純情な君を愛してあげる!
「名前ーッ!!大変だ!!」
「三之助と左門が消えたー!!でしょ」
「解ってるなら手伝ってくれよ!!」
「いやだよ面倒くさい…作兵衛だけで行ってよ…」
「彼女ならちったぁ彼氏であるこの俺に協力しろ!!」
「…zZ…」
「寝るなァァアアーーーッッ!!」
食器を片付け終え後輩のくのたまと一息ついていると、食堂へドタバタという足音が駆け込んできた。お茶をズズズとすすると、とんでもない大きさの声で私の名前を呼ばれた。この声は作兵衛の声だ。
まぁどうせ三之助と左門がいなくなったんだろう。私は次に言うであろう作兵衛の台詞を口に出した。案の定大正解だったようで、作兵衛は私にあいつらを縛る用の縄をぐいを差し出してきた。だが、私は其れを受け取らない。受け取るわけが無い。
何故私があのバカ二人の世話なんかしなければいけないのか。作兵衛だって同じクラスの人間だからってあの二人の世話焼きすぎなんじゃない?っていうかそれボランティアでしょ?作兵衛学級委員でも無いのになんであの二人の世話あんなにやいてんの?暇なの?バカなの?死ぬの?
それにしても、食堂のこの空気。
「富松先輩だ…!」
「"番長富松"だ…!」
「超怒っておられる…!」
「富松先輩今日も怖ェ…!」
「目力尋常じゃねぇ…!」
「めっちゃ眉間に皺寄ってんぞ…!」
「今日は近寄らない方がいいな…!」
すごく、温度が低いです…。
それもそのはず、作兵衛は今腕まくりで眉間に深く皺を寄せ思い切り怒鳴り散らしている。
付き合い始めの三年前と比べてみると、まぁイケメンに磨きがかかったというのもあるのだが、さらに外見がいかつくなった。っていうか、怖くなった。
私や左門や三之助たちはずっと一緒にいるからなんとも思わないのだが、この間後輩のくのたまに「名前先輩って"あの"富松先輩とお付き合いされているって本当ですか?」とビクビクしながら聞かれたのだ。
"あの"ってなんだ。私は其処に疑問を持ちどういう意味だと問いかけると、作兵衛はくのたまの後輩はもちろん、忍たまの後輩達にも遠くから怖がられているようだった。
「武闘派の富松」や「番長富松」、「プロの睨み屋」、そして「狙った獲物は逃がさない」というかなり物騒な二つ名で呼ばれていることを知った。一個先代の用具委員長の二つ名受け継いどるがな。
「凶暴」「凶悪」「最強」と言われていたらしい。これでは三年前にいたどこぞの暴君ではないか。
オリエンテーリングで作兵衛とペアを組むと必ず死を覚悟するらしい。これは酷い思われようだ。
五年と四年はちょいちょい絡んでくるし、四年に至ってはいろいろと問題を起こすので絡むことが多いので二個下まではそんな誤解はない。とは思っていたのだが、此処三年で大きく作兵衛は成長したらしく、唯一警戒心が無いと思っていた四年も五年も最近は作兵衛に対してビクビクしはじめた。つまり、全学年に恐れられていってるといっても過言ではない。
それにしても三年以下の作兵衛への怖がり方が尋常ではない。確かに作兵衛は四六時中眉間に皺が寄っている。それの大半の理由は三之助と左門についてだ。
結局六年になってもあいつらの致命的な方向音痴は一向に治りはしなかった。結局作兵衛は六年間あの二人の世話を焼く羽目になっているのだ。
故に、イライラしていると思われがちなあの眉間の皺なのだが、実はあの皺の理由は、「あの二人を繋ぎとめておけるほどの頑丈な縄の作り方」を日々考えているというアホな理由で出来ているものだ。
前は縄を三つ網にして頑丈にしたいから三つ網の仕方を教えてくれと私の部屋に飛び込んできたし、
その前は首輪でもするかという相談を持ちかけに私の部屋に来た。どっちにしろバカである。
「なぁ名前頼むよ!次俺達実習なんだ!あいつらいねぇと始まんねぇんだよ!」
