- ナノ -


未熟恋愛感情噺

ザザザザザザッ!



木から木へ 木から木へ

地に下りては 別の木へ飛び乗り 木の陰に隠れる

木から木へ 木から そして木の根に隠れる



「ハァ、ハァ…!」



足音が聞こえない。息を殺す。


無音。



どうやら、撒いたみたいだ。



私は大きく息を吸って思いっきり吐き出した。

膝を抱えて木の根に隠れる。




なにをしているかって?

今、絶賛鬼ごっこ真っ最中です。


…確実に命のかかってる鬼ごっこ。


そう、事の始まりは、委員会の仕事が終わり、
暇だから小平太先輩のところにでもお邪魔しようかなと思い

忍たま長屋に足を踏み入れたときのこと。

きょろきょろよしていると、探していた小平太先輩が




「名前」

「あ、小平太先輩!」



血相を変えて、私を呼び止めてきたこと。




「名前」

「……こ、小平太先輩?」

「名前」

「ちょ、せ、先、輩?」




一歩後ずさると、小平太先輩は二歩前に出る

二歩後ずさると、小平太先輩は私を睨みつける

三歩後ずさると、小平太先輩は私に腕を伸ばした



こ、怖すぎる



なにをしてしまったのかは解らないが、

小平太先輩は確実に何かにお怒りになられている



や、殺られる!?




「っ、!」

「名前!待て!」


くのたまの友を投げ捨てて縁側から飛び

小松田さんに見つからないように壁を飛び越えた



「待て!名前!」

「ひぃ!」


目が『逃すものか』と言っている

そのまま逃げ続け私は山に隠れた。


木々をつたって逃げ続けると、私の後方から確実に私を捕らえに来ている


「こ、来ないでください!」

「名前!止まれ!」

「じゃ、じゃぁ先に小平太先輩が止まってください!」

「止まれェ!」


事態はまさかの、手裏剣を飛ばしあう攻防戦にまで持ち込まれた。


「こへ…!?…嫌ァ!!」


私の袖めがけて飛んできたクナイはそのまま
木へと打ち込まれるように深く深く突き刺さり

一瞬身動きが取れなくなる。

だが、此処で諦めたら確実に捕まる。

な、何が待っているのかは解らないが、確実に、小平太先輩に、なにかやられる。


「動くな!」
「や、やぁっ!」


ヒュッと小さく頬を何かが掠めるとチリと頬が熱を帯びた。

カッと音が鳴り視線を動かすと、顔の真横に刺さる、手裏剣。


「!?」


顔から血の気が一気に引き、
これはただごとじゃないとやっと脳が理解した。

ブチ!と鈍い音が鳴り私は服が破けたことも気にせずに木に飛びうつり
以前委員会で設置した罠を発動させた。

これは確か兵太夫がつけたやつ!これだったr


「名前!」
「い、いやぁあ!」


は、発動前に壊されるだと!?
い、意味が解らん!小平太先輩は何がしたいの!?

私のいる木に飛び移ろうとしていたので
とっさに私は近くの一番大きな木の枝を切り落として逃げた。

時間稼ぎにもならないだろう。だがやらないよりはいい。



木に飛び移り飛び移り、私はようやく
一本の大木の下で息を落ち着かせることが出来た。

もう少しすれば日は隠れてここら一体は真っ暗になるはずだ。

小平太先輩が何を考えているのかは解らないけど
私を見失ってくれれば、冷静になってくれるはず!

それまで私はここで耐えていればいいだけ…!


耳を澄まして目を閉じる。

近くに、人の気配は無い。




…それにしても…小平太先輩は一体何に怒っていらっしゃったのだろうか…。

わ、私何かしたのかな…。


そんな…!こんなに精一杯の愛を先輩に注いでいると言うのに…!

小平太先輩は何がそんなに御気に召さなかったのだろう…!


















ケーン




木の上で、鳥が一匹、大きく鳴いた。

バサリバサリと木の上を二周ほどすると、鳥は姿を消した。


あぁ、あれは禽遁かなぁ。
あのぐらいの大きな鳥ならきっと肉食。人がいる場所で大きく鳴くんだろうな。
















……だとしたら、




非常にまずいのではないのだろうか…!!!

















