おばあちゃんの家の蔵の大掃除にやってまいりました。名前です。 おばあちゃんの家の裏の山の上の方にある蔵にやってまいりました。ちょっと意味わかんないです。 何故家の庭に蔵を作らなかったの…!何故プチ登山みたいなことしないとあがれないような場所に作ったの…! こっちのほうの大学を受験した私は、一人暮らしするのにおばあちゃんの家を使わせてもらうことになった。 …のだが、ばあちゃんが亡くなってから一度も手入れしていたなかったので埃まみれだろうと父が言った。てなわけで、引越し前に大掃除でもしようかということでやってまいりました。家の中の掃除も終わり、今父は庭の手入れを、母は物置の掃除を。 そして私は何故か蔵を。 「使えそうな家具とかがあったら持って来い。もう使わないから、何持ってきてもいいぞ」 「おっけ。ちょっと行ってくるわ」 「あ、ばあちゃんあそこに名前のために父さんに内緒でためてたヘソクリがあるとか言ってたなぁ」 「なん…だと…。……じいちゃん乙…。」 「何処にしまってるのか、それが本当なのかもわからんが、見つけたらそれも持ってきていいんじゃないのか?」 「心苦しいぞおい」 軍手をはめて靴を履き、私は山道を進んだ。 しばらく進むと大きな蔵がお出迎えしてくれた。あらかじめ父に渡された鍵をデカい南京錠に差込み、ガチャリと低い音が響くと、鍵ははずれ、扉が開いた。 「うわぁ…」 思わず声が漏れるレベルには、凄いたくさんのものが収納されていた。 これ宝箱だろとか言えるレベルに綺麗な箱とか、よく解らない絵の描いてある額縁とか。蔵の手前にはガラクタばかりって感じなのだが、これは奥に行けば行くほど凄いものが発掘されそうな気がするなぁ。 一歩踏み入れると少し誇りっぽい匂いが鼻を刺激した。マスクをしていたおかげでそこまででもないのだが、ちょっと動くたびに埃が舞いそうだなぁ。 「こりゃヘソクリは見つからなさそうだなぁ」 一人でポツリと声をもらし、私は軍手をギュッとはめて蔵をあさり始めることにした。家で使いたいものを見つけ出し、蔵の入り口に運んだ。 そのとき、カツンと何かを蹴飛ばした。コロコロと何かが転がっていき、それは床に広がっていった。 …巻物、かな? 「うお、なんだこれ…」 広がる巻物には、ご飯を炊くときに使う釜を被る、一人の男?の人の絵が画かれていた。横には、『鳴釜』の文字。 「なりかま?…鳴り釜?百器徒然袋の鳴釜のこと?」 鳴釜といえば百器徒然袋にものっていた有名な妖怪じゃないか。 被っている釜の音で天気を占ったり、手に持っている絵馬で吉凶を占ったりするっていう、別に人間にはなんの害もない妖怪だったはず。 …何故鳴釜の絵巻がこんなところにあるんだ。 「…まぁ、じいちゃん物好きだったしなぁ…」 クルクルと巻物をまとめて腰を上げた。近くに巻物を置いて、クルリと周りを見回すと、 「……oh…」 目の前に、このタイミングでは見つけていけないものNo.1の、「釜」が目に入った。 ヒィイイなんでこんなところにこんなものあるの!!まじで出てきたらどうすんのさ!!! いや私霊感とかないから出てきたとしてもたぶん気づかないと思うんだけど……。 お釜でお米炊いたらきっと美味しいんだろうけど……。…これ、は…。 「…いや、いやいや、関わらないで置こう…」 私は釜から視線を外してくるりと蔵の中を見回した。 入り口のほうに家の中で使えそうなものは移動させてきたし、もうやることはないかなぁ。適当だけど掃除もしてみたし。 「…あとはばあちゃんのヘソクリよねぇ」 「探し物?」 「うん、ばあちゃんのヘソクリ」 「手伝おうか?」 「本当?いや助かr………」 !? 「ね、俺ならすぐ見つけられるよ」 クルリと振り向くと、かかかかか釜から腕が。釜から腕が。釜から、腕が。 「釜から腕が生えてる!?!?!?」 「だからさー、此処に張ってあるお札はがしてくれなーい?」 さっき視線をはずした釜から、にょろりと二本、う、う、う、う、腕が生えてるぅぅぅぅううああああああああ!!!!! 「いやぁぁああああああああ!!」 「えー!?何何!?どうしたの!?」 「う、腕ぇえええ!!」 「え、ちょっと待って待って!俺あんたに危害加えないから!大丈夫だから!」 「出たぁぁあああああああああ!!」 「もー!俺の話聞けって、のっ!!」 「痛ァ!!」 にょろりと生えた一本の腕が、手に持っていた何かをぶんと私に向かって投げてた。意外と硬いなにかは、私の頭にクリーンヒット。まじで痛いなにこれ! ……え、絵馬…? 「ねぇここ!釜の蓋に張ってあるお札はがしてってば!」 ……鳴釜は、手に持っている絵馬で吉凶を占ったりするっていう………。 「な、鳴釜……?」 「!お、俺のこと知ってるの!?」 この珍妙な外見からは想像できんが、このリアクション、この絵馬。封印されているみたいなお札。 ……モノホンの、鳴釜か…!? 本物だとすれば、別に、人間に危害は加えない……はず…。