「大和さん」

「ん?」

「大和さんはお仕事って何してんスか?」

「私?私は本書いてるよ」

「ほ、本!?」

「うん、時には雑誌で連載してたりー、本出版したりー。いわゆる小説家ってやつかな」

「すげぇ!印税どれぐらい貰ってるんスか!?」

「すごい質問ぶつけてくるなきり丸!!」


自己紹介も終えて、私はとりあえず休日だけど次の連載について考えていた。カタカタとキーボードを打ちながらうーんと頭を捻る。まぁ、とりあえず、締め切りまでかなる日数はあるからそんな焦んなくてもいいんだけど。

何故きり丸があそこに帰りたくないと言ったのか、私は其れを深く追求することは出来なかった。とりあえずぎゅっとして頭を撫でて、私はそのままソファーに連れてってきり丸が泣き止むまで頭と背中を撫で続けた。

きり丸が行きたくないというのなら仕方ない。私は無理に家に帰すことも出来ないし…。それに学校に行きたいとも言わない。今はためていた宿題をテーブルの上でやりながら、私とこんなくだらない会話をしている。たまに宿題が解らないと質問してきたりするけど。あー、懐かしいわ算数とか。「新しい算数」ね。ボロボロになっても「新しい」と主張し続けるこれね。


「あ、きり丸。そろそろ昼飯食べる?」

「…いいんスか?」
「今更何を遠慮するのかねお前は」


ちゃちゃっとチャーハンを作り、テーブルの上に移動させた。きり丸は鉛筆を置いてこっちへ駆け寄り、いただきますと手を合わせてレンゲを手に取った。


「そういえば、今日の給食がコーヒー牛乳の予定だったんですよ」
「あら、御馳走だったんじゃん」
「俺の分が余るから、多分争奪戦ッスね」
「ははは、身に覚えがあるなぁ」

きり丸はもりもりとチャーハンを口に運びながら、学校での話を聞かせてくれた。親のように優しく接してくれる土井先生という先生や、不運だけど凄く優しいらんたろうくん、という子や、あの福富財閥の跡取り息子と仲がいいことなど。最後の交友関係凄いな。


「…大和さん、これ、食い終わったら、……学校に、連れて行ってください…」
「うん、良いよ」

「…せめて、土井先生には、"本当のこと"、言いたいので……」


"本当のこと"

それがいったい何を示しているのか。彼は何を抱え込んでいるのだろう。


「じゃぁ土井先生に私も御挨拶しようかな。そしたら、またうちにおいで」

「…ありがとうございます」


さっき淹れたコーヒーに手を伸ばしながらそう言うと、ふと、玄関から物音が。きり丸がビクッと肩を跳ね上げさせるが、正体はわかっている。きっと長次だ。


「…もそ…」

「長次やっほー。今日は早いね」

「…!?」


きり丸怖がりすぎ。


「あ、大丈夫大丈夫。顔怖いけど良い人だから。昨日きり丸をここで世話してくれた一人だよ」

「…中在家、長次だ…」

「き、きり丸です!昨晩は、本当にありがとうございました!」

「…もう、体調のほうは良いのか…」

「は、はい!大和さんと、ちょ、長次さんのおかげで、もう、!」


長次は、そうどもるきり丸の頭をわしわと撫でた。今日はどうやらきり丸のことが心配で仕事を早退してきたらしい。長次いないと仕事が進まないのでは。まぁ許可が下りたのなら良いけど。

「これから学校にきり丸送りにいくんだ。長次も行く?」

「……もそ…」

長次はチャラリと音を立てて車のキーを私から奪った。どうやら長次が運転してくれるみたいだ。お昼ごはんはと声をかけたが、くつをはきながら長次は首を横に振った。なんだ食べてきたのか。
きり丸はガツガツを急いでチャーハンを口に放り込んで、散らかしていた宿題をランドセルに詰め込み、玄関へと向かう私の手をとった。

エレベーターにのり下に到着すると、長次が先にエントランスに車を回しておいてくれた。いつもは長次が運転のときは助手席に座るのだが、今日はきり丸がいる。私はきり丸と後部座席に座った。