「名前」

「っ!!!!」



予想は、こんなときばっかりドンピシャだった。

膝を抱えてうずめていた顔をガバリと上げると
目の前に広がるのは、森とは違う、緑色の、服。

きっとあの鳥の声を聞いて、小平太先輩は私の場所を見つけ出したのだろう。


怖い。

怖い。




「や、や…!」

「名前、鬼ごっこはもう終わりで良いか?」




後ずさろうとも、背中は木。

横に逃げようと身体をひねると、腕をがっしり掴まれて、

叩きつけられるように私は押し倒された。



「や、やめてください先輩!」

「名前、捕まえたぞ」

「こ、こへ、た、先輩…!」

「名前、お前には少し仕置きが必要かもしれないな」

「せ、先輩!?」



腕を一つに纏め上げられ首に巻かれた頭巾を取り外され
ベロリと首を舐めあげられた。

真っ暗になってきて小平太先輩の顔は全くと言っていいほどに見えない。

突然のことにビクッと肩を震わせると、
先輩は私の反応に、嬉しそうに息を吐き出して首に吸い付いた。



「や、あっ、せん、せんぱ」

「名前、お前から別の男の臭いがする」

「んっ、!せ、先輩…?」



先輩にやられ血が出た頬まで舐められ
私は羞恥に目を硬く瞑った。

次に紡ぎ出された言葉は、

私から、別の男の臭いがするという発言だった。



「浮気でもしたか。バカなことを」

「い、いや、せんぱ、あっ、!」

「誰だ?この臭いは知らん臭いだ」

「いや、いっ、先輩!小平太先輩!」

「火薬の臭いがするな。仙蔵か?五年の久々知か?」

「せ、せんぱ、…っ、!ぁ、ゃあ!」

「何故私を裏切った?バレないとでも思ったのか?」



確実に怒り狂っているこの声。
必要以上に首から胸にかけて舐め上げ吸われて、力が入らない。

まとめあげられた腕もピクリとも動かすことが出来ない。

力が強い。少しでも逃げようとするものならば
小平太先輩の手は更に力を増して私を封じ込める。



「せ、先輩!小平太先輩!」

「謝っても無駄だ。名前は私を騙していたんだから。それ相応の罰が必要だろ?」

「や、せ、先輩!やめてください!」



シュルリと内着に手をかけられたがこれは本当にマズい。


私から男の臭いがする?何でだ?
私は委員会に出ていただけだ。清潔な清潔な作法委員会に出ていただけだ。

委員会上がりに小平太先輩とデートしたことも何回もある。
だけど小平太先輩はそのとき全くそんな発言してこなかった。一度もだ。

確かに委員会に男はいる。っていうか私以外男だし。
立花先輩と、喜八郎と、藤内か、伝七か、兵太夫。

みんなの臭いが私にうつったなんてこと一度もない。

っていうか小平太先輩がそんなこと一回も言ったことないんだもの。だからきっと無いんだと思う。

何故、よりによって今日なのか。


今日誰と絡んだ?

作法委員会以外には、長次先輩にしか絡んでいない。
小平太先輩を知らないかと問いかけた程度だ。そんなに深くも絡んでない。



じゃぁそれ以外?誰だ?




「考え事とは余裕だな」

「ちょ、小平太先輩!ちょっと待ってください!」

「待たん」




……………火薬…?

















あぁ!そうだ今日は町に出て実習をしたじゃん!

それで、その時、














「小平太先輩!浮気なんてしてないです!これも火薬の臭いじゃありません!だって私今日、











男装実習で町に出ていたんですから!!!」






























ピタリ




私の服を脱がしにかかっていた小平太先輩の手が、止まった。



「……え?」

「男装して町に出て女の子に声をかけられたら合格の実習があったんです!
それで、茶屋に行った時に、丁度座った真横で団子を焼いてて、多分そのときの灰がついたんだと思います!!

だ、だから!先輩!本当に私浮気してないです!!
立花先輩でも久々知先輩でもありません!!団子屋の炭です!きっとその臭いです!!」



すると、見る見る小平太先輩は獣の目から
いつものパッチリした平常時の目へと変えていった。


「……や、あの、」

「………すまん…」



グイと腕を引っ張られ起きあげててもらうと
小平太先輩は強く、それは強く私を抱きしめた。


「こ、小平太先輩?」

「ちょ、すまん。い、今はこのままでいさせてくれ」

「どど、どうしたんですか?」









「………勘違い、していて…は、恥ずかしい…」










きっと今顔真っ赤だ














小平太先輩はそう言って深く深くため息をついて

「あぁ〜…!」と声を漏らしながら私の肩に顔をうずめた。





















…………可愛いじゃねぇか…ちくしょー……。

















未熟恋愛感情噺

つまり私の愛しい人は私が浮気しようものなら

今日のような命をかけた地獄の鬼ごっこをしてくるということだね?








-------------------------------------------



嫉妬で怒り狂い青姦しかける暴君。

小平太先輩の小平太先輩はもうヤる気満々でした。

そうはさせないのがこの十万打企画。


第2位、七松小平太先輩でした。
×