キリ番hit 由利 様リクエスト
「もしも悪鬼主が生物委員長だったら」





























「な・る・ほ・ど・な〜……この学園に天女様なんてもんがなぁ」

「えぇ、なんでも未来から来た女だとか」


「それ、ハチは信じてんのか?」

「まさか、俺がそんなバカげた話を信じるとでも?」

「うちの六年があのザマだ。お前の友人達もあの調子では、お前もどうなっているかわかったもんじゃねぇだろう」


なぁと頭を狼の背に預けながらそいつの顎を撫でると、狼はぐるると気持ちよさそうに喉を鳴らした。ふふふと笑いながら、桜先輩は視線を俺に向けた。久しぶりの桜先輩の香りに、心臓がやかましく跳ね上げる。

桜先輩が、十日ぶりに学園にご帰還された。まず真っ先に俺の部屋に飛び込み、「生物委員会緊急招集だ」と桜先輩は言葉を残して部屋から消えた。十日ぶりに帰りになったというのに、学園中がこの状況だ。呑気におかえりなさいを言っている場合ではない。

孫兵を呼び、孫兵に一年を連れてこさせ、今俺たちは桜先輩の部屋で全員そろって座っている。

任務で血を浴びたからか少々興奮気味の桜先輩の相棒である狼は、今首輪に鎖をつながれ部屋の柱につながれている。一年は怯え、入り口近くに座っているが、孫兵は俺の横に。そして俺は、桜先輩の正面に座っている。


「孫兵、お前はどう見る」

「…あの女は僕のペットを毛嫌いしています。怖いと………ジュンコのことも…気持ち悪いと…」

「ハッ、それはそれはお綺麗なお嬢様だな。テメェのツラ鏡で見てからそう言えってんだよ」


孫兵の首から離れたジュンコはしゅるりしゅるりと床を這い、桜先輩の足へと巻きついた。あっ、と孫兵が声をもらすころにはもう遅く、ジュンコはそのまま桜先輩の首へとおさまった。だが、桜先輩はあの女と違い、その蛇を愛しそうに見つめ撫でるのであった。

……桜先輩は、女だ。生物委員会の連中しか知らないこの秘密。最高学年となり、生物委員の委員長に就任されたその夜、生物委員会は招集をかけられその事実を聞かされた。


この真実は、今この部屋にいるものだけしか知らない話だ。


…こんな男らしい方が女性だったなんて…。しかもこれは声をかえ話し方まで極められていたとは…。なんのリアクションもないなんて、もしかしたら三郎すら気づいていないだろう。



「三治郎、お前はどうだ」

「僕あの女嫌いです…。変なにおいするし……。この間なんて、兵ちゃんのカラクリ壊したんですよ…」

「あぁ、そりゃやっちゃいけねぇなぁ。孫次郎、お前はどうだ」

「……ぼ、僕も嫌いです…。早く、出て行ってほしい…」

「孫次郎がそこまで言うとはな…。一平はどうだ」

「………嫌い、です…」

「お前が人を嫌うとは珍しい。こりゃ相当だ。虎若は?」

「僕もあの人は嫌いです。上級生の先輩方には優しいですが……僕らには…」

「いい男侍らせたいってか。そりゃいいご身分だな」


ハッと鼻で嘲笑い、桜先輩は足を組んだ。

あの女は、やけに上級生に優しい。優しいというか、べたべたとしていくる。俺もその被害者の一人だが、俺には何も感じない。むしろ離れてほしいぐらいだった。三郎も雷蔵も勘右衛門も兵助も、まんざらではないような顔をしていたが、あの女のあの甘ったるい臭い…反吐が出る。

あの女がなんの幻術を使っているのかは知らないが、何故俺があの女に惚れなかったのか。多分それは、目の前におられる桜先輩という存在に心底惚れてしまっているからだ。

生き物を大切にし、俺たち後輩にも優しく接してくださる。それになにより、頭がキレ、そして強い。こんなにいい女、他にいるわけがない。


ガシャン!と鎖から大きな音が鳴った。鎮痛剤を打っておいたと言ったもう一匹の狼が暴れたのだ。一年生がそれにビクッと肩を動かしさらに小さく縮こまった。俺の服にしがみつく孫次郎の頭をそっとなでると、桜先輩はやれやれと言って鎖を解き、狼を外に連れ出した。


