いたずらっ子な笑顔で愛して!



「名前!設計図取ってきたぞ!」

「うおおお待ってました!はよはよ!」


兵太夫が私の席の上に模造紙をばさりと置いて大きく開いた。こりゃまた大作。


「ほぉほぉ、ほぉーこりゃ凄い!さすが私のへーだう!」

「だろ!授業中寝ないで考えたんだ!」

「へーだうちゃんエラいでしゅねー!名前ちゃんのたにまくらで寝ましょーねー!」

「Aカップをどう枕にすればいいの?」

「殺されたいの?」


兵太夫がワイシャツの胸ポケットからマイボールペンを取り出し此処がこうなってと説明し始めた。

ありがたいことに今教室には誰も居ない。今は放課後。部活も終わって、完全下校時間を過ぎている。私と兵太夫はこっそり教室に戻り兵太夫新作のカラクリの設計図を眺めていた。

えげつないものしか作らない兵太夫が今回ばかりは本気でとりかかると言っていた。この教室全体を使った超大作を作ると言っていたのだ。


何故、あのめんどくさがりな兵太夫がこんなに本気になっているかというと、話は今日のお昼休みまでさかのぼる。


兵太夫と私が一緒に屋上の給水タンクがある場所の上でお弁当を食べながら次のからくりを学園の何処に仕掛けようかという相談をしていた時のことだ。
前は学園町室に、その前は来賓客用の扉に。その前はきり丸にカツアゲしたっていう先輩の机に。机が爆発したときはまじで腹よじれすぎて死ぬかと思った。

そろそろ新しいの作りたいねーと相談していると、がらりと開いた屋上の入り口。誰か来たのかなと下に視線を向けると、其処に居たのは生活指導の大嫌いな先生だ。

げ、と兵太夫と声をもらすと、降りて来いと命令された。私と兵太夫はこの先生が大嫌いだ。っていうか、多分この学園の人間全員が嫌いなはず。
頭ごなしにあーしろこーしろ勉強しろ男女交際するなうるさいうるさい。大嫌い。

私と兵太夫は完全にこの先生に目をつけられていた。あっちこっちに変な仕掛けを作っているし、校則違反をしまくっているから。校則違反じゃなくてこれはオシャレっていうのにねー。最近の先生はわかって無いんだから。
もうこの先生大嫌い。出席簿で頭どついてくるしチョーク投げてくるし。

あ、土井先生のあれは愛があるからいいの。この先生の場合は完全にいじめだよ。


めんどくさそうにしてる兵太夫と私が下に降りると、



「痛ッ!!」

「名前!?」



急に、目の前の先生にゆるく三つ編みにしていた髪を引っ張られた。


「なんだこの髪の色は。生活指導担当として見逃せんな」

「やめてよ先生痛いっ!!」

「おい離せよ何してんだよお前!!名前の髪は地毛だって書類出てんだろ!」

「どうせそれは嘘だろう?」

「テメェ!」


「笹山、苗字。お前らまた変なところにへんなもん作りやがったな。いい加減にしろと前に警告したはずだ」


「っ、やめて先生!返して!!返してよ!!」

「こんなもんが本当に大事なのか?バカなやつだなお前も。その髪の毛真っ黒に染めて私に頭を下げてごめんなさいといえば返してやるよ」


大嫌いな先生に奪われたのは、大好きな兵太夫から貰った大事なピアス。かたっぽしかつけてないのはもうかたっぽは兵太夫が今してるから。
最悪。こんなヤツにとられるなんて。大事なものだったのに。兵太夫がくれた大事なピアスだったのに。



「ま、どうせ直らんだろうがな」


先生はピアスを落として、あろうことかそのままそれを踏み潰した。

バカにするように鼻で笑って、そのまま、屋上を出て行った。


酷い。いくらなんでも酷すぎる。私は大事なピアスを壊されたことが凄くショックで、そのまま泣き崩れて兵太夫にただひたすら謝った。
兵太夫は何も言わないでただ私をぎゅってしててくれたけど、その後小さい声で



