キリ番hit 山葵 様リクエスト
「悪鬼主卒業後タソガレドキに就職後」































「タソガレ忍軍月輪隊隊員御代志桜、殿より只今帰還いたしました」

「桜!」
「戻ったか桜!」

「ご心配をおかけしてしまったようで、大変申し訳ありません」

「怪我はないか!?無事だな!?」
「この通りです」


良かった良かったと、部隊の人間が安心したように腰を下ろして私の帰還を喜んだ。茶を飲めと竹筒を渡され、これを食えを煎餅を差し出された。

……此処へ就職したのは間違いだったかもしれない。私はタソガレドキで数少ない女だということがあるのか、忍びであるにも関わらず、武家の娘のように蝶よ花よと扱われた。今この通り、私は甘やかしに甘やかされている。

これでは俺を越せと言った三郎や勘右衛門たちに顔向けできない。私は今とんでもなく甘やかせているだなんて、卒業生に言われた後輩の顔など、見れるものか。

…三郎と勘右衛門は元気でやっているだろうか。庄左ヱ門と彦四郎に迷惑をかけてはいないだろうか。腕は磨いているだろうか。


「……隊長、私は忍務報告をせねば…」
「まぁまぁもう少しゆっくりしていけ!みんなお前の帰りをまっていたんだ!」
「ハァ……小頭は何処でしょうか?」
「小頭なら今忍務だ!報告は組頭にな!」

忍務から帰ったらまず報告。これも絶対だというのに、部隊の人間は私に酒を飲ませとにかくいろいろと飯を進めてきた。
まだ日は高いというのに、この部隊の人間ときたらもう酒をかっくらう気か…。プロの忍びが三禁はどうした……。

それにしても……小頭がいないのか…………。最悪だ……。なぜなら、


「やぁ桜ちゃん、おかえり」
「組頭、」


カタリと天井の板が外れ、そこから黒い大男が降りてきた。昔は敵として見ていたが、今や上司である、タソガレドキ忍軍忍組頭、雑渡混奈門その人だ。
昔こそ雑渡殿や曲者なんて呼んでいたが、今は上司。この男を組頭と呼ぶ日が来ようとは。

胡坐をかいていた足を急ぎ整え組頭の前に跪く。そんなことしなくていいのにと、組頭はいつもつぶやくが、昔の中を今に持ち込んではいけないだろう。

「殿を務めたんだってね?偉い偉い」
「いえそのような、」
「おいで、報告は私が聞こうか」
「…はい」

立ち上がる組頭についていくように私は立ち上がった。同じ舞台の人間に頭を下げて、私も部屋をあとにした。



たどり着いた場所は、いつもの組頭の部屋。

「っ、」
「此処にも、あと此処もだね」
「いっ、」

「桜ちゃん、今回はずいぶんと怪我が多いね。やっぱり殿はまだ早かったかな」
「あ…っ!」

忍務を報告し、部屋から出ようとすると、腕を引かれ視界は一気に変わった。またかと深くため息を吐くと、そのまま抱き寄せられるように体は組頭へと密着した。そして回転。目の前にいる組頭の顔、の、向こうに天井。やっぱり今日もか、と私は覚悟を決めて横へ顔をそらした。服を脱がされ腕を拘束され、肩に出来た傷を舐めあげられる。組頭への忍務報告はこれだから嫌いなのだ。組頭は私が忍務から帰るといつもこうして今回の忍務で出来た傷を執拗異常にせめる。

生きて帰れがモットーとされているこの忍軍で怪我はご法度だと、入隊時に教えられた。それゆえに医療班が全員性格が歪んでいるものばかりだ。傷口に消毒液をぶっかけたり化膿止めの塗り薬を傷を開いて塗りこんだり。
初めてその光景を見たとき、「伊作よりひどい治療法をする奴がこの世にいるのか」と思ったほどだった。あいつも頭に血が上るととんでもない処置の仕方をしていたりしたものだ。懐かしいな。

