「!」
「ピカッ」
仙蔵と歩いていると、トンと背中に小さな衝撃。聞き覚えのある泣き声に身体をひねると、控えめに私の背中に手をつけていたちょうの姿があった。
「…どうした……」
「ピ、ピカピ」
「ちょうじゃないか。ん?翔子は何処へ行った?」
「ピカチュ…」
「何?喜三太救出チームに?」
どうやら一年は組の騒動に、翔子が飛び込んだらしい。翔子はその間、この学園を私と守るようにと命令されたらしい。
使っていい技はこれだけと説明されたが、正直どうしていいのか解らない。なんだ。命令すれば良いのか。だがそこは自主判断に任せたいところだ。
こんな小さい身体でそんな任務を任されるとは。すばらしい信頼感だ。私はちょうの身体を抱き上げ、少々暑い日を浴びてのんびりと再び歩き始めた。
「新学期早々、出入りが激しくて大変だったなぁ…。でも、宿題の件でみんなに迷惑かけたから頑張らなきゃ〜……」
小松田さんが出門票をペラペラとめくりながら歩いていく。落とし穴に落ちなければいいが…。
「…おい長次、あれは誰だ?」
「…?」
仙蔵がそうつぶやく視線の先には、塀の上から学園内を覗く影。
くせものだ。
仙蔵が弾かれたように駆け出し、私もそれに続くように駆け出した。ちょうは事態を把握したのは、私の肩に移動した。
「ひょぁあ〜!其処の人!入門票にサインしなきゃ中には入れませんよ!」
「あ、すいません!引っかかってた羽を取ってただけなんです!どうも、失礼しました〜」
「…変な人…?」
「くせものっ!!逃さん!!」
「ちょう、私たちも行くぞ…!」
「ピカ!」
仙蔵が塀を飛び越え、それに続いて私たちも塀を飛び越えた。
のだが、
「ぐはっ!」
「出門票にサインを!!」
小松田さんも塀を飛び越え、仙蔵を押さえ込んだ。
「あ〜!中在家くんもサインしてよぉ〜!!」
「……もそ…」
任せたぞという仙蔵を残して、私とちょうは森へ飛び込みくせものの後を追った。
ガサガサと樹が揺れる音を頼りに、樹から樹へと飛び乗る。
もう少しで、手が届く。
「ちょう、"たたきつける"だ…!」
「ピカ!!」
ちょうは私の肩から飛び、曲者の足を掴んだ。
「ぅおっ!?」
「ピカァァア!!」
一か八かの命令に、ちょうは曲者の足を掴み思い切り振り回して、樹から、地面にたたきつけた。
…恐ろしい命令をしてしまった。
「……ガッハ…!」
「…何者だ…、忍術学園に、何のようだ……」
ヒュルリと投げた縄ひょうは曲者の腕に絡まり、顔は見えずとも捕らえることは出来た。さっきの服装とはうってかわって、真っ黒い忍び装束。
ちょうが降りてこない。多分、忍術学園外の人間だから、樹の上で隠れて見つからないようにしているのだろう。
「っ、!」
ぼふんと音を立て、曲者は消えてしまった。縄の先には丸太がついていた。
…変わり身の術……。
「ピ、ピカ」
「いや、……追わなくていい………」
あの装束は、確か、タソガレドキ…。