「え?明日から夏休みなんですか?」
「そうなんですー!長期休業が入るので、残るって決める子がいない場合はここは空っぽになっちゃいますよぉ」
「へぇー、そうなんですか」
事務で書類を片付けていると、小松田さんがそう教えてくださった。なるほど、夏休みか。そうだよね、ここは学校だもんね。夏休みとかあるよね。
そういえば随分と気温が暑くなってきた。夏になってしまったのか。っていうか私どれほどここにお邪魔してんだろう。帰れる手がかりは見つかったのにそこから一切前に進めない。詰んでる。どうしよう。
「翔子さんはどうなさるんですかー?」
「んー……行く当てもないですし…帰る手がかりに一番近いのもここですから、学園長先生に頼んでここに置いてもらおうかと思います」
「そうなんですか!もしダメだったら、僕のおうちに来てもいいですよ!」
「え、いいんですか?」
「僕のおうち、扇子屋なんですー」
「へぇ、あ、もしかして以前私に下さった扇子はそれですか?」
「そうです!気に入ってもらえましたか?」
「もちろんー!素敵な扇子をありがとうございます!」
「いえいえーこちらこそいろいろご迷惑かけちゃって」
ほわほわ
心地いい空間だなぁ。小松田さん墨とか引っくり返したりしなければ普通に癒される。
「じゃぁこれ各クラスに配ってきますねー」
「はーい。宜しくお願いしm「うわぁっ!?」……。」
もーー!!!折角全部綺麗に封筒に詰めたのに!!なんで何も無いところで転ぶんですか!!
「うわぁあ!ごめんね翔子ちゃん!!」
「…いえ、大丈夫、です…手伝いますよ……」
きっと大事な何かなのでしょう。なのに手際よすぎませんか?テキトーにつめないでくださいね?後が怖いですからね?
目標枚数の書類に印鑑を押し終えサインを書き、吉野先生へと提出した。お茶を入れて、学園長先生の下へ行き事情を説明して、お手伝いならなんでもするのでどうか夏休み期間中もここにおいていただきたいとお話をしたら、二つ返事でOKをもらえた。ことの事情は小松田さんに説明して、大丈夫でしたと報告もした。「よかったですねぇ」という笑顔にまた癒された。
今日はとめさんを一年は組のみんなに預けてきた。多分さっき「こへとも遊びたいです!」って顔をだしてきたから、ボールを預けた。ってことは…今は水練池に居るかな。あ、やっぱりいたいた。
「とめさーん!こへいたー!は組のみんなー!」
「!」
「エーフィ!」
「「「翔子さーん!」」」
水練池にどどんと君臨するこへいたの周りや頭の上では組のみんなはじょろじょろと遊んでいた。やっぱり今日熱いもんねー。私も水着あれば一緒に泳ぎたかったよー。
一旦皆岸に上がり、私の元へと走ってきた。あぁんみんな可愛い。黒木くんがとめさんを抱っこしてきてくれて、とめさんはそのまま私の肩へと移動した。みんなと遊んでもらえて満足したこへいたはボールへ戻り、皆にタオルを渡して身体を拭かせた。うわっ!とめさんぷるぷるするなら離れてやって!つめ、冷たい!!