「次の目標、きーまった」



と、つぶやいた。
























「…へーだう」

「何?」

「…ピアスごめんね」

「いーっていーって、もう気にして無いよ。今度新しいの買ってあげるから。ね?もう泣かないで?」

「…うん…」


兵太夫もかなり気に入っていたピアスだったのに、もう一個ないと意味が無いからと、あの後すぐに兵太夫も外して屋上から投げ捨てた。
今私と兵太夫の耳には全然違うピアスがつけられている。なんかちょっと寂しい。いつだっておそろいだったのに。


「さ、あの先生泣かせるぞー」

「これ本当にヤバいね。久しぶりに腕がなるわぁ」


私はめがねをかけて髪を一つに結いなおして、兵太夫は私からヘアピンを受け取り前髪をとめた。


「さーてそんじゃ」

「やりますかねー」


兵太夫はマイ工具セットを。私は細かいドライバーなどが入ったウェストポーチを取り出し、設計図を指でなぞりながら教室中を歩き回った。なんてったって私達は暗闇に目が慣れている。何故ってそりゃぁむかぁしのこともあるし、それに屋根裏天井裏にもぐったりして設置するのもあるしねー。こでぐらいの暗さなーんてことないさー。










時刻は朝8時30分。今朝はHR前に頭髪服装検査が待っている。あの大嫌いな生活指導の担当先生がひと教室ずつ回ってくるのだ。
昨日の帰りのHRで土井先生に直してこれたら直してきなさいとは言われたけれど、残念ながら髪の毛染め直すお金がないので直しませんでしたと笑顔で返した。っていうか昨日は忙しかったので。

昨日のうちにクラスのみんなには"後ろの扉から入るように"とメールを送っておいた。みんな教室に入ってくると、教室中に仕掛けられている何がなんだか解らない機械や設備に目をキラキラさせた。
三治郎は「昨日は手伝えなくてごめんね」と言って私達に登校中に買ってきたアイスをわけてくれた。でもいいんだ。今回のは私と兵太夫で仕掛けないと意味が無いんだから。


アイスをむしゃむしゃとほお張っていると、スピーカーからHRを開始するチャイムが鳴り響いた。

私達の教室は三組。この階の一番奥の教室。
一組からはじまる頭髪検査は、三組までくるのに時間がかかる。三組の連中は各々好きなことをして時間が来るのを待った。
うちのクラスで頭髪検査に引っかからない人なんて庄ちゃんと伊助ぐらいだろうなー。服装検査はあの二人もピアスあいてるからアウトだけど。


隣の席の兵太夫が「名前」と声をかけてきた。ケータイから視線を外し兵太夫の方を見ると、廊下の外をあの先生が歩いていた。私はスマホの電源を切りポケットにしまった。アイスを食べている私を見てあの先生は鼻で笑った。うざ。




「これよりこのクラスの頭髪検査をぉおっ!?」


「全員退避ーーッ!!」




私がそう叫ぶと、カラクリが作動することが解ったのか全員が避難訓練のように机の下にもぐった。
私と兵太夫はセットしたカラクリが無事成功するか机の上に乗って見届けた。

まず最初に扉を開けた瞬間から始まる。前の扉を横に引くと先生は教室にグイっと引っ張り込まれる。そして先生がバランスを崩して前に一歩踏み出した場所にあるスイッチ。兵太夫はこのあたりで一歩踏むと計算してスイッチを設置した。

それを押すと廊下側の扉が全て一気に施錠されカーテンがかけられる。これで他の先生が中の様子を見ることは出来ない。


「うおぉおへーだうヤバイぞこれ!」

「いい調子だねー!」


窓の外から「先生!?」という驚いたほかの先生の声と、ドンドンとドアや窓を叩く音。


「さ、笹山!苗字!!」


「先生よそ見してると危ないよー!」

「う、うわあぁあ!!」


主犯が私達だと解りギロリと睨みつけるのも一瞬。その後すぐに四方八方からチョークが飛んできて、先生の体中にぶつかりまくっていった。

黒いスーツが徐々に白くなっていく光景が見えているのか、他のクラスメイト達から笑いを我慢する声が聞こえる。


先生はそのチョーク攻めから難を逃れようと情けない体勢でヒィヒィ言いながら教室中を動き回る。
だが兵太夫と私の本気はこんなもんじゃない。ボタンひとつでロッカーが勢いよく開き低い姿勢のままの先生の顔面に直撃。

