悪女な私も愛して!



「おはよー……お…?」

「ど、どうした…?名前…?」


「…」


朝学校へ行きガラリと扉を開くと、やっぱり教室に居るのは庄左ヱ門と名前だった。
この二人はいつだって一番に教室についている。庄左ヱ門は朝から一日の授業の予習をしているし、名前は庄左ヱ門の正面に座ってネイルをしていたり化粧をしてたりケータイをいじってたり。
朝早く学校に行って庄左ヱ門と二人でいたいんだってよ。はいはいラブラブですこと。

だけど今朝は違った。いつもどおりチャイムぎりぎりの時間に俺と団蔵で教室に入ると、そこで目にしたのは

庄左ヱ門に抱きついて泣いている名前の姿だった。


「お、おいどうした名前?」

「庄左ヱ門にいじめられたか?」

「お腹でも痛ェのか?生理か?」

「虎若!!」


乱太郎にバシッ!と頭を叩かれ、教室の扉を閉めた。

名前が泣いているだなんて珍しすぎる。あいつは庄左ヱ門と双子なんじゃねぇかと言われるほどに冷静沈着なヤツで、うちのクラスのマドンナ的存在だったのに。
なんでこんな朝から泣いてるんだ?いじめか?許さん。


「……グスッ…」

「おいおい、本当にどうしたんだよ…」




「…君たちのせいだよ」


「……は?」


重い口を開いたように喋るのは、名前を抱きしめていた庄左ヱ門だった。



「…今朝名前が、安藤先生にいびられたって」

「安藤?油オヤジのか?」

「そうだよ」

「なんだ?何を言われたんだ?」


団蔵がバッグを机において名前の頭に手を置くと、名前は顔をうめていた庄左ヱ門の胸から身体を離した。
目のまわりが真っ赤になっていて、口元はセーターの袖で隠れている。可愛い。

…いやいやいや、こいつは庄左ヱ門の彼女庄左ヱ門の彼女庄左ヱ門の彼女…!!



「安藤先生にっ、言われたのよ…。三組の生徒は、いつだって点数が悪くて…バカばっかりで……、が、学校に来ている意味なんて、ないんじゃないかって…っ!」

「あぁ!?」




「お前はっ、…っ、学級委員長の、彼女なのに…!何をしているんだって…!お、怒られて…っ!黒木を支えるのが、副委員長っである、っ、お前の仕事じゃ、ないのかって…っ!グスッ、!」




そう言い、名前は再び庄左ヱ門の胸に顔をうめた。よしよしと庄左ヱ門は名前の頭を撫でながら、俺と団蔵をにらみつけた。



おーっと、この状況はかなりまずいですねー。

俺と団蔵は目を合わせてあはは…と苦笑いした。


確かに、俺と団蔵のテストの点数は酷い。自分でもヤヴァイとわかるレベルにはヤバイ。此処最近1点以上のテストを取った記憶が無い。中間や期末は庄左ヱ門や伊助、それこそ名前の力も借りてなんとかかんとかやりきっていた。まぁ毎度平均点には届かずに追試を受けされるんだけど。
授業で急にやるテストとかはちょっとよくわかんねぇ。多分0だったと思う。


そんなこといったってなぁと小さく声を漏らすと、クラス中の連中が俺と団蔵をギロリと睨んだ。
名前と庄左ヱ門のテスト前の勉強会によって俺と団蔵以外のやつらはそこそこ平均前後の点数が取れるような頭に成長したらしいのだが、残念ながら脳みそまで筋肉で出来ているといわれ続けて早16年たった俺たちは手遅れだったようだ。勉強をするという行動を脳みそが拒否しているのだ。

「勉強をしろ」と言われれば外部の音声をシャットアウト。教科書を開けば腕が痙攣し、数式なんて見た日には突然の睡魔に半日奪われる。


しかし、なんつーか、名前の人気はさすがだ、とでも言うべきか。庄左ヱ門と付き合ってるとはいえこのクラスのマドンナだ。庄左ヱ門と付き合い始めたって聞いたときはどうやって庄左ヱ門のこと殺そうかと考えたぐらいだ。あの日は庄左ヱ門に脅したのかーッ!と問いただしたが「名前も僕が好きだったんだよ」と真顔で返されていつものツッコミも出てこなかった。

だがその名前を泣かせている原因が俺と団蔵。これは腹を斬ったほうが楽かもしれん。


「この名前が泣いているんだよ?君たちのせいで」

「…」

「団蔵と虎若には前々から勉強したほうおがいいと言ってたはずだけど?」

「…はい…」

「もうそろそろ期末だけど。またあんな点数取るつもり?」

「…その……」

「そ、それは……」

「君たちが変な点数取るから名前がせめられちゃったじゃないか。人の彼女を泣かしておいて反省しないわけないよね?」

「…し、しかし庄左ヱ門様…」

「…俺達に、勉強なんて……」



「…もういいわ……庄左ヱ門…」

「名前?」



俺と団蔵が反論しようとすると、小さい声で、名前はそうつぶやいた。

まだ目の周りを赤くしてずずっと鼻をすする名前は、残念そうに目をふせて庄左ヱ門の制服をキュッと掴んだ。



「…こんなので泣いてる私が悪い…。団蔵と虎若にっ、勉強なんて期待するのが悪いの…」

「名前、」

「確かに、学級委員長である庄左ヱ門を支えるのが私の仕事…。クラスで赤点が出たら、……庄左ヱ門と私の責任よね…」

「…」

「……もういいわ。ごめんね団蔵、虎若…見苦しいとこ見せて……」


名前はグシグシと目元を擦った。














いや、男虎若、男団蔵、女一人泣かせて良い訳が無い!!!!