「刀傷、それから、銃弾を掠めた傷」
「〜っ!!」
「今回は計12個所。ボロボロになった服から別の服に着替えただけで、おじさんにバレないとでも思った?」

ぐるりと視界は天井から畳へ。背中に出来てしまった刀傷は少し深いものだ。そこを舌でなぞられるのは激痛だ。薬も何も塗っていない。そうされてしまっては、傷は悪化してしまう。

「いいねぇ桜ちゃん、私の部下という地位になってから、一度も反抗したことない。あの時とはエラい違いだ」
「……っ、それは、あなたが、今は私の上司だから…っ!」
「セクハラにも耐えられるってわけね、良くできた子だ」

腕を引かれ体を起き上がらせられる。が、まだ背中や肩はジクジクと痛んでいる。全く、ツバを塗り付けておけば治るだなんて民間療法誰が思いついたんだか。傷は痛む一方ではないか。

「組頭っ…!お戯れはこのあたりで…、」
「残念だなぁ、夜だったらもう少し楽しめたのに。また日が高いしねぇ」

じわりと浮き出る涙を引っ込めて、私は脱がされた忍服を着直してその場に正座をした。何が夜だったらだ。私が組頭に身体を許した覚えなどない。許すものか。

「組頭、」
「二人だから、もう前のように呼んでいいよ」
「雑渡混奈門」
「すぐ呼び捨てとは切り替えが早いねぇ」

「いい加減にしてください。私は貴方の性欲処理のために此処へ来たわけではありません」
「解ってる解ってる。いやぁどうしても城に若い子がいるって思うと手がでちゃってさぁ」
「これでは学園にいるときとまるで変わりませんね。アホのように私に懐いていた一つ下を思い出しますよ」

嗚呼、と組頭は声をこぼして窓から外を見上げた。白い鳥が理由に青の中を飛んでいくのを、目を細めて眺める。


「……君が卒業してから、結構立つからねぇ。そういえば君はあそこへ顔を出しに行かないのかい?この間包帯を取り替えてもらいに行ったら、新入生とは別に、保健室に去年と変わらないメンバーが座っていたよ」
「あぁ、伊作はあのまま学園で医学について学ぶと言っていましたので。確か風の噂では留三郎も教師として最近戻ったと聞きましたがね」

「そうかい。じゃぁ君は?可愛い後輩に逢わないの?」


その言葉に、私はピクリと目元を動かした。

逢いにいかないのか。そういわれれば、今すぐにでも飛んでいきたいぐらいだ。愛する後輩に逢いたくないなど、口が裂けても言えるような台詞ではない。
だが、戻ってはいけない気がするのだ。伊作や留三郎は、あそこを必要とし戻った。だが私はどうだ。もう上司も部下もいる。立派に戦忍として城仕えしている身。あそこへ戻る口実など何一つとしてない。

それに、過去を振り返ることなど不要だ。あそこに戻れば、きっと、"過去"にしがみつき"今"へは戻って来たくないと思うはずだ。三郎と勘右衛門に逢いたい。彦四郎と庄左ヱ門に逢いたい。三郎と勘右衛門は私の指示通り上を目指し鍛練を怠っていないだろうか。庄左ヱ門と彦四郎は二人の世話に苦労していないだろうか。不安や疑問は多々ある。……だが、逢ってはいけない。

そう話せばきっと組頭や部隊の連中は「くだらないプライドだ」と嘲笑うことだろう。だが、これは私の中で決めた決定事項だ。きっと、次に逢うのは、街か、偶然か、……戦場か。


「…逢えませんよ。…あそこは、そう、易々と戻ってはいけない場所ですから」

「……」


少し力を込めて握った手が痛い。己に嘘をつくというのは、これほどまでに痛いことだったのか。



「……月輪部隊」

「此処に」


組頭が我らの舞台の名前を口にすると、私の後ろにざっと部隊の連中が降り立った。


「桜ちゃんも、これよりお前らに忍務を言い渡す」
「お任せを」









































月が地を明るく照らす日ほど忍びにくい夜はない。恐ろしいほどにくっきりと私の影は地面に映っていた。右手を挙げればその影は大きく伸びて私と同じ形になった。嗚呼明るい。


