た」




「…」

「苗字ちゃんおいで」

「…あやべくん……」


服すら着ずに、名前は川の中でペタリと座り込んで空を見上げていた。下を向けば見たくない自分が見えちゃうから。

僕は名前の服を全て引っつかみ、ついでに名前も持ち上げて、すぐ近くの大木の真下に掘った穴に飛び込んだ。


「…」

「ここならお月様の光は届かない。水も無い。真っ暗だから、苗字ちゃんには何も見えない」

「!」

「つらかったねぇ」


服を肩にかけてあげて、ギュッと抱きしめてよしよしと頭を撫でた。




「っ、うわぁああああ!!」


名前は、一晩中泣いた。





やっぱり裸だったのがまずかったのか、名前は次の日風邪を引いた。ちょっと症状がひどかったらしく、うつっちゃいけないからと面会は許されなかった。滝夜叉丸には怒られた。うるさい。





「綾部くん」

「おやまぁ苗字ちゃん。もう大丈夫なの?」

「うん。心配かけてごめんね。あのさ、穴掘りのやりかた教えて」

「えっ」


忍たま長屋に来た時、名前の手にあったのは手鋤だった。

僕は丁度暇だったし、いいよと腰を上げてターコちゃんの作り方を教えに裏山に行った。こうだよと綺麗なターコちゃんの作り方を教えてあげた。名前は穴掘りの才能があったのか、とっても綺麗なターコちゃんを掘った。

出来たーと言い、名前はターコちゃんの中に飛び込んだ。僕もつられて中に飛び込んだ。とっても綺麗に出来てた。


「この間ね、綾部くんが入れてくれた穴ね、凄く落ち着く場所だなーってね、倒れた間ずっと考えてたの」

「へぇー」

「月の光も邪魔しないなんて凄く素敵。今だって、風も無いし、太陽の光も届かないし。自分だけの場所って感じ」

「…」

「綾部くんは凄いねぇ。こんな空間一人で作っちゃうんだもん」




この間、血まみれで泣いてたなんて思えないほど、綺麗な笑顔で名前は笑った。


守りたいなぁって、急に思った。





「名前」

「えっ」

「僕が守ってあげる」

「ん?」

「好き」

「鋤?」

「名前が好き」

「私が鋤?」

「うん」

「どういう意味?」

「えっ」

「えっ」






















「おい、何をしている」


名前はいつのまにか僕の腕の中にいて、二人同時に上を見上げた。其処には僕の委員会の先輩が。


「おやまぁ立花先輩」
「あれまぁ立花先輩」


「なんだ?自分達の穴に落ちたのか?」


「いいえ、二人だけの世界に入ってたんです。太陽も邪魔しません」

「だから立花先輩は立ち入り禁止なのです」


「ふっ、仲が良い事は感心するが、さっき伊作がこの辺に向かってを歩いていたのが見えた。そろそろお前らどちらかの穴に落るころだ。回収して謝罪をして来い」


「はーい」
「はーい」


ジャリと少し砂が落ちて、立花先輩は姿を消した。



「二人だけだったのにね」

「立花先輩に見つかっちゃったね」

「残念」

「残念」


「ねぇ名前」

「なあに?」

「僕はテッコちゃんもいるし踏子ちゃんもいるけど」

「うん」

「やっぱり僕は名前が一番好きだなぁ」


「あのね喜八郎」

「なあに?」

「私にはテツオも踏雄もいるけど」

「うん」

「やっぱり喜八郎が一番好き」


「おやまぁ両想いだねぇ」

「あれまぁテレますねぇ」



善法寺先輩の回収はあとでにしよう。もうちょっとこのままでいたいな。




























二人だけの空間で愛して!

泥まみれの君が大好きだよ!











「イダッ!!」

「あ、善法寺先輩だ」

「あ、私のおタコさんに」

「いたた……あ!名前ちゃん!喜八郎!ごごごごめんね邪魔しちゃって!!す、すぐ出るからね!!」

「一人で出れますか?」

「……」

「お助けしまーす」

「僕もー」

「……ごめんね…」








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いwwwwさwwwwwくwwwwwwwwwwwwwww


第四位穴掘り小僧でした。

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