「「名前!!」」

「!?」


団蔵と俺は力強くガシッと名前の手を掴んだ。




「俺と団蔵次の期末では絶対に平均点とってやるからな!!」

「平均点とって安藤見返すからな!!」

「お前と庄左ヱ門に迷惑かけねぇから!!」

「だから涙を拭いてくれ!!」


「だ、団蔵…虎若……!」



俺も団蔵も必死になってる!!!!!

そして庄左ヱ門より俺達のほうがいい男だということを証明してやらぁああ!!!!!





「神に誓う!!」

「俺は照星さんに誓う!!!」


「ほ、本当…?本当に、平均点取ってくれる…?」


「あぁ!!絶対にとる!!」

「まかせとけ!!!」

「約束ね!」

「あぁまかせろ!」

「本気出す!」

「じゃぁ平均点取れなかったら虎若はPSP、団蔵はDS没収ね」

「約束だ!!!…………………お?」

「わかった!!……………………ん?」



「聞いたわよねみんな?今虎若と団蔵と大事な契約の承認になってくれたわね?」



はーい!と楽しそうに笑うクラスの連中が手を上げた。

今名前が変なことを言って、俺と団蔵は流れで返事をしてしまった。ん?今名前なんつった?


庄左ヱ門が制服の内ポケットからすっ、とレコーダーを取り出した。
俺と団蔵が呆然と名前の手を握っていると、それを笑顔でカチッと押した。



《じゃぁ平均点取れなかったら虎若はPSP、団蔵はDS没収ね》

《約束だ!》

《わかった!》






「「……!?!??!」」





顔を真っ青にして勢い良く名前の顔を見ると、名前は綺麗な笑顔で、にっこり笑っていた。



悪 女 だ ! !




「名前!?」

「騙したのかよ!?」

「いやだわ騙したなんて。あんたたちがどれほど手遅れな童貞かクラス中に教えてあげただけじゃない。こんな涙と化粧で騙されるなんて」


名前は庄左ヱ門の机の上においてあった花柄のポーチからメイク落としシートを出して目元をスッとふき取った。涙でこすれて赤くあっていたのかと思いきや、それはシャドウだったらしく、赤かった部分は綺麗な肌色に戻った。
カツンと名前の袖から落ちたのは、目薬。


「女の涙に騙されるなんて二人とも本当に手遅れね。試験が終わったらそろそろ本気で彼女作りなさい」


化粧を落としても相変わらず綺麗ですね名前さん。いや今そんなこと考えている場合じゃない。

名前はふわりと髪を靡かせて庄左ヱ門に甘えるように首に抱きついて膝の上に乗った。庄左ヱ門はニコリともしないで名前の腰を引き寄せて二人は目の前で突然いちゃいちゃしはじめた。


「計画通りね庄左ヱ門」

「だから言っただろ?名前の涙なら二人とも絶対言うこと聞くって」

「友人を騙すなんて心苦しくないの?」

「今更この二人を騙すことに罪悪感なんて生まれないよ。安藤先生にいびられたのは本当だしね」

「虎若と団蔵の頭の悪さにはほとほと愛想が尽きてたの」

「丁度いいじゃないか。その二人から勉強の妨げになるゲーム機が没収できるんだから」

「これでやっとうちのクラスの平均点があがるわね」

「そろそろ2組にも追いつけるかもしれないね」

「団蔵と虎若以外は、みんな頑張ってるものね」

「団蔵と虎若以外は、ね」


冷静に今までの事を淡々と話しながら、二人は密着したままこっちをじっと見た。

団蔵も俺もあんな大口叩いたが、ぶっちゃけ平均点なんて取れるわけが無い。まずい。これはヤバい。



「き、きたねぇぞお前ら!!はめやがったな!?」

「しかも名前まで使うなんて!!」

「そうだぞ汚ぇぞ!!」

「人の彼女に発情しておいてよく言うよ。君たちなに人の彼女の涙におちてんの?」

「庄ちゃんったら相変わらず冷静ね!!」

「冷静に痛いとこついてくんなよ!」


うわぁああと頭を抱えてその場に崩れ落ちると、庄左ヱ門は抱きつく名前に俺達の目の前でキスをした。






「頑張ってね団蔵、虎若」






幸せそうな笑顔で、名前さんはそうおっしゃられ、








「人の彼女落とそうなんてバカな考え、やめたほうがいいよ」








そう、庄左ヱ門さんがおっしゃった。






俺と団蔵は今までクラスメイトに迷惑をかけていたこと、

それから人の彼女に発情したこと、昔からくのいち、もとい女の涙には気をつけろと言われていた教えを忘れたことを反省して、


相棒であるPSPとDSを没収されないように、今まで使ったことの無い脳みそをフル活動させて勉強するのであった。






「ごめんね名前、迷惑かけて」

「ううん、こんな私でお役に立てるなら」

「たったたった。凄く助かったよ」

「じゃぁ大好きって言って?」

「大好きだよ名前」

「ふふふ、私もよ庄左ヱ門」




「やめろお前ら!!自重しろ!!」

「俺らの前でイチャつくんじゃねぇ!!」


「そんなことより一秒でも多く勉強したほうがいいんじゃない?」

「庄ちゃんたら冷静ね!!」

























悪女な私も愛して!

貴方以外の人に本当の涙は見せないわ!





















「ちなみに、PSPとDSは兵太夫と三治郎に差し出すことになってるわよ」

「うおおおおおお確実に死ぬ!!!!」

「それだけは勘弁してくれぇぇええ!!!!」











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現代庄ちゃんほどかっこいい子はいない。

このクラスの主導権は土井先生でも山田先生でもなく

名前ちゃんが握っていて裏で庄ちゃんが動いています。怖いです。


第二位腹黒木庄左ヱ門様でした。

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