- ナノ -


別の身体で同じ傷

三郎の変装の腕はいつだって完璧だと、学園中が言っていた。

三郎に顔を借りられている僕も、もちろんそれに関しては感心していた。


僕が寝不足で隈が出来れば三郎は隈を描くし

僕が髪を切れば三郎もいつの間にか切るし

僕が宿題を忘れたときなんか、三郎も宿題を放棄したことがあった。


僕らはいつでも、何もかも一緒だった。







でも、何かも一緒なのは、

三郎だけじゃない。







「おや雷蔵、いつの間に腕を怪我したんだ?」

「ん?ちょっとね」

「したのなら教えてくれよ。私も傷を描かなきゃすぐバレてしまうんだから」

「いいよ、こんなのすぐ治るだろうし」

「それにしても雷蔵は最近怪我が多いな」

「そうでもないよ。あぁ、此処には包帯巻くから、三郎も同じ場所に巻いておいて」

「そうか、其の手があるな。よし、ちょっと乱太郎の所へ行って来るよ」

「行ってらっしゃい。私は保健室に行ってくるからね」






三郎が一年長屋の方へ身体を向けた。

鼻歌交じりに乱太郎のいるであろう部屋へと歩いていった。



僕も保健室へ行こう。

怪我を治してもらいに行かないと。


そして、彼女に会いに行かないと。








「名前?腕怪我したの?」

「いやぁドジっちゃって」

「そうなんだー。最近怪我多くない?」

「不運委員会だからかな」

「そうじゃなくてもトロいくせに」

「私の目見てもう一度言ってみな?」

「ごめん」





彼女が包帯を巻いている場所は、

僕が血を流している腕と全く同じ場所にあった。



今僕の手に張られている絆創膏も
彼女の手の傷と同じ場所にある。

今僕の足に巻かれている包帯も
彼女の足の傷と同じ場所にある。

今僕の右手人差し指の指先に小さな傷があるが
彼女の右手人差し指の指先にも小さな傷がある。



今僕は名前ちゃんと、全く同じ痛みを味わっている。

彼女が痛がっている痛みを、僕も同じ場所で感じている。




それが快感で、快感で、仕方なかった。




ある日僕が図書委員会で本の整理をしているときに
誤って人差し指を深く本で切ってしまったことがあった。

本に血を付けてしまったと中在家先輩に平謝りして、
怒っていないから早く保健室へ行けと言われた。

僕はなかなかどうして勢いのある血を止めてもらうために保健室へ行った。





其処にいたのが、僕と同じ場所に怪我をしていた、

名字名前ちゃんだった。








「あらら、不破くんも私と同じ場所に怪我しちゃったのか」













忍とは思えないほどの白くて綺麗な手に
真っ赤な血が一筋流れているのをみて

ぼくの心臓はドクリとはねあがった。




それから僕は、名前ちゃんを目で追うようになった。
愛しくて愛しくてたまらなくなった名前ちゃんばかりを見ていた。

どうすれば僕の気持ちに気付いてくれるかな。
どうすれば、気持ちを伝えられるかな。

いつもの迷い癖がこんなところでも発揮されて、僕は悩むことしか出来なかった。



そして僕はあることに気が付いた。


名前ちゃんは、怪我をする回数がやたらと多い。




その理由の一つとして、名前ちゃんの所属する委員会が

"不運"な生徒によって構成されていると言っても過言ではない委員会、
"保健委員会"に所属しているということだ。


目に入るたびに、名前ちゃんの体の傷はどこかしらに増えていた。






「剣術の稽古で足斬っちゃってさぁ」

僕はその日剣で同じ形の傷を作った。


「これ?薬草摘んでたら棘が刺さって血が出てね」

僕はその日同じ手に針を刺した。


「落とし穴に落ちて足を挫いちゃってー」

僕はその日自分の足を痛めつけた。







名前ちゃんが好きだから同じ場所に傷があって欲しい。

名前ちゃんを愛してるから、僕も同じ姿になりたい。



何かもというわけではないけれど、僕は出来る限り名前ちゃんと"同じ"でありたいとそう思うようになった。



三郎も知らないこの僕の得意な"変装"。

名前ちゃんの傷の形なら、名前の作る偽物の傷より上手いかもしてないな。




「こんにちは」

「あ、不破くん」



音を立てずに戸を引くと、名前ちゃんは保健室の真ん中で薬を煎じていた。

僕の姿を見て、くのたまの子がじゃぁねと部屋を出て行った。



嗚呼、同じ場所に怪我をしている。


ねぇ名前ちゃん、他にも僕と君の同じ場所に怪我があること、知っている?