「なぁ作兵衛頼むよ、私今食後で動きたくないの。他をあたってけろ」
「俺一人であのバカ野郎どもを見つけられるわけねぇだろ!」
「私だって嫌だよーあいつらのために貴重な体力消費したくないもーん」
胸倉を掴まれぐらぐらと勢い良く前後に振られる。まずいぞからあげ定食ゲロリンチョしそうだ。
チラリと視線を横にずらすと、顔を真っ青にして顔を下に向けているくのたまの後輩達。食後にノートを持って授業の質問をしたいと来たから、まぁまぁ座りなよとすすめたのが間違いだった。ごめんねこんなのが此処に来て。怖いよね。
「なんで名前先輩って…」
「あの富松先輩とお付き合いしてるのかしら…」
「怖くないのかしら…」
「先輩は、富松先輩の事を可愛いと…」
「冗談でしょう…!?」
おい聞こえてるぞちょっと遠くに座ってるくのたま。
作兵衛には前々から何度も言っているのだ。くのいちや忍たま下級生があんたのこと怖がってるから少しは愛想良くしろと。しかし作兵衛自身も何故そんなに怖がられているのか解っていないようで、眉間の皺も、傷らだけでしっかり筋肉がついた腕を晒している腕まくりも(これも怖い要素の一つらしい)、恐ろしさをさらに増す原因のひとつのべらんめぇ口調も、でかい声も、何もかもそのまま成長した。っていうか、悪化してる。確実に。
それから、此れも。
「どうすんだよこのままあいつらが戦場にでも迷いこんじまったら!!」
「わははそれはないわ」
「いーやありあえる!三之助なんてバカだからそのまま戦場をわけもわからず引っかきまわしちまうに違ぇねぇ!!」
「ないわー」
「左門も調子にのって三之助とその辺のやつら全員殺しちまうかもしんねぇ!」
「ありえんわー」
「どどどどうすんだそのまま大将首なんかとっちまって戦場を離れたら…!そんでまた別の戦場に行っちまったらどうすんだよ!!」
「落ち着け作兵衛」
「そんでまた迷子になるんだろ!?そんでまた戦場行くんだろ!?そのまま帰ってこれなくなっちまってこの国ぐるぐる回ってあっちこっち行っちまってそのへんの熊だの猪だのなんだの殺して食って生態系めちゃめちゃにして…!!」
「ちょっ富松作兵衛」
「そしたら今度は俺達に被害が…!生態系が狂うっつーことは食物連鎖が酷くなって最終的に俺達が食うもんなくなっちまって……!!が、餓死!?」
「その発想は無かった」
「つまりあいつらも食うもんなくなっちまってどっかでノタレシンデシマウワケデ…!!!」
頭を抱えてあばばばばと意味不明な言葉をつらつらつらつらと並べ始めた。
こいつの妄想は六年になって更に悪化していった。どうして三之助と左門が戦場に行っただけで我々が餓死するという結末になるのだろうか。
作兵衛と私は付き合ってはいる。が、この妄想癖だけはどう頑張っても治らない。あの二人の方向音痴のように。
六年になって気づいたのだが、作兵衛の妄想は最後の結末が必ず【死】という大変残念なオチになってきているのだ。本でも書いて出版すればいいと思う。
孫兵と数馬と藤内が言うに、私と作兵衛は真反対の性格をしているらしい。らしいっていうか、うん、まぁ薄々そうだろうなぁとは思ってた。
《よく付き合ってられるな》。これもう挨拶みたいなもんよね。
「作兵衛、そんなバカみたいな妄想してる間にあいつら探しにいきなよ時間の無駄だよ」
「だから名前も手伝ってくれよ!!」
「いやだってば面倒臭い」
バン!とテーブルを叩かれ湯飲みがトンと浮いた。それにくのたまや周りの席の下級生達が肩をビクッ!と揺らした。
私は作兵衛のように妄想なんてしない。っていうかそんな絶対にないようなことばっかり考える前に行動したほうが絶対に良いと思う。確実に時間が有効に使えると思う。