「…」

「あ、もしかしてきり丸煙草の臭いダメ?」


カチンとライターをつけて、ふと思う。密室で煙草はダメかな。長次は長次でたまに吸うから別に気にしないとか言ってるけど。


「あ、いえ、その、」

「…大和、子供に、煙草はマズい……」
「だよねー。じゃぁ今は我慢」

車に備え付けられた灰皿に火をつけたばっかりの煙草を押し付けて火を消した。うーんもったいない。きり丸は、ほっとしたような、安心したような顔になった。なんだやっぱりダメだったか。じゃぁうちでも我慢してたのかな。あらら、そりゃ悪いことしたな。
私はごめんねの意を込めてきり丸の頭を撫で撫でした。あー可愛い。


「…な、なんスか」


あまりにも私がきり丸をじっと見つめるもんだから、きり丸はもじもじと居心地が悪そうにした。


「え?あ、いやー、もしも私に子供いたらこんな感じなのかなーって」

「え?」


「あ、私、昔交通事故でお腹ぐっちゃぐちゃになったことがあってね。子供産める身体じゃないんだよ」


「!?」

「子供大好きなんだけどねー、そればっかりはどうしようもなくってさぁ。だから、なんかこういうの、いいなーって思って」


そう言いながらきり丸の頭を撫でると、バックミラーに映る長次と一瞬目があった。

実は長次から、かなり前にプロポーズを貰ったのだ。凄く嬉しかった。でも私は、仕事が一段楽するまで待って欲しいと言い訳を作ってこの話を先延ばし先延ばしにしている。

だが正直な理由は、私が子供を産めない身体だということ。長次は子供が好きだ。もちろん長次も私がこういう身体であることを知っている。知っている上で、プロポーズしてくれた。だからちょっと自分の中では複雑なのだ。頭のなかがごちゃごちゃして、どうしていいかわかんなくて、それで、今その話は保留中だ。

もし子供ができたら、こうやって学校に送り迎えとかあったんだろうなーと想像すると、ちょっと楽しい。叶わない夢なのだけれど。


「…?」
「おっ、どうした長次?」

「…警察だ…」

「あ?」


もうそろそろ学校へ到着するというところで、長次はキッと車を止めた。前を見ると、学校の校門の前にパトカーが止まっていた。嘘でしょ何この状況。なんかあったの。

近くまで車をゆっくりすすめると、止まってくださいと手を制する姿。なんだこいつか。


「やぁ留三郎。何かあったの?」
「大和…?大和か!久しぶりじゃねぇか!」

車から降りて進行方向を塞ぐ警察に声をかける。こいつは良く知った同級生だ。食満留三郎。風の噂によると警察になったのだとか。
やっと外に出た。私はポケットから煙草を取り出してカチンと火をつけた。


「……ん?なんでお前小学校なんかに?」
「ちょっとヤボ用で。留三郎こそどしたの?ここ何かあった?」



「なんか失踪事件らしい。小三の男の子が昨日の夜から行方不明だって通報があって、まだ学校にも来てねぇんだとよ」




留三郎の言葉に、それってと車に視線を向けた。


「犯人お前だろ」
「逮捕するぞ大和」

「ってのは冗談。それってきり丸って名前の男の子?」
「は!?なんで知ってんだお前!!」

「いやなんでもなにも、今車に乗ってるもの」


くいと親指で車を指差す。留三郎がかけより、運転席にいる長次によぉ!と手を上げた。


「あ、そうだこの子だ間違いねぇ。お前が保護してたのか?」

「うん昨日の夜からね。送り届けにきた。だから安心して警察は撤退してちょ」


ひらひらと手を振り留三郎を追いやる。留三郎はことの事情を部下だか上司だかに話をしていた。入っていいぞと言われて、長次は車を校門の中に通した。時刻はもうお昼休憩の時間なのか、校舎からじょろじょろと小さい子がいっぱい出てきた。かーわいい。


「じゃぁ行ってくる。長次は?」

「…此処に、残る…」

「そ、じゃぁ行ってくるね。行こっかきり丸」

「は、はい!」


私はきり丸と手を繋いで、来賓者用入り口から入っていった。





























「……留三郎、」

「長次?お前行かなかったのか?」

「…少し、話がある……」

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