「へぇー、夏休みの宿題って個人メニューになってるんだ」
「はい!今回は僕ら一人一人違うみたいなんです!」
「うへぇ、大変だね」
とめさんを膝に乗せて、私は今は組の皆と食堂にてお昼ご飯を食べている。今日は冷たいおうどん。美味しい。緑のねぎぱっぱ。こらとめお前のはこっちだ。私のさつま揚げ食べるなやめろ。
やっぱりみんなもここから歩いてそう遠くない場所におうちがあるらしく、夏休みの間はご実家の方に戻るんだそうだ。
「でも金吾と喜三太は実家が遠いので…」
「僕は実家が相模の方なので、休暇中は戸部先生のおうちに御世話になっているんです」
「僕はナメさんと一緒には組のみんなのおうちに御世話になったりしてまーす」
「へぇ、どれぐらいかかるの?」
「往復30日です」
「は!?皆本くんたちそんな遠くから来てたの!?」
衝撃の事実を知って、お茶を思わずこぼしそうになった。確かに私も10歳のときにトレーナーになるための旅に出た。っていうか、困ってるポケモンを助けるための旅って言ったほうがいいかな。
色んなところへいっていろんな仲間に出会ってたりしていたが、随分遠くまで来たので家には帰るにも帰れなかった。でも、せんぞうが仲間になってくれてからちょくちょく実家に帰れるようにはしていた。でもここには人一人乗せて空を飛べるような生き物とかいないもんね。そりゃ帰る事はできないわ…。
二人と似たようなところがあるなぁと思っていたら、着替えを終えた摂津くんと福富くんが食堂へ来た。上着落っことしてびしょびしょになっちゃったんだって。
地図をバラリと広げて、この辺です、と
「じゃぁさあ、二人とも、送ってってあげようか?」
「「え!?」」
「せんぞうに乗っけて。夜に出るんでもいいのなら、雲の上行けばすぐだよ?往復30日ってことは、全然親御さんに会えてないんでしょう。顔出してくれば?」
「ほ、本当にいいんですか!?」
「うん、せんぞうもいいって言ってくれるよ。山村くんは?」
「はにゃー…僕も乗っけてほしいですけど……僕の夏休みの宿題すっごーく難しいのでこっちに残ることにしたんですぅ…」
「あらーそっか」
また知り合いのところに御世話になるのだろうか。可愛そうに。
土井先生が食堂へ顔を出し、「そろそろ身支度をして、明日に備えておくんだぞ」と言っていった。蜘蛛の子を散らすようにわらわらと食堂から出て行くみんなの湯飲みを流しに運び洗い、私も部屋に戻ることにした。
それにそれも山村くん凄いヘコんでたなぁ。どんだけ宿題難しいんだろう。出来ることがあるなら手伝ってあげたいな。
長屋に帰る途中、とめさんが急に肩から飛び降りダッシュで長屋の曲がり角を曲がった。その後「おぅっ!?」と声が聞こえて全てを察した。今あいつ絶対食満さんに迷惑かけた。
曲がり角を曲がると肩にとめさんを乗っけて、お腹をさする食満さんの姿。あぁやっぱりタックルしたな!
「ごめんなさい食満さん本当にごめんなさい!」
「いえ、翔子さんが謝ることでは…」
「と、とめー!あんた加減って物を知りなさい!」
「?」
「何とぼけた顔してんの????」
その後食満さんと長屋に戻るまでお話をしていると、六年生は全員ここに残るらしい。宿題の内容があんまりここと遠くない場所で済ませられるらしく、残ることに決めたらしい。
上級生のみなさんも宿題は個人メニューになっているらしい。六年生になると凄い難しいんだろうなぁ。
お茶を飲みながら本を読みながら、私は日が落ちるのを待った。
日が落ちて、皆が寝そうなぐらいに皆本くんを乗っけて、せんぞうは空高く飛んだ。皆本くんは一足早く夏休みである。大丈夫。私が居るからおっこちることはないよ。お父様になんでこんな早く帰って来れたんだ?と聞かれたら凄い早い馬に乗ってる人に乗っけてきてもらったとでも言うと言っていた。それで通じるものなのだろうか。
あ、満月だなぁ。きっと夏休みが明けたらまた見れるんだろうな。
帰り道、のんびり空の旅を楽しんでいると、
すい、と、私たちの横を、
捜し求めていた姿、
セレビィが飛んでいた。
「セレビィ…!」
「!」
その呟きにせんぞうも飛ぶのをやめ、その場で羽ばたき、停止した。
せんぞうも驚いている。
この世界に、私たち以外のポケモンがいることを。
やっぱり、セレビィの仕業なのだろうか
…― もう少しだけ待って
「え!?何!?」
セレビィは私たちの前で止まり、そう言った。
…― もう少しだけ、もう少しだけ…
「もう少しって何!?私たちをここへ連れてきたのはあなたなの!?」
…― もう少し…もう少しで………助けてあげて…
「え、え!?何のこと!?何を助けるの!?」
…― …し……だけ…
「ごめん聞こえない!!!何!?!?なんなの!?!?!?」
私落ち着け。
セレビィは謎の言葉だけ呟き、月の光に溶かされるように消えた。
「……もう少しだけ?」
「…?」
「何のことだろうね…?」
「…」
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「ただいま戻りましたー」
「えっ!?翔子さん!?もう帰られたんですか!?」
「えぇ、せんぞう早いですから。とめさんをありがとうございます。おいでとめさん」
「♪」
「い、いくらなんでも早すぎませんか……」
「あ、そうだ食満さん、探していたセレビィに逢いました」
「…!本当ですか…」
「…でもなんか、凄い寂しそうな声で、「もう少しだけ待って」って言ってました」
「……」
「…何が待ってるんでしょうか……」