「裏裏山までだ。それ以上は行くんじゃない。殺したい人間が入れば殺していい。ただし、学園の生徒だけには手を出すんじゃねぇぞ」


じゃらりと鎖は狼から外された。狼は走りだし塀を乗り越え、山の中へと消えて行った。縁側に鎖を置き桜先輩は再び部屋の中へ戻られた。きっとあの狼、人一人食い殺してくる。


「あいつの短気はいまだに治んねぇ」

「悪化しておりませんか?」

「おそらく今回の任務で殺しすぎたのと、この学園中の臭いが原因だろう。あいつらは俺たちより数倍鼻がいいからな」


スンと鳴らす鼻。肺に入るのは、あの女の甘ったるい臭いだ。こうすいと言っていた。吐き気がする。



「大体の状況は分かった。一年は下がれ。後は俺たちだけで考える。急に集めてすまなかったな」


「桜先輩…」

「なんだ一平」

「…あの……実は…彦四郎が…」

「あぁ、学級委員会か。あいつらは上が五年しかいないからな。……なら学級委員会には活動停止命令を下す。俺から学園長に話をつけておいてやる。その間、今福と黒木には生物委員会を手伝ってもらう。うさぎ小屋の掃除と菜園の手入れだ。一平、虎若、お前らから黒木と今福に伝えてこい」

「は、はい!」

「ありがとうございます!」

「おう。今日の委員会これまでだ。一年は下がれ。ご苦労さん」


桜先輩の部屋の扉が開かれ、部屋から一年が出て行った。残されたのは、桜先輩が枕代わりにしている狼一匹と、桜先輩と、俺と、孫兵だった。
少し開かれていた扉から、月明かりが入り込み、蝋燭の光と混じりあい、部屋は少々明るさを増した。



「…殺すか」

「一番手っ取り早い方法はそれかと」

「おぉ、珍しいじゃねぇか、ハチがこれを止めないなんて」

「俺もあの女にはうんざりしているんです」

「なにをされた」

「逢引に付き合わされ、茶を奢らされ、簪を買わされましたよ」

「っ!ハッハッハッ!!お前が女に金を使うとはなぁ!!」

「笑い事じゃありません。ただでさえ金がピンチだっていうのに」

「委員会の金が今回は余裕がある。経費で下してやろう」

「あ、ありがとうございます」


深く頭を下げると、気にするんじゃないと頭を叩かれた。お優しい方だ。

あの、と小さく口を開いたのは、孫兵だ。



「桜先輩は、もうあの女と接触されたのでしょうか」


「香山椿か。あぁ、俺もさっきあの女に逢ってきたよ。少し、話をしてきた」


のそりと体を起き上がらせると、重みが無くなったことに気づいた狼は手に顎を乗せ眠りについた。




「俺が、欲しいとさ」



「!」

「六年の制服、生物委員会の委員長。肩書でも気に入ったのか、開口一番に俺が欲しいと言ってきたよ」

「な、」

「もちろん俺は失せろと言ったがな。あの女、俺がそんな態度をとるとは思っていなかったんだろう。「私を馬鹿にするなんて許さない!」…とさ」


胡坐をかく桜先輩は肘を膝につけ手を顔にあて、堪えるように小さく、小さく、笑った。


「そ、それで、先輩は…」

「無視して来たさ。あんなやつと遊ぶぐらいなら次の忍務のことを考える」


懐から取り出した密書らしきもの。嗚呼、また先輩がいなくなる。


「桜先輩、」

「案ずるな孫兵、今回は一晩で帰ってくる」

「…そう、ですか…」


桜先輩はおっしゃった。学園長にお逢いしたときに、今忍務を無事遂行出来るようなやつはお前しかいないと言われたことを。

現状、そうだろう。あの女に現をぬかして、同級生も先輩も一つ下の後輩も、ずいぶんと日々の鍛練を怠っているように見える。それも、異常なほどに。

府抜けてしまったという言い方が一番当てはまるだろう。あの兵助が勉強をしていない。あの勘右衛門と三郎が、委員会に顔を出していない。あの雷蔵が、一人の女のことしか考えていない。早いうちに気付けなかった俺も悪いが、この状況は明らかにおかしい。