でも人の世話を焼いてあげるほど私の心は広くない。っていうかめんどくさい。作兵衛まじ憧れる。なんで他人のために其処までやってあげるの。きり丸じゃないけどタダで動きたくない。ギブアンドテイク。これ常識。
「三之助と左門がいねぇと授業が受けられねぇ…!」
「おーい」
「つまり俺と三之助と左門の成績がガタ落ち…!?」
「作兵衛ぇー」
「た、退学になって此処を出て行けって言われて、実家帰ってもそんな俺に愛想つかしてオヤジもおふくろも俺を勘当して…!!」
「聞こえてるかー」
「中退じゃ仕事も出来ねぇ就職もできねぇ…!!金がなくなって、俺は、死ぬ!!!!」
「またか」
出ました、死ぬオチ。
落ち着け作兵衛お前死にたがりすぎた。
「作兵衛」
「とっととあいつらみつけて授業に出ねぇと!!!」
「キスして」
「きっと裏やm……………あ…?」
「作兵衛、キスして」
「…ハァ!?」
妄想を止めるため、私はテーブルにひじをついて、挑発するように目を細め作兵衛にそう言葉を投げかけた。
見かけと違って純情でウブなところは全く変わっていない。作兵衛は突然のキスの要求に顔を真っ赤にして口元を隠した。
私のその言葉に食堂中の視線がこっちに集まったのが解った。五年も四年も三年も二年も一年もいる。そりゃそうだ、丁度ランチタイムなのだから。
「キ、キスって、お前…!!」
「キスして作兵衛。キスしてくれたら、あの二人の捜索手伝ってあげる」
全学年の視線に耐え切れないのか、作兵衛の顔はどんどん真っ赤に染まっていく。私は煽る様に作兵衛の頬を手で撫ぜた。そのまま作兵衛の唇を親指でなぞると、作兵衛は肩を揺らした。
こんな恐ろしい外見をしている作兵衛も、人前でいちゃつくことは無理だ。一度だって人前でキスなんてしてくれたことがない。いつも長屋の裏とか夜とか、そういうとこでしかしてくれないのだ。
つまりこういう無理な要求ならきっと作兵衛は諦めてくれる。私はお茶の時間が楽しめる。計画通り。
…かと、思ったのだが、
「ちょっ、」
「お前が言ったんだからな」
作兵衛は私の手をグイを引き寄せて、キスをした。
「さ、さくべえ…!?」
「〜〜〜っ!これで文句ねぇだろ!!」
真っ赤になって前髪でぐしゃりと顔を隠した。
い、今本当にキスされたの。まさか、ま、まさか、本当にするとは。
「…良く出来ましたねー作兵衛くん」
「うるせぇ!!早く手伝え!!時間がねぇんd…!!!!!」
「はいご褒美あげましょうねー」
私はぐしゃぐしゃになった前髪をかきあげ、おでこにもう一回キスを落としてあげた。
行くよと言い作兵衛の肩に巻かれた縄を奪い、私は相棒をピィと指で呼びながら食堂を後にした。
大声でウワァァアアア!!と叫び声が後ろから聞こえる。多分羞恥に耐え切れなくなって食堂を飛び出した作兵衛の声だろうなー。
可愛い可愛い私の作兵衛。君が望むならなんだってしてあげちゃうよ。
だからぶっちゃいくになっちゃう眉間の皺はそろそろ消してちょうだいな。
純情な君を愛してあげる!だからそろそろその妄想やめろ!!
「…あ、あの、名前先輩…」
「んー?」
「……富松先輩って、意外と……可愛いんですね…」
「だから言ったじゃん作兵衛は可愛いんだって」
「はにゃー?今日委員会ないのー?」
「なんか委員長が体調悪いんだってぇ」
「さっき…お顔真っ赤だったよ………」
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作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
作兵衛可愛い
思わず縦に連続して書くレベルには作兵衛可愛いよ作兵衛。
どうすれば作兵衛を抱っこできますか?出来ませんか?なるほど?
第一位、きゃわいい作兵衛ちゃんでしたンゴ。