「どうしたの?鉢屋くんは此処には…」

「また、怪我しちゃって」

「えっ」

「名前ちゃんに…治してもらおうと思って…」




慌てて僕に駆け寄り差し出す腕を見てサッと顔を青くする。

ねぇ気付いている?君が怪我をしている場所と同じ場所だよ?





「名前ちゃんと同じ場所に怪我しちゃったんだ」




僕は近寄る名前ちゃんの顔に手を伸ばす。

傷一つない、すべすべの頬。

ここに傷を付けて血を流すところを想像すると、ゾクゾクする。



そして今度は僕が君に傷を付けたい。

一生治らないような傷。

見るたびに僕を思い出すような傷。




痛くて痛くて名前ちゃんが泣き出してしまうような、そんな、


深い、深い、深い、痛い、傷。





























「いい加減にしてよね!!!!」


























名前ちゃんと、同じ痛みを僕は味わっているんだy……えっ?






「不破くん最近怪我多すぎなんじゃないの!?いやそりゃ私も人の事言えるような立場じゃないけどさぁ!!!

これはもう不運委員会の定めだって思って割り切ってんだよね!!!

でも不破くん図書委員会でしょ!?そんなに怪我するような委員会じゃないよね!?

それに不破くん確か成績上の上だったよね!?こんなに多く怪我する条件一つも揃ってないよね!?

不運委員会じゃないくせにどうしてこんなに怪我するの!!ちょっとは集中したらどうなの!?

腕の怪我とかこの間の足の怪我とか治す前に忍者の三病治すのが先なんじゃないの!?ねぇ!!!聞いてるの!?!?」



グイと腕を引っ張られプロ並みのスピードで止血をされ消毒をかけられしみることに痛みを感じる間もなく包帯をグルグルギュッと巻かれた。



「これって不運のせいじゃないでしょ!?不運委員会だからこんなに怪我する人の気持ち解ってないでしょ不破くんは!!」

「え、あの、」

「私だって好きでこんな傷作ってるわけじゃないの!!それぐらい不破くんなら解るよね!?」

「あ、え、」

「どうしてこんな怪我したの!?」

「…ふ、ふ、ちゅうい、で」

「有り得ない!!!!」

「痛ァアアアア!?!?」



ズバシッ!!と傷口を思いっきり叩かれ僕はやっと痛みで涙を流した。

何この子!!!今何したの!!!!



「私は不運委員会の運命だから仕方ない!!でも不破くんはただの不注意!!これ怪我の重さが違うから!!」

「ち、ちが」

「次にくだらない理由で怪我したら二度と治療してあげないからね!!これ左近みたいなツンデレじゃないから!!マジだから!!!」

「あ、ちょ、名前ちゃn」

「解ったらとっとと帰る!!今晩もう一度包帯をかえに来ること!解った!?」

「え、あ、」

「解ったって聞いてるの!!」

「はい!!」

「行ってよし!!!」




ビシャッ!と戸を閉められ、僕は保健室を締め出された。




























…………何故僕はこんなくだらないことしてるんだろう…。


……早く怪我を治して…名前ちゃんに謝らないと…………。





















別の身体で同じ傷




今は普通に全身が痛い。

なにこれ正気に戻ると全然快感じゃない。

ちょっと三郎助けて。死んじゃう。いやまじで。













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雷蔵は迷う癖に変な決断を下しそう。

多分雷蔵と左門を足して2で割れば普通の人間が出来ると思う。


最後は雷蔵さん正気に戻りました。

これからは普通の片想いを楽しみます。


第10位、不破雷蔵さんでした。
(^し^)
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