桜先輩はここへ来る途中で今この学園の中心にいる女に喧嘩を売った。…きっと、ただでは済まない。


近いうち、必ず面倒事に巻き込まれる。





「巻き込まれる前に、始末しねぇとなぁ」




スッと目を細める桜先輩に、俺は体を強張らせた。



「俺は面倒事は嫌いだ」

「存じております」

「いっそのことほっとくか」

「……」

「冗談だ、そう露骨に嫌そうな顔すんじゃねぇよ」


こつんと伸ばされた足で膝をつつかれた。冗談には聞こえなかった。



「孫兵のペットたちにやらせるか。毒虫が散歩して、うっかりあの女に毒を入れてしまった、と」

「それでは後であの子たちが殺されてしまいます」

「あぁそうか。それは避けてえな。ジュンコにも行かせようと思ったんだがなぁ。メス同士で気が合いそうだ」

「相性は最悪ですよ」

「ハッ、だろうな。ま、この話はまた明日考えよう。遅くにすまなかったな孫兵、ジュンコ。すまんがこいつを小屋に戻しておいてくれ。下がれ」

「はい、失礼します。お休みなさい」

「おやすみ」


孫兵が桜先輩の背後にいた狼の鎖を持つと、狼はのそりと立ち上がり孫兵の横を歩いて行った。
一人と一匹は出ていき、扉は完全に閉め切られた。蝋燭の光だけが部屋をてらし、部屋には俺と桜先輩の二人きりになった。















「嗚呼しかし、あぁいう強気な発言をするやつの死に際ほど、いい声で啼くんだよなぁ」










恍惚するような表情で桜先輩はそうつぶやかれた。まだ忍務の興奮冷めやらぬのか、まだ人を殺せそうな目をされていた。俺はあまりにその表情が美しくて、唾をゴクリと飲んだ。

忍務や実習での桜先輩の表情はあまりにも恐ろしく、"悪鬼"とさえ呼ばれているぐらいだ。


刀を振り回し、血を浴び、闇に紛れたら、もう姿を追うことは出来ない。耳に届くのは、悪鬼の笑い声だけ。


その悪鬼が今目の前にいて、興奮しないわけがない。



「桜、先輩」

「おいでハチ。我慢させて悪かったわね」


のそりと這いつくばるように手足を動かし、足を組む桜先輩に馬乗りのように跨った。抱きしめ肺に入る香りは、あの女より、ずっと安心する、獣の臭い。嗚呼、血の臭いもする。



「あの女と寝た?」

「…まさか」

「向こうはそれを待ってるわよ」

「…俺には桜先輩がいます」

「あら、いい子ねハチ」


するりと頬を撫でられ、さらに心臓は早く喧しく動いた。嗚呼、綺麗だ。なんて綺麗で、冷たい目をしているんだろう。


「ハチほどいい忠犬も他にいないわ」

「俺はあいつらより賢いですよ」

「狼と張り合うなんて、本当にハチは可愛いわ」

「えぇ、桜先輩に可愛がってもらいたくて必死ですよ」



俺は桜先輩の犬だ。

桜先輩からの命令は全てこなし、生きて帰り、そして、ご褒美を貰う。それだけ。ただ、それだけ。



「こんな可愛い可愛い私の犬、あの女にくれてやるのはもったいないわ」

「……桜、先輩」

「なぁにハチ」
















「もし、俺が、俺が一人であの女を始末したら、……桜先輩は、喜んでくださいますか」

















桜先輩は一つ、俺の額に口づけを落として、





「いい子ね、ハチ」




そう、呟いた。


噛みつくように桜先輩に口づけし、そのまま床に倒れこんだ。




桜先輩がお喜びになるのなら、桜先輩が俺を可愛がってくださるのなら、女の一人や二人、喜んで殺そう。




例えそれが先輩の愛する女であっても。

例えそれが友人の愛する女であっても。

例えそれが後輩の愛する女であっても。


例えそれが学園に愛される女であっても。




あの女を殺して、桜先輩に捧げなくては。

桜先輩がお喜びになるのなら、喜んで俺のこの身を血に染めよう。





全ては桜先輩のため。

全ては、桜先輩に愛されるために。



















遠くで狼が遠吠えをした。


嗚呼、やっぱり殺したか。





















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由利 様に捧ぐ


キリ番ヒットおめでとぅーーーございます!!!!!!!!!

そして楽しいリクエストをありがとうございましたッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!


なるほどーー!!こういう「もしもリクエスト」をされたのは初めてでしたので
めっちゃめちゃ楽しかったです!!!!!!!!!!!!!!

クソが!!!!!竹メンなんて!!!!!!!!!!!!

竹谷のくせに生意気だぞっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!


狼を侍らせ足を組む!!!!!

_人人人人人_
> 女王陛下 <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄


下僕!!!!竹谷なんて下僕で十分ッッ!!!!!


キリ番おめでとうございます!!
これから「嗚呼、桜か。」をよろしくお願いいたします!!!



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