- ナノ -


血褪め桜と赤い花

「喜八郎知ってる?」

「なぁに?」

「桜の木の下には死体が埋まってるんだって」

「ふーん」

「怖いねー。凄く怖いよー」

「おやまぁ、名前は怖がりさん」

「私お花大好きなのにねー。怖い話聞いちゃったよー」

「名前には僕がついてるから大丈夫だよ」

「本当?」

「うん。任せておいて」











その話を委員会中にぽんと、突然思い出した。






「立花先輩」

「どうした喜八郎」

「桜の下には死体が埋まっているというのは本当ですか?」

「ほう、お前が花に興味を持つとはな」

「名前が言ってたんです」

「あぁ、お前の可愛い彼女か」

「だぁーいせいかぁーい」


立花先輩は首化粧用のフィギュアを横に置いて僕の前に座ったまますっと出てきた。
立花先輩はまだ花開く前の桜の木を見て、

「それは迷信だ」

と言った。なぁんだ嘘か。


「どうしてそんな嘘があるんですかねぇ」

「桜の下に死体があってな、その死体から桜の木が血を吸う、そしてあんな鮮やかな花を咲かすと、そういうわけだ」

「……へぇ。」



花が。血を吸う。


そして綺麗な花が咲く。





綺麗な花。名前は大好きなんだよね。





























「なんだ喜八郎。その袋は?」

「花の種」

「花?お前が花の種を植えるのか?」

「血を吸って、綺麗に咲くんだって」

「あ、もしかして桜の木の話をしているのか?」

「滝夜叉丸、桜の木とは何の話だ?」

「知らんのか三木ェ門。桜の木の下にはな…」



忍務に出て、僕の掘ったトラップつきの落とし穴には
敵兵がたくさん落ちていた。

血。血。真っ赤な血。血。血。




きっと、これだけあれば。




「なるほどな、喜八郎は桜の木を植えるのか?」

「ううん。普通のお花。これを植えるの。そしたらきっと、綺麗な花が咲くと思って」

「ほぅ!喜八郎にしてはなかなかロマンチストなことをするではないか!」

「うん、きっと綺麗な花が咲く」



花の種を大量に撒いて、三木と滝に手伝ってもらって
僕はその死体だらけの穴をせっせと埋めた。

目印に近くの木に×の印をクナイでつけて、僕は満足して学園に戻った。




名前は学園に戻った僕を、いつもどおりぎゅっと抱きしめてくれた。

顔に腕に足についた泥を掃ってくれて、僕はお風呂へ向かった。
































「喜八郎ー!」

「おやまぁ名前。今日も元気だね」

「聞いて聞いて!凄く綺麗な花が咲いている場所を見つけたの!」

「へぇ、連れてって?」



名前が僕と手をつないで学園の門を出た。



おしゃべりしながらたどり着いた場所は、山の中。




「ほら、凄いでしょう!こんなところにこんなに綺麗な花が、こーんなに咲いてるなんて信じられない!」



緑ばっかりの山の中に、不自然なほどに、

花が咲き広がっている場所があった。



「本当だ。凄いね」

「凄く綺麗ね!誰かが植えたのかな!」

「どうだろうね。でもとっても綺麗だね」

「す、少しぐらい持って帰っても…」

「怒られないと思うよ」

「だ、だよね!押し花作るね!押し花で枝折つくるね!」

「僕の分も作ってー」

「うん!」



名前真っ赤な花の真ん中に座り込み

一番綺麗な花を探し始めた。





僕は花びらを適当にむしりとり、

パラリパラリと舞い散らせた。



花びら越しに笑う名前がとっても綺麗で、

僕も思わず笑ってしまった。


赤。名前。綺麗。



「名前ー」

「なぁに?」

「はい」

「?」




花の冠を頭にのせてあげると、名前はとっても嬉しそうに






「ありがとう喜八郎!」





そう笑うもんだから、




僕は目線の先にある

×印のついた木をそっと視界からはずして、


名前に抱きついた。






















血褪め桜と赤い花

それが何の色かも知らないで

君は幸せそうに笑うだなんて




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滝に続いてまたも花ネタ。

喜八郎自身も自分がヤンデると思ってないし
名前ちゃん自身も全く気づいていない。

何色に咲くか解らない種を植えた喜八郎は

見事に全て真っ赤に咲いた花を見てにっこり。


ほんのりヤバめに愛す喜八郎とかさ。


第4位、綾部喜八郎でした。
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