その後それからも逃げるように後ろ飛んだ先生の身体を


「天誅ゥウウウ!」

「がっ…!?」


私がとび蹴りして、掃除用具ロッカーに先生を閉じ込めた。
迅速なスピードでドアを閉め体重をかけ背中で押さえると、掃除用具ロッカーはガタガタと大きく動いた。生きてるみたいで面白ーい。


あらかじめそこだけ開け閉めできるようにロッカーの顔の辺りの高さの部分を改造していた。こんにちはーと開けるとめっちゃ怒ってる先生の顔がドアップで出てきた。キモ。



「笹山!!名前!!貴様らこんなことしてただですむと思うなよ!!!」


「タダぁ!?」

「きりたんシャラップ!!!」


ロッカー前に落ちていたのは多分先生の腕時計。


「じゃぁ先生うちのクラスのみんなを目の敵にしてたことその場で謝ってー」

「あと名前の髪引っ張ったことと名前のピアス壊したこともその場で謝れー」

「調子に乗るな!!お前らみたいのを社会のゴミと言うんだよ!!」


「やだーへーだう私達ゴミだってー!」

「じゃぁゴミが持ってるこれもゴミだねー」

「おい!!やめろ!!」


兵太夫は工具箱からハンマーを取り出し、顔を出してる先生の位置からでも見える場所で思い切り先生の時計を叩き割った。あれそこ虎の机の上じゃね。

うははと笑いながら兵太夫が時計だったものをベランダから外に投げ捨てた。ついに堪忍袋の尾が切れたのかロッカー内の先生は尋常じゃないレベルで出せ!!とロッカーを大きく叩いた。



「お前らァア!!」


「逃げろへーだう!」

「おいで名前!」


机の横にぶら下がるバッグを引っつかみ黒板の前へと移動する。先生も私達の後ろを猛スピードで追いかけてくる。
私と兵太夫が黒板で行き止まりだー!と嘆くと先生は観念しろと私と兵太夫を黒板で板ばさみにした。


「覚悟しろよお前ら!二人そろって退学にしてやるからな!!!」


「ひょわぁぁああ!!!……なんつっ…てッッ!!」

「よっと」



「…?…イ"ッッ!!!!!」



私が黒板を思い切り叩き兵太夫が先生の腕をグンと引いた。前のめりになる先生が上を見ると、黒板が外れてバン!!と勢い良く先生の脳天を直撃した。




「あーっはっはっはっ!!先生真っ白ー!!」

「やったね!だぁい成功ぉー!」

「さよなら先生もう二度と会うことはありませんよう!」

「お大事にー!!」



ドアの鍵をあけて教室から脱出し、中を覗き込んだ先生達はパニックに陥った。

私と兵太夫は無事に仕返しすることに成功し満足して、兵太夫に手を引かれて学校を早退しましたとさ。








「おいへーだう!!」

「なぁに名前!」

「ってかなんでへーだうまでこんなことしたの!ぶっちゃけ私がいじめられただけなのに!」

「だって僕の名前がいじめられたってのに仕返ししないわけにいかないだろー!!」

「相手はあの生活指導のガンコオヤジだったのにー!」

「そんなの知るもんか!名前を泣かせたのが許せなかったんだ!!」


「うわーんへーだう大好きすぎるよチクショー!!」

「知ってるよー!!」




こうして兵太夫はパッと笑って、自転車をこぎ出したとさ。


めでたしめでたし。





















いたずらっ子な笑顔で愛して!

連帯責任は守るから安心して!























「へーだう!庄ちゃんから電話!」

「お!なんだって!」

「三組に色々やってたの一気にバレたみたいであの先生異動だって!んで私達停学だって停学!自宅謹慎くらったみたい☆」

「あはは名前バーカ!!」

「へーだうだってバーカバーカ!!」

「よーしカラオケ行くかー!」

「そうすっかー!」









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へーだうと名前ちゃんは学年トップのオシャレさんだといい。

んでいつもテストいつも0点だけどぶっちゃけ超頭良いといい。

庄ちゃんの次くらいでいい。かわいい。


第三位へーだうたんでした。

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