私は恐る恐る近寄り、手を伸ばし、ばっちぃ物を触るかのように、ゆっくり、お札をはがした。 全てはがし終わると、ばふんっ!と大きく煙が舞い(ついでに埃も舞い)、釜があった場所には、 「いやー助かった!ありがとうな!もーずっとこのままかと思ったわ!」 イケメンの、お兄さんが、釜を被ってた。 「……誰ですか」 「え?さっき鳴釜って言ってたじゃん!俺、鳴釜の尾浜勘右衛門。よろしくな!勘ちゃんでいいよ!」 「…も、もしかして、付喪神、なんですか…」 「へぇ、あんた物知りだねぇ!…あ、名前は?」 「あ、あの、名前と、申します。苗字名前、です」 「あぁ、君が名前ちゃんか!待ってたよ名前ちゃん!」 勘右衛門さんと名乗るこの人(?)は、どうやら本物の鳴釜らしい。待っていた、とはどういうことかとたずねると、付喪神となった勘右衛門さんをうちのばあちゃんが封印してしまったらしい。もしこの家に私が一人暮らししにきてイタズラしたら困るからと。 勘右衛門さんはそんなことしないって!といったのだがいかんせん孫バカなばあちゃんはそれを信じずに問答無用の封印。ここ何ヶ月もずーっと動けずじっとしていたという。 ヤベェェェエエ!!何するかわかんないけど妖怪の封印といてしまったァァアア!!! 「大丈夫だって、俺別に名前ちゃんに危害加えるの目的じゃないから」 「あ、…そ、そうですか…」 昔っぽい着物みたいな服に身を包んで、頭に釜を被る勘右衛門さんは人懐っこい笑顔でへらりと笑ってみせた。 「ところで、あのばあさんのヘソクリ、探すの手伝ってあげようか?」 「え、ど、どうやって」 「こうすんのよ」 勘右衛門さんはさっき私に投げた絵馬を広い上げ、被っている釜にカンカンと叩いた。心地いい高い音が蔵の中に響き、勘右衛門さんがニコニコしながら絵馬を私に向けた。スゥ、と、絵馬には何かの絵が浮かび上がってきた。…なんだこれ。 「じゃん!これ!この絵の花瓶を探してみな!」 花瓶、花瓶なんてあったかな。勘右衛門さんの絵馬に画かれている花瓶をキョロキョロしながら探した。梅の花の絵が描いてあってー……口が狭くてー………。 あ、 「あ、あった!」 蔵の上のほうに積み上げられたところに、絵の花瓶はあった。私が指差すと勘右衛門さんは釜を被ったまま身軽に積み上げられたガラクタをよじ登っていき、花瓶を掴んで飛び降りた。はい、と私に手渡すと、その花瓶は思ったよりも重く、私はそのまま床に置いた。 蓋、のようなものを外すと、中には、まさかの、札束が。 「おー!ばあさん名前ちゃんにこんなに溜め込んでたのか!こりゃすげぇな!」 「す、すご…」 い、と言葉を続けたかったのだが、いつの間にか目の前にいる勘右衛門さんに驚いて私は尻餅をついた。 「…まだ俺のこと怖いの?」 「そ、だ、だって、そりゃ、」 犬みたいにシュンと落ち込んだような顔を見せるが、私は騙されないぞ…!あなたは妖怪なんだから……!! 私は花瓶を引っつかみ蔵から飛び出そうとしたのだが、 「ちょーっと待ったー!」 勘右衛門さんが私の腕を引っつかんだ。 「いあやぁああああああ!!」 「今は出ないほうがいいよ」 「あああ……え?」 勘右衛門さんは私の腕を離すと、被っていた釜を手で擦った。銅鑼を擦るような音が蔵に響くと 「あと10秒で雨が降る」 そうつぶやいた。何言ってんだこいつ、と思ったのだが、鳴釜はたしか、釜の音で天気を占う妖怪だった。 しばらく時間をあけてみると、山の天気は変わりやすいとはよく言ったもんだ。突然ザァアと大きな音で雨が降ってきた。 「!?」 「ついでに言うとね、あと30秒ほどで雷も鳴り始めるけど、多分このぐらいの蔵なら扉閉めときゃ音は小さくなると思うよ」 その言葉に自分でもビックリするぐらい早い速度で蔵の扉をガシャンと閉めた。 あ、やべ、妖怪と二人きりだ。 詰んだかもしれん。 「改めて、俺の名前は尾浜勘右衛門。鳴釜。 名前ちゃんはこれからあそこの家に住むんだよね?俺結構役に立つよ!探し物得意だし朝洗濯物干せるか干せないかもテレビの天気予報より正確に出せるし! だからあっちで生活していいよね?よろしくな!」 「…は、はは……」 半ば強引に住み着くことにしてきて、 「洗濯物干す係り俺やるよ!」と呑気な声で釜を被ってニコリと笑うこの青年は、 妖怪、鳴釜の尾浜勘右衛門。通称勘さん。 私のちょっと……いや、かなりかわった同居人です…。 「…勘さん釜被ってるとあれだね、髪型のせいかうどん被ってるように見えるね」 「それよく言われる。そんなにそう見える?」 「めっちゃ見えるよ」 「…。あ、あとそろそろ豆腐小僧が散歩から帰ってくると思う」 「……は?」 --------------------------------- 鳴釜可愛いよ鳴釜。 勘ちゃんはこういう人間に害を加えたりしない 意味のわからん妖怪でいいと思いました。はい。 ちなみに最初は小豆洗いにしようとしていた。 |