- ナノ -


カルモチンの口付け

「名前先輩」

「どうした庄左ヱ門」

「僕は名前先輩が欲しいです」

「…ほぅ」

「僕は名前先輩が欲しいんです」

「…」


パラリ


学級委員長委員会の書類から目を離した名前先輩は

綺麗な目で僕をみつめた。


「私が欲しい、か」

「はい。名前先輩が欲しいです」

「…庄左ヱ門は随分強欲なやつだな」

「はい。名前先輩が思っている以上に」

「ははは。素直でよろしい」



僕の名前先輩へのこの思いは先輩に対する"尊敬"という意味の思いではないと思う。

名前先輩を見てるとお話したいなと思うし

名前先輩とお話をしているとこの時間がずっと続けばいいなと思う。

名前先輩に忍務に連れて行って貰ったときも
名前先輩のほうが強いのに名前先輩を守らないといけないと思った。



「どうして私を欲しいと思ったんだ?」

「…解りません」

「そうか」

「でも、他の人に渡したくないと思うんです」

「なるほど」

「…だから、ここ最近、名前先輩にいろんなことを試したのですが」

「そうだな。ここのところ私の身の回りでは色々な不思議なことが起こっていた。やはり、お前の仕業だったか」





やはり

ってことは、やっぱりバレてたんだ。





名前先輩がどうしても欲しくて

僕は名前先輩に会う度に名前先輩を独占するようにずっとお話をしていた。

でも名前先輩は他の先輩に話しかけられると、すまないと言って、そっちへ行ってしまう。


名前先輩が欲しくて、どうしようもなくなって、

僕は兵太夫のからくりを借りた。

一回入ったら誰からが外からか開けないと出られないような仕組みになっているもの。

でも、名前先輩は六年生だから、そんなものに引っかかっても閉じ込められはせず、いつの間にか外に出ていた。


名前先輩が欲しくて、僕は名前先輩のお茶に薬を盛ったこともある。

保健室にあった、善法寺先輩専用の薬棚にあった薬。

伏木蔵が「スリルとサスペンス〜」って言ってとってくれたけど、なんの薬かは教えてくれなかった。

その晩の委員会で名前先輩のお茶に入れたけど、名前先輩には何の影響もなかった。


どうしても名前先輩は僕の思い通りに動いてくれない。

どうしてだろう。

僕はこんなに名前先輩を思っているのに。




「からくりは一箇所、設計ミスがあった。兵太夫には直すように言ったのだが、直すのを忘れてしまっていたようでな」

「…」

「それから薬は、こっそり手の中にあったものを飲む直前に湯飲みに落としたんだ。気づかなかっただろう?」

「…」

「それから、他のやつらが庄左ヱ門と話をしているときにそっちへ言ったのは、お前の反応があまりにも可愛かったからだよ」

「…えっ、」

「嫉妬するようなあの目。そんな目を離れる直前に向けられるのが楽しくてね」


ふふふと笑って名前先輩は書類を机の上に置き、立ち上がり、

僕を抱き上げて壁にもたれかかるように座った。


いい匂い。名前先輩の服から火薬のような匂いがする。


抱きしめるように僕を抱っこして、

僕はそのまま名前先輩へ体を傾けた。



「…名前先輩」

「なんだ?」

「…どうすれば名前先輩は、僕だけのものになってくれるでしょうか」

「…」


「僕は名前先輩を独り占めしたいです。鉢屋先輩にも尾浜先輩にも、彦四郎にも、先生にも。他の先輩にも、誰にも渡したくないです。僕だけのものになってほしいです」

「…」





「…もしも名前先輩が、…他の誰かのものになってしまうくらいなら………」





手に入らないことはわかっている。


5つも年が離れているし、

名前先輩は他の先輩にも先生にも一目置かれているような存在なのだから。


問題ばかり起こしているは組の僕のものになんかなるわけない。

手の届かない人。



でも僕は、


僕は

ぼくは











「…そうだな、庄左ヱ門」

「…はい」

「私を手に入れたいのなら、まず最初にすることがあるんじゃないのか?」

「…すること…?」


「私に、言うことがあるだろう?」











ずっと話をするんじゃなくて


閉じ込めるんじゃなくて



薬を盛るんじゃなくて







でも考えても何も思い浮かばなかった。

どうすればいいんだろう。


名前先輩は閉じ込めてもすぐに出て行ってしまう。

薬を盛っても利かない。

話をしていてもよそへいってしまう。


それ以外に何をすればいいんだろう。


冷静に考えても、何も思い浮かばない。




答えが出てこなくて、涙が出そうになって

でも泣いても名前先輩は手に入らない。




どうしようもなくなって


名前先輩を見上げると


綺麗な目に吸い込まれそうになった。






考えても、答えは出ないのかな。






僕を見下ろす名前先輩の首に腕を回して



綺麗に微笑む名前先輩に、僕はゆっくり口付けた。








「名前先輩」

「なんだ」


「大好きです」

「…ありがとう庄左ヱ門。私もだよ」


「…本当ですか?」

「あぁ。お前の愛が何処まで歪んでいくのか見ているのが楽しかったんだがな。その言葉が聞けてホッとしたよ」



名前先輩はまた微笑んで、僕に口付けてくれた。


「此れで私はお前のもだ。それと同時に、お前は私のものだ」

「はい」

「だから、もう薬なんて盛らないでくれ。伊作の作った物はそれ用の解毒剤を持っていないといけないんだ」

「…すいませんでした」

「謝るな。それがお前の愛の形ならば私はそれを受け入れるよ」

「もうしません」

「そうか。安心した」




何処からこの感情が歪んでいってしまったのかなんて覚えてないけど

さっきまで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。



そうか。気持ちを伝えて行動に起こせばよかったのか。

そんな当たり前のことすら気づかないなんて。



愛って怖いものなんだな。





「名前先輩」

「なんだ」

「これって愛ですか?恋ですか?」

「…教えてやろうか」

「はい」

「じゃぁ部屋の扉を閉めておいで。それから、天井裏にいる者は此れより一切この部屋には近寄るんじゃない」

「…!?」















カルモチンの口付け


感情に愛だとか恋だとか名前をつけるから

僕は冷静に行動できなくなるんだと思う











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たまには綺麗にフラグを折る

ポキッと平常心に戻る。


すまないがここから先はR-18だ。

第7位 黒木庄左ヱ門でした。
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