「其処までだ」
「っ…!!」


一つの影に伸びた刀が深く心臓を突き刺し、夜だが鮮明に赤い血が当たりへ飛び散った。臭う。獣のような血の匂いが。浴びてしまったか。致し方ない。


「桜、」
「ご心配なさらずに。私は無事です」
「ならいい」


ふと顔を上げると、その先にあるのは、戻ってはならないと言い聞かせていたあの建物。物音ひとつせず、聞きなれた鐘の音も聞こえない。あたりまえか。こんな夜中ではなるわけがない。

組頭は何を思って私に、この部隊にこの忍務を言い渡したのか。此度の忍務の内容は、『忍術学園に奇襲をしかけようとしている忍軍の情報が入った。殲滅してこい』ということだった。
何処の忍びかもわからずに、私たちはただただ学園に近寄る忍びを殺していった。学園とタソガレドキ城………いや、タソガレ忍軍は親しい間柄だ。組頭を筆頭に伏木蔵や伊作には前から世話になっている。だからか、こうしてたまに学園の警護をタソガレ忍軍自らしていたのだという。はじめにその話を聞いたときは驚いた。私がいたときからすでに学園に気を配り怪しい輩を抹消してきていたのだという。誰か気付けていただろうか。否、誰も気付けてはいまい。私も気付けていなかったのだ。恐らく仙蔵も文次郎も、長次も、小平太も、留三郎も、伊作も、これに関しては気付けずに卒業しただろう。

そして今、私はその忍務についている。

嗚呼、こいつらを殺せば、庄左ヱ門も彦四郎も三郎も勘右衛門も、平和に学園生活を送れるというのか。それなら喜んでこの身を血に染めようではないか。

元気でやっているか。落ち込んではないか。壁にぶつかってないか。

逢いたい。逢いたい。逢いたい。


「桜!!」

「っ!!」


余計なことを考えていたからか、私の腕に矢が刺さった。不覚だ。痛い。


「〜〜っ!あああああ!!」


利き腕に刺さらないだけましだったと思いたい。懐から取り出したクナイを矢の飛んできた方向へ全身の力を込めて投げ込む。ぐっと低い声が漏れ、樹の上から落ちてきたのは、殺してきた者と同じ忍服の男だった。殺せたか。


「桜!!」

「触らないでください、これぐらい大丈夫です」
「そう言うな!!」
「抜くぞ!」
「大丈夫です、それより、敵は」

「もういない、気配は消えた」
「でしたら、先に戻っていてください…」
「何を馬鹿なことを言ってる!手当が先だ!」


「……寄らねばならぬところがあるんです…」




血が流れる腕を押さえて、私は部隊から外れ、ただ一人、あの建物へと足を運んだ。嗚呼、嗚呼、なんて懐かしい。ここだ。ここへ戻って来たかったんだ。
塀へ上り中を見回す。誰もいない。当たり前だ。だが、あの時の記憶が鮮明に思い出される。




「やっと書類整理終わったな…」
「すいません、僕と彦四郎がもっと早く終わらせられれば……」
「本当にすいませんでした」
「気にするなって、私たちも手伝い始めるの遅かったんだし」

「!」



懐かしい声が、聞こえた。目の前の廊下を歩いていくのは、緑色の衣と青の衣に身を包んだ、愛すべき後輩。

大きくなった。しばらく見ない間に、こんなに変わるものなのか。


声をかけられたらどれほどいいか。

俺はここだと言えたらどれほどいいか。



……変わらず元気でいるようで安心した。

私は血が流れる腕を押さえつつ、私は身をひるがえした。




「誰だ!!」

「!」



影が、地へ落ちているのがいけなかった。身を返した時に動いた陰で、四人に私の存在がバレてしまった。


「曲者か…!降りて来い!」

「は、鉢屋先輩…!」
「尾浜先輩、」

「大丈夫、お前らはそこにいろ」


……きっと、きっと、次に戦場で逢った時も、そんな目をして私を見てくれるんだろうか。情けなど一切かけずに、次は私に向かってきてくれるのだろうか。
その武器を私に向けたことなど、一度としてなかったのに。

悲しいな、これが乱世か。


「……」

「!」
「!」


私は、腕を上げて、影を伸ばした。


私の手の影はゆっくり伸びて、

四人の頭を撫でるように動いた。


「あ、待て!!」

「…勘ちゃん、深追いはやめよう」
「え、だって」
「何もしてこないんだから、特に悪いヤツじゃないと思うし」
「うーん、そっか」

「先輩、早くお風呂行きましょう」
「栓抜かれちゃいますよ」

「えー!それは困る!」
「早く行こう行こう!」
















「満足したか?」
「尊奈門殿……」

「……涙を流すな。また逢いにくればいいだろ」


気に背を預ける私を、頭から抱きしめる尊奈門殿からする火薬の匂い。きっと、戦場帰りだ。

「お前らしくないな。感情的になって涙を流すなんて」



「…怖かっ、たんです…っ、!愛していた後輩たちに…、武器を、向けられるということが……っ!」



…私はきっと、これが怖かったんだ。過去を振り返ることが怖いのではなく、愛していた後輩たちに武器を向けられるというこの事実を向きあうということが。
以前は先輩後輩という生ぬるいつながりがあっただけ。一歩学園の外へ出れば、私と彼らは敵同士だ。いくら仲のいい間柄とはいえ、敵に回れば、殺しあうことだって避けれる道ではない。

やはり、彼らは私に武器を向けた。殺そうとした。月を背負っていたから、きっと私だと判断することは出来ていないはずだ。私だとわかれば、きっと武器はおさめた。
じゃぁ彼らと出会った戦場が夜だったら?顔が見えなかったら?そんな状態で「私は御代志桜だ」と名乗ったところで、信じるはずがない。何故すぐ信じないか?それは、きっと、私を忘れて行ってしまっているからだ。


「…桜、」

「…忘れられて、いるのではないかと思って……っ!!」


涙は一向に止まらず、尊奈門殿の忍服を、ただ濡らしていった。

私の体が勝手に学園に向かってしまった理由。それはきっとこの腕の怪我で、『いつ永遠の別れが来るかわからない』ということを悟ったからだ。運が悪ければ、今日あの場で死んでいた。今日をもって、あいつらとも永遠に逢えなくなっていた。そう思うと、足がここへ向かってしまっていたのだ。





「……それが、闇に生きる俺たちの運命だよ…」




どうか、どうか、忘れてくれるな。

今はタソガレドキという色に染まりかけている私を、忘れてくれるな。

どうか、私のことを、忘れてくれるな。



「……帰ろう、城に」

「…はい、」



遠ざかる"昔の戻る場所"を横目に、私は、"今の仲間"の背中を追った。



忍術学園にいたという証拠は、お前らの中にだけ残していった。

それを、どうか、なくしてくれるな。























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山葵 様に捧ぐ


記念すべき七十万打ヒットおえmでとうございましたぁぁあああーーーーッッッ!!!!!!!!
っていうか、えl!?!?!?ななじゅうまん!?!?!?いつのまに!?!?!?!?!?!?

てなわけでリクエスト夢をかかせていただきましたーーーー!!!
もう終わった作品の番外編をリクエストとは……!!嬉しいです…!!!

組頭エッチですね!!!!通報しました!!!!!!

お気に召していただけましたでしょうか!!!

これからも「嗚呼、桜か。」をよろしくオナシャス!!!!!!!!


伊呂波

山葵様のみお持